ナツコ 沖縄密貿易の女王 の商品レビュー
2024年9月読了。 「あんたの目の前にあるのはなんだ? ただの海じゃないよ。海の向こうには黄金があるさ。さあ、黄金の海を渡りなさい」 同じ物でも見る人がどう見るかで、意味や価値が異なる。
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奥野修司(1948年~)氏は、立命館大学経済学部卒、南米で日系移民調査に従事した後、帰国し、フリージャーナリストになる。2006年、『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。高校生の首切り殺人事件を取り上げた、同年発行の『心に...
奥野修司(1948年~)氏は、立命館大学経済学部卒、南米で日系移民調査に従事した後、帰国し、フリージャーナリストになる。2006年、『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。高校生の首切り殺人事件を取り上げた、同年発行の『心にナイフをしのばせて』は発行部数10万部近いベストセラーとなった。 私はノンフィクション作品が好きで、各ノンフィクション賞を受賞した作品の多くを読んでいるが、本書は新古書店で偶々見つけ、手に取った。 本作品は、戦後の米軍軍政下の沖縄で(密)貿易業を営み、“沖縄密貿易の女王”と称された金城夏子(1916~54年)の一生を描いたものである。 ナツコは、1916年、鹿児島県徳之島の漁師の家に生まれ(戸籍上は、1915年沖縄の現・糸満市出生)、18歳のときに、兄姉を頼ってフィリピン・マニラに渡り、マニラでは、市場で魚を売買し、糸満出身の女性たちのボス的な存在だったという。1941年、開戦の直前に帰国し石垣島に転居、1944年、台湾に疎開したが、1946年、終戦後に石垣島に戻った。係留されていた18トンの船を買い取って、海人草の密貿易で莫大な利益を得た後、新造船の高速船を購入し、精米所を建設、更に、商事会社を設立するなど、手広く貿易業を行ったが、1954年、頭部の皮膚がんで死去した。 尚、沖縄では、終戦から1950年頃まで、米軍軍政下で民間貿易が禁止されていたが、実際には、台湾ルート、香港ルート、本土ルートで広く密貿易が行われており、米軍も生活必需品を扱う密貿易を強くは取り締まらなかったという。そして、そこで活躍していたのがナツコなのである。 読み終えて、まず感じたのは、我々(私は関東地方の戦後生まれの人間である)は沖縄のこと・沖縄の歴史を本当に何も知らないということである。著者はあとがきで「沖縄には「アメリカ世」や「ヤマト世」があっても「沖縄世(ウチナーユ)」がないというが、戦後の数年間こそ「沖縄世」だったのではないか、このとき沖縄人が秘めていたエネルギーを爆発させたのが密貿易であり、その最前線を走る夏子は彼らの夢だったのかもしれない」と書いているのだが、私は、沖縄の人々の中に、琉球王国時代(或いは更に遡った時代)からの海洋性民族としての血が流れていることを再認識したし、ナツコはそうした沖縄の人々の象徴とも言える存在なのではないかと強く感じた。 また、本作品は、著者が12年間、根気よく取材をした結果世に出たもので、本作品がなければ、密貿易という性格上、歴史としては残ることのなかった内容ではないかと言われる。そうした意味で、インターネットやSNSが浸透した現在、ノンフィクション作品の意義を問う向きもあるが、その問いに対する有力な答えになる作品と言えると思う。 (2024年1月了)
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1946年から1951年の間、八重山列島や台湾、香港と日本本土を船で結ぶ密貿易の拠点として栄え、「ケーキ(景気)時代」と呼ばれた沖縄を舞台に、幼い二人の娘を抱える母親でありながら、度胸と才覚で密貿易の女親分にのぼりつめた、金城夏子の生涯を追ったノンフィクション。関係者や遺族からの聞き取りと、膨大な資料から、当時の沖縄の密貿易の実態と、時代の熱気が立ち昇ってくる一冊です。 ちなみに夏子は、和歌山にも密貿易品の販路を広げ、当時、和歌山市内に居住していた大物右翼と手を結び、沖縄から紀ノ川河口まで砂糖を密輸し、それを老舗和菓子屋が買い取っていたという驚きのエピソードも。
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戦後の沖縄で隆盛した密貿易において存在感を示した金城慶子(夏子)について書かれた労作。 密貿易であるから公的な文書も少なく、ある程度の風化を経ないと証言者の口も開かなかったが、昭和29年に死去した夏子を知る人々は高齢化しており、「忘れ去られつつあった人物」についての発掘作業だった...
戦後の沖縄で隆盛した密貿易において存在感を示した金城慶子(夏子)について書かれた労作。 密貿易であるから公的な文書も少なく、ある程度の風化を経ないと証言者の口も開かなかったが、昭和29年に死去した夏子を知る人々は高齢化しており、「忘れ去られつつあった人物」についての発掘作業だったようだ。 文庫版あとがきによると、本が出た後で証言者が「あのときはああ言ったが、本当は違う」などと言い出したという。オーラルヒストリーの難しさだ。 取材過程を振り返る中で宮本常一の名が出てくるので著者自身も意識しているのだと思うが、『忘れられた日本人』のテイストが盛り込まれている。 海人(うみんちゅ)の生活スタイルとしての移動が夏子の人生にもあって戦前にはマニラで生活していたことを追っているし、そもそも沖縄で密貿易が広がったのも海人において移動が日常的であったという前提があるという。 そうした民俗学的な面も興味深い。 …確かに興味深いのだが、この本には興味深い題材が多すぎる。 夏子の人生、海人の生活スタイルの表出、密貿易のバックグラウンドとしての米軍と沖縄の関係、そして高齢者を取材して歩く著者のプロセス。 それらを全部盛り込もうとするので読みにくい。うまく整理するか、一部を割愛すればよかったのだと思う。
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第二次世界大戦前後の沖縄近代史を密貿易の視点から描いた作品。戦争の悲惨さを描いた作品とは一線を画し、どうやって沖縄が復興していったか、沖縄の地政学、台湾や香港、マニラなどとの当時の交易など、当時の沖縄独自の貿易の話など面白かった。与那国島が貿易で栄えていた頃の話など。 コロナ後の世界が閉じてしまった経済の停滞感と比べて、 お金は回さないといけないんだなと、お金はぐるぐる回して世界が健全化するんだなと、闇貿易から学びました。
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ほぼ公文書への記録がない人の話の情報をここまで集めるとは、その執念に脱帽。あまりにも波瀾万丈なので、先が気になり一気に読み切った。
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終戦後の沖縄で5年間くらい盛んだった密貿易。その女王と呼ばれたナツコを追ったノンフィクション。 歴史にほとんど残っていない密貿易について、丹念な取材でここまでまとめた奥野修司さんがすごすぎると思う。本文にもあるが、このタイミングで取材してなかったらおそらく当事者たちはほとんど死...
終戦後の沖縄で5年間くらい盛んだった密貿易。その女王と呼ばれたナツコを追ったノンフィクション。 歴史にほとんど残っていない密貿易について、丹念な取材でここまでまとめた奥野修司さんがすごすぎると思う。本文にもあるが、このタイミングで取材してなかったらおそらく当事者たちはほとんど死んでしまって、歴史の闇に消えてしまったことでしょう。 アメリカ軍が沖縄本島にしか興味がなく、それ以外の沖縄の島を超適当に管理してた実態も面白いし、在庫管理しなすぎでバンバン盗まれてそれを売られちゃってたのとかもすごい。いいのか、米軍。 戦後の沖縄の歴史としても面白いし、ナツコさんの生き様、晩年の母親としての姿など、様々な角度から楽しめる本です。
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アメリカ占領期の1946年から51年にかけて、沖縄は”ケーキ”(景気)時代と呼ばれ、そこでは終戦後の復興に必要な様々な物資を闇市場から媒介する密貿易が異常な熱気で栄えたという。本書は、”ケーキ”時代にその類稀なる商売センスを持って数多もの男を使いつつ、密貿易商として成功した金城夏...
アメリカ占領期の1946年から51年にかけて、沖縄は”ケーキ”(景気)時代と呼ばれ、そこでは終戦後の復興に必要な様々な物資を闇市場から媒介する密貿易が異常な熱気で栄えたという。本書は、”ケーキ”時代にその類稀なる商売センスを持って数多もの男を使いつつ、密貿易商として成功した金城夏子という女性の生涯を描いた傑作ノンフィクションである。 当時の沖縄でこうした密貿易が盛んで、老いも若きも一攫千金の夢を求めて、ときには船ごと海に沈むリスクも追いながら貿易に明け暮れる時代があったというのは、不勉強にして知らなかった。本書では密貿易に関わった沖縄出身、本土出身、はたまた台湾などのアジア諸国など、様々な出自を持つ関係者へのインタビューによって明かされていく。 そして何よりも娘を生みつつも商売の忙しさの中で子育てには十分な時間が取れないまま、激務がたたってか若くして亡くなってしまう”ナツコ”の運命の稀有さも心に残る。
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他作品で20数年かけたことを勘案すれば12年は短いけれども、1つのことを12年間も追い続けられるって単純に凄いなぁ...。近年は扱うテーマが変容している著者だが、丹念な資料調査とインタビュー調査は以前から変わらない。このスタンスを続けて、更なる良作を世に送り出して欲しい。
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戦後沖縄での密貿易のお話。 そもそも沖縄で密貿易がかなり頻繁に行われていたということもこの本を通して知った。 密貿易の時代に生きたナツコという女性がいかに将来を見通して、計画的に生きたか。そのすごさを知る
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