約束された場所で の商品レビュー
村上春樹氏によるオウム (元) 信者へのインタビュー。 自分にとって地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー「アンダーグラウンド」と並んでとても大切な本。 絶対的なものなんて存在しない
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まえがきで春樹さんが書いている、メインストリームからこぼれる人々をつかまえるサブ的なものが日本には決定的に書けているというような話。セーフティネットが無いから、こぼれた人を新興宗教などが取りこんでしまったりする。河合隼雄さんが対談で述べていますが、何故こぼれおちる人々がでてきたか...
まえがきで春樹さんが書いている、メインストリームからこぼれる人々をつかまえるサブ的なものが日本には決定的に書けているというような話。セーフティネットが無いから、こぼれた人を新興宗教などが取りこんでしまったりする。河合隼雄さんが対談で述べていますが、何故こぼれおちる人々がでてきたかというと、社会がどんどん煩悩を肯定する社会へと進化してきたからだということ。享楽的で快楽的なものを追求し、合理的にそれらが行われる社会へと変化してきた。そして、大多数の人々はそれで「豊かになった」「便利になった」「楽しくなった」と感じるようになったのだが、そうではなく逆に苦しくなる人々も、当たり前だけれど、人間は多様なのだからいたわけです。そういったこぼれおちる人々を作る社会にしていきながら、そういう社会にしていった人々が、そこに対応できない人々を排除しようとするのは間違っているでしょう。傲慢すぎるし、いろいろと問題があると思うし、感じられる部分もある。だからこそ、今後オウム的なものがでてこないようにするための方策の一つとしては、そういった人々のセーフティネットを作ること、あるいは、マジョリティとなっている社会のシステム自体を変化させることが大事になっていきます。
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巻末の河村隼雄と村上春樹の対談の中で、河村隼雄が「出家は死である」と言っていてハッとした。その言葉が、この本でインタビュイーとなったオウム信者たちの行動原理を表している気がする。 オウムでの出家とは、入信した信者たちがさらに高いステージを目指すためにオウムのコミュニティに移り住むことで、荷物はスーツケース二つしか許されず、親兄弟や友人とは縁を切る。 この本で紹介されるオウム信者たちは、「出家しろ」と言われ、「じゃあ」とすんなり出家してしまう。その行動力にびっくりするけれど、それはつまり、彼らがまったく現世に興味をもてないでいることを示している。 出家を死とし、教祖を神とすると、信者だけで出来たコミュニティとはつまり神の国、天国であり、信者たちは神につかえる天使となる。オウムの戒律では感情のコントロールが求められる。そのため、コミュニティに住むほどの信者たちはみな感情の起伏が控えめで穏やかになり、受けるイメージの点ではまさしく天使じみてくる。 麻原彰晃はオウムの修行によって人々が救済されると語った。そして、信者に位を設けて、功徳を積んで位の階梯を登っていくように説いた。その階梯の頂点には麻原彰晃がいて、つまりその座は宗教の最高位(神)のものであり、修行を積むに従って信者は神に近くなる。 この本を読むにあたって気になっていたのは、(元)信者の人々が宗教としてのオウムに何を求めていたかということだった。読み終わった後、それは現世からの離脱であり、死(≒高次生命への生まれ変わり)なのだと思った。死んで人間でなくなること、何か素晴らしい存在になることが、彼らの目的だったのではないかと思う。 そして、もしそれが宗教としてのオウムの目指した方向だったとしたら、やっぱりそれは間違っていたんだと思う。なぜならやっぱり人は人でしかなく、それ以外になろうとすれば怪物になってしまう。そういった点で、河村隼雄も指摘していたけれど、キリスト教はとても良く出来た宗教に思える。人には原罪があると言い切ってしまうのは、人を神になれないと切り捨てるのと同じだが、その分神への変身願望を助長しなくても済む。 波村秋生のインタビューがとても心に残った。とても純粋な青年で、風に吹かれる柳みたいに繊細な印象を受けた。彼ら個人が間違っていたのではなく、入った箱が底抜けだったんだな、となんだか悲しくなった。
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オウム真理教による地下鉄サリン事件の被害者62人へのインタビュー集「アンダーグラウンド」に続いて、反対の立場であるオウム真理教の信者・元信者へのインタビューと心理学者の河合隼雄との対談を収めた1冊。 麻原彰晃と近かった信者、彼と比較的距離のあった信者を含めた生の声が聴ける点は貴...
オウム真理教による地下鉄サリン事件の被害者62人へのインタビュー集「アンダーグラウンド」に続いて、反対の立場であるオウム真理教の信者・元信者へのインタビューと心理学者の河合隼雄との対談を収めた1冊。 麻原彰晃と近かった信者、彼と比較的距離のあった信者を含めた生の声が聴ける点は貴重。彼らの生の声を聞いて、現実社会では満たされない空想の「綺麗さ」を求めるが故に、そこの間隙を突いたオウム真理教という存在に傾倒していったプロセスが興味深かった。現実社会で生きる人々はこの世界が必ずしも綺麗でロジカルに片づけられない世界であることを認識しており、いわゆる「清濁合わせ飲む」ということを、何とかこなすことができる。一方、オウム真理教の信者だった人には、それができず、穢れのない純粋な世界を求めている傾向が強いように思う(この点をインタビュアーである村上春樹は「そうした人はいつか現実に復讐されるのではないか」という的確な表現で示している)。 シェークスピアがマクベスで語っているように、「 きれいは穢い、穢いはきれい」というような二律背反の中でしか、我々が生きる術はない。重要なのはその現実を所与のものとして、いかに良く生きようとする意思なのではないかということを強く認識した。
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《河合隼雄氏との対話》 【『アンダーグラウンド』をめぐって】 悪というのは、僕にとって大きなモチーフでもあるんです。僕は昔から自分の小説の中で、悪というもののかたちを書きたいと思っていました。でもうまくしぼりこんでいくことができないんです。悪の一面については書けるんです。たとえば汚れとか、暴力とか、嘘とか。でも悪の全体像ということになると、その姿をとらえることができない。それはこの『アンダーグラウンド』を書いているときにも考え続けてきたことです。p273
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2014.5.4 アンダーグラウンド2 1を読んだ時の衝撃はなかった。 1では事件被害者がありありととてもリアルに苦しんでいた。 でもその対岸にあるべき2の加害者たちに、加害意識なんて微塵もない。 まず悪人でないし、みな真正面から生きることに取り組んでいるだけで、サリンのこと...
2014.5.4 アンダーグラウンド2 1を読んだ時の衝撃はなかった。 1では事件被害者がありありととてもリアルに苦しんでいた。 でもその対岸にあるべき2の加害者たちに、加害意識なんて微塵もない。 まず悪人でないし、みな真正面から生きることに取り組んでいるだけで、サリンのことなんてちょっとも知らない。その被害者側と加害者側のずれにとても違和感を感じる。 そのずれはこの人たちが実行犯でないからではなく、たぶん実行犯にしても、この人たちと同じようにほわーんとしたことしか答えずリアルな悪なんてどこからもでてこないんじゃないかな。 じゃあオウム側の人たちに問題はなかったかと考えると、それはありえない。彼らは無意識な加害者である。 けっきょく自分が悪に加担している事実に気づけていないところにオウム側の問題があると思う。でもそれは出世の時の献金、食事作り、製本作業などぜんぜん悪とかけはなれてみえるから気づくのは難しい。でもちゃんと考えれば気づけたんじゃないかな。サリンが撒かれるっていう具体的なことではないにせよ、大きな問題を孕んだ組織だってことを。 でもこの人たちは考えるなんてやめちゃってる。やめるのを考えるのはすごく怖いことなんだ。 たぶん苦しんで考えて悩んでしか、もう今の世の中で生きていけれない。それをやめたら、もうそれは悪なんだ。 私はすでに無意識の加害者であり(世界の食糧問題や貧困問題や他の私が知らないいろんな視点からみると)、しかも問題解決に取り組んでもいないので、オウムの人たちとそんなに変わらないと思う。でも考えることを放棄しないで苦しんで悩んで生きたいなあ。でも少しがいいけど。
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さすがに文章は上手い。貴重なインタビュー。 でも、インタビュアーである著者の質問や意見は相手には響いてない気がする。。。
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元オウム信者へのインタビュー集。 サリン事件の被害者へのインタビュー集であった『アンダーグラウンド』と対をなす作品。 普通と異常の境界線。人はなぜ狂気に走るのか。そんなことを考えさせられる作品。
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「アンダーグラウンド」が癒しと共感をもたらしたのとは反対に、読んでいて常に何とも言えない苛立ちを抱き続けた。それはもちろん、インタビュアー村上春樹自身から発せられたものであり、読んでいる私自身のものでもある。そして、それはそのまま全ての日本人がオウム事件に対して抱き続けてきたもの...
「アンダーグラウンド」が癒しと共感をもたらしたのとは反対に、読んでいて常に何とも言えない苛立ちを抱き続けた。それはもちろん、インタビュアー村上春樹自身から発せられたものであり、読んでいる私自身のものでもある。そして、それはそのまま全ての日本人がオウム事件に対して抱き続けてきたものだ。オウムはあなたであり、私なのではないか、という村上の問いが、頭の中を駆け巡っている。
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オム真理教にかかわった人々の生の声のインタビュー集。 オウムに入信してそこで過ごす人々がもとめる生き方は何なのか?なぜ暴走するのか? サリン事件、311の原発事件。 かかわった人のメンタリティーは実は同じ構造なのではないか? 暴走の構造、人とのつながり、エゴについて、など...
オム真理教にかかわった人々の生の声のインタビュー集。 オウムに入信してそこで過ごす人々がもとめる生き方は何なのか?なぜ暴走するのか? サリン事件、311の原発事件。 かかわった人のメンタリティーは実は同じ構造なのではないか? 暴走の構造、人とのつながり、エゴについて、など。 とても興味深く、一読の価値あり。 さすが村上春樹。この本を出そうと思うその視点が凄い。
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