洟をたらした神 吉野せい作品集 の商品レビュー
串田孫一が絶賛するだけのことはある。すべて事実という内容の過酷さがずしんと重く、しかも表現のうまさというか奔放さというか、百姓として生き、晩年になって書き始めた人とはまったく思えない。76歳で出版した本書で大宅壮一ノンフィクション賞と田村俊子賞の2つの文学賞を受賞したというのもう...
串田孫一が絶賛するだけのことはある。すべて事実という内容の過酷さがずしんと重く、しかも表現のうまさというか奔放さというか、百姓として生き、晩年になって書き始めた人とはまったく思えない。76歳で出版した本書で大宅壮一ノンフィクション賞と田村俊子賞の2つの文学賞を受賞したというのもうなづける。 70代で書いているけれど内容は執筆時点から半世紀も昔のことから順を追って、子供のこと、農作業のこと、夫のこと、近所の人や出来事など、よくも細かく覚えていることにも驚愕する。生活の苦難がよほどこたえたから逐一忘れないのか、その時々の感情が深いからか、特に苦労もなく呑気に生きてきた私には想像もできないような生活の貴重な記録でもある。
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すごい本だと目にして読んでみた本。 本当にすごい本で、静かなパワーが漲っていて、こちらの弱った心身には刺激が強くて1ヶ月以上そばに置いて頑張ってみたけど途中終了。 著者が自分の人生を(結果的に)死ぬ間際に冷静に客観的に書いたもの。 ずいぶん前に読んだ松谷みよ子さんの「小説・捨...
すごい本だと目にして読んでみた本。 本当にすごい本で、静かなパワーが漲っていて、こちらの弱った心身には刺激が強くて1ヶ月以上そばに置いて頑張ってみたけど途中終了。 著者が自分の人生を(結果的に)死ぬ間際に冷静に客観的に書いたもの。 ずいぶん前に読んだ松谷みよ子さんの「小説・捨てていく話」と読んだときのザワザワするテイストはにてて、でもこちらの方が命の危機を感じるシリアス具合が半端なくて、読むパワーが湧いてこない。 ・・・暗くて、寒くて、寒くて、寒くて、辛くて、惨めで、でも強い。 そして、冷静。 著者の人生、地に足がつきすぎてて、 冬の寒い日に暖かい部屋で読むとノックダウンされてしまう。 またこちらのパワーがある時に是非読ませていただきたい。
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(1980.07.24読了)(1980.06.02購入) 内容紹介 詩人である夫とともに開墾者として生きた女性の年代記。残酷なまでに厳しい自然、弱くも逞しくもある人々、夫との愛憎などを、質実かつ研ぎ澄まされた言葉でつづる。 著者 吉野せい 1899年、福島県生まれ 少女時代は小...
(1980.07.24読了)(1980.06.02購入) 内容紹介 詩人である夫とともに開墾者として生きた女性の年代記。残酷なまでに厳しい自然、弱くも逞しくもある人々、夫との愛憎などを、質実かつ研ぎ澄まされた言葉でつづる。 著者 吉野せい 1899年、福島県生まれ 少女時代は小説家になるのが夢だった 詩人の三野混沌と結婚後、菊竹山での開墾生活に入った 夫の死後、草野心平らの励ましを受けて執筆活動を開始 1975年短篇集『洟をたらした神』で大宅壮一ノンフィクション賞、田村俊子賞を受賞 1977年、78歳で死去
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吉野せいさんは、1988年(明治32年)生まれ。 この作品は夫と共に福島の地で厳しい開墾生活を送る日々を綴ったノンフィクションです。 肉体労働の毎日の中、子供を育て、食べ物を手に入れ、ボロの衣服に継ぎを当てる。 炭鉱労働者。戦争に食糧供出。貧しさの中でもがく人々。 つらい現実を生...
吉野せいさんは、1988年(明治32年)生まれ。 この作品は夫と共に福島の地で厳しい開墾生活を送る日々を綴ったノンフィクションです。 肉体労働の毎日の中、子供を育て、食べ物を手に入れ、ボロの衣服に継ぎを当てる。 炭鉱労働者。戦争に食糧供出。貧しさの中でもがく人々。 つらい現実を生きながら、子供たちの生命の輝きをその行動と言葉の中に見つけ、人々の心情を観察し、時に不条理な事柄に耐えて拳を握る… 畑仕事の帰り道、幼い娘がなにげにつぶやくこんな言葉が印象的。 何にもねえから、花煮てくうべな。 こちらに訴えってくる言葉の力。 私はこの本を読んで衝撃を受けました。
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----- 霊性は、大地を根として生きている。根は深く深く大地に食い込んでいる。・・・人間は大地において自然と人間との交錯を経験する。人間はその力を大地に加えて農産物の収穫に努める。大地は人間の力に応じてこれを助ける。人間の力に誠がなければ大地は協力せぬ。 『日本的霊性』鈴木...
----- 霊性は、大地を根として生きている。根は深く深く大地に食い込んでいる。・・・人間は大地において自然と人間との交錯を経験する。人間はその力を大地に加えて農産物の収穫に努める。大地は人間の力に応じてこれを助ける。人間の力に誠がなければ大地は協力せぬ。 『日本的霊性』鈴木大拙 ------ 昭和50年に大宅賞・田村俊子賞を受賞した本作は、せいが齢70にして執筆した作品だ。それは同郷の詩人、草野心平の勧めによるものであった。 せいは自分を出身地であり生涯を過ごしたいわきの方言で「百姓バッパ」と呼ぶ。呼び名のとおり、せいは荒野を開拓し貧乏百姓として一生を捧げた。貧しかった。作品集には生後すぐの娘を亡くした時の状況を描いた「梨花」も収録されている。寒い寒い冬の出来事だった。。。 受賞作の「洟をたらした神」は6歳の息子の話だ。遠慮がちに2銭のヨーヨーをせがむ息子、貧しくて2銭のヨーヨーを息子に買ってあげられない母親の悲しみ、そして代わりに木で不細工にヨーヨーを作りそれで遊び楽しむ息子に、せいは「神」を見たのであった。 同郷いわきにはまだまだワタシの知らない宝が埋まっている。平凡で凡庸な生活から産まれ、立ち上がる霊性。それは強靭で、美しい。
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