獣の戯れ の商品レビュー
獣の戯れ、という題名から、男女の烈しい情熱の予感を感じた。そして、その予感は間違いではなかった。 あらすじだけを読めば、単純な男女の三角関係の話で、三島由紀夫のいう社会に対するところの孤独、神秘性は見られず、一種の恋愛小説、それも紋切り型のくだらない低俗なものに思え、読むのを躊...
獣の戯れ、という題名から、男女の烈しい情熱の予感を感じた。そして、その予感は間違いではなかった。 あらすじだけを読めば、単純な男女の三角関係の話で、三島由紀夫のいう社会に対するところの孤独、神秘性は見られず、一種の恋愛小説、それも紋切り型のくだらない低俗なものに思え、読むのを躊躇した。だが、そこは文豪と呼ばれる所以、ありきたりな設定や世界観の中にも特異性を足して、普遍性の罠にかかることなく器用に書き上げている。 特に、不気味なのは小説家の逸平の、その杳としれない言動と態度である。幸二に襲われてからというもの、自分ではもはや何もできず、すべてを妻に預けるしかない境遇にあり、身体を拭くことも食べることもできない。次第に、周りを巻き込んで、登場人物全員が、僕たち読者には不幸の底の底にあるように思えるが、周囲は、特に妻は、元気だった頃よりも幸せそうに見えるから不思議だ。そして、其処にひとつの幸せを見出せる力があるのも女性の良い点なのかもしれない。 理由はなんであれ。
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あらすじは分かりやすい。作品内にも「ここにまず不幸な絶望的な女がいる。気儘な冷酷な良人がいる。血気さかんな同情者の青年がいる。それでもう物語は出来上ようなものだった。」とあり、他人の妻に恋する話である。結末は冒頭に悲劇として出ちゃってる。 なんの変哲もない道具を不幸な要素として描...
あらすじは分かりやすい。作品内にも「ここにまず不幸な絶望的な女がいる。気儘な冷酷な良人がいる。血気さかんな同情者の青年がいる。それでもう物語は出来上ようなものだった。」とあり、他人の妻に恋する話である。結末は冒頭に悲劇として出ちゃってる。 なんの変哲もない道具を不幸な要素として描いている部分もあり、さまざまな仕掛けがあるようだ。自分に読み取れてるのかな……
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映画を観ようと思ってその前に原作をという動機で手にとった。おそらく、映画は映画で面白く、原作は小説ならではのよさに満ちているのだろうと思った。文章の一つ一つが三島由紀夫らしく、流麗というか美しい文章だと想います。今の生活のテンポとは離れた印象を持ちますが、こういう文章を落ち着いて...
映画を観ようと思ってその前に原作をという動機で手にとった。おそらく、映画は映画で面白く、原作は小説ならではのよさに満ちているのだろうと思った。文章の一つ一つが三島由紀夫らしく、流麗というか美しい文章だと想います。今の生活のテンポとは離れた印象を持ちますが、こういう文章を落ち着いて読むことは幸せなのだと思います。
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妻に嫉妬をさせたくて情事を重ねる肩書きと資産を持ったおじさんとその気位は高くても頭は弱そうな妻。 大学の後輩としておじさんの会社にアルバイトとして入り、妻への同情から出会う前から妻に恋してしまった血気盛んな若者。 情事の現場に妻を伴って乗り込んだ若者は、おじさんを偶然手に入れたスパナで殴り、半身不随と言語障害にさせてしまう。 刑期を終えて西伊豆に移住したおじさん夫婦の元へ住み込みの手伝いをするようになった若者は、最終的に妻とともにおじさんを絞殺してしまい、死刑となる。 短い小説だけど、いろいろみんなで感想を話し合ったり すると面白そうなお話でした。 結局は、おとなしそうに見えて自分だけが大好きだった狭い世界で生きている妻に2人の男が翻弄されて殺されたお話って感じでした。
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嫉妬することのない妻・優子を嫉妬させたいがために他の女と関係をもつ逸平。そんな優子に同情をする学生・幸二。あるとき優子と幸二は逸平の他の女との情事の現場に居合わせる。話し合いも実を結ばず泣き崩れる優子を逸平が打ったのをきっかけに幸二はたまたま拾ってあったスパナで逸平を滅多打ちにする。出所後、優子の元に引き取られた幸二は、不随を抱え、失語症になった逸平に再会するが常に朗らかな微笑を湛えた彼は昔の逸平とは違っていた。逸平という失語症の「穴」を中心に回り出す新しい生活。幸せに感じられるその生活になぜか幸二は不信感を抱いていた・・・。逸平が本当に考えていたことは「死にたい」ということだけだったのか。それとも幸二が言ったように自分という存在を中心に優子と幸二にエロスを立ち回らせ楽しんでいたのか。それとも両方か。逸平を絞殺し逮捕された後、3人の墓を並べてくれと頼む優子と幸二。最後に優子が言う「わたしたち本当に仲がよかったんです。信じてください」という言葉がせつなかった。
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青年どもには解りえない大人の純愛物語である。尋常とアブノーマル。あなたはどちらですかと読者に問うている。
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奇妙で幸福な三角関係の果ての「愛」、そして「死」。決して有名ではない作品にも、三島由紀夫の魂はくっきりと描かれています。
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どれだけ浮気を重ねても、決して嫉妬してこない妻の態度に実は自尊心を傷つけられている逸平。 自らの自尊心を守るために妬心をひた隠す優子。 そんな夫婦のひねくれた愛情…ここまでは分かりやすい。 けれど、恵まれた居場所に寝そべりあらゆる精神的営為に嘲笑を浮かべる逸平の「心の腐敗」に嫉妬した幸二が、夫婦の関係に深く食い込んでいくあたりから、心情が複雑すぎて分からなくなってくる。 罪を犯した人間の悔悟の先には幸福がある――そんな乱暴な論理に支配されてしまったかのような、不可解な関係性。 3人ともが役を演じているみたいだった。 罪によって結びつけられた関係性。 彼らの飢えは、そうした特別な愛の形によってしか満たされなかったのか。
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「一体、あんたは何を望むんだ。できないことを知りながら誘惑する。逃げ場のないことを知りながら追いつめる。蜘蛛のほうがあんたに比べればまだましだな。蜘蛛はとにかく自分の糸を紡ぎ出して、獲物をからめ取ろうとするんだから。あんたは自分の空虚を紡ぎ出さない。ほんのこれっぽっちも支出しない...
「一体、あんたは何を望むんだ。できないことを知りながら誘惑する。逃げ場のないことを知りながら追いつめる。蜘蛛のほうがあんたに比べればまだましだな。蜘蛛はとにかく自分の糸を紡ぎ出して、獲物をからめ取ろうとするんだから。あんたは自分の空虚を紡ぎ出さない。ほんのこれっぽっちも支出しない。あんたは空虚の本尊、空虚の世界の神聖な中心でいたいんだから。」 三島の中でもあまりない作風だな。『異邦人』みたい。
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さまざまな意味合いにおいて、何かとわかりにくい作品だ。作中にも、その言葉は現れるものの、我々読者が表題から想像するものと、作品内容との間にはけっして小さくはない階梯がある。また、優子像もいわば曖昧さを残したままで物語は進行してゆく。そして結末部で結像する優子は、もはやほとんど別人...
さまざまな意味合いにおいて、何かとわかりにくい作品だ。作中にも、その言葉は現れるものの、我々読者が表題から想像するものと、作品内容との間にはけっして小さくはない階梯がある。また、優子像もいわば曖昧さを残したままで物語は進行してゆく。そして結末部で結像する優子は、もはやほとんど別人であるかのようだ。一方の幸二の方は、はるかに諒解し易いが、それにしても行為と思惟との間には、やはり乖離があるだろう。結局、この作品全体を通して確かなものといえば、3つ並んだ墓石だけなのだ。物語の構成もまた、それを証左している。
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