土の中の子供 の商品レビュー
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この物語は人は平等ではないことがよく分かる話だと感じた。 主人公の「私」は幼い頃親に捨てられ、親戚や遠い親戚に育てられた。この「育てられた」は育てて頂いたとは言えず、壁に穴が開くほどの暴力を受ける日々であり、生き延びさせられたという意味である。その後、施設に預けられた。暴力から逃れた「私」だが、暴力を受ける日々から抜け出せた生活が養護施設であり、この生活が幸せかも分からなく無くなっていた。大人になり、タクシードライバーとなり、結婚もしたが今の生活に不満はないが、同じことをする日々が幸せとも思っておらずお金にも困るような生活をしていた。自殺も考えた。乗客から殺されかけた時もあった。本当に苦労した生活だなと感じた。 これは生まれた時から決まっていた生活であり、自分がどう足掻いても変えられない運命であるという事実に胸が痛くなった。
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過去の強烈なトラウマや恐怖は一種のマゾヒズム的感性を生み出し、その感性が負の連鎖を引き起こす。 絶望を通り越した先にある、自暴自棄。 この感覚は僅かではあるものの共感を覚える。
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作品全体が重苦しい雰囲気の中で進んでいくのですが、その鬱々とした場面ですら美しく描写されています。それも読み手に想像しやすい言葉で。 土の中の子供の伏線が回収された時、一種のカタルシスのようなものを感じました。
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幼い頃の虐待に精神が蝕まれ、自らを危険にさらして恐怖を味わう状況に陥れる主人公のあり様に、著者の体験を想像してしまったが、プロフィールを読む限り、豊かな想像力·創造力の成果であるようだ。もっと悲惨な結末を予想して読み進めたが、希望の持てるエンディングにほっとした。
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相変わらず、中村文則さんの作品は暗くて好きです。ただ暗いだけでなく、自分も経験したことあるような、どこか暗部の懐かしささえ感じる。主人公に共感してしまう自分がどこかにいる。
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133回芥川賞受賞作。 めちゃくちゃよかった。 中村文則さん流石すぎる。 親に捨てられ、 里親に虐待された過去をもつ“私”が、 自身の中にある“生への執着”に気づいていく物語。 この物語の幕開けは、主人公が10人ほどの 若者にリンチされているシーンから始まる。 しかし、ど...
133回芥川賞受賞作。 めちゃくちゃよかった。 中村文則さん流石すぎる。 親に捨てられ、 里親に虐待された過去をもつ“私”が、 自身の中にある“生への執着”に気づいていく物語。 この物語の幕開けは、主人公が10人ほどの 若者にリンチされているシーンから始まる。 しかし、どうもそのケンカは 主人公のほうからふっかけたらしい。 この先も主人公から“暴力”を 求めていくような場面が続く。 ひどい虐待を受け、最終的に施設に預けられた“私”は、周囲の大人に「生き延びなさい。大人になれば自分で生きられる」と言われながら育っていく。 しかし、過去に受けた暴力の痕は、身体にはもう残っていなくても、精神をいつまでも蝕んでいる。 頭では、いつまで過去のせいにしてるんだ、と分かっているのに、トラウマはそれを受けた者の背を追ってくる。ふと気がつくと、いつも“私”は、高いところから下を見下ろしている。 “p.104 私が望んでいたのは、克服だったのではないだろうか。自分に根付いていた恐怖を克服するために、他人が見れば、眉を細めるような方法ではあったが、恐怖を作り出して、それを乗り越えようとした、私なりの、抵抗だったのではないだろうか。” 物語の後半。“私”は、なぜ自身が破滅的な行動をとってしまうのかに気がつく。それは自傷的な行為ではなく、むしろ過去に受けた暴力という恐怖に打ち勝つための闘いと言えた。 土の中に埋められたことがある“私”。 土の中は“私”ひとりだけが入れるように型取られている。土の中だけは、私を傷つけず、私を私のままに保管してくれる。過去が“私”の背を追ってくるのではなく、“私”は土の中に子供のまま取り残されていた。 “p.115 「僕は、土の中から生まれたんですよ」” ラストのシーン、選択は希望だと信じたい。 やっと土の中から這い出られたのだと思いたい。
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形が無いものを安直に単語におきかえず、文章を伴って輪郭を徐々に形成する、その技量に感動。そんな輪郭に深くとらわれました。話のアクセントとして伏線と回収がバランスよく、ページ数が少ないこともあり、重い話だけれどテンポよく読めました。しかし内容は濃密。まるで読んでる自分にも恐怖が侵食...
形が無いものを安直に単語におきかえず、文章を伴って輪郭を徐々に形成する、その技量に感動。そんな輪郭に深くとらわれました。話のアクセントとして伏線と回収がバランスよく、ページ数が少ないこともあり、重い話だけれどテンポよく読めました。しかし内容は濃密。まるで読んでる自分にも恐怖が侵食しているのではないか、と繰り返される主人公の衝動がそんな気持ちを生み出します。読者に言葉で強い追体験を生じさせる、まさに傑作といえるのではと思いました。
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恐怖というところで言うと、先日久々にそれを感じた。生き死にに関わるようなことではないのに、本当に怖かった。形容の仕方がわからないが、今のところはそれがいちばん当てはまるような気がする。俺はダメな人間だとつくづく思うんだけれど、逃げずに立ち向かえたということにしておこう。
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『土の中の子供』 著: 中村文則 (新潮文庫) 内から溢れでる暴力性や人間の持つ 根本的な欲求や脆弱性を 繊細に表現し、第133回 芥川賞を 受賞した本作 『土の中の子供』 主人公である27歳のタクシードライバーを ずっと悩ませているのは、過去のトラウマ。 親に捨てられ、...
『土の中の子供』 著: 中村文則 (新潮文庫) 内から溢れでる暴力性や人間の持つ 根本的な欲求や脆弱性を 繊細に表現し、第133回 芥川賞を 受賞した本作 『土の中の子供』 主人公である27歳のタクシードライバーを ずっと悩ませているのは、過去のトラウマ。 親に捨てられ、養家には日常的に 虐待を受けて育ち、ついには 「暴力」を引き起こさせる素養を もってしまいます。 バイクの集団に喧嘩をふっかけ 集団リンチにあったり 山に埋められそうになったり…… 常に暴力に晒される人生ではあるものの その暴力の中に自分の生への「核」が あると思い、ひたすらに内省を くりかえし己を追求していくお話。 トラウマと向き合い、自分の人生を 振り返りつづける主人公の その先に待つのは ハッピーエンドか、それとも……。 とても惹き込まれる作品でした。 また、この本の中には「蜘蛛の声」という 40ページほどの短編も併録されています。 現実逃避して橋の下で身を縮めて ホームレス生活する主人公。 橋の下で生活していく中で 現実か幻覚かわからないものを みながらも、内省をつづけ 葛藤する主人公の姿には心打たれる ものがありました。 ぼく個人としては、併録されている 「蜘蛛の声」は場面がありありと 目に浮かび、しゃべる蜘蛛との 掛け合いは、若干のユーモアも感じ より中村文則さんの世界観に 引き込まれました。 表題より、併録されているほうに 心が動くこともある。 今の心情を表しているのかもしれませんね。 これだから読書はおもしろいと、あらためて 感じました。 病んでる人は、さらに病む。 おすすめできる本です、ぜひ!
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何だかんだで芥川賞受賞作品、初めてか二度目か。中村文則作品、好きだけれど頭使うからこのくらいの長さが私には丁度良い。
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