挟み撃ち の商品レビュー
多少の歴史認識や、土…
多少の歴史認識や、土地勘が必要。文学でやしなえる程度なので、読書習慣のある方はおそれなくても大丈夫。ゴーゴリ、荷風、森鴎外、その他。後藤明生はファンで終わらず、先行する作品たちを乗り越えようとする。〝外套〟にはじまって〝外套〟に終わる小説。脱線に次ぐ脱線、その語りや観察力を楽しめ...
多少の歴史認識や、土地勘が必要。文学でやしなえる程度なので、読書習慣のある方はおそれなくても大丈夫。ゴーゴリ、荷風、森鴎外、その他。後藤明生はファンで終わらず、先行する作品たちを乗り越えようとする。〝外套〟にはじまって〝外套〟に終わる小説。脱線に次ぐ脱線、その語りや観察力を楽しめます。
文庫OFF
<ある日のことである。わたしはとつぜん一羽の取りを思い出した。しかし、鳥とはいっても早起き鳥のことだ。ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム。早起き鳥は虫を捕まえる。早起きは三文の得。わたしは、御茶ノ水の橋の上に立っていた。夕方だった。多分六時ちょっと前だろう。(P7)>...
<ある日のことである。わたしはとつぜん一羽の取りを思い出した。しかし、鳥とはいっても早起き鳥のことだ。ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム。早起き鳥は虫を捕まえる。早起きは三文の得。わたしは、御茶ノ水の橋の上に立っていた。夕方だった。多分六時ちょっと前だろう。(P7)> おお!良い書き出し! 「わたし」はその朝とつぜん20年前には着ていた外套をどこで失くしたんだろう?と思い当たった。そこで友人の山川と待ち合わせしている夕方までに、20年前に付き合いのあった人たちを訪ねることにした。 現在の「わたし」の動きは、朝起きて埼玉県の蕨市とか草加あたりを巡り(埼玉から埼玉の移動は、一度東京に出る必要があります(^_^;)、そこから御茶ノ水の名前を知らない橋の上で山川を待つ。 その間で、ゴーゴリーの「外套」「鼻」のこと、永井荷風「濹東綺譚」のこと、これから尋ねる人の20年前の付き合い、それより前の自分の子供時代のことなどを思いを馳せます。 「わたし」は日本占領下の北朝鮮(現在の国名でいうと)生まれで、日本語学校に通っていた。終戦のときに学校の校庭の穴に埋められたガスマスクや鉄兜などの装備がシャレコウベのようだったこと、自宅は「30分で出ていけ」と言われて、持っていけないものは庭の穴に入れて燃やして手荷物だけ持って家を出たこと。 <いったい誰の墓場だろうか?わからなかった。わかったのはただ、何かが終わったことだけだ。わたしの知らないうちに、何かが終わっていたのである!(P153〜)> 向かったのは祖父母の九州筑前。しかし「わたし」は九州弁の発音はできないままだ(筑前はチクジェン、全然はジェンジェン)。そしてこの土地ではみんな指せる将棋が自分には指せない。「わたし」にとっての将棋は、朝鮮将棋と曽祖父から教わった挟み将棋なのだ。 「それ、挟んで、ちょい!挟むつもりが、挟まれた!」 やがて大学受験のために上京することにした。この時母に持たされたのがカーキ色の旧陸軍の歩兵用の外套だった。 やっと外套が出てきた! この外套で外国語大学の試験に向かったんだけど、「早起きは三文の得」を英語訳できなくて試験は落ちた。それが今朝思い出した早起き鳥の「ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム。早起き鳥は虫を捕まえる。」 やっと20年前に! なんでいきなり外套を、早起き鳥を思い出したのかは「とつぜん」です 笑 そして自分が上京してきてからの移動地図を書いてみた。20年で15箇所、訪ねる相手は、当時の下宿先、外套を質入れしたり取り出したりした質屋、当時の友達、文学娼婦のヨウコさんがいた店のあたり。 それぞれで会えたり会えなかったり、会えたらいきなり「ぼくの外套を覚えていますか?」というので相手との会話がイマイチ噛み合わない 笑 まあ結局いつ外套を失った(手放した?失くした?取られた?)かの記憶は戻らず、今待ち合わせしている山川は外套とは何の関係もない。 あとがきの解説によると、「本文に出てくる色々なものが対象に鋏みあっている」んだそうだがそこまで読み取れず(^_^;) 武田信明によるこの解説はとても良かったです。 何を読んでいるんだかよくわからん、「とつぜん」に行ったり来たりする記憶の語り口は結構印象的なものも多い、でもよくわからんって不思議なお話(^_^;)
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久しぶりに独特な、後藤明生を初めて読んだので、これが後藤明生の特徴なのかまでは分からないが、そういった小説を読んだ。解説の通り、この小説が外套を探し求めることをきっかけに、〈わたし〉の記憶を遡行するものだとすると、保坂和志の『この人の閾』では外套に該当するのが大学の先輩だったと思...
久しぶりに独特な、後藤明生を初めて読んだので、これが後藤明生の特徴なのかまでは分からないが、そういった小説を読んだ。解説の通り、この小説が外套を探し求めることをきっかけに、〈わたし〉の記憶を遡行するものだとすると、保坂和志の『この人の閾』では外套に該当するのが大学の先輩だったと思える。この二つは構造的に似ていると言えても、挟み撃ちは連想ゲーム的な思考で中盤から全く話の筋から脱線してしまうので少し大変だった。それでも話、思考の続きが気になるので楽しく読めた。 解説がすごい
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後藤明生による挟み撃ち。お茶の水の橋の上から始まり、お茶の水の橋の上で終わる外套を求めて蕨、上野、お茶の水を移動する。ある意味何も起きないけれど、北九州、朝鮮、草加、上野の記憶を行き来する。日光街道に沿って作られたいまの東武伊勢崎線と中山道に沿って作られたJR蕨、そして両者を結ぶ...
後藤明生による挟み撃ち。お茶の水の橋の上から始まり、お茶の水の橋の上で終わる外套を求めて蕨、上野、お茶の水を移動する。ある意味何も起きないけれど、北九州、朝鮮、草加、上野の記憶を行き来する。日光街道に沿って作られたいまの東武伊勢崎線と中山道に沿って作られたJR蕨、そして両者を結ぶ上野。挟み撃ちとは何なのかという話でもあるけれど、お茶の水に挟まれてもいるし、蕨と草加、朝鮮と筑前などなど、様々な対立する二項が作中に散りばめられている。 何ということはない作品だが文章は上手くさすがという感じ。
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無くしたものを探すというのは最も無駄な時間ともされている。思考が渦となり人を閉じ込め,外套から戦争へと連想ゲームが展開される。 過度な冗長さは小説であることを疑わせ,文そのものを読むことを強制させる。単につまらない文章であればすぐ目を背けるところを,本作の饒舌はやけに読者を惹き...
無くしたものを探すというのは最も無駄な時間ともされている。思考が渦となり人を閉じ込め,外套から戦争へと連想ゲームが展開される。 過度な冗長さは小説であることを疑わせ,文そのものを読むことを強制させる。単につまらない文章であればすぐ目を背けるところを,本作の饒舌はやけに読者を惹きつける。無駄を省いてしまえばほとんど残るものはないだろうが,その無駄の醍醐味を味わうことのできる作品であった。
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アカーキー・アカーキエヴィチの『外套』を元に、赤木が外套を探すユーモラスな設定。 脇道に逸れまくる注意散漫な語り口は少し苦行に感じてしまったが、意欲的な構成と表題の意味に感心した。
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【オンライン読書会開催!】 読書会コミュニティ「猫町倶楽部」の課題作品です ■2022年10月9日(日)17:30 〜 19:15 https://nekomachi-club.com/events/50f59c83afac
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もう何年も読もう読もうと思っていてようやく読んだ。物語自体が外套のような造りをした小説。すごいことはすごいが、好きかどうかというと別にそうでもなかった。ただ、まさに京浜東北線で通勤している最中に、京浜東北線の話を読むのはうれしかった。
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北九州から大学受験のために上京してきた20年前に着ていた旧陸軍の外套の行方がふと気になり、探しに出かける一日のはなし。 それだけ。ほんとにそれだけのはなし。 主人公は妻子あり、草加の公団住宅に住む中年のサラリーマンという平凡なのが特徴といってもいいくらいに平凡すぎて魅力的じゃない...
北九州から大学受験のために上京してきた20年前に着ていた旧陸軍の外套の行方がふと気になり、探しに出かける一日のはなし。 それだけ。ほんとにそれだけのはなし。 主人公は妻子あり、草加の公団住宅に住む中年のサラリーマンという平凡なのが特徴といってもいいくらいに平凡すぎて魅力的じゃないし、案の定というかやっぱりというか、外套はもちろん見つからないし、だいたい外套を探す小説を書く事自体がゴーゴリの『外套』に憧れすぎて自分も『外套』を書きたいからなのであって。自分の小説を書きたいけどかけないからやむなく模倣する、てわけでもなくて、自分の小説が書きたいとはそもそも思ってなくて、『外套』が好きだから『外套』が書きたいんだってのが可笑しいようなアホなような。 でも、読み進めるうちに、戦中と戦後の断絶の挟み撃ちにされて宙ぶらりんに放り出されたままの主人公の気持ちも何だか段々とわかってくる気がしないでもない。中断あたりで唐突に始まる、兄との「とつぜん」「とつぜん」の大合唱の脳内口喧嘩が混乱していていい。 物語のなさと、 脱線に次ぐ脱線と、 ほとんどが内省的な記憶の中の出来事であることと、 要素だけ抜き出すと読みにくそうなんだけど、なぜだか実にスラスラ読める。饒舌だけど熱に浮かされている訳でもなくて、どこか滑稽ですらあるような軽さが文章そのものにあるんだと思う。 僕なんかが言うのもおこがましいんですがね、こりゃね、傑作ですよ。 「お前は、子供のときから兵隊になりたがりよったとやけん、よかやないか」 と 「バカらしか、ち!」 の挟み撃ち。
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※このレビューにはネタバレを含みます
まー、ただ、「なくした外套」を探す、だけの話なんです。 ゴーゴリの「外套」やら「鼻」やらが散見されて面白くはあった。季節的にも旬だし。 ただ、文庫の奥付に1972年の作品らしいのですが、 梅崎春生の「ボロ家の春秋」辺りの時代感が・・・・。
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