1,800円以上の注文で送料無料

一朝の夢 の商品レビュー

3.9

17件のお客様レビュー

  1. 5つ

    3

  2. 4つ

    6

  3. 3つ

    5

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2012/05/13

江戸時代を舞台に朝顔が好きな奉行所勤めの男を主人公に描かれている。あまり歴史小説は読まないが、当時の生活ぶりもわかり また小説としても展開がおもしろく 歴史的な出来事である桜田門外の変と結び付いたり勉強にもなった。

Posted byブクログ

2010/10/21

六尺近くにもなる体を持ちながら、その性質はおとなしい同心・中根興三郎は、奉行所内で役人の名簿を作る閑職に就いていた。しかしそのお役目とは別に、彼が精魂を傾けるのが「朝顔作り」。彼は異なる品種をかけあわせ、この世に二つとない美しい朝顔を生み出すのを幸いとする男だったのだ。 しかし...

六尺近くにもなる体を持ちながら、その性質はおとなしい同心・中根興三郎は、奉行所内で役人の名簿を作る閑職に就いていた。しかしそのお役目とは別に、彼が精魂を傾けるのが「朝顔作り」。彼は異なる品種をかけあわせ、この世に二つとない美しい朝顔を生み出すのを幸いとする男だったのだ。 しかし幼馴染の里恵の窮状を救うため、極上の一品を彼女に与えた所から、中根は幕閣の重鎮・井伊直弼暗殺計画の渦中に巻き込まれてゆく・・・。 息子が恐ろしい計画に加担する事を知った、中根の同僚の老同心。 かつての夫が中根を危機に陥れるのではないかと、恐れる里恵。 自己満足の材料としてしか朝顔を見ることができない豪商の鈴や。 ふらりと現れては共に酒を酌み交わす(中野は酒は飲めないが・・・)、さっぱりとした気性の浪人・三好貫一郎。 自分のための朝顔を作ってほしいと依頼してきた謎の茶人・宗観。 キーとなる人物が精緻に絡み合い、それぞれの謎をうまく使って物語は進められていきます。 宗観さまの正体は、まぁ早々にわかってしまうのですが、わかった後からだからこそ、この後に待ち受ける桜田門外の変の無常さ、それにかかわった人々の心の葛藤が際立ちます。 ストーリーに、大河ドラマのような大きな盛り上がりはないのですが、むしろこの淡々とした丁寧な進め方の方が、人の想いを飲み込んで、残酷に流れていく時のはかなさが感じられてよかったのかもしれません。 自分が植えた朝顔の子葉が、土をもたげて出てくるのを見て、「これが朝顔の赤子か」と小躍りして喜び、白地に浅黄色の斑点の入った時雨絞りが咲いたのを見て、可愛いな、と呟き目を細めた三好が、「相容れぬことも、また互いの正義のためなのだ。信念と言い換えてもいい。進むべき方向を間違えたのなら、修正をすべきだ」と、水戸藩士・関鉄太郎として桜田門外の変に挑む事となることが哀しい。 若き頃に華々しい活躍をしたにもかかわらず、同僚をかばった怪我がもとで末は閑職に。それでもお役目を怠らず務めあげて、息子が奉行所に入ることを「息子の名を、自ら名簿に記したさいは、なにやた胸が熱くなりましてな」と喜んだ同僚の老同心・村上が、息子の敵を取るためにすべてを失い、最後には中根の刀に倒れる運命を選択してしまった事が哀しい。 元妻である里恵を他人に凌辱させたあげくに自刃に追い込み、村上の息子が殺されるひきがねとなった矢田部耕造も、悪人とばかり思っていたのに、その胸の中に「認められたい」という鬱屈した思いが渦向いていて、結局は政局を動かすコマの一つとして使い捨てられた事が哀しい。 夢の花を望み、迷いを振りきり行った厳しい政策。その影響で命を狙われ、「時代がわしを必要とし、その時代がわしの死を望んでおるのなら、喜んで屍になろうぞ。だがわしを倒すことが終わりではないのだ。そこからがあらたな始まりなのだということを、よく覚えておくがいい」と暗殺計画を知りつつ逃げも隠れもしなかった宗観様が哀しい。 生身の人間の、生身の心を描きつつ、時代の波に飲まれていった彼らの悲しみをもまた描ききった良作です。 一生に一度だけ、懸命に育てた者にだけ、咲いてくれる夢の黄色花。 中根はその花を咲かせることができたけれど、三好や村上や宗観が、この世に生みだしたかった花は、彼らが咲かせたかった、それぞれの花は、どんな花だったのでしょうね。 ふと、そんな想いにとらわれてしまう一冊でした。

Posted byブクログ

2011/07/20

世は江戸末期。世事に関心もなく、女心にも疎い、ただ朝顔の交配、栽培だけが唯一の趣味という事務方役人。そんな主人公だが、知らず知らずその動乱の渦に巻き込まれていく。ミステリーの要素も含み、時代小説特有の静けさを感じる作品。楽しみの少なかった当時の人々の朝顔にかける情熱が興味深いし、...

世は江戸末期。世事に関心もなく、女心にも疎い、ただ朝顔の交配、栽培だけが唯一の趣味という事務方役人。そんな主人公だが、知らず知らずその動乱の渦に巻き込まれていく。ミステリーの要素も含み、時代小説特有の静けさを感じる作品。楽しみの少なかった当時の人々の朝顔にかける情熱が興味深いし、一朝の夢というのはもう一つの意味を掛け合わせているのだと気づき、また意味深くなる。

Posted byブクログ

2015/05/11

2008.12.24 内容について、文藝春秋のサイトから引くと 「中根興三郎は、同心といっても血なまぐさい事件には縁遠い、朝顔栽培が生きがいの男だ。ある日、興三郎は宗観と呼ばれる壮年の武家と知り合い、朝顔を介して心和む交流が始まる。だが時代は急展開を迎え、井伊大老と水戸徳川家...

2008.12.24 内容について、文藝春秋のサイトから引くと 「中根興三郎は、同心といっても血なまぐさい事件には縁遠い、朝顔栽培が生きがいの男だ。ある日、興三郎は宗観と呼ばれる壮年の武家と知り合い、朝顔を介して心和む交流が始まる。だが時代は急展開を迎え、井伊大老と水戸徳川家の確執など予断を許さない。また興三郎の同僚が事件を起こす。興三郎は、思いもよらぬ形で井伊大老を中心とした歴史の転換点に関わっていく--。」 なんというか、主人公の中根にとても共感してしまうのです。争いを好まず、ただ自分の夢である黄色の朝顔を咲かせることを追い求める。すばらしい花を咲かせても品評会には出さない、花はただ咲いているだけであってそれを人間が優劣つけるなどとんでもない、それぞれに美しいというのです。宗観も、中根の友人である浪人の三好も、ただ朝顔栽培に熱中する中根の前では、地位も政治も関係ないひとりの武士になれる…… なんというか、そういう、「何者でもない自分になれる場所」「そういう場所を提供してくれる人」って、貴重だと思うのです。大人になるとね、付き合いとか、それなりの利害関係も出てきたりするしね。 「旧友っていいよね、もちろん大人になってからの大事な友達もいっぱいいるけどね!」という話を英語の先生としたばっかりだったので、タイムリーでした。

Posted byブクログ

2012/01/15

幕末の動乱を背景に、変化朝顔にまっすぐな情熱を傾ける同心・興三郎の話。とても面白く読みました。 同心というと、べらんめえの定町廻りがすぐに思い浮かぶのですが、興三郎は名簿係とでも言うべき閑職で性格も元々ひっそりとした控えめな存在。 たまたま変化朝顔をモチーフとする田牧大和「花合...

幕末の動乱を背景に、変化朝顔にまっすぐな情熱を傾ける同心・興三郎の話。とても面白く読みました。 同心というと、べらんめえの定町廻りがすぐに思い浮かぶのですが、興三郎は名簿係とでも言うべき閑職で性格も元々ひっそりとした控えめな存在。 たまたま変化朝顔をモチーフとする田牧大和「花合わせ」を読んだばかりだったので、またか、と思ってしまったのですが、(「花合わせ」では変化自体にあまりいい印象を持たなかったし)興三郎の日々の真摯な姿勢がとても好ましく、たびたび出てくる朝顔交配の試行錯誤の話も面白くて、素直に変化を望むことができました。 興三郎本人の話もよかったのですが、奉公人の藤吉、読者や傍の者にだけにはわかる恋のお相手里恵とその子ども小太郎、義弟であり職場では上司である惣左衛門、朝顔の師匠である植木屋の留次郎、そして、謎の大物・宗観など、脇に配置された人々の人物描写も巧みでね。 興三郎の背が六尺近くもあるものの痩身で長い手足を持て余している、という設定が物語の大事なところで一度だけ活かされたのが切ないながらもよかったし。 同じように、地味だと思っていた仕事が物語の進行の謎を解く一つの鍵にもなるあたり、梶よう子という作家の構成力の確かさを感じ、嬉しくなりました。 ネタばれです。 ただ、里恵と興三郎は幸せで穏やかな夫婦になると思っていたのに、尊皇攘夷の怒涛の流れの中で犠牲となってしまうのが可哀相すぎたのでは、と。また、宗観の正体が実は井伊直弼というのも、あまりに話が広がりすぎて、私はもっと市井の小さな話でよかったのになぁ、とも。 これは好みの問題なんでしょうけどね。 ネタばれ終わり とはいえ、とても上手な作家さんに巡りあえたことはラッキーでした。他の作品も追いかけてみたいと思います。

Posted byブクログ

2011/07/15

幕末、井伊直弼の頃の話。主人公は朝顔栽培だけが生き甲斐の同心。それが宗観という武家と知り合って、思わぬ事件に巻き込まれてゆく。哀しい話であった。書評で見たんだか、新聞広告で見たんだか(多分、後者。宮部みゆきが推薦文書いていた気がする)。何だかどんどん大きい話になっちゃって、ちょっ...

幕末、井伊直弼の頃の話。主人公は朝顔栽培だけが生き甲斐の同心。それが宗観という武家と知り合って、思わぬ事件に巻き込まれてゆく。哀しい話であった。書評で見たんだか、新聞広告で見たんだか(多分、後者。宮部みゆきが推薦文書いていた気がする)。何だかどんどん大きい話になっちゃって、ちょっときれいにまとめきれなかった感も。面白かったのですが。最後はよくわからなかった。第15回松本清張賞受賞作。

Posted byブクログ

2009/10/04

時は幕末、奉行所同心、中根興三郎は武芸の才もなく、役所では名簿作りの閑職を与えられ、趣味は朝顔作りという冴えない独り身。朝顔作りへの情熱だけはどこの誰にも負けない彼は、朝顔に認められた者に、一生に一度だけその姿を見せるという黄色い朝顔作りの夢を追い続ける。そんな興三郎は朝顔の縁か...

時は幕末、奉行所同心、中根興三郎は武芸の才もなく、役所では名簿作りの閑職を与えられ、趣味は朝顔作りという冴えない独り身。朝顔作りへの情熱だけはどこの誰にも負けない彼は、朝顔に認められた者に、一生に一度だけその姿を見せるという黄色い朝顔作りの夢を追い続ける。そんな興三郎は朝顔の縁から、宗観と名乗る大物武家らと純粋な友好を結ぶが、そこから桜田門外の事変に連なる幕末の奔流に巻き込まれる。不器用だが、真面目でまっすぐな中根同心がなかなか良い味を出してる。

Posted byブクログ