約束された場所で の商品レビュー
『アンダーグラウンド』のようなインパクトはなかったが、あとがきの最後に書かれていた「私たちの日常生活と、危険性をはらんだカルト宗教を隔てている一枚の壁は、われわれが想像しているよりも遥かに薄っぺらなものであるかもしれないのだ」という言葉が心に残った。
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言っていることはわかるけど、なんか飲み込めない。 そんな対話が詰まった、いびつなインタビュー集。 ……という印象だった。 当たり前だが、「アンダーグラウンド」とセットで読みたい。
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村上春樹がオウム真理教の信者や元信者の方にインタビューをし、まとめた一冊。 個人的に、ものすごくシンプルな、「なぜあんな犯罪を起こしてしまうのだろう」「本当に、彼らを“全く理解できない人たち”にしていいのだろうか」という疑問を持っていた中で、この本はものすごいヒントになりまし...
村上春樹がオウム真理教の信者や元信者の方にインタビューをし、まとめた一冊。 個人的に、ものすごくシンプルな、「なぜあんな犯罪を起こしてしまうのだろう」「本当に、彼らを“全く理解できない人たち”にしていいのだろうか」という疑問を持っていた中で、この本はものすごいヒントになりました。 読んでいくと、社会との認識のずれや、学校で体験する友達グループへの葛藤など、誰しも身の覚えのあるような、本当に普通のエピソードが山ほど出てきます。許されない罪を犯した人々は、紛れもなく加害者で、その事実は変わりませんが、どうしてその一線を超えてしまったのか、誰にでもその危険はないのか、社会に責任はないのか…と、考えさせられる一冊でした。 ちなみにわたしは村上春樹をあまり好んで読まないのですが、インタビューが始まるまでの前置きが、それはもうTHE村上春樹という感じで、ちょっと笑いました…。
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私は宗教的生活とはかけ離れた生活をしていると思うが、実はそれは近くにあり、ちょっとしたきっかけで生活に入り込むものだと感じた。この本に出てくる人々は日常生活に疑問をもち、それに対して明確に(彼らいわく)答えてくれる存在としての宗教にひかれはまり込んでいった。人は、日常生活において疑問や矛盾を感じながらも、生計を立てるということの方が優先すべきことなので仕事や勉強に取り組んでいるのだということがこの本を読んで理解できた。つまり、その優先すべきことが逆転したとき、宗教が入り込んでくる隙間が生じるのだ。(特に日本では しかし、現代においてそのような理由で宗教にはまり込む人はいるのだろうか?なにか疑問が生じたとき、インターネットでその答えを探してしまう人が多くなっていないか。そうすると宗教団体の運営が大変になってくるため、お金の絡む多様な活動が必要になってくる。そうすると本来の教義から離れてくる・・。こう考えると現代の宗教が歪んでいるように感じる理由がみえてくるような気がした。
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システムからの疎外 個人的なこの本を読んだ印象はこの一言に集約されていくのかな。 はっきり目に見えるわけじゃなないけど、僕らの社会にはシステムがある程度存在していて、その枠から外れていく人達がいて、その受け入れ先の一つがオウム真理教という箱だった言えばいいのか。 そしてその箱の中で自分達で独自にシステムを作り、まるでそのシステムが暴走してあのような惨事を引き起こしたような、そんな不気味さを感じる。 作中ではインタビューに答えた元信者のほとんどがオウム真理教に在籍していたことを後悔していないことに、どれだけその人たちにとって僕らが普通に生活を営んでいるこの社会が息苦しいものだったのだろうか考えさせられる。 現行システムには彼らを受け入れる余地はなく、頭のおかしい人間だとする排他性のほうが強く働き、その疎外感の中で自分と同じストレスを共有できる集団が現れれば、後は想像に難くないだろう。 だからなのか、この事件が終わったことであったとしても、本を読み終えても終わった気がしない不気味さが残っている。 似たようなことがこの先に起きても、決しておかしくはないと。 ただ、当時と比べてインターネットを中心としたコミュニケーション機器が発達しているから、事情はちょっと違うのかもな。 また本の後半に、著者と精神科医の河合先生の対談が載っていて、二人のオウム真理教を中心とした社会問題への認識が互いに独特で面白かったなー。 これだけでも読む価値あるかも。
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あまり社会的な本は読まないのだけど、来年以降のことを考えるとそうも言ってられない。 去年アンダーグラウンドを読んでからずっと、読まなければならない、と思っていた一冊。 地下鉄サリン事件の特別指名手配の3人の逮捕を受けて、この機を逃してはならない、と思った。 オウム信者、元信者た...
あまり社会的な本は読まないのだけど、来年以降のことを考えるとそうも言ってられない。 去年アンダーグラウンドを読んでからずっと、読まなければならない、と思っていた一冊。 地下鉄サリン事件の特別指名手配の3人の逮捕を受けて、この機を逃してはならない、と思った。 オウム信者、元信者たちの言説は確かなものだった。 陶酔するわけでも、狂気に満ちているわけでもない。 論理的で、あまりに論理的で、だからこそ現代に生きづらさを感じてしまう人たちだった。 彼らのように、わたしたちがならないという保証がいったいどこにあるのだろう。 彼らの中に自らの影を見て、薄ら寒くなる。 宗教の中に本来的「実存」を求める姿は、キルケゴールが最終的にたどり着いたそれに酷似している。 ただその教義がキリスト教に拠るものであるか、オウム真理教に拠るものであるかの違いだけである。 しかしながら、キルケゴールの理論においてもっとも頻繁に指摘されることは〈他者性の不在〉である。 人は、誰しもひとりきりでは生きられない。 〈他者性の介在〉、それが唯一の相対的「悪」を絶対化していく手段なのかもしれない。
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地下鉄サリン事件とオウム真理教。癒しを求めた彼らが、何故あのような凶悪事件を起こしてしまったのか?信者・元信者へのインタビュー、河合隼雄氏との対話から現代が抱える問題を浮かび上がらせる、もう一つの「アンダーグラウンド」 NHKSPや、ついに指名手配犯全員がつかまったとか、そうい...
地下鉄サリン事件とオウム真理教。癒しを求めた彼らが、何故あのような凶悪事件を起こしてしまったのか?信者・元信者へのインタビュー、河合隼雄氏との対話から現代が抱える問題を浮かび上がらせる、もう一つの「アンダーグラウンド」 NHKSPや、ついに指名手配犯全員がつかまったとか、そういうのが読むに至った背景としてはまああるのですが、やっぱり私が、宗教を求める人の気持ちを知りたい、そしてあんなことになってしまった後の彼らの気持ちを知りたい、どうしてなんでそうなってしまったのかっていう、ある意味野次馬的興味からだったりします。あと春樹だし。 インタビューはどれも勿論面白くて、いろいろと考えさせられました。多分最初からオウムが100%悪いってわけじゃなかったんだと思うし、教祖だって最初は純粋な気持ちでオウムを宗教として成り立たせたんだと思う(それと、すごいカリスマ的存在である種の霊的なものを持っていたんだとも感じる)やはりここで問題にすべきは、社会に(オウムを求めた)彼らを受け入れる何かが決定的に欠如していたことなのかも。その隙間に、巨大な悪の可能性を孕んでいたこのオウムという組織が潜りこんでしまったのがそもそもの過ちだったのかもしれないですね。 河合隼雄氏との対談も面白かったです。やっぱり、善と悪って共存するものなのかなっていうか。共存っていうか、河合さんも言ってるけど行き過ぎた善が引き起こす殺人の方が悪の殺人よりも圧倒的だって、つまり行き過ぎた善は悪を必ず引き起こすと言うか…何て言うかほんとアイロニーですよね。戦争とか、この事件もそうです。「悪を抱えて生きる」と書いてたけど、人間として生きていく以上、それがしょうがないこと、真理なんだと思います。そう考えると、対話の中でも触れてたけど「原罪」ってものすごいシステムだな…! あとやっぱ私この事件に対していろいろ知らなさすぎ。その当時の時代背景とかさ。まあ七歳とか小さい頃だったのもあるけど、いや、むしろ再考の時が、大人になった今にやってきて逆に良かったのかも。情報とかも、当時と比べて偏ってないだろうし。春樹は、今回の菊地・高橋容疑者逮捕についてどう思っているだろう。とても知りたい。あ、あと1Q84のさきがけの描写だけでも読みなおしたくなってきました。
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地下鉄サリン事件の真実が知りたいという方にはお勧めしない。この本で取材されているのは、事件そのものとは関わりを持たなかった信者ばかりだ。 むしろ、彼らの中に狂信徒とも呼べるような危険な人物が見当たらないことに注目すべきだ。 そして、彼らが社会に欠けていると感じたものはうなずけるも...
地下鉄サリン事件の真実が知りたいという方にはお勧めしない。この本で取材されているのは、事件そのものとは関わりを持たなかった信者ばかりだ。 むしろ、彼らの中に狂信徒とも呼べるような危険な人物が見当たらないことに注目すべきだ。 そして、彼らが社会に欠けていると感じたものはうなずけるものが多かった。 後半の村上市と河合隼雄氏との対談も非常に刺激的。こうした社会的な心理に切り込んだ分析こそが必要だったはずだ。 彼らがここで提起した問題は、今になっても全く解決されていないはずだ。 そして、この取材で得たものを村上氏がご自分の作品にどう活かされるのか、非常に楽しみだ。
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後を引く、とても考えさせる1冊だった。「あの、あなた小説読めないでしょう?」という村上春樹の問いかけが強烈だった。インタビューイーの背景は様々で絶対的な共通点は見え辛いけれど、頑なさは誰からも感じられた。まだ彼らにとって絶対的だった頃の「オウム」という繭の中でいまだうつらうつらし...
後を引く、とても考えさせる1冊だった。「あの、あなた小説読めないでしょう?」という村上春樹の問いかけが強烈だった。インタビューイーの背景は様々で絶対的な共通点は見え辛いけれど、頑なさは誰からも感じられた。まだ彼らにとって絶対的だった頃の「オウム」という繭の中でいまだうつらうつらしているような印象。何人インタビューしたところで、それは多分変わらないと思う。村上春樹が発する質問や反論、前後の文章の鋭さ・・・いいルポタージュだったと思います。
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