寺田寅彦随筆集(1) の商品レビュー
彼の視野の広大さと奔…
彼の視野の広大さと奔放さには驚かされる。物理学者というカテゴリーにとどまらず、様々なものを緻密に観察する彼の目は、またある種の才能と見受けられると思う。
文庫OFF
「どんぐり」はこれまで何度も読みました。読むたびに「ああいいなあ」と思ってしまいます。結婚した頃の奥さんは、とても若かったそうですが、子供っぽさもあり大人っぽさもあり。そんなことも知って読むと、また味わい深いものがあり、ますます好きな随筆になりました。
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『寺田寅彦随筆集 第一巻』(小宮豊隆編,岩波文庫 1947年2月第1刷,1963年10月第28刷改版,2016年2月第104刷)を読んだ感想。 寺田寅彦がどのような人かよく知らずに読み始めた。我ながらよくまあいきなり5冊セットで買ったものだと思わなくもない。切っ掛けとなったのは『...
『寺田寅彦随筆集 第一巻』(小宮豊隆編,岩波文庫 1947年2月第1刷,1963年10月第28刷改版,2016年2月第104刷)を読んだ感想。 寺田寅彦がどのような人かよく知らずに読み始めた。我ながらよくまあいきなり5冊セットで買ったものだと思わなくもない。切っ掛けとなったのは『日本近代随筆選』(岩波文庫)で寺田寅彦の『子猫』を読んだことだった。その本には猫随筆が並んでいる部立てがあるが、寺田のものが最も強く私を打った(『子猫』は寺田寅彦随筆集では第二巻に収録されているのでいづれ再読したい)。寺田の随筆全般について言えると思うが、冷静な観察に基づき、この人ならではと思わせる独特の視点で現実に当たり秩序を築いていく認識の行き方が面白く、抑制された詩情、時にあまり見え過ぎる者の悲哀なども感じられ、読んでいて興味が尽きない。 第一巻で最も印象に残ったのは『春寒』だった。床の中でスカンジナヴィアの物語"Heimskringla"の英訳版を読んでいたとき、長女のピアノの練習が聞こえていた、ということが書かれてある。英訳版について「いろいろな対話が簡潔な含蓄ある筆で写されていたり」と寺田は書いているが、寺田が日本語で再話する部分がまさに簡潔な・含蓄ある文で、この様な翻訳があったら読んでみたいと思うたりした。 以下に一部引用する。 [ オラーフ・トリーグヴェスソンが武運つたなく最後を遂げる船戦の条は、なんとなく屋島や壇の浦の戦に似通っていた。王の御座船「長蛇《ちょうだ》」のまわりには敵の小船が蝗のごとく群がって、投げ槍や矢が飛びちがい、青い刃がひらめいた。盾に鳴る鋼の音は叫喊の声に和して、傷ついた人は底知れぬ海に落ちて行った。……王の射手エーナール・タンバルスケルヴェはエリック伯をねらって矢を送ると、伯の頭上をかすめて舵柄にぐざと立つ。伯はかたわらのフィンを呼んで「あの帆柱のそばの背の高いやつを射よ」と命ずる。フィンの射た矢は、まさに放たんとするエーナールの弓のただ中にあたって弓は両断する。オラーフが「すさまじい音をして折れ落ちたのは何か」と聞くと、エーナールが「王様、あなたの手からノルウェーが」と答えた。王が代わりに自分の弓を与えたのを引き絞ってみて「弱い弱い、大王の弓にはあまり弱い」と言って弓を投げ捨て、剣と盾とを取って勇ましく戦った。――私は那須与一や義経の弓の話を思い出したりした。 ] その他で好ましかったものを思いつくままに挙げる。 『旅日記から』と『先生への通信』は海外旅行記であるが、個人的な記録であると同時に時代の記録でもあり面白い。旅行にしても目の付け所は寺田らしいところがあり飽きない。 『丸善と三越』の中のエスカレーターからの連想の部分で「~一度入学さえすればとにかく無事にせり上がって行くのが通例である」と、(エスカレーター式)という言葉こそ出てこないものの殆ど同じ意味の事が述べられているのが興味深い。 しまいまで読んでから巻頭の『どんぐり』を再読した。年譜を見てから読むと実に分かりやすく、良くも悪くも日本的情緒の風土とおそろしく相性が好いと感じられる。解説に「寅彦の書くものの中の、峻厳な批評的精神が、科学的精神がとかく見落とされ勝ち」「寅彦の書くものは、いわば筋金の通った柔らかな手といった感じを持っている」が「寅彦の真骨頂はむしろその筋金にある」と強調されている理由も解る気がする。 言い忘れましたが、寺田寅彦(1878-1935)の作品はパブリックドメインになっているのでWebで見つければ読めますよ。興味を持った方は是非実際に読んでみて下さい。
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本書を通読したのは2回目。一度目に引いた赤線がなかなか面白い。 こうして時間を経て同じ本を読んでみると,自分の興味のありどころの変化(わたしはこれを「琴線の在処」と呼んでいる)が分かって,本の内容も2度楽しめると思う。 今回は,編集者小宮豊隆の「後語」から,強く同意した文章...
本書を通読したのは2回目。一度目に引いた赤線がなかなか面白い。 こうして時間を経て同じ本を読んでみると,自分の興味のありどころの変化(わたしはこれを「琴線の在処」と呼んでいる)が分かって,本の内容も2度楽しめると思う。 今回は,編集者小宮豊隆の「後語」から,強く同意した文章を引用してみる。 寅彦の世界は二つのものの美しい調和から成り立ち,寅彦の書くものはすべてその源から流れ出ていないものはないが,しかし情味のほうにむしろ選択の標準を置いていた当初の編集は,改めてその方針を科学的精神に重きを置く事によって補足され平衡が保たれ,人々の心に潤いを与えるとともに人々の頭に条理を与えるものとならなければならない。(本書,302ぺ) 当初(戦前),だいたい3巻で発行される予定だった岩波版の寺田寅彦随筆集が,戦後発刊されたときに全5巻になったのは,選者である小宮がこれからの日本には「科学的精神に重きを置」かなければならないと考え,さらにそういうタイプのエッセイを選んだからなのです。 寅彦の随筆は,本当におもしろいです。科学が好きな人と文学が好きな人の橋渡しをしてくれます。 2度目の読書で,1回目以上に,「そうだよなあ」と思ったものを挙げてみます。 ・竜舌蘭…わたしがこの植物を実際に見たのは長崎のグラバー邸の傍でした。最初読んだときは,どんな植物なのかも知らなかったので,さらりと読んだ1編でした。 ・科学者と芸術家…共通点に触れているのがほんとに新鮮です。以前から美術鑑賞も好きなので,そのままでいいよ…とほめてくれているようです。 ・自画像…この話,あまり覚えていませんでしたが,今読むと,なかなかですね。油絵で自画像を描きながら,「似ている」ってどんなこと?などと考えるところが面白いです。星座の話とつながるとき,寅彦らしさが発揮されています。 ・芝刈り…芝刈り一つでこれだけかけるのが不思議。さすがです。 ・案内者…これ,すでに赤線が引かれていた1編です。なんども旅に出たり,何度も新しい学問の世界に出会ったりしてきた,今,以前に増して,「効果的な案内者」の大切さを感じます。
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明治から昭和前期に活躍した物理学者寺田寅彦の随筆集。一巻は明治から大正頃まで。科学者としての関心と芸術方面をはじめ感覚や感情を言葉にすることのバランスが良い。昨今ビジネス界隈で適当に語られがちなアート&サイエンスの精神の体現者とはかくあるものかと。
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本を読むということは、はるか昔の人と対話するということだ、とデカルトが云ったとかなんとか。 いい随筆を読むということはまさにそういうことなのではないだろうか。 淡々とした文章の中に程よい滑稽や情緒、感傷などが小皿に乗って出てくる。押し付けがましい倫理や規範などを語ることもなく、論...
本を読むということは、はるか昔の人と対話するということだ、とデカルトが云ったとかなんとか。 いい随筆を読むということはまさにそういうことなのではないだろうか。 淡々とした文章の中に程よい滑稽や情緒、感傷などが小皿に乗って出てくる。押し付けがましい倫理や規範などを語ることもなく、論理的に色々と述べたあと、読者に些かの思惟を起こさせる。 目の前に居る寅彦本人と、散歩でもしながら語り合っているような気がした。
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後書きでの小宮豊隆の言葉を借りると、寅彦の随筆は芸術感覚と科学感覚の調和が絶妙なバランスで成立してて面白いです。身近なモノに対する気付きの視線、その描写、分析(ここで科学者らしいところが出てくるのでその考察が面白い…)がたいへん分かりやすい。 一つ一つはそれほど長くないのでちょこ...
後書きでの小宮豊隆の言葉を借りると、寅彦の随筆は芸術感覚と科学感覚の調和が絶妙なバランスで成立してて面白いです。身近なモノに対する気付きの視線、その描写、分析(ここで科学者らしいところが出てくるのでその考察が面白い…)がたいへん分かりやすい。 一つ一つはそれほど長くないのでちょこちょこ読めるところも良いです。
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いろいろなことを考えるヒントになった。 物理学者であり俳人であることの源が自然の観察への誠実さにある。感性で注目したものを淡々と語る文体は心地よい。ところどころ、「なぜならば」がないのが気になるけれど、それも余韻になって想像や考察を駆り立てる。
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◆きっかけ ブクログ。『物理の散歩道』のレビューで「寺田寅彦の方が面白い」と書いていた人がいて、気になって。2017/2/16
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