マーティン・ドレスラーの夢 の商品レビュー
この本を読みながら、会社の友人が書いた一つの概念図を思い出してました。 横軸が時代、縦軸がニーズ。そこにやや右上がりの幅広の帯があり、ユーザー―ニーズと書かれています。そしてその帯を急な右上がりで貫く一本の線は製品です。最初の製品はユーザーニーズを満たしていませんが、時代を経るに...
この本を読みながら、会社の友人が書いた一つの概念図を思い出してました。 横軸が時代、縦軸がニーズ。そこにやや右上がりの幅広の帯があり、ユーザー―ニーズと書かれています。そしてその帯を急な右上がりで貫く一本の線は製品です。最初の製品はユーザーニーズを満たしていませんが、時代を経るにつれニーズを満たすようになり、やがて突き抜ける。つまり過剰装備に陥り、あるいはガラパゴス化する。 主人公は青年・ドレスラー。親の営む葉巻商店の改善を皮切りに、ホテルに勤務で頭角を現す。ホテルを飛び出してからは、自ら起業したレストランチェーンを成功させ、ホテル業界(日本には珍しい居住者型のホテル)に戻っても次々と新機軸を打ち出して大成功するが・・・。 最終的にはユーザーニーズを突き抜けてしまい、居住者が埋まらず、破産。でもあまり敗北感は無いのです。もともと経済的な成功をより自分の「思い」をホテルという形にすることにこだわった主人公です。その「思い」が一般に受け入れられなかったことを理解した主人公が抱いたのは、どこか寂寞とした達成感の様です。 もう一人の重要人物が主人公の妻・キャロリン。美人だが捉えどころがない。常に頭が痛いと言ってソファーから立ち上がらない。病気を口実に家族を支配する。性生活もおざなりで結婚後ほどなくしてセックスレスになる。一方キャロリンの妹・エメリンは美人ではないが、活動的で頭も良い。ドレスラーと常に行動を共にし、右腕としてホテルの副支配人として活躍する。それでもドレスラーは美人というだけの姉を取り続ける。 細部まで緻密な描写で、ところどころに強烈な状況の羅列があって、それが作者の文体らしいのですが、個人的にはやや苦手。 ピュリッツァー賞受賞作品だけあって読みごたえがありました。ミルハウザーさん、一作だけでなく読み込んで行くほどに味の出そうな作家さんですが。。。。
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20世紀初頭のニューヨークを舞台にした一人の男の物語。 この小説の原語タイトル「Martin Dressler The Tale of an American Dreamer」のとおり、マーティン・ドレスラーという青年の 絵に描いたようなアメリカン・ドリームとして話は進む。 ...
20世紀初頭のニューヨークを舞台にした一人の男の物語。 この小説の原語タイトル「Martin Dressler The Tale of an American Dreamer」のとおり、マーティン・ドレスラーという青年の 絵に描いたようなアメリカン・ドリームとして話は進む。 小さな葉巻商の息子として生まれたマーティンが、ホテルのパートタイマーから始まって順調に成功を重ね、ホテルの経営者にまで昇りつめる。 と、ここまではサクセス・ストーリーなんだけれど、マーティンのあくなき成功への欲望が半ば狂気とも思える様相を呈し始めた辺りから、物語はそれまでと少し違う展開を見せる。 彼の描くホテルのコンセプトや、そのコンセプトを具現化したホテルの描写に相当な行数を費やしていて、これがこの小説の肝と言えるところ。20世紀初頭が舞台だから、SFということでは決してないのに、何か近未来を思わせるような描写が続いて、これを追っていくと、何だかマーティンの狂気が狂気と思えなくなるような錯覚に陥る。んん、してやられた。 最終的にマーティンが現実をしっかり認めたところに救いが感じられたので、読後感はマル。 話の中心部分ではないけれど、個人的には、揺れるマーティンの恋心を描いた部分が印象的。独身で特定の彼女もいない時期のことだから、浮気とか二股の心配をする必要などまったくないのに、一人で勝手に揺れている心情が瑞々しく書かれていて、なんだかくすぐったい。 ところで、ワタシは単行本ではなくて、この8月に出た白水Uブックス版を読んだのだけれど、このUブックスはサイズが微妙。新書より少~しだけ背が高くて、市販の新書ブックカバーにおさまらない。なんでこんな微妙なサイズにしたんだか。
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ミルハウザーは岸本佐知子訳、と認識してたのに、いつの間にか柴田元幸訳になってる。ポール・オースター翻訳現象か? ミルハウザーは白水社Uブックス率がすごく高い。担当に気に入られているんだろうか?
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20世紀初頭のニューヨーク、一人の男が築いた帝国の興亡記、成就しない恋愛、勝手な当てはめだけど、ミルハウザー版ギャツビーっぽいな、と。 第一次大戦前後で差があるし、ギャツビーは帝国の成立については伝聞で語られるだけだし、違いの方が多い気もするけど、全編漂う寂寥感というか。
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その題名の通り夢うつつのような、淡い幻想のような、マーティンの夢とキャロリンの夢。キャロリンはどんな夢を見ているのだろう。シルヴァンショメのアニメみたいな少しセピアがかったイメージ。とてもすきでした。ミルハウザー他のも読みたい。
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19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカの成り上がり若手実業家の話。この作品は大都会ニューヨークが舞台である。奇しくも同時代の東北の山里を舞台とした熊谷達也氏の邂逅の森という作品を読んだ直後だったが、登場人物の女性の象徴性を通じて主人公の内面を照らそうとしている点では、手法の...
19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカの成り上がり若手実業家の話。この作品は大都会ニューヨークが舞台である。奇しくも同時代の東北の山里を舞台とした熊谷達也氏の邂逅の森という作品を読んだ直後だったが、登場人物の女性の象徴性を通じて主人公の内面を照らそうとしている点では、手法の部分で共通性のある作品だと感じた。 プロットの展開が早く、その点では読みやすい部類に入るかもしれないが、一方で主人公の心情描写にはある種不可解な部分が多く感じた。この違和感こそこの作品の奥行きであり、作者の緻密な戦略を感じる部分。複数回読み謎解きをしたくなる作品。
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着々と拡張し続ける都市の躍動感が生々しい。 そんな中で、夢想を次々に実現化させていくマーティン。 時代の先を読んでいたようで、ズレが生じてしまう。 事業としては失敗でも、彼の夢は果てしない。 時代とマーティンの熱気にこちらも高揚してくる。
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夢は理想のまま叶うものではない。多少、現実に沿ったもので実現する(実現って夢ではないものね)。マーティンよ・・悲観に暮れているけれど、最後は「終わり」ではなくて「始まり」にも見えるよ。 こういう夢を見る人って、ハーウェン氏のように世の中の有りの侭を受け入れる人か、マーティンのように夢を追う人かにわかれるのかしら。
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舞台は 19世紀末のニューヨーク。レストラン経営で成功を収めたマーティン・ドレスラーは、かつて自身がベルボーイとして働いていたヴァンダリン・ホテルのオーナにまで登りつめる……と、ここまではアメリカン・ドリームを体現した少年の伝記的小説にも読めるのだが、ドレスラー自身が構想したホテ...
舞台は 19世紀末のニューヨーク。レストラン経営で成功を収めたマーティン・ドレスラーは、かつて自身がベルボーイとして働いていたヴァンダリン・ホテルのオーナにまで登りつめる……と、ここまではアメリカン・ドリームを体現した少年の伝記的小説にも読めるのだが、ドレスラー自身が構想したホテル「ザ・ドレスラー」あたりから物語は徐々にミルハウザー・ワールドへ。3建目のホテル「グランド・コズモ」に至っては完全に虚実が入り交じり、並列して描かれる結婚生活とともに、夢とも現ともつかぬ物語に変遷する。 19世紀末から20世紀初頭のニューヨークの微細な描写も素敵だが、何といっても白眉は『バーナム博物館』を彷彿とさせる 3建のホテル。訳者の柴田元幸が「境目がない」と評した通り、ごく普通の小説を読んでいたはずなのに、いつの間にかミルハウザーの幻想世界へと引き擦り込まれている感触も良い。
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いつの時代も人はまだ見ぬ何かを求める。 大きな建物。見たこともない造形のビル。 19世紀終わりから20世紀初拡張していくNYとともに育った青年。 彼が抱いたのはそんな巨大な夢でした。 野心、孤独、そして夢。 アメリカの産声がきこえる。
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