ナツコ 沖縄密貿易の女王 の商品レビュー
戦後、米国領の沖縄で盛んになった、本土や台湾・香港との密貿易。裏社会を暗躍した女性・夏子の短い生涯は、表の歴史にはほとんど残されていない。懸命に生きた沖縄人の姿が筆者の徹底取材で初めて明らかになる。
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戦後沖縄の三大女傑の一人、金城夏子。若くして急逝した彼女は、戦後米軍占領下、群島間の物資のやり取りすら禁止されていた沖縄において、台湾・香港・日本(神戸・和歌山等)と沖縄本島・与那国島とを結ぶ密貿易で名を馳せた人物である。沖縄戦で生産設備を完全に失う一方、生活物資が不足する沖縄で、戦争の遺物(米軍備蓄燃料、破壊車両や鉄屑)と米軍が沖縄に落とす物資を梃に本土・台湾等から生活物資を移入し蓄財。一方、貧困子弟の学費を工面し、また、同業者への経済支援(後に不良債権化)を惜しまないという「男気」溢れた人物であった。 記録や史料が乏しい中、関係者へのリサーチを通じ、夏子の実像に迫ろうとする一方、戦後直後の沖縄の生々しい実態を暴き出す本書。朝鮮戦争の気配が色濃くなる中の米軍の模様。物資不足のためやむに已まれず実行した密貿易。戦後直後の沖縄の息吹を感じ取れる一書(大宅壮一ノンフィクション賞受賞作)である。2007年(底本2005年)刊行。 PS.戦前、フィリピン/マニラでの生活歴あるナツコ。彼女は早期にアジア太平洋戦争の敗戦を予期していたようだが、それは、アメリカナイズされ、当時の日本との隔絶した差(経済・文化等多面と推測されるが)を雄弁に反映したマニラでの生活歴がそうさせたのだという(沖縄よりマニラの方がずっと富裕)。フィリピンの対日感情がよくなく、ゲリラ頻発地帯だったのは、日本による占領が生活状況の改悪をもたらしたからという見解があるが、それを裏面から支える体験談のよう。
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終戦直後の沖縄に実在した、密貿易の中心人物だった女性、金城夏子の物語。まるで小説のようなタイトルの作品だが、内容は紛れもなくノンフィクションなのである。 著者の奥野氏が取材中、寝たきりだった老人が夏子の話になると目を爛々と輝かせ、家族も驚くほど闊達に当時の話を語った事があったそ...
終戦直後の沖縄に実在した、密貿易の中心人物だった女性、金城夏子の物語。まるで小説のようなタイトルの作品だが、内容は紛れもなくノンフィクションなのである。 著者の奥野氏が取材中、寝たきりだった老人が夏子の話になると目を爛々と輝かせ、家族も驚くほど闊達に当時の話を語った事があったそうだ。密貿易の中心人物だけあって公式な記録がほとんど存在せず、取材は主に当時を知る人から聞き取っている。おそらく誇張やホラもかなり含まれているだろうが、それを差し引いても夏子が相当な女傑であったことは間違いない。 夏子は密貿易で稼いだ莫大な金の多くを地元沖縄のために投資しており、死後現金はほとんど残っていなかったそうだ。「母は沖縄そのものだった」、という娘さんの言葉が非常に印象的だった。
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角幡唯介さんの「漂流」に参考文献として登場するのが終戦直後「沖縄密貿易の女王」と呼ばれた金城夏子(本名金城慶子)の生涯を追ったノンフィクションが本著。 敗戦直前の沖縄の様子はドラマやドキュメンタリーでさんざん見たり読んだりしてきたが、終戦直後の沖縄の事なんか知らないぞ(!?) ...
角幡唯介さんの「漂流」に参考文献として登場するのが終戦直後「沖縄密貿易の女王」と呼ばれた金城夏子(本名金城慶子)の生涯を追ったノンフィクションが本著。 敗戦直前の沖縄の様子はドラマやドキュメンタリーでさんざん見たり読んだりしてきたが、終戦直後の沖縄の事なんか知らないぞ(!?) 焼野原となって物資も生産手段も何もない沖縄の地において占領軍は対外貿易を禁止した。 困窮する沖縄の人々は戦中に残された物資、そして占領軍から「確保」した物資を元に闇貿易をするしかなかった。 私の全く知らない「戦後」がそこにあった。
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戦後まもなく、戦禍とアメリカの統治機構が固まらず半ば無秩序で物資も欠乏していた沖縄では密貿易が盛んに行われていた。イリガールな外国との品物のやりとりなのだが、同時に物がなければ生きていけない状態でもあり、すぐそばには近しく行き来していた台湾や香港があったという土地柄もあり、当初は...
戦後まもなく、戦禍とアメリカの統治機構が固まらず半ば無秩序で物資も欠乏していた沖縄では密貿易が盛んに行われていた。イリガールな外国との品物のやりとりなのだが、同時に物がなければ生きていけない状態でもあり、すぐそばには近しく行き来していた台湾や香港があったという土地柄もあり、当初は半ば警察も目こぼしし、アメリカ軍も薬莢や食料などあり余るものがくすねられるぶんには、それほど重大事とはされなかったなかで成り立った一時の夢のような時代。現代にしてみればすごい高額の金が湯水のようにやりとりされ「ケーキ(景気)時代」とも呼ばれた時代。著者などは、唐や日本、アメリカと時の統治者に翻弄されるのが常の沖縄にとってつかの間の「ウチナー世」だったのではないかなどとも書いている。 そんな時代の寵児ともいうべき女傑が金城夏子……ナツコだ。大男さえ黙って従うという度胸とリーダーシップ、商才に長け社会動向をみるにも敏い能力をもって密貿易の時代を駆け抜け、沖縄社会が秩序だってきた頃に38歳という若さで病死する。密貿易というイリーガルな世界のスターだから、いまや歴史の表舞台からは忘れ去られたかのような存在。そのナツコの足跡を探してまとめたのがこの本。 1946年頃から6~7年の密貿易の時代は何とも痛快。一般に、戦後の沖縄はコーラの瓶の下半分をコップに転用するほど貧しかったといわれているが、著者のいう「ウチナー世」が言い得ているような気になるほど、人々が生き生きと生きている。法なんて蚊帳の外。きょうを生きるためには密貿易だって何だってやってしまう。それが沖縄独特というべきか……、妙にゆるくてすっとぼけた感じと相まった混沌とした世界が魅力的。日本だけが例外のような、あのアジアの混沌としたなかで世の中がうねっているような感じがした。 ナツコがまた魅力的。食うためには法をおかすことにも迷いをもたないような人だったというし、貧しい人を助けもすれば人を育てもした。金が右から左へ流れていくように金を貸してもいたという。宗教や因習や男女の別などにもとらわれることがなかったとか。一方、「母」の一面をしっかりもっていたことには何だか考えさせられる。男たちを差配しながらもわが子の育ち方、行く末を心配するのは母的な目線であり、その両面をもっていたのか、もたざるをえなかったのか……。 密貿易というのは、戦禍とその後のアメリカによる統治という不条理に対する沖縄の反旗的なアクションといえるのかもしれない。その時代を先導したナツコに、何だかジャンヌ・ダルクを重ねたくなった。やがて密貿易の時代の終焉と時をほぼ同じくして彼女はこの世を去る。時代の流れのなかでナツコは密貿易の時代が終わることを読み、次の拠点となる商事会社をつくって立派に軌道に乗せたのだけど、たらればの話になるが、その商売がその後の時代を順調に生き抜けたとも思えない。若かったし、子どもを残して逝くのは心残りだっただろうけどあらかじめ定められた引き際のようにも思える。それもまたジャンヌ・ダルクの末路と重ねるといえば重なるような気がしてくる。
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先日読んだ照屋敏子が強烈キャラだったし、作者が女性だったということもあり印象深かったせいで、なんとなくナツコは霞んでしまった。戦後の密貿易全盛期に大活躍して荒稼ぎした女傑というだけで、沖縄復興のために何かやったのかというと、そうでもなさそうだ。…というわけで、途中で本を投げ出してしまった。 失敗しても、大損こいても、「沖縄に地場産業を」と身銭を切って頑張る照屋敏子にはかなわない。 ところで、奇しくも二人は糸満市生まれの同い年。 この二人は1948年32歳の年に同じ船に乗り合わせていたところを見られている。ナツコが敏子にいろいろ指図していたというから、力関係はナツコの方が上か? 終戦後まもなく与那国を中心として栄えた密貿易は、ほんの3~4年で衰退してしまった。かつては料亭が立ち並び、活気に満ち溢れた久部良の町も、今は静かな日本最西端の観光地となっている。法を犯しても必死で生きようとした戦後沖縄の逞しさを感じる。
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実録というか聞き語りのノンフィクションというか。 一人の女性に焦点を当てているけれど、当時の状況がよくわかる気がした。取材から上梓まで12年(はじめの5-6年は何もしていなかったそうだが)という歳月をかけ、人々の記憶と考証で紡いだ本と言えようか。 そのコストもさることながら、...
実録というか聞き語りのノンフィクションというか。 一人の女性に焦点を当てているけれど、当時の状況がよくわかる気がした。取材から上梓まで12年(はじめの5-6年は何もしていなかったそうだが)という歳月をかけ、人々の記憶と考証で紡いだ本と言えようか。 そのコストもさることながら、内容も読みごたえがあったし、私の知らない沖縄を知ることができてよかった。 コストと価値を加味し 払ってもいい金額:4,500円
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或いは2人の娘を立派に育てようと必死だった。或いは荒廃した沖縄で生き抜こうと必死だった。そして「海の向こうには黄金(くがね)があるさ」と言ったと伝えられるが、非合法を承知で密貿易を生業としていくことになる… 生き抜こうと必死だっただけかもしれないのだが、“密貿易”は違法で、何か...
或いは2人の娘を立派に育てようと必死だった。或いは荒廃した沖縄で生き抜こうと必死だった。そして「海の向こうには黄金(くがね)があるさ」と言ったと伝えられるが、非合法を承知で密貿易を生業としていくことになる… 生き抜こうと必死だっただけかもしれないのだが、“密貿易”は違法で、何かの公式な記録が在るでもなく、関った人達の口も重い…そうした訳で、本書は記憶の在る人達の証言を集めることが出来た「最初で最後の機会」の成果をまとめたものになったかもしれない…そうした意味で貴重な作品である… ナツコは癌に冒され、38歳で逝去してしまったが、伝説的な存在になった。何か大作映画でも観るかのように、一気にその物語を読了した…多くの皆さんにお奨めしたい!!
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沖縄には「アメリカ世(ユ)」や「ヤマト世」はあるが「沖縄世」がないという。 しかし戦後間もなくの沖縄、とくに本島ではない宮古列島や八重山列島にはアメリカの占領政策も及ばず、台湾や香港との密貿易が半ば公然と行われ、空前の好景気に沸いた。その中で抜群の才覚を発揮し、女王と呼ばれたの...
沖縄には「アメリカ世(ユ)」や「ヤマト世」はあるが「沖縄世」がないという。 しかし戦後間もなくの沖縄、とくに本島ではない宮古列島や八重山列島にはアメリカの占領政策も及ばず、台湾や香港との密貿易が半ば公然と行われ、空前の好景気に沸いた。その中で抜群の才覚を発揮し、女王と呼ばれたのが「ナツコ」である。 密貿易とは言っても、戦後の闇市と一緒で、生きていくには物資に溢れた台湾や香港との取引で食料や資材を仕入れるしかなかった。それが沖縄本島や本土に運ばれると莫大な利益を生んだ。 敗戦の負の遺産を一身に背負ってしまった沖縄で、戦後のわずかな時期だけだったとしても、これだけ活況を呈し、繁栄した時があったことにまず驚いた。 そして「なんくるないさ」の言葉のように、のんびりした県民性のなのかと思われている沖縄県民が、この時期だけは、もう江戸の職人や大阪の商人顔負けのチャキチャキ感で、権力に逆らい八面六臂の大活躍しているのが痛快だった。 親分肌の「ナツコ」がみせる親子愛に感動もする。母親なら絶対に泣く。 資料も生き証人も少ないなかで書き上げた著者の努力にも賞讃を惜しまない。
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内容(「BOOK」データベースより) 1946年から51年まで、沖縄はケーキ(景気)時代と呼ばれていた。誰もがこぞって密貿易にかかわる異様な時代。誰にも頼れないかわりに、才覚、度胸ひとつで大金をつかむことができた時代であった。彼らから「女親分」と呼ばれた夏子は、彼らの上に君臨した...
内容(「BOOK」データベースより) 1946年から51年まで、沖縄はケーキ(景気)時代と呼ばれていた。誰もがこぞって密貿易にかかわる異様な時代。誰にも頼れないかわりに、才覚、度胸ひとつで大金をつかむことができた時代であった。彼らから「女親分」と呼ばれた夏子は、彼らの上に君臨したわけではない。貧しかったが夢のあった時代の象徴だった。十二年におよぶ丹念な取材で掘りおこされた、すべてが崩壊した沖縄の失意と傷跡のなかのどこか晴れ晴れとした空気。大宅壮一ノンフィクション賞に輝いた占領下の沖縄秘史。
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