イワン・デニーソヴィチの一日 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
河合香織、『イワン・デニーソヴィチの一日』が支え 不条理の中で生き延びる鍵(半歩遅れの読書術) 2026/02/21 日本経済新聞 朝刊 32ページ 1012文字 PDF有 書誌情報 印刷 2年前、階段から転落し、救急搬送された。運ばれた救命救急センターは、命を繫(つな)ぎ止めるための最善が尽くされる一方で、自由とプライバシーを剝奪された、白い「収容所」のように感じられた。コロナ禍に設置されたという監視カメラが病床を冷淡に射抜き、泣くことさえ見張られているかのような閉塞感。動けぬ私の心を支えたのはノーベル賞作家、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』(木村浩訳・新潮文庫)だった。零下30度のシベリア強制収容所を描いた名著だ。 主人公イワンは絶望しない。配給のパンを布切れに包み、スープの魚の骨をしゃぶり尽くす。何より印象的なのは、彼が粗末な粥(かゆ)を啜(すす)る際、必ず帽子を脱ぐことだ。周囲の大半は寒いからと被(かぶ)ったままであり、誰に強制されているわけでもない。だが、凍(い)てつく空気の中で行われるその数分間の儀式だけが、彼を番号で管理される囚人から、一人の人間に引き戻す。 かつては歴史の悲劇として読んだ一冊が、病院のベッドでは生存の教本となった。効率を競う日常では無駄と切り捨てられる細部かもしれない。だが、その微細な一瞬にこそ、人間の尊厳が宿る。著者が描いたのは地獄の記録ではなく、過酷な環境を満ち足りた一日に変える魂の技術である。 現代を生きる私たちにとっても、日常という名の収容所は至る所に口を開けている。数字や評価で人間がスコア化される息苦しさ、最適解というシステムの中で割り切れない感情はエラーとされる。自由を謳歌しているつもりで、一杯のスープの熱さを味わうような、生の切実な手触りを忘れていないか。 確かに収容所に目的はなく、あるのは生き延びることだけだ。それは悲惨な生に思えるかもしれない。だが本来生きるという圧倒的な価値の前では、社会が強いる自己実現や人生の目標といった言葉さえ、贅沢(ぜいたく)な飾りに過ぎないのかもしれない。 作品の幕切れ、主人公は眠りに落ちる際、今日一日を「ほとんど幸せとさえいえる」と回想する。病気にならず、懲罰房にも入れられず、凍てつく壁の前で寒さを忘れてレンガ積みに没頭した……。不条理の中で、自分を失わずに生き延びる鍵は、こうした自分を慈しむ強靱(きょうじん)さにこそある。効率という名の病床で、私たちは今日、自分のために帽子を脱ぐ時間を持てているだろうか。その一瞬の積み重ねにこそ、幸福が宿ると信じたい。(ノンフィクション作家)
Posted by
社会が作家に不当な態度をとっても、私は大した間違いだとは思いません。それは作家にとって試練になります。作家をあまやかす必要はないのです。社会が作家に不当な態度をとったにもかかわらず、作家がなおその使命を果たしたケースはいくらでもあります。作家たる者は社会から不当な扱いを受けること...
社会が作家に不当な態度をとっても、私は大した間違いだとは思いません。それは作家にとって試練になります。作家をあまやかす必要はないのです。社会が作家に不当な態度をとったにもかかわらず、作家がなおその使命を果たしたケースはいくらでもあります。作家たる者は社会から不当な扱いを受けることを覚悟しなければなりません。これは作家という職業のもつ危険なのです。作家の運命が楽なものになる時代は永久にこないでしょう。 ──アレクサンドル・ソルジェニーツィン
Posted by
少し前に読んだソルジェニーツィン。 これでノーベル賞では政治志向が過ぎるような気もするが、ノーベル賞とはそういうものなのだろう。 寒さや過酷な労働もさることながら、印象深かったのは、食堂の様子だ。 「とても薄いスープに肉はほとんど入っておらず、魚の骨を見つけたら皆が奪い合って...
少し前に読んだソルジェニーツィン。 これでノーベル賞では政治志向が過ぎるような気もするが、ノーベル賞とはそういうものなのだろう。 寒さや過酷な労働もさることながら、印象深かったのは、食堂の様子だ。 「とても薄いスープに肉はほとんど入っておらず、魚の骨を見つけたら皆が奪い合って食べる」 という描写を思い出すと、自分のどんなに失敗してしまった料理も美味しく感じることができる。
Posted by
めちゃくちゃ寒い収容所の一日。でもイワンは最後に「今日は悪くなかった」とつぶやく。 飢えや労働の中でも、小さな幸せを見つける姿が刺さる。 「パンのかけら一つで、人は人間にも獣にもなれる」って一文も忘れられない。 読後、自分の“普通の日”が愛おしくなりました。 以下、セリフメモ。...
めちゃくちゃ寒い収容所の一日。でもイワンは最後に「今日は悪くなかった」とつぶやく。 飢えや労働の中でも、小さな幸せを見つける姿が刺さる。 「パンのかけら一つで、人は人間にも獣にもなれる」って一文も忘れられない。 読後、自分の“普通の日”が愛おしくなりました。 以下、セリフメモ。 「ここではすべてを奪われても、積み上げた壁は自分のものだ」 「ひとりで生きる者はすぐに死ぬ。仲間といるから、生きられる」
Posted by
ラーゲル(強制収容所)での冬の一日。酷寒と飢えに苛まれながら、さまざまな階層の人々が、共同生活をしている。スターリン時代のソ連の取締りや収容所の外の生活も垣間見ることができる。刑期があってないようなものなのに、宗教にはまっている人ばかりではないのになお生きようとする原動力は、全て...
ラーゲル(強制収容所)での冬の一日。酷寒と飢えに苛まれながら、さまざまな階層の人々が、共同生活をしている。スターリン時代のソ連の取締りや収容所の外の生活も垣間見ることができる。刑期があってないようなものなのに、宗教にはまっている人ばかりではないのになお生きようとする原動力は、全て取り去った本能かと一瞬思う一方、人のためにやってあげる場面もあり、それが人間というものだと言ってるようにも思える。2025.7.2
Posted by
過酷な収容所の中でのユーモアはアメリカ映画を思い起こす、レベルは段違い 私の未来より今晩のほとんど具の入っていない野菜スープが重要だ、みたいな話があった
Posted by
大昔(昭和51年 30刷)に買って、50年もの間、ずっと本棚の一番良いポジションから動かなかった本だが、昔の新潮文庫は文字が小さすぎ、今となっては老眼では読みづらいので、買い直した。今度は67刷。 古いほうを買った当時は、ソルジェニーティンは、本屋の新潮文庫の棚のかなりの領域(体...
大昔(昭和51年 30刷)に買って、50年もの間、ずっと本棚の一番良いポジションから動かなかった本だが、昔の新潮文庫は文字が小さすぎ、今となっては老眼では読みづらいので、買い直した。今度は67刷。 古いほうを買った当時は、ソルジェニーティンは、本屋の新潮文庫の棚のかなりの領域(体感的には二尺程度)を占めていたが、今の新潮文庫のラインナップでは、この『イワン~』のみ。当時の「ソ連」という国が日本国民に与えていたイメージは、令和の現在はほぼ霧散したということだと思う。ただ、プーチン氏のイメージは、体格こそ華奢でスマートなので、ソ連を知らない世代は騙されてしまうかもしれないが、その意見表出や態度は、昔のソ連指導者と何も変わっていないような気がする。
Posted by
ソビエト連邦時代のスパイ容疑(勿論冤罪)で強制収容所にぶちこまれた10年のうちのなんということのない1日の起床から就寝までを書いた物語。 あっさりそんな感じで始まるが、とにかく環境が劣悪である。超寒い(-30度)、ショボすぎる飯、椀を載せるトレイや食事の場所の争奪戦(熱いw)、...
ソビエト連邦時代のスパイ容疑(勿論冤罪)で強制収容所にぶちこまれた10年のうちのなんということのない1日の起床から就寝までを書いた物語。 あっさりそんな感じで始まるが、とにかく環境が劣悪である。超寒い(-30度)、ショボすぎる飯、椀を載せるトレイや食事の場所の争奪戦(熱いw)、なんもかんも長蛇の順番待ち(とにかく押し退けて我先に前へw)、外での重作業、威張り散らす看守、南京虫だらけのベット、穴の空いた靴等々、、、 絵に描いた様な劣悪さだ。 そういう環境に置かれてもシューホフ(主人公)は毎日生き延びる事、悪いことがあっても夜に眠りに着くときに今日も無事終わったと満足して眠りにつく。全く暗さがなく、全力投球といってもいいほどなのだ。劣悪なんだよ、なのにである。 人の話をよく聞き、仲間を鼓舞し(基本、班で行動するので仲間大事)、自分がゲットしたほんのわずかなタバコや食べものを仲間にもお裾分け。欲をかき過ぎず、でも適度なお小遣い稼ぎを日々工夫して行う。毎日が生きるために頭フル回転。悩んでる時間は秒もない。 この時代にラーゲルにぶちこまれた人はほとんど何の罪もない人たちだっただろう。言論の自由なし、しかも自国の人間を10年とかの単位で平気で収容し強制労働。そんな恐ろしい国なのだ。 1970年ノーベル文学賞。
Posted by
2024年10月3日、クオーラでおすすめの質問「こいつ次元違うなと思った経験」から、小学生がこれを読んでいたという回答をみた。
Posted by
この作品は第二次世界大戦後のソ連の強制収容所を舞台にした作品です。ソルジェニーツィンはこの作品を通してソ連の現実そのものを描写しようとしました。 ソルジェニーツィンはソ連生まれの作家でノーベル文学賞作家であります。今回ご紹介する『イワン・デニーソヴィチの一日』はその代表作であり...
この作品は第二次世界大戦後のソ連の強制収容所を舞台にした作品です。ソルジェニーツィンはこの作品を通してソ連の現実そのものを描写しようとしました。 ソルジェニーツィンはソ連生まれの作家でノーベル文学賞作家であります。今回ご紹介する『イワン・デニーソヴィチの一日』はその代表作であり、『収容所群島』でも有名です。
Posted by
