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泥流地帯 の商品レビュー

4.3

79件のお客様レビュー

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  2. 4つ

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  3. 3つ

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2023/10/14

誰かが話題にした本が記憶に残り、気になって入手して紐解き、その本との出会いが善かったと思える場合というものが在ると思う。本作はそういう、話しを聞いて気になったという切っ掛けで出会った。そして読後に、本との出会いが善かったと余韻に浸っている。 少し長く読み継がれていて、これからも読...

誰かが話題にした本が記憶に残り、気になって入手して紐解き、その本との出会いが善かったと思える場合というものが在ると思う。本作はそういう、話しを聞いて気になったという切っ掛けで出会った。そして読後に、本との出会いが善かったと余韻に浸っている。 少し長く読み継がれていて、これからも読み継がれていくであろう作品、或る意味で「古典」という趣も在る作品だと思う。 本作は上富良野町(作中の時代は上富良野村)を舞台とする物語で、実際の大きな災害の頃のことに題材を求めている。この作品を知る切っ掛けとなったのは、上富良野町の隣りである美瑛町を訪ねた経験だった。 美瑛町を訪ねて、景色を愛で、写真を撮るようなことを何度もしている。そういう中、観光協会によるバスツアーに参加して<青い池>や<白髭の滝>を訪ねることも愉しんでいる。バスツアーでは観光協会の方の御案内に耳を傾けるのが面白い。<青い池>が形成された経緯、<白髭の滝>を眺め易い橋が出来た経緯というのは、「十勝岳の噴火」を想定した防災工事ということが契機になっている。そういう話しの中、「大正時代の噴火で大きな被害が生じた経過」ということに言及が在り、その様子が描かれた読み易い小説として本作が話題になる訳である。 話題になる都度、「読んでいない小説だ…」と思い、「機会が在れば…」とも思って記憶に留める。が、「機会」とは「在れば」というモノではない。「設ける」というモノなのだ。そう思って、愈々その「機会を設けてみた」という訳である。 前置きとでもいうような、本作との出会いに纏わる話題で少しばかり文字数は嵩んでしまった。 現在では「大正泥流」というような言い方もするようだが、十勝岳は1926(大正15)年5月25日午後4時17分に噴火による「岩雪崩」という現象を起こしている。噴火時の爆発で山の一部が崩れ、高温の岩が雪崩のようになった。これが「岩雪崩」だ。熱い岩が流れ出て、高い山に残る残雪を溶かしてしまった。そうなると「火山泥流」ということになり、麓に向かって行ったのだ。「火山泥流」は森を破壊し、森の木が夥しい量の流木となり、土砂を取り込みながら、驚くべき速さで辺りを破壊してしまったのだ。 本作は、その「大正泥流」という出来事が起こる迄の一家の物語、そして終盤は出来事の起ったその時と、直後の様子が描かれることになる。 本作の主要視点人物は石村耕作である。耕作には3歳上の兄である拓一が居る。殊に子ども時代はこの兄と行動を共にしていることも多い。そして姉の富が在り、妹の良子が在る。耕作の兄弟姉妹だが、原木切出し作業中に事故で父を失っていた。母は髪結いの仕事を覚えるとして他地域へ出てしまい、兄弟姉妹は祖父母の所で暮らしていた。 物語は耕作の兄弟姉妹と祖父母、叔父や近所の人達、学校の同級生や教師、村の大人達という登場人物で織り上げられる。小学生であった耕作が次第に成長し、曲折を経て19歳の代用教員として村の小学校で勤めるようになる迄という感じの内容だ。 耕作は祖父の薫陶を受けるように育ち、或いは学んだ分教場の教師を慕うが、他方に感心しない大人達という存在も在る。何か響く内容が多く、心動かされながら頁を繰った。時に厳しく、優しさも内包する上富良野の自然の中で、少しずつ拓けて賑わいが出始めている上富良野村の市街の中で展開する物語は、様子が目に浮かぶような描写で引き込まれた。また作中人物達の会話も、自身より年長の人達の話し口調を思い出す「北海道に居る人達!」という風情が溢れて、彼らの声まで聞こえるような気がした。 作中、北海道内の地名が幾つも在る。上富良野村の範囲の地名に関しては位置関係がやや解り悪いが、旭川等に関しては「物語の舞台の大正時代の様子?」と色々と思い浮かんだ。細かいが、嘗ての函館本線の経路であった神居古潭駅というのも出ていて、嘗ての駅舎を再現した建物が在る辺りを訪ねた経過も在ったので何やら面白かった。 本作の終盤が近付く頃、耕作は教員としての路を歩み始め、一家の物語は「新たな章」に入るような様相だった。祖父が上富良野村に入植して畑を開いて暮らしを続けて30年程を経ていた。農地を一家が取得するには至らず、小作農家という立場が変わらず、経済的に豊かではないが、大正15年は穏やかな正月も過ごした。その一家が、大災害に巻き込まれてしまう。終盤は読んでいて涙ぐんでしまう感さえ在る。 作品の底流に「因果応報でもない人の人生」と「如何に向き合うのか?」というようなことが在るように思う。本作の終盤の大災害で、失われた生命も在り、そして生き残った人達が在って、生き残った人達のその後が凄く気になった。 或る意味で「古典」という趣も在る本作に、美瑛で何度も聞いたことが切っ掛けで出会えた。凄く善かったと思う。

Posted byブクログ

2023/09/01

貧しい小作の一家が貧しいなりに正しく生きてるのに、貧乏を理由に惨めな目にあいまくって、がんばっても報われないし金がないせいで進学諦めなあかんし姉ちゃんは金がなくて嫁入り準備もできんし、母ちゃんと婆ちゃんは病気になるし、なのに嫌なやつは金持ちになって、最後は兄弟以外の家族が土砂災害...

貧しい小作の一家が貧しいなりに正しく生きてるのに、貧乏を理由に惨めな目にあいまくって、がんばっても報われないし金がないせいで進学諦めなあかんし姉ちゃんは金がなくて嫁入り準備もできんし、母ちゃんと婆ちゃんは病気になるし、なのに嫌なやつは金持ちになって、最後は兄弟以外の家族が土砂災害にのまれて死ぬ。 正しく生きる意味とは?耕作の気持ちが痛いほどわかりやるせなくなる。 最後の兄の言葉に人とは何かを考えさせられる。 「なあ、兄ちゃん。まじめに生きている者が、どうしてひどい目にあって死ぬんだべな」 「わからんな、おれにも」 「こんなむごたらしい死に方をするなんて…まじめに生きていても、馬鹿臭いようなもんだな」 「おれはな耕作、あのまま泥流の中でおれが死んだとしても、馬鹿臭かったとは思わんぞ。 もしもう一回生れ変ったとしても、おれはやっばりまじめに生きるつもりだぞ」

Posted byブクログ

2023/08/10

30代40代50代と3回再読 そのくらいオススメ 読む年代で感じ方が変わりますね(深まります) 50代での再読では市村キワ(耕作達の祖母)と同い年になってしまった 生きていられる内10年一度の再読続けたいな

Posted byブクログ

2023/07/11

先月の旭川山旅をキッカケに読了。十勝岳の噴火被害は、泥流津波だった。当時の開墾農民、それぞれの人間ドラマの描き方は著者の真骨頂。苦難の歴史は続編に続く。

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2023/11/07

ヨブ記を題材とした、正しく生きるとは、善く生きるとは何か(=信じるとは何か)を苦難を通して表現した作品。 ヒューマンドラマの形式で、 信仰心(正しく生きる)とは何かを、寓意的に読者にわかりやすく説明していく。 「善因善果・悪因悪果の否定」という構造で非常に分かりやすく信仰心を...

ヨブ記を題材とした、正しく生きるとは、善く生きるとは何か(=信じるとは何か)を苦難を通して表現した作品。 ヒューマンドラマの形式で、 信仰心(正しく生きる)とは何かを、寓意的に読者にわかりやすく説明していく。 「善因善果・悪因悪果の否定」という構造で非常に分かりやすく信仰心を理解できる一方で、物語全体が善行善果になってしまっているのも否めない。 本家の「ヨブ記」自体も同じ構造になっているので、本当の意味での信仰の深さや神秘性を、言葉や物語を通して表現する事に限界があるのかなと感じました。 一般大衆向けに書かれていると思うのでしょうがないですが、ニーチェが言うところのルサンチマンに陥ってしまわない様な、深みや神秘性がもっと見たかったです。

Posted byブクログ

2023/05/07

「おれはな耕作、あのまま泥流の中でおれが死んだとしても、馬鹿臭かったとは思わんぞ。もう一度生れ変ったとしても、おれはやっぱりまじめに生きるつもりだぞ」 どんな理不尽が襲いかかっても拓一は真面目に生き続ける、作中でのその姿勢に何度も感動させられた。 拓一・耕作兄弟と家族の幸せはもう...

「おれはな耕作、あのまま泥流の中でおれが死んだとしても、馬鹿臭かったとは思わんぞ。もう一度生れ変ったとしても、おれはやっぱりまじめに生きるつもりだぞ」 どんな理不尽が襲いかかっても拓一は真面目に生き続ける、作中でのその姿勢に何度も感動させられた。 拓一・耕作兄弟と家族の幸せはもうすぐ近くというところで、この災害が起きた。泥流に迷わず飛び込む兄、拓一。厳しい環境で育った男の強さに驚くばかり、本当に昔はこんな感じだったのだろうか。 実際にあった出来事を基にした作品ならではのリアリティーを感じることもできた。迷わず続編も買ったくらいに、拓一・耕作兄弟のこれからの挑戦が気になった。

Posted byブクログ

2023/02/26

久しぶりに三浦綾子氏の作品に手を出してみる。 作品を通底している北の大地と貧困と愚直さ。 いくら理不尽であっても真面目に生きようとする姿に胸を打たれる。 現代でいうと3.11の津波を彷彿とさせる災害の中でもがく姿は、目を背けたくなるが直視しなくてはならぬ厳しさを伝えてくる。 続泥...

久しぶりに三浦綾子氏の作品に手を出してみる。 作品を通底している北の大地と貧困と愚直さ。 いくら理不尽であっても真面目に生きようとする姿に胸を打たれる。 現代でいうと3.11の津波を彷彿とさせる災害の中でもがく姿は、目を背けたくなるが直視しなくてはならぬ厳しさを伝えてくる。 続泥流地帯も是非読みたい。 2023/02

Posted byブクログ

2022/08/28

真面目に一生懸命に生きていたのに。自然にはそんなこと関係ない。小作人だの水飲み百姓だのと馬鹿にされ、どれだけ働いても生活は楽にはならない。行きたい学校にも行けない。母は遠くに働きに出ており、それもまた馬鹿にされる要因に。しかし祖父母が愛情深く孫たちを守り、立派に育てあげる。もう少...

真面目に一生懸命に生きていたのに。自然にはそんなこと関係ない。小作人だの水飲み百姓だのと馬鹿にされ、どれだけ働いても生活は楽にはならない。行きたい学校にも行けない。母は遠くに働きに出ており、それもまた馬鹿にされる要因に。しかし祖父母が愛情深く孫たちを守り、立派に育てあげる。もう少しで母に会える、妹も大喜びだ。なのに十勝岳が噴火し、泥流が家族を奪った。真面目に生きることに意味はあるのか?ただただ、読後感が悪い。じっちゃまたちには幸せになって欲しかったなあ…

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2022/08/10

貧しさ故に進学を諦めたり、百姓が勉強してなんになると言われたり、借金の方に売られたり、そういう時代だったんだなんだなとしみじみ思う。 後半ここで十勝岳の噴火がくるのか!耕作の母が帰ってくるという嬉しいニュースがあったというのに…。 じっちゃん!ばっちゃん!良子!涙が止まらん…。自...

貧しさ故に進学を諦めたり、百姓が勉強してなんになると言われたり、借金の方に売られたり、そういう時代だったんだなんだなとしみじみ思う。 後半ここで十勝岳の噴火がくるのか!耕作の母が帰ってくるという嬉しいニュースがあったというのに…。 じっちゃん!ばっちゃん!良子!涙が止まらん…。自然災害は人間の生活とは関係なく誰の上にも平等にやってくる。辛い。

Posted byブクログ

2022/01/01

三浦綾子さんの本は結構読んだが、その中でもとりわけ素晴らしい。続泥流地帯も楽しみ。 (12/31/2021)

Posted byブクログ