岬 の商品レビュー
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「岬」路地三部作の一作目。自殺した兄と同じ二十四になった秋幸の、なにかが狂い始める。誰が悪いのか。俺を産んだ犬畜生だ。だからぶっ壊してやる。俺の血に関わるすべてを壊すために、あの男の娘を、この俺の実の妹を凌辱してやる。 「火宅」私小説的な、路地シリーズにつながる短編。“男”とつるんでいた兄の眼を通して、かつての男の行いを追憶する。その暴力性を現在の俺も受け継いでいる。その男が死にかけているらしい。どこの馬の骨とも知れない男。俺の父。俺のほんとうの父。あの男は、俺にとっていったいなんだったのだろう。
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二度目にして目を洗われた。 これだけ複雑な血縁関係を背景にして、よく筋の通った物語を書いたもんや。 二つの頂点で高く釣り上げた分、物語の幅が出ていて、それを複雑に入り組んだ登場人物で固め、それが力強いうねりとなってる。 方言によって土地に吹く風を与え、それになびかない人間関...
二度目にして目を洗われた。 これだけ複雑な血縁関係を背景にして、よく筋の通った物語を書いたもんや。 二つの頂点で高く釣り上げた分、物語の幅が出ていて、それを複雑に入り組んだ登場人物で固め、それが力強いうねりとなってる。 方言によって土地に吹く風を与え、それになびかない人間関係を描くことによって、逆にその土地に根付いた地場の力を表現しているんやと。 テーマがあまりに近く感じるのは、偶然なのか著者の力量なのかわからんけど思わず自分の血縁を振り返ってしまう。
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芥川賞を受賞した表題作である「岬」など4編を収録。 いずれも面白いという感想には至らなかったが、まさに純文学という感じは受けた。
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私が近所の図書館(再開されました)で借りた本は、ハードカバー版なのですが、ブクログで見付けられなかったので、文庫版で登録しました。 文藝春秋(0093-303612-7384) 1985年7月15日 第16刷の版です。 収録作品は、「黄金比の朝」、「火宅」、「浄徳寺ツアー」...
私が近所の図書館(再開されました)で借りた本は、ハードカバー版なのですが、ブクログで見付けられなかったので、文庫版で登録しました。 文藝春秋(0093-303612-7384) 1985年7月15日 第16刷の版です。 収録作品は、「黄金比の朝」、「火宅」、「浄徳寺ツアー」、「岬」で、一応文庫版と同じように思います。 中上健次さんのことは知らなかったのですが、芥川賞を受賞した、「宇佐見りん」さんの好きな作品のひとつに、「岬」があるのを見て、興味を持ちました。 ただ、私が読んだ作品は「かか」のみで、「推し、燃ゆ」は未読ですので、あしからず。 「かか」もそうでしたが、この作品で印象的だったのは、家族がもたらす、切っても切れないような関係による悲喜劇や、濃厚さを感じるくらいに付き纏ってくる血縁の存在感です。 特に、表題作の「岬」が圧巻で、主人公の「秋幸」には何人かの兄や姉がいるが、それぞれと母親は一緒だが、父親は異なる。そして、その父親は非道い男で、兄は姉の一人「美恵」が住む家で自殺し、美恵は父親と兄を失ったことを自らの罪であるかのように、悩み苦しみ、母親からの愛情をあまり受けられなかったと思っていることも、それに拍車をかけていて、次第に病んでいく姿が痛々しく感じられました。 そんな美恵を見て、秋幸もまた悩み苦しみ、最初は、なんで既にこの世にいない父や兄に、現在生きている美恵の人生が左右されてしまうのかと思っていたが、それは視点の違いで、美恵からすれば、美恵だけの思い出があって、更には、母が秋幸だけと同じ家で暮らしたことによる兄の怒りが、自らに帰してしまった悲劇を、今も生き続ける姉の美恵が背負うのは、それこそ強迫観念ではなく、血を分けた家族だから当然そうするのだということを、誰が止められようか。 そこに、兄と美恵、秋幸との間には、父親が違うという(今だったら、もう少し柔軟で多様な考え方も出来るかもしれないが)、確かな流れている血の違いを思い知らされて、秋幸自身は、自分の人生が突然楽しくなくなったのも、美恵のせいではなく、ろくでなしの父親のせいだと、矛先を変えていく。 やはり家族の中の、血の繋がる、繋がらないという様々な血縁関係は、かけがえのない大切なものであると同時に、恐ろしさもあるし、悲しみも生まれうるということには、やるせないものも感じましたが、それだけしっかり向き合うべきものなのかもしれない。 他の作品も含めて、すごく家族間としての人物描写に繊細かつリアルで、情感強いものを感じました。
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血生臭い表現であるのに、温度がない。 薄暗い日本的(昔の)田舎を感じる。 岬に限らず、血縁、地縁、一族的考察はどうにも暗いテーマである。
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『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐美りんさんが、受賞インタビューで好きな小説家を聞かれて、中上健次と答えていた。買って読んでいなかった『岬』が家にあったので、中上健次ってどんなもんだろうと軽い気持ちで読み始めた。中上健次を読むのは初めてだった。 そしてあまりの男くささに驚いた。 次々に変わる情景を的確に描写してゆくスタイルで、僕が読んできた小説家の中では一番テンポが早い。登場人物がどんどん増えていく。野暮ったい説明がなく、リズムがいい。そして内容が凄まじい。 岬には4つの短編が収められているが、どの作品もどぎつい内容になっている。抗えない血筋に対しての嫌悪感が全開で、なんとも男くさい作家だ。ただ登場人物が多すぎて、誰が誰だかわからなくなるときがある。何度か読まないと把握できない。 『黄金比の朝』 左翼の兄が、予備校生のぼくの家に転がり込んでくる。道で出会った風俗嬢に頼まれ、兄や友人と共に占い師を探す。登場人物が少なく比較的わかりやすい。クサレ〇〇〇〇という今の時代なら規制をくらうだろうパワーワードが頻出する。主人公の母も風俗業の従事者で、その母が貰ってきた食べ物を食べて育った主人公は母を嫌い、自分自身も穢れていると思っている。感情表現がストレート。兄とはことあるごとに衝突する。親父がオートバイで木に激突して死んだ設定。 『火宅』 町に放火して回る無法者の男。どこからやってきたのかわからない。大柄な男で、ふらっとやってきてはどこかへ去っていく。僕の母親を孕ました後、別の女を2人孕ませて僕の母親から縁を切られる。その男の、子供であるぼく目線で、僕が居合わせなかっただろう幼少期の場面が語られる。幼いぼくの兄は男について回っている。「黄金比の朝」より誰が誰だかわからない。妹や伯父が多すぎる。「黄金比の朝」より内容がよりダーティに、書き方もより不親切になっている。後先を顧みない、暴力的で放火魔なその男の血が僕に引き継がれている。成人して家庭を持った僕は暴力で妻を脅す。田舎のじめじめした感じ、あるいはからっとした荒廃さみたいなものが伝わってくる。家の中の描写なのに路上のような放り出された感がある。男、つまり僕の親父は歳をとって老人になって、オートバイで切り株に激突する。あばらは砕け顔面はぐちゃぐちゃに。「黄金比の朝」と共通している。四作のうちで唯一実の父親について詳しく書かれている。いい意味で最もひどい内容の作品だと感じた。男の描き方がとても上手く、突き抜けている。男は無法者の犯罪者なのだが、同時に畏敬の対象というか、なにか神秘的なものも感じる。語りも幻想的でいい。 『浄徳寺ツアー』 旅行会社で働く男。自ら組んだパッケージ旅行、「浄徳寺ツアー」で爺さん婆さんの相手をしながら思うのは、同じく参加してきた由起子との夜の不倫のことばかり。今度はおばあさんが多すぎて登場人物がわからなくなる。今頃は産まれているかもしれないな、と自分の子供を他人事のように考える。男を支配しているのは性欲。家庭のことなどどうでもいいのだ。 「実際、子供などどうでもよかった。子供など親の快楽の滓にしかすぎない。滓が、親の足を引っぱる。足枷をはめる。」どぎつい、身もふたもない表現。 血筋に関する言及があまり無い。四作のうちでは最もおとなしい作品だった。 『岬』 土方をしている主人公。家族関係は他の話と同じでもの凄くややこしい。登場人物も多い。ある日親戚の光子の旦那である、安雄が、光子の上の兄である古市の足を包丁で刺して殺してしまう。ショックで病気が再発し、発狂する異父姉・恵美。四作のうちで最もドラマ性が強い。その割にはどぎつい表現自体はなりを潜めていて、この控えめさゆえに芥川賞に選ばれたのかなと思った。まぁラストでやはりどぎついものが来るんだけど。個人的には火宅>岬=黄金比の朝>浄徳寺ツアーの順で気に入った。
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この作者を知ってこそ面白くなる作品なのではないかと思った。 出てくる登場人物はとても似通った性質を持っていて、それだけこの作者の想い、特に父への愛憎が痛烈に伝わってきた。 家族という小さな社会へ縛られる作者が、まわりの出来事を通して描かれていた。
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比較的読みやすい純文学。 クソみたいな男は今も昔も存在するんだなと 複雑な形の人間関係模様が生々しかった
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昭和の複雑な家庭が描かれた四編。 混み入った血縁関係による葛藤や苦しみが、この本の大部分を占めている。生まれた場所、逃れられない血の繋がり、若さによる暴力的なエネルギーに否応なく巻き込まれた。 一人一人の濃厚な人生が絡み合っているので、主人公とは別の人物から見たらどんな世界なのか読んでみたい。
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登場人物の縦と横の関係がよく分からなくなる事もあったけど独特の世界観があって面白かった。 ある意味唯一無二。 たまに読みたくなる作家のひとりかも。
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