夜と霧の隅で の商品レビュー
・岩尾根にて ・羽蟻のいる丘 ・霊媒のいる町 ・谿間にて ・夜と霧の隅で の五編。 最初の1編を読み終えて、あれ? これって別の話し?「夜と霧の隅で」でじゃないよね? とよく見たら、5編掲載の1編目であった。 「夜と霧の隅で」 読み始めて、ありゃ? これは、同じ芥川賞受賞...
・岩尾根にて ・羽蟻のいる丘 ・霊媒のいる町 ・谿間にて ・夜と霧の隅で の五編。 最初の1編を読み終えて、あれ? これって別の話し?「夜と霧の隅で」でじゃないよね? とよく見たら、5編掲載の1編目であった。 「夜と霧の隅で」 読み始めて、ありゃ? これは、同じ芥川賞受賞作品でも、又吉君の「火花」とはちょいと違うな。大丈夫か。読み終えられるのか。 苦手な、カタカナ名前がたくさんでてくるし。。 でも、終盤は一気に読んでしまった。 読み終えて、何ともいえぬ、重いもの(別に嫌な感じじゃなく)が残った。
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「岩尾根にて」、「羽蟻のいる丘」、「 霊媒のいる町」、「谿間にて」、「夜と霧の隅で」の五編。 山を舞台にした話と、脳・心理・精神医学に関わる話が多い。何かを考えさせられるというよりは、不気味な絵を見ているような、引きこまれて不思議な世界に連れて行かれそうな短編が多い。 「夜と...
「岩尾根にて」、「羽蟻のいる丘」、「 霊媒のいる町」、「谿間にて」、「夜と霧の隅で」の五編。 山を舞台にした話と、脳・心理・精神医学に関わる話が多い。何かを考えさせられるというよりは、不気味な絵を見ているような、引きこまれて不思議な世界に連れて行かれそうな短編が多い。 「夜と霧の隅で」が面白かったので星を一つ増やした。 第二次大戦末期、ナチスは不治の精神病者に安死術を施すことを決定した。その指令に抵抗した精神科医たちは、不治の宣告から患者を救おうと、あらゆる治療を試み、ついに絶望的な脳手術まで行う。 精神病者を救うために博打のような手術に臨む医師らの苦悩。その中にひとり入院している、ユダヤ人を妻にもつ日本人医師高島のストーリーが挟み込まれる。「夜と霧」という言葉が比喩で何度も現れ、精神病者を、医師を、病院を、戦争を、個人を、人を、周囲から切り離していく。答えもゴールも見えないような、内臓の縮むような小説だった。
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全体的に灰色がかった雰囲気の中、救いがないストーリー。短編で読みやすいのだが、すべて読み終わるのに時間がかかってしまう矛盾が・・・とても考えながら読んだ作品。 表題作も引き込まれたが、「岩尾根にて」が一番よかった。
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1960年上半期、芥川賞受賞作。選考委員10人のうち8人までが◎(他の2人は〇)と圧倒的な支持を受けての受賞だった(倉橋由美子の「パルタイ」もこの時の候補作だった)。言うまでもなく、V・フランクルの『夜と霧』に触発されての作である。本家がホロコーストを描いていたのに対して、こちら...
1960年上半期、芥川賞受賞作。選考委員10人のうち8人までが◎(他の2人は〇)と圧倒的な支持を受けての受賞だった(倉橋由美子の「パルタイ」もこの時の候補作だった)。言うまでもなく、V・フランクルの『夜と霧』に触発されての作である。本家がホロコーストを描いていたのに対して、こちらはタイトルにもあるように、その片隅で密やかに行われていた、精神病者の抹殺に焦点を当てた、精神科医でもある北杜夫ならではの小説だ。ただ、『夜と霧』が、まさしく当事者としての迫真性を持っていたのに比すれば、良くも悪くも客観的な視座だ。
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芥川賞の表題作。読んでいるうちに怖いなぁと思ってきました。何が現実でどこからが妄想なのか。脳がそう思い込ませているのだったら、もう分かりようがないよなぁと。そして異常者を排除しようとすることの正当性。読み終わった後も、悶々としています。 他にも短編が収録されていますが、抽象的でよ...
芥川賞の表題作。読んでいるうちに怖いなぁと思ってきました。何が現実でどこからが妄想なのか。脳がそう思い込ませているのだったら、もう分かりようがないよなぁと。そして異常者を排除しようとすることの正当性。読み終わった後も、悶々としています。 他にも短編が収録されていますが、抽象的でよくわからなかったのと、虫が嫌いな私には少し気持ち悪く感じてしまいました。
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読み始めました。何年ぶりでしょう。30数年ぶり。 (2013年11月23日) ◎「岩尾根にて」 ○「羽蟻のいる丘」 ほかは、「×」 (2013年11月25日)
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精神病理に通じた作家による、秀作。 殊に精神病に関心のある自分にとっては、特にその「行間」を読む醍醐味を感ぜられる。 初読で印象深いのは「岩尾根にて」「夜と霧の隅で」。 特に「岩尾根にて」は、精神科医ならではの洞察が感じられてインパクトがある。再読してじっくり噛みしめるに値する作...
精神病理に通じた作家による、秀作。 殊に精神病に関心のある自分にとっては、特にその「行間」を読む醍醐味を感ぜられる。 初読で印象深いのは「岩尾根にて」「夜と霧の隅で」。 特に「岩尾根にて」は、精神科医ならではの洞察が感じられてインパクトがある。再読してじっくり噛みしめるに値する作品。 全体的に文体は平易で、描写はややざっくりとした印象はあるが、あまり気にならない。それを補って余りあるだけの充実さがある。
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表題作『夜と霧の隅で』、ナチス下のドイツで"真っ当な"血統保存を目的として行われた分裂病患者の殺害。精神病患者の病院を舞台に、そこで医師として働くケルセンブロック、患者として入院するも、ユダヤ人の妻を亡くし最終的には自殺してしまう日本人のタカハシ、年老いた院長、様々な立場に置かれ...
表題作『夜と霧の隅で』、ナチス下のドイツで"真っ当な"血統保存を目的として行われた分裂病患者の殺害。精神病患者の病院を舞台に、そこで医師として働くケルセンブロック、患者として入院するも、ユダヤ人の妻を亡くし最終的には自殺してしまう日本人のタカハシ、年老いた院長、様々な立場に置かれたそれぞれの人々を描く。 有益か無益か、合理的思考からその二元論的な結論に達してしまいがちだが、そうだとしたら戦時中の精神病患者たちは軍部の目には間違いなく"無益なもの"として映るのだろう。「p252 人間についての僕の考察をいえば、この時代やこの戦争が特に暗黒な目をおおう時代とは思えないね。人間の文化、道徳、殊に進歩に関する概念なんてものはたわごとだ。人間の底にはいつだって不気味なものがひそんでいるのだ。」これは戦時中という時代背景に特有なことではなく、弱者を切り捨てる政策というのはいつだって見られることだ。でも最後のツェラー院長の無言の回診のように、合理的な意味がないにしても人の心は動かし得る。いわば、無益なもの同士がお互いに影響しあう様は現代人に何を示してくれているのだろうか。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
表題作である『夜と霧の隅で』、不死の精神病者に施す安楽死に抗いながら治療を試みる医師、という一見明るいテーマとは程遠い内容。全体が重く息苦しい雰囲気に包まれている。ラストシーンもどこか哀愁を漂わせつつ抜け出せない迷路に自ら足を踏み込もうとしているようで、切なさが残る。 個人的には『谿間にて』が次点で印象的だった。1匹の蝶を追い続ける男の狂気的な描写が巧い。聞き手の男のどこか無頓着な純粋さとの対比が際立つ。
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『楡家の人びと』を読んで再読したくなった初期作品集。 表題作は述べるまでもないが、他の4作品も締め付けられるような死の臭いが漂う緊張感、そして読者を放り出すような感じでもってそれぞれの解釈に作品そのものを委ねるような結末、いずれも素晴らしい作品ばかり。 自分の時間を割いたことに対...
『楡家の人びと』を読んで再読したくなった初期作品集。 表題作は述べるまでもないが、他の4作品も締め付けられるような死の臭いが漂う緊張感、そして読者を放り出すような感じでもってそれぞれの解釈に作品そのものを委ねるような結末、いずれも素晴らしい作品ばかり。 自分の時間を割いたことに対する十二分な報い、小説を読むということの醍醐味を感じずにいられませんな。
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