その名にちなんで の商品レビュー
ひとつひとつの偶然が重なり合って、それぞれの人生がゆっくりと終わりに向かってゆく美しさにホロリとする。
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インドのベンガル人、二世代に渡るガングリー一家がアメリカという異文化の地で暮らしていく様を淡々と追ったお話。父アショケは若いときに生死の境を彷徨った列車事故を機に工学を学ぶためにアメリカに飛びながらベンガル人の常識・文化に基づいてお見合いでお嫁さんアシマをもらいます。母アシマも想...
インドのベンガル人、二世代に渡るガングリー一家がアメリカという異文化の地で暮らしていく様を淡々と追ったお話。父アショケは若いときに生死の境を彷徨った列車事故を機に工学を学ぶためにアメリカに飛びながらベンガル人の常識・文化に基づいてお見合いでお嫁さんアシマをもらいます。母アシマも想像もしなかったのにそういうわけで異国の地に暮らすことになるのですが、一男一女に恵まれベンガル人のネットワークを作りながら一世として懸命に生きてゆきます。 その息子のゴーゴリと娘ソニアはいわゆるABCD (American-born confused deshi=デシはインド系のことだそうで、アメリカ生まれでアイデンティティが揺れているインド系を指すそうです)。 ある程度大きくなるまでは身内のみで使う愛称で通し、正式な名前は後になってと2つ名前を持つのがベンガル人の常識らしく、祖母に名づけを頼んだ夫婦はそれまでロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリからとった愛称ゴーゴリで通します。が、いろいろあってそれが正式名となってしまい、大学入学時にニキルと改名したけれど相変わらず親族からはゴーゴリと呼ばれるし、ゴーゴリだった期間も決して短いものではなく、ベンガル人からアメリカ人になりきれないような、そんな葛藤を抱えることに。 異なる文化背景だけでなく、珍しい名前(しかもインド人なのにロシア人の苗字)というものまでを背負ってアメリカで暮らすゴーゴリの一生を通じて、自分のルーツであるインドと故郷であるアメリカとの間でのゆらぎ、両親親族に感じるシンパシーと反感などなどを、細かいエピソードで丁寧に静かに描いた作品です。
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外国に行くとわかるが、日本人にとって、日本という国は、たいへん暮らしやすい。言葉も通じるし、食べ物もなじみのものばかり。知り合いもいる。当たり前だが、日本は日本人向きにできている。 だから、えいっ! とばかりに故郷を離れ、外国で暮らす人のことを思うと、うらやましいと同時に大変だ...
外国に行くとわかるが、日本人にとって、日本という国は、たいへん暮らしやすい。言葉も通じるし、食べ物もなじみのものばかり。知り合いもいる。当たり前だが、日本は日本人向きにできている。 だから、えいっ! とばかりに故郷を離れ、外国で暮らす人のことを思うと、うらやましいと同時に大変だろうな、という気持ちになる。 生まれた国や付けられた名前は、普通、定められ与えられたものだ。 それを変えることは、その人の生き方を大きく動かすことになる。 『その名にちなんで』は、インド・カルカッタを離れ、アメリカで暮らすベンガル人家族の物語。 アショケは命を取りとめた、ある事故をきっかけに、違う人生を生きようと決意し、アメリカに留学をする。 アシマは見合いの席で初めて会ったアメリカで工学の博士号の勉強をしている男(アショケ)と結婚し、故郷・カルカッタから一万三千キロ離れた地で暮らすことになる。 アショケ、アシマの初めての子は、ゴーゴリと名付けられる。 ゴーゴリは成長するにつれ、多くの若者がそうであるように、父がそうしたように、生まれた家から出て、新しい人生を生きたいと望む。 それは、インド的な生活習慣を捨て、ただのアメリカ人として生きること。 そして、もう一つ捨てるもの。それは名前。 彼は、ゴーゴリという名前を捨て、新しい名前を持つ。 このベンガル人一家は様々なものを選び取ってゆく。 しかし、人生が進んでも、定められ与えられたものが無になることはない。 それは根本である。時には大きな輝きを放つ。 この物語を読み進んでいって強まるのは、自分では選ばず、運命に従ったように思える女・妻・母のアシマの生き方だ。 選び取ってゆくもの、定められ与えられたもの、その種類や量も人それぞれ異なると思うが、どの程度の割合で生きてゆくのがよいのだろう。 そんなことを考えさせる、『停電の夜に』の著者、訳者による名文と名訳。これぞ名海外小説。
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ものすごくおもしろかった。ものすごく好き。特になにか事件があるわけでもなく、笑えるわけでもなく、ただ淡々と、ベンガル人夫婦がインドからアメリカに移住し、その子どもが大人になって、っていう話が続くだけなんだけど、まさに本の帯に書かれているように、読むのをやめられない、ページをめくる...
ものすごくおもしろかった。ものすごく好き。特になにか事件があるわけでもなく、笑えるわけでもなく、ただ淡々と、ベンガル人夫婦がインドからアメリカに移住し、その子どもが大人になって、っていう話が続くだけなんだけど、まさに本の帯に書かれているように、読むのをやめられない、ページをめくる手がとまらないという。シンプルで事実だけを簡潔に述べるような文章なのに、ものすごく情景が浮かぶような。その子ども(ゴーゴリって名前をつけられちゃう子)のいくつかの恋愛話は、とてもすてきで、恋愛映画を見ているような感じですごく楽しい。
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前作『停電の夜に』でピュリツアー賞を受賞しその名が一躍広く知られることとなったジュンパ・ラヒリ。彼女の初の長編となるのが本書だ。父の命を救ったロシアの作家にちなんだ名前を持つ主人公ゴーゴリ。彼はコルカタからの移民2世としてアメリカ人として成長する自分と両親の母国インドとの繋がりの...
前作『停電の夜に』でピュリツアー賞を受賞しその名が一躍広く知られることとなったジュンパ・ラヒリ。彼女の初の長編となるのが本書だ。父の命を救ったロシアの作家にちなんだ名前を持つ主人公ゴーゴリ。彼はコルカタからの移民2世としてアメリカ人として成長する自分と両親の母国インドとの繋がりの間に葛藤を抱えながら成長してく。彼とその家族を中心とした30年以上の物語は展開されていく。意外性を突くような事件は起きない。しかし、人生における様々な出来事は時の経過とともにメロディーを次々に重ねていくように重厚なものとなっていく。そこで気がつくのだ、程度の差こそあれ我々の人生とはラヒリの小説の中の人物と同じなのだと。彼女の作品の魅力はそのように感じさせる自然な文章だとも言える。それは心地よいメロディーを聴いているかのような錯覚を覚える。ただ、やはり彼女の作品の根底には彼女自身の出自が大きな影響を及ぼしていると言えるであろう。それがまた、彼女の作品におけるアクセントとして効果的に働いているのだ。
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アメリカで暮らすインド系2世のゴーゴリは、正式名が決まるまでの愛称「ゴーゴリ」が定着してしまった。アメリカで両親とインド式で暮らす中で、名前への違和感は彼を苦しめ、正式名に改名してしまう。ゴーゴリ自身になかなかなじまない正式名での、学生生活、恋愛、結婚、家族との繋がり…。彼と彼を...
アメリカで暮らすインド系2世のゴーゴリは、正式名が決まるまでの愛称「ゴーゴリ」が定着してしまった。アメリカで両親とインド式で暮らす中で、名前への違和感は彼を苦しめ、正式名に改名してしまう。ゴーゴリ自身になかなかなじまない正式名での、学生生活、恋愛、結婚、家族との繋がり…。彼と彼を取り巻く人々の人生をそっとどこかから覗いているようなそんな感じ。その名の由来を父から聞かされる場面、父にとって特別な名前だったこと、それを知ったゴーゴリの驚き、二人の会話が印象的だった。(ま)
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