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海辺の光景 の商品レビュー

3.6

18件のお客様レビュー

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2020/03/26
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※このレビューにはネタバレを含みます

年老いて、今で言う認知症になった母の最期を看取りに父と息子が高知県の病院を訪ねて行き、そこで過ごした9日間を描いた小説です。その9日間の出来事を語る文章の間に、彼らの家庭が今までどんなであったかを回想する文章がはさまって立体的な構成になっています。軍隊の獣医だった父・信吉は戦後に帰還してきて、ほとんど収入にならない養鶏に熱中しているだけ。息子の信太郎も軍隊でうつった結核で寝ているというありさまなので、母が一人で奮闘していたわけです。暗くて救いのない感じの小説なのですが、母の臨終を見届けた信太郎は「息子はその母親の子供であるというだけですでに充分償っているのではないだろうか? 母親はその息子を持ったことで償い、息子はその母親の子であることで償う」と考えます。この一言がこの小説を戦後文学の名作にしているのではないでしょうか。なお、四日市大学の情報センターには今のところこの文庫本はありませんが、この小説は小学館の『昭和文学全集 第20巻 梅崎春生 島尾敏雄 安岡章太郎 吉行淳之介』に収録されていて、こちらは所蔵していますのでそれで読むことが出来ます。

Posted byブクログ

2020/03/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

・「海辺の光景」を代表作として最初に持ってきて、時代を遡って初期および中期作品集成という感じか。 ・生まれ年を調べたところ、安岡は1920、中井は1922、水木は1922、三島は1925、澁澤は1928、手塚は1928。 そういう時代感覚。やはり戦争経験は数年単位で感じ方が異なるのだな。 という年代による把握と、村上春樹が特別愛着を抱いた作家だという事情……結構特殊な「軽み」の作家の、「重さ」を「軽く書く」作品かもしれない。 ・まず自分の経験が刺激される……伯母のアルコール病棟の鉄扉、大学の実習で訪れた精神病院、腎盂癌の父の死を看取ったこと。 ・軍の獣医……トレーラー運転手……母息子ふたりの生活。三角形の頂点がズレた、相似形。あるいは母喪失を未来視したような。つらい。 ・また少なからず精神病院を描いた小説や映画への連想。「人間失格」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」「楡家の人びと」の饐えた臭い、「ジェイコブズ・ラダー」とか。 ・少しだけ檀一雄に言及される→「女が狂う」 ・信州読書会の宮澤さんの読み。戦後のPTSD。戦争神経症。自然法と人為法。死と社会。 ・「ガラスの靴・悪い仲間」を読みながら、水木しげる的な呑気さを享受していたが、実はユーモアの後ろに深甚なPTSDを隠していた (もちろん水木しげるの高笑いは、戦争神経症と、自分をキャラクター化する努力の賜物、のハイブリッドだと思うが)。 ・初期ユーモラス作品群が、戦争後遺症という視点で再度変わって見えてくるのだ。 ・ユーモアと、母子カプセルに、いわば安住していたが……という作家の余裕と、それを裏切られたある瞬間が、改行というか改ページというか、ともかくも空白で描かれる……ここもまた個人的に。 ■海辺の光景★ 1959年=昭和34年=39歳。芥川賞受賞後6年後。第13回野間文芸賞。 ■宿題★ ※「ガラスの靴・悪い仲間」で読了済み。1952年=昭和27年=32歳。芥川賞候補。……比較的長め。これはよい少年期もの。お母さんが「お前も死になさい。あたしも死ぬから」(おまえもしなさい、あたしもするからの聞き間違え)とか、小さい挿話が輝いている。……このお母さんが作品発表の数年後にああなってしまうとは(「海辺の光景」)と思うと感慨深い。 ■蛾 ※「ガラスの靴・悪い仲間」で読了済み。題材は家族から少しだけ離れるが、しかし少し登場する父が、やはりいい味。一人称は私。 ■雨★ ……ラスコーリニコフを連想させる語り手。状況から語りがふわっと遊離し、どぎつさを感じさせない。実は「ガラスの靴」と並び、エバーグリーンになり得る作品かもしれない。 ■秘密★ ……「雨」と同じく崖っぷちの語り手。母の声や「イッテハナラヌ」という声に支配され、なんだか精神分析的に読むこともできそうな。 ■ジングルベル ※「ガラスの靴・悪い仲間」で読了済み。……うーん太宰治「トカトントン」を連想するなあ。戦後の象徴というか。 ■愛玩★ ※「ガラスの靴・悪い仲間」で読了済み。1952年=昭和27年=32歳。芥川賞候補。父への込み入った思い。

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2013/08/26

芥川賞作家・安岡の名作。戦後の混乱期を背景に精神病院に入院した母を父と共に見舞い、死に至るまでの看病と、一家の窮乏を回顧録として語る。虚無との無感動な対面はあのカミュの異邦人を思い出させる。戦後の社会情勢を思うに付け、このようなことが、現実性があったのだろうと思います。やや暗すぎ...

芥川賞作家・安岡の名作。戦後の混乱期を背景に精神病院に入院した母を父と共に見舞い、死に至るまでの看病と、一家の窮乏を回顧録として語る。虚無との無感動な対面はあのカミュの異邦人を思い出させる。戦後の社会情勢を思うに付け、このようなことが、現実性があったのだろうと思います。やや暗すぎて、あまり好きにはなれませんでした。

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2013/07/08

現実からするりと逃げ出して、夢をみて、でも現実に追いつかれてしまう。「質屋の女房」に収められた作品はそんな風だった。だけど、ここではもう夢すらなくて、狂気がいっぱいで、ひとりでどんどん追い詰められていくかんじだった。こわくてきもちわるくてしんどかった。家族も学校も、わたしたちの社...

現実からするりと逃げ出して、夢をみて、でも現実に追いつかれてしまう。「質屋の女房」に収められた作品はそんな風だった。だけど、ここではもう夢すらなくて、狂気がいっぱいで、ひとりでどんどん追い詰められていくかんじだった。こわくてきもちわるくてしんどかった。家族も学校も、わたしたちの社会における宿命的な存在で、そこでの排除される感覚とかってもう、狂うほかないものなのかもしれない。学校で感じる劣等感とか、時代の閉塞感とか、いろんなものがどんどんもっと恐ろしいものに変化していった、のかなあ、わかんない。安岡章太郎には個人的にシンパシーを感じるタイプの作家さんだからこそ、これを読んだらかなしくなったしこわくなった。

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2013/03/01

表題作は主人公の置かれた環境が自分のそれと似ていたので、共感しながら読み進める。 故郷を捨て、都会に生活の根を張る人間が母を看取る為に地元へ戻るという陰のあるストーリー。 ただ、作品自体はどちらかといえばサイコスリラーの要素もあり、若い時に夫を憎しみ続ける母の姿や、気が触れて...

表題作は主人公の置かれた環境が自分のそれと似ていたので、共感しながら読み進める。 故郷を捨て、都会に生活の根を張る人間が母を看取る為に地元へ戻るという陰のあるストーリー。 ただ、作品自体はどちらかといえばサイコスリラーの要素もあり、若い時に夫を憎しみ続ける母の姿や、気が触れてしまった後の彼女の描写はもはや下手なホラーより恐ろしい。 母親が亡くなるまで淡々と語られる彼女との思い出、周囲の人間達の表現/描写を読んでいると、みじかな存在が世の中から無くなる際に生まれる一種の無感覚を感じる。 死という超現実に対し、自分を守る為に感覚/感情のスイッチをOFFにする、そんな感じが文章の端々に感じたような。 安岡章太郎という人は亡くなるまで特に意識したことが無かったけど、死をきっかけに出会う本というのもあるんだなと感慨に浸る。

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2012/09/11

表題作「海辺の光景」は、ラストよりむしろ中盤にある褥瘡のシーンの終わり方の方が、はるかに衝撃的かつ秀逸。

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2012/06/24

昔買った旺文社文庫を再読。家族・親子関係、介護など普遍的な問題が描かれている。いつも自分の内心とは裏腹の行動をし、そのことにうしろめたさを常に持つ主人公が、母の死により自分が縛られていたものから解放されたような気がする。 このところ現代作家のものばかり読んでいたので、小説作品とし...

昔買った旺文社文庫を再読。家族・親子関係、介護など普遍的な問題が描かれている。いつも自分の内心とは裏腹の行動をし、そのことにうしろめたさを常に持つ主人公が、母の死により自分が縛られていたものから解放されたような気がする。 このところ現代作家のものばかり読んでいたので、小説作品としての重厚感を久しぶりに感じたような気がする。

Posted byブクログ

2012/06/19

安岡氏の父母の描写、 揺れ動く自己の意識の描写は 少しも古びることなく、 今も力強く伝わってくる。 表題作も、もっと長いものとして読みたかったものだ。

Posted byブクログ