1,800円以上の注文で送料無料

逃亡くそたわけ の商品レビュー

3.6

103件のお客様レビュー

  1. 5つ

    10

  2. 4つ

    40

  3. 3つ

    37

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

    1

レビューを投稿

2025/02/10
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

21歳の女子大生である「あたし」は、もともと軽いうつ病の気があったのだが、突如躁に転換し、軽い気持ちで自殺を図る。 結果入院させられた病院は、拘束されているわけではないけれども、退屈だ。 ここにはいられない、と、財布と鍵だけ持って病院を脱走する。 たまたまその時中庭にいた「なごやん」を誘って。 「なごやん」なんて言うから、名古屋出身なんだろうとは思ったけれど、なんとなく小柄で猫背の貧相なおじさんかと思ったら、元慶応ボーイの24歳。 軽いうつということだけど入院しているのは、一人暮らしだからなんだろうか。 ちなみに「なごやん」というのは、故郷の名古屋を捨てた「なごやん」が愛する名古屋の銘菓の名前。 行き当たりばったりの逃避行は、疾走感と同じくらい閉塞感に満ちている。 どれだけ逃げても、病気は治らないのだ。 いずれ病院に戻されることになる。 さらに、九州の果てまで行ってしまえば、その先は車では行けないのだ。 飛行機で、船で、九州を脱出したところで、結局地球の重力からは自由になれやしない。 それでも、何かが吹っ切れて、たぶん二人は病院へ戻るだろう。 「なごやん」の退院は少し伸びてしまうかもしれないが、都会コンプレックスが減った分、故郷への愛着を自覚したのだから、まあまあよしとしよう。 会社に戻れるかはわからないが、社会へは戻れる。 「あたし」は多分まだ退院は無理だと思う。 幻聴・幻覚が本当に消えたのかもわからないし。 つまり、近い将来二人は別々の人生を生きていくことを互いに理解している。 もともと恋愛感情などもなく、行き当たりばったりの逃避行なのだ。 けれど、多少のお金は持っていたとしても、病気を抱えて不安だらけで、それでもふたりは一週間生き延びてきたではないか。 万引きだったり当て逃げだったり畑泥棒や無銭飲食もしたけれど、車中泊などもしながら、日帰り温泉にも入ったり、たまには贅沢にホテルに泊まったり。 そんなんでも、生きていけるんだなあ。 型にはまらなくても生きていくことはできるんだなあ。 という、謎のエールをもらったような気がした。

Posted byブクログ

2024/11/22

⚫︎感想 精神病院から抜け出した男女2人が九州を駆け巡る。方言がとてもいい味を出している。 絲山秋子作品ふ3冊目。男女の友情というか、人間同士の繋がりを気持ちよい読後感をくれるところが絲山作品に通底するところだ。こちらの作品は、九州を必死で駆け巡る2人の珍道中といったところ。ちょ...

⚫︎感想 精神病院から抜け出した男女2人が九州を駆け巡る。方言がとてもいい味を出している。 絲山秋子作品ふ3冊目。男女の友情というか、人間同士の繋がりを気持ちよい読後感をくれるところが絲山作品に通底するところだ。こちらの作品は、九州を必死で駆け巡る2人の珍道中といったところ。ちょっと切なくて、ちょっと笑えて、ちょっといい話。一気読み。 ⚫︎本概要より転載 21歳の夏は一度しか来ない。あたしは逃げ出すことにした。 軽い気持ちの自殺未遂がばれて、入院させられた病院から。 逃げるのに思いつきで顔見知りを誘った。24歳の茶髪で気弱な会社員。 すぐに「帰ろう」と主張する彼を脅してすかして車を出させた。東へ。そして南へ。 __おんぼろ車で九州の田舎町を駆け抜けるふたりの前にひろがった暑い夏の物語。

Posted byブクログ

2024/02/19

ある男女、恋愛関係でも、友達関係でもない、の二人の逃避行物語。絲山氏お得意のど直球な言い回しが小気味よい。この逃避行に楽しさ要素は全くないのだが、主人公たちがたどった道のりをドライブしたいと思った。

Posted byブクログ

2024/02/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

マレーシアからの帰国の飛行機の中で、旅の途中で本を失いまくり残った一冊 すごいよかった、なんとなくずっと積読しててあまり読む気になれんかったんやけど、切迫感と神経と自然が、読み終わった後の余韻が、 主題じゃないかもやけど男と女でも同志として共にあることの肯定がしみた

Posted byブクログ

2023/10/10

オフビートなロードムービーっぽい小説。 特に大きなイベントはなく、淡々と主人国の二人が来るまで博多から鹿児島へと南下する。 退屈と言えば退屈な話なのだが、ジャームッシュ映画のような「面白い退屈」と言えば良いだろうか。ストーリーの起伏ではなく、主人公二人の会話を楽しむ小説だ。 「...

オフビートなロードムービーっぽい小説。 特に大きなイベントはなく、淡々と主人国の二人が来るまで博多から鹿児島へと南下する。 退屈と言えば退屈な話なのだが、ジャームッシュ映画のような「面白い退屈」と言えば良いだろうか。ストーリーの起伏ではなく、主人公二人の会話を楽しむ小説だ。 「幻覚の方が実感なのだ」 精神病院に入院している主人公が幻覚を表現した時のセリフだ。健康な人間でも不安に苛まれている時は、自分の想像が現実以上に実感を伴う。 「あたし」と「なごやん」の会話が普通なだけに、病人と健常者の境界があいまいなものだと感じる。 「幻覚の方が実感なのだ」

Posted byブクログ

2023/09/10

『末裔』を読んで、このひとの本をいろいろ読んでみようと思って、二冊目に読んだのがこれでした。うーむ、まあまあでしたかね。【2023年8月29日読了】

Posted byブクログ

2023/08/31

ロードムービーみたいな小説。2人の逃避行。 劇的な「救い」は訪れないし、2人ともこれからどうするんだろう的空気が読み終わっても胸に残るのだが、不思議と好きだった。雰囲気が、としか言えない。ロマンチックもカタルシスもない。けれど読んでいるあいだ心が凪になれる。 虚しさと目的地のな...

ロードムービーみたいな小説。2人の逃避行。 劇的な「救い」は訪れないし、2人ともこれからどうするんだろう的空気が読み終わっても胸に残るのだが、不思議と好きだった。雰囲気が、としか言えない。ロマンチックもカタルシスもない。けれど読んでいるあいだ心が凪になれる。 虚しさと目的地のないどん詰まり感がある。カラッと、突き抜けた明るさもある。どっちをより強く感じるかは受け手によるのかも。私は前者かなあ。 花ちゃんとなごやんでずーっとダラダラ逃げ続けてほしいなあ、と思った。無理だと分かってるから余計そう思うんだろう。

Posted byブクログ

2023/04/30

プリズンたる病棟からの明日なき逃避行。資本論の等価交換の呪文から逃れようともがく主人公と商品価値の象徴たる東京の呪縛に囚われるなごやん。行き着いた岬のラベンダーの香りが旅の終わりを納得させる。とても印象的な作品でした。

Posted byブクログ

2023/04/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

精神病院=プリズンからの逃亡 博多生まれの花ちゃんと、名古屋生まれのなごやん。 書き出しの〜亜麻布二十エレは上衣一着に値する〜も、最高によくって‼︎ 九州の北 博多から、耶馬溪、磨崖仏でヒル、別府、阿蘇いきなり団子、椎葉村で川になごやん流され(よく助けた花ちゃん)、宮崎でエアコンのガス漏れ直し、桜島、指宿知林ヶ島、開聞岳。 福岡の運転マナーを名古屋走りのなごやんがたしなめるのも面白く(花ちゃんの父は木刀積んで運転していると)更に笑った。 がんばったルーチェ。エアコン壊れたけど、ね。 方言も心地よく、ルーチェから流れるTHEピーズの曲♪ 終わりが気になって仕方なかったけど… 畑泥棒、当て逃げ、無免許、万引き…どうなる二人⁉︎ 海でのラベンダーの香り、突然の九州地図、ココがラストもよかったぁ。

Posted byブクログ

2023/02/14

牢獄に見紛う精神病棟から逃げる、という動機から九州を車で走り抜けるロードムービー的な小説。解説には経済的な側面とストーリーとの対比が根底にある書いており、ふむそんな含意もあるのだなと思った。自分が抱いた感じはもっと切実なところで、逃げきれない悪夢を現実で上塗りを繰り返すことの虚し...

牢獄に見紛う精神病棟から逃げる、という動機から九州を車で走り抜けるロードムービー的な小説。解説には経済的な側面とストーリーとの対比が根底にある書いており、ふむそんな含意もあるのだなと思った。自分が抱いた感じはもっと切実なところで、逃げきれない悪夢を現実で上塗りを繰り返すことの虚しさだった。物理的に逃げても遠のかない苦しみに戸惑いつつ生きようとする。病気の烙印を押されると忽ち社会の不安定さを心に受ける場面に現代の危うさがあり、色々と考えさせられる小説だった。

Posted byブクログ