ヴォイス の商品レビュー
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「ギフト」と同じく世界観が最高で楽しかった。 けど、所々文章が読み辛くてつまづいた。一文の中に同じ単語が2回出てくるのは、ちょっとな……と思った。これは、翻訳のせいなのかもしれないけど、もう少しすっきりした文章にならなかったのだろうか。一部文章は気になったけど、全体としては物語最高。面白い。 「ギフト」は西のはての北の方『高地』の物語だったけど、「ヴォイス」は南の『アンサル』の物語。 地図がちゃんとついているので、国名が出てきても場所が分かるのがいい。砂漠や丘陵、山や海峡、半島など、設定が細かいです。(異)世界地図作るのも楽しいし、見るのも楽しい。ワクワク。 『ギフト』は閉鎖的で貧しい高地の物語だったけど、『ヴォイス』は侵略された都市の物語。 物事としては『アンサルの都市が解放される』という一点しかない気がする。 メマーの視点でアンサルの解放が語られるけど、メマーはオルド人を憎んでいるので視点が偏っている。途中で仲良く……顔見知りになったオルドの見習い兵『シメ』という少年がいるけど、辛辣で嫌いだという視点で書かれている。けど、最後にはシメが気になるくらいの関係にはなっていて、この変化は面白いと思う。 他にもメマーは『ガルヴァ』の家の娘で、お告げの『読み手』としての力を持っている。「ギフト」では散々「ギフト(その家だけに伝わる力)」と書かれていたけど、それと同じような意味合いで「お告げの力」が語られる。他にもアンサルの有力者である四家はそのような力を持っていたとも。 そして、お告げの力も加わってアンサルの解放に繋がるけど、『お告げ』ははっきりとしたものではないので……読んでいても、上手く読み取れない。 そしてこの本も「ギフト」と同じく、民話・神話・物語が挟まれているけど、オレックが語るという形で書かれているので、物語が中断されない。他にも詩の一節をキャラが語り、それが上手く物語に合致している。 『ヴォイス』のタイトル通り、『声』が人々を変えていくのも素敵だ。それに意味がなくても、後から人々(アンサル市民)が意味を加えていくという変化も面白いと思う。 他にも『マンド』は館という意味だけど、高地では「マント」という言葉で方言と書かれているのも面白かった。「ギフト」では『マント』の意味が出てこなかったけど、一族の名前の後についていて文章から『領地』のような意味かと思っていた。それがちゃんと『館』という意味が書かれているし、それが『方言(アンサルから見たら)』になるのもいい。 「ギフト」では高地が舞台なので『低地』から来た人が『なまりがある』となっていた。こういう文化がちゃんと書かれているの好き。 他にも侵略されるという事や、文化が消えるという事。侵略者が憎いあまりに、侵略者の事を知りたくもないと思う事や、侵略者側も侵略している相手の事を知ろうとしない事。第三者であるオレックとグライはまた別の視点を持っている事も面白かった。 物語の大きな流れは『都市の解放』しかないけど、小さいシーンにいろんなものが詰め込まれていて全部好き。 「ギフト」でオレックの母親がメルという名前になっていたけど、オレックとグライの子どももメルという名前という事が書かれていて、いろいろ考えてしまった。オレックとグライの子どもは六か月で亡くなっている。設定が細かい。分かる人だけわかるみたいなの他にもありそうな気がする。 これもヤングアダルト向け作品。中高生にどうぞ。でも、本を読まない子にいきなりこれを勧めたりはしない。ページが多すぎる+物語が動かないので、『本をそれなりに読む人へ』かなと思う。
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現代も本や知識は大切にされている。でも、どのような本なのか?、どのような知識なのか?、は大きく違っている。 本も知識も多すぎるので、本当に必要な本も知識も見つけられない。
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大変風刺的、オリジナルで読むほうがよかったか、、。とはいえ、図書館では置いていないので残念ながら類推するのみ。文字を否定する一神教の国に侵略されて征服された、武力を持たないアカデミック民主主義国。拷問を受けて障害者となった元指導者とその孫メムーの話でスタートする。メムーは、侵略時...
大変風刺的、オリジナルで読むほうがよかったか、、。とはいえ、図書館では置いていないので残念ながら類推するのみ。文字を否定する一神教の国に侵略されて征服された、武力を持たないアカデミック民主主義国。拷問を受けて障害者となった元指導者とその孫メムーの話でスタートする。メムーは、侵略時に兵士に強姦されてできた”あいのこ”というディープな設定。植民地となり人々は奴隷として扱われて17年後、オレックとグライとハーフライオンのシタールがやってきて、色々と動き出す。おばさん?になったグライがまたまたいいキャラに成長。オルド人のシメはオリジナルではやっぱりハウフィンチなんか?とそんな妙なところばっかり気にかかってしまう。やっぱりオリジナル見つけたら買おうとおもう
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血のしがらみ、土地のしがらみ、与えられた恩寵はけして輝かしいだけのものではなくて、自分の力ではままならない恐怖もはらんでいる。自分たちを押さえつけ、蔑んでいた征服者をわかりやすく罰して打ち滅ぼしたいと思っていた若い主人公と、分別ある大人たちが下した現実的な落としどころが対照的だ。...
血のしがらみ、土地のしがらみ、与えられた恩寵はけして輝かしいだけのものではなくて、自分の力ではままならない恐怖もはらんでいる。自分たちを押さえつけ、蔑んでいた征服者をわかりやすく罰して打ち滅ぼしたいと思っていた若い主人公と、分別ある大人たちが下した現実的な落としどころが対照的だ。考え方や重きを置くものが違う人たちが、こんなふうに少しずつでも歩み寄れたらいいのに、と思う。生活のにおいのする、ル=グウィンのファンタジーが本当に好きだ。
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「ギフト」の意味も(才能、贈り物、たまもの)といったように1巻とは大分変わってきます。 そして本、文字、読むこと、書くことへの敬意がシリーズを通じた対象かな。
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ル=グウィンはやはり素晴らしい。敵対する民族が共に生きていくために大事なこと、お互いを知ること、敬意を持つこと、そんなことかな。受け継いでいくことについても、一世代受け継がれなかったら次の世代はそんなことがあったことさえ知らない。たくさんのことを考えさせられました。
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待ちに待ったル=グウィンの新作。それも、あの『ゲド戦記』の跡を襲うハイ・ファンタジーである。先に『ギフト』を読み、すぐ続きが読みたくなった。『ゲド戦記』とは、一味も二味もちがうが、紛れもなくル=グウィンの刻印が捺された、長く読まれ、語り続けられるだろうファンタジー文学の傑作の誕生である。 ゲドの物語が、アースシーという架空の多島海を舞台にしていたように、今回もル=グウィンは、入り組んだ海岸線を持つ詳細な地図を用意してくれている。それによると、今回の物語は、東方に広がる砂漠と山脈や丘陵で区切られた、海に面した都市国家群が舞台になっている。多分に西欧を思わせる配置だが、人種や宗教はそれをなぞらない。物語の舞台になる土地には、その土地固有の信仰や容貌が与えられている。そうすることによって、金髪碧眼で白い肌を持つ男女が主人公になるのが当然のような西欧中心主義を回避しているからだ。 そればかりではない。作家自身が『ゲド戦記』の中に発見した男性中心主義もまた慎重に回避されている。ただ、ゲドの時のように傷ましい回心めいた色ではなく、より成熟し余裕に満ちた書きぶりで。主人公メナーの声を借りて、物語の中に日々の食事の事が語られていない不満を言うあたりや、面子にこだわって本音で話し合えない男たちの愚かしさに女二人が苦笑を共有するあたりに、恢復したル=グウィンの穏やかな微笑みを見る思いがする。 そう。一口に言って、この物語の色調は仄かな明るみに充たされている。ゲドの戦いが光と影の世界を往還するものであったとすれば、メナーの物語は、隠された闇の奧臥から清澄な光の中に噴き上げる水のように祝祭的な光景に象徴されている。 交易によって栄えた商業都市アンサルは、大きな図書館や大学を持つ文化都市として周辺の都市国家の間でも知られていたが、急激に力をつけてきた砂漠の民であるオルド人によって攻撃を受けた結果、今では、図書館は壊され、厖大な書物は破棄され、民衆はオルド人の支配下にあった。オルド人が奉じる一神教の火の神アッスが本や文字を魔物扱いするため、アンサルの町では本は交易を司る「道の長」の住むガルヴァ館に秘かに隠されていた。 主人公はメナーという少女。母はガルヴァの血筋を引き、道の長の下で館を切り盛りしていたが、オルド人に暴行されメナーを生む。母の死後、少女は館の仕事を手伝いながら道の長の教育を受けて育つ。オルド人に復讐を誓うメナーだったが、高地から来た「語り人」オレックと、その妻グライに出会うことで、敵であるオルドの王ガンド・イオラスの威厳に気づく。 オルド人の支配から脱するためのアンサルの反逆の烽火が上がると同時にイオラスの息子の裏切りが発覚し、物語は佳境を迎える。一神教と多神教、パロールとエクリチュール、一極支配と多極化、と対立する命題を輻輳させて物語は終焉を迎える。 9.11以来の世界の寓意とも取られかねないアレゴリカルな作品世界だが、これを寓話として読むのは愚の骨頂だろう。架空世界でありながら、隅々まで意匠を考え抜かれた街路や建築、食物は勿論のこと作中で吟じられる物語や詩を存分に愉しむよう作者は心をくだいている。その中から一つだけ挙げるなら、グライが護身用に連れ歩くシタールという名のハーフ・ライオン。動物を描かせたらル=グウィンは巧い。特に猫は好きらしくよく作品に登場するが、まるで大きな猫のような仕種をしてみせるこの小型の獅子が何とも愛らしい。 『ヴォイス』は「西のはての年代記」シリーズの第二巻だが、三部作の各巻がそれぞれ別の町、別の主人公の物語として設定されているので、この巻から読んでも、特に問題はない。言い忘れたが「語り人」のオレックは、第一巻『ギフト』の主人公の成長した姿。オレックの物語を語る力やグライの持つ動物と言葉が交わせる能力が賜物(ギフト)と呼ばれるものである。このギフトと呼ばれる力こそ年代記を統べるモチーフなのだが、それでは、メナーのギフトとは何か。ヒントは題名にあるとだけ言っておこう。
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「西のはての年代記」最高の作品だと思います。静かに進む物語の雰囲気、アンサルの町ももちろんですが、誇りを保ちつつも相手を受け入れる力を持つ二人、道の長とイオラスが好きです。 自分がわからないものを恐れたり憎んだりするのではなく、まずは知ろうとすること。その手助けとなるのが、言...
「西のはての年代記」最高の作品だと思います。静かに進む物語の雰囲気、アンサルの町ももちろんですが、誇りを保ちつつも相手を受け入れる力を持つ二人、道の長とイオラスが好きです。 自分がわからないものを恐れたり憎んだりするのではなく、まずは知ろうとすること。その手助けとなるのが、言葉や本の役割なのだ、と思わせてくれる一冊です。
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深い物語だ。テーマは自由と暴力なのだろう。 他民族の占領下にある国における独立運動の機運が高まっている中で、 占領者に対する憎しみと自由への欲求とともに、平和主義がいかにあるべきかを考えさせられる。占領者たちもその全てが憎むべき存在というわけでもなく、中には開明的な穏健派も含まれ...
深い物語だ。テーマは自由と暴力なのだろう。 他民族の占領下にある国における独立運動の機運が高まっている中で、 占領者に対する憎しみと自由への欲求とともに、平和主義がいかにあるべきかを考えさせられる。占領者たちもその全てが憎むべき存在というわけでもなく、中には開明的な穏健派も含まれ、味方の中にも過激な好戦論者がいる。 ルグインはこうしたマクロな問題を、主人公のまわりの人間関係に上手に置き換え、リアルな物語世界を構築している。全盛期の彼女の作品群に勝るとも劣らぬできばえだ。
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