わたしを離さないで の商品レビュー
同作の映画は見たことがありましたが、今回原作を読んで、より深く本質的なところに触れられたような気がします。 着実に、緻密に積み重ねられる心の描写を追ううちに、スルスルと本の世界に吸い込まれる心地がしました。 イギリスには本当にそんな仕組みが根差しているのでは無いかと錯覚するくらい...
同作の映画は見たことがありましたが、今回原作を読んで、より深く本質的なところに触れられたような気がします。 着実に、緻密に積み重ねられる心の描写を追ううちに、スルスルと本の世界に吸い込まれる心地がしました。 イギリスには本当にそんな仕組みが根差しているのでは無いかと錯覚するくらいでした。 素晴らしい技術を知ってしまったとき、人はその結果にばかり目がいってしまって、どうしてもその背景や過程が見えなくなってしまいます。 自分の生の礎に何が埋まっているのか、立ち止まって考える時間を持ちたいものです。
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『日の名残り』が素晴らしかったため、同著者の有名な作品である『わたしを離さないで』を読むことを決意。 長らく積読していたが、休日を使ってじっくりとカズオ・イシグロの描く緻密な世界を堪能することができた。 ”提供者”や”介護人”、”施設”といった何かを暗示するかのようなキーワード...
『日の名残り』が素晴らしかったため、同著者の有名な作品である『わたしを離さないで』を読むことを決意。 長らく積読していたが、休日を使ってじっくりとカズオ・イシグロの描く緻密な世界を堪能することができた。 ”提供者”や”介護人”、”施設”といった何かを暗示するかのようなキーワードが飛び交い、読者は主人公であるキャシーの回想を追っていくことでその哀しい真実に触れることになる。 土屋政雄氏の名訳も相まって、爽やかな情景のなかに徐々におぞましい社会の構図が浮き彫りになっていく展開は、残酷だがそれゆえに儚さと美しさを感じることができた。 どんでん返しや安直なハッピーエンドは望むべからず。だからこそどうしようもなく切なく、心にずしりと残る名作だった。
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前半は、丁寧かつ繊細な描写、子どもたちの純粋で移ろいやすい心の動きを、少しずつ追いかけるような時間。後半は、徐々に世界の謎が解き明かされ頁をめくる手が止まらなくなる。ヘールシャムでの生活が少しくどくも感じたけど、読み終わってみればあっという間だった。
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淡々と一定の速度を保ちながら進んでいく この作者の作品は一頁内に文字が多いのにすらすら読めてしまう言葉が詰まっている感じがする 何のために生まれたのか&生きていくのか 提供者でない私たちにも生きる意味を問いかけられてる気がする 途中読んでいて苦しくなる場面も多々あり ...
淡々と一定の速度を保ちながら進んでいく この作者の作品は一頁内に文字が多いのにすらすら読めてしまう言葉が詰まっている感じがする 何のために生まれたのか&生きていくのか 提供者でない私たちにも生きる意味を問いかけられてる気がする 途中読んでいて苦しくなる場面も多々あり
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静かで淡々とした語り口。 ゆっくりと徐々に徐々に明かされていく。 静かなところで読みたくなる本でした。 できるだけ何も知らない状態で、この本を読み始めることをおすすめします。 知っていてもとっても面白かったです。
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著者がノーベル文学賞を受賞しているため、純文学寄りなのだろうと思って読み始めたので、かなり思いっきり大衆文学だったことに驚いた。 元々ベールシャムの施設の概要は聞いてしまっていた為ミステリー的な楽しみ方は半減してしまったが、それでも十分楽しめた。 特に後半が面白かった。エミリ先生の告白シーンではヘールシャムの真相が明かされていく感じがミステリー的に面白く、一番最後のトミーの癇癪の場面なんかは心にくるものがあった。 少し淡々とした文体も切なさを増幅させていた。 だが、日本語的に違和感のある表現や順番もあり、そこの読みにくさがノイズになって物語に入り込みにくく感じはした。 ルースはくそ。
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登場人物達の会話、考えてることの描写から対人関係の難しさや素敵さを考えさせられました。 青春劇が好きな方は良いと思います。
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平凡な人間関係や心情の描写と共にストーリーが進んでいく中で、物語の設定(登場人物が置かれている環境やストーリー上の重要な秘密など)が小出しで徐々に明かされていき、終始不思議な気持ちでページをめくっていた。 テーマ性、緻密に構築されたストーリライン、平凡と特異のバランスなど、作品全...
平凡な人間関係や心情の描写と共にストーリーが進んでいく中で、物語の設定(登場人物が置かれている環境やストーリー上の重要な秘密など)が小出しで徐々に明かされていき、終始不思議な気持ちでページをめくっていた。 テーマ性、緻密に構築されたストーリライン、平凡と特異のバランスなど、作品全体の仔細にまで著者の考えが張り巡らされていると感じた。 記憶。それは死に対する部分的な勝利。
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主役であるキャシーの回想物語を描いている ストーリーは全体的に暗く鬱々としていて読んでいると悲しい気持ちなった。 自分がもしも当事者であったらどう自分と向き合い処理できるだろうか?いやできないであろう 物語に登場する生徒らは機械的かつ無機質に状況を飲み込んでいる様子にやはり人間と...
主役であるキャシーの回想物語を描いている ストーリーは全体的に暗く鬱々としていて読んでいると悲しい気持ちなった。 自分がもしも当事者であったらどう自分と向き合い処理できるだろうか?いやできないであろう 物語に登場する生徒らは機械的かつ無機質に状況を飲み込んでいる様子にやはり人間とは違う何かを感じてしまった。 トミーがとても小さな存在得ない動物を描いたのは自分たちを投影させていると気づきハッとさせられた。
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感情が整理できない。 いや、感情としては、主人公のキャシーとトミーのもどかしいような恋が行ったり来たりする様に共感して、切ないような、キュンなような、その気持ちを追体験した。一方で、実は彼らは臓器提供のために作られたクローン人間で、世間的には人間以下のものと見なされ日陰者とされる、というそのディストピアが、この現実世界のどんな面の象徴だろうか、引っかかりながら読んだ。分かりそうでもう少しで言語化できないこの感じ。彼らの死は決して「死」ではなく、「使命を終えた」としか語られないのもすごく意図的だと思う。倫理的にいけないことだと思っても身近な人の不治の病を治すためなら、臓器提供のために作られたクローン人間の存在は認めざるを得ない。そしてそれを正当化するために、クローン人間は人間ではない、劣った存在であると信じなければならない。そんな世の中に反して、クローン人間の子どもたちに教育を与え、彼らにも心や感性があることを、彼らの美術作品を通して世の中に伝えようとした学校、ヘールシャムは、一時はその人道的意義を支持されるが、やがて閉鎖に追い込まれる。なぜなら、優秀なクローン人間が増えたら人間が脅かされる、と思われたから。こういう話、現実にあるよな…と思う。ご都合主義の偽善で世の中の流れが左右されることが。 ただ臓器提供に利用されるだけの子どもたちに教育を与え、作品を創らせることは、岡真理の「戦争の対義語としての文学」にある通り、人間の尊厳を確保する営みだろう。 キャシーが大事にしていた「わたしを離さないで」のカセットを、トミーと2人でノーフォークで探す件が一番好き。ノーフォークはイギリスのロストコーナー、っていう話はそこでも、またラストでも伏線として働いていて、トミーが「使命を終えた」後、キャシーがそこを訪れる場面が至極切ない。 ヘールシャムの平和なユートピア感、保護官から守られて幸せな子ども時代を送れる感じに母校を重ねながら読んだけれど、社会に出てからの厳しさや人生の先にある絶望を見せずにその期間を幸せに過ごさせる、そのあり方も似ているのかもしれない。ヘールシャムはあのディストピア界におけるフィクションではなくて、現実私の母校もそうだったのではないか?私たちも社会のために生きて死ぬ、その意味で同じなのかもしれない。今の産業社会に生きる私たちはみんなキャシーたちクローン人間と似たようなものかもしれない。 そう思うと、将来何が起こるかを生徒たちに教えなければ、というルーシー先生のあり方は、学校を小さな社会としていろんな失敗をできる場所にしておこうっていう理念に通じる気がする。
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