しゃぼん玉 の商品レビュー
『自分は生涯、しゃぼん玉のように、ただ漂って生きていく。そしていつか、どこかでパチンと弾けて消える』 暴れる父と自分を疎む母、そんな家庭に育ち、通り魔や傷害を繰り返して“しゃぼん玉”のように生きていた青年・翔人が、逃げ込んだ山奥でふとしたことで助けた婆ちゃんのところに転がり込むこ...
『自分は生涯、しゃぼん玉のように、ただ漂って生きていく。そしていつか、どこかでパチンと弾けて消える』 暴れる父と自分を疎む母、そんな家庭に育ち、通り魔や傷害を繰り返して“しゃぼん玉”のように生きていた青年・翔人が、逃げ込んだ山奥でふとしたことで助けた婆ちゃんのところに転がり込むことになる。 彼を婆ちゃんの孫と勘違いした村のおばちゃんの世話焼き、爺ちゃんとの山仕事、訳あって都会から戻った女性との触れ合い。 『白くふっくらとした銀杏が、山ほど入っているビニール袋を差し出した老婆は、そう言って恥ずかしそうに笑った』、はにかむお婆ちゃんが目に見えるようで、この村の人々のなんと純真無垢なことか。 こうした人に囲まれた翔人の村での生活と、その間に挿まれる過去の家庭環境の中で描かれる翔人の心根。『しょうがねえことも、あるにゃあ、ある。だが、それと、どうでもよくなるっちゅうとは、別もんばい』、ちょいと道徳臭いけどね、そうした人々に囲まれて、翔人はもう一回人生をやり直すことを決意する。 なんのひねりもない話で予定調和的結末と思いながら、ラスト近くは涙が出てきて、電車の中で読んでいてちょっと困った。 こんな話に涙もろくなるっちゅうのも我ながらどうかと思いながら、乃南アサって上手だと感服する。
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