スティル・ライフ の商品レビュー
後を引くみずみずしさがある小説です。いくつかの次元を俯瞰的に見つめるときの穏やかで静かな熱を感じました。寺田寅彦の随筆などに通ずるものがあります。
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これだけあらすじの説明に意味を成さない本を読んだのも初めてのような気がします。美しい文章の積み上げられた様はまるで幾何学模様。物語としての体裁は整えられているものの、その物語自体よりも構成された素材の美しさに目を取られます。 【本文抜粋】 この世界がきみのために存在すると思って...
これだけあらすじの説明に意味を成さない本を読んだのも初めてのような気がします。美しい文章の積み上げられた様はまるで幾何学模様。物語としての体裁は整えられているものの、その物語自体よりも構成された素材の美しさに目を取られます。 【本文抜粋】 この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。 世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。 きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。 はい、僕には何を言っているのかさっぱり分かりません。でもこの言葉を目にした瞬間の印象でこの本の受け止め方が決まるような気がします。言葉遊びの中に広がる世界観。気持ちのいい世界です。突き放したようで、穏やかに見つめているようで。 【本文抜粋】 雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っていっているのだ。静かに、滑らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。ぼくはその世界の真中に置かれた岩に坐っていた。岩が昇り、海の全部が、厖大な量の水のすべてが、波一つ立てずに昇り、それを見るぼくが昇っている。雪はその限りない上昇の指標でしかなかった。 きっとこの本を読んだ人の多くが心に焼き付いたこのシーン、どれだけの才能が有ったらこんな言葉を捕まえる事が出来るんだろう。
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まだ人生を迷っている主人公が、アルバイト先で知り合った謎の男・佐々井の「仕事」に協力し、仲を深めるとともに、彼を鏡に自己をも深めていくストーリー。同じ屋根の下で生活をしながらも、絶妙な距離感で交わされるコミュニケーションが妙で、佐々井が持つ独特の世界観に思考を重ね、次第に影響を受...
まだ人生を迷っている主人公が、アルバイト先で知り合った謎の男・佐々井の「仕事」に協力し、仲を深めるとともに、彼を鏡に自己をも深めていくストーリー。同じ屋根の下で生活をしながらも、絶妙な距離感で交わされるコミュニケーションが妙で、佐々井が持つ独特の世界観に思考を重ね、次第に影響を受けていく。淡々としながらも、徐々に変化していく「ぼく」に、いつの間にか自分をダブらせて読んでいた。
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昔この小説が話題になっていたころに読んだのに、すっかり内容を忘れていて。ツイッターでこの小説の話が出て、久しぶりに読んでみたら、ぶわっと、その当時のことが甦った。私は当時新宿に住んでいて、紀伊國屋書店で本を買って、歌舞伎町のジャズ喫茶でその本を読むという、生意気な若者だった。この「スティル・ライフ」を読み始めたとたん、紀伊國屋の本の陳列の様子なんかが、頭の中に降臨してきたのである。そのくらい当時を象徴する一冊だったのだと思う。 淡々と話が進んでいく中で、主人公のように、徐々に価値観が変わっていく瞬間がある。自分の指をずっと摺り合わせていると、1枚の紙があるような感触になる、心地よい錯覚、のような。自分自身もざらついた粒子のひと粒で、こんなにじたばたと生きているのに、静かに降り積もっていくような。 どうして、こんな物語を忘れていたんだろう。 この本も私の脳の中の、ざらついた粒子のひと粒だからなんだろうか。
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ジャパニーズ雰囲気映画の典型のような小説。毒にも薬にもならない。 25年くらい前に南果歩主演でTVドラマ化されたはず。そっちを見てみたい。
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・この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。 世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。 きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。 でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。 大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離を置いて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。 たとえば、星を見るとかして。 二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。 水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。 星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。 星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
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たまに、「おっ」っと思う比喩があるが、あとは特にどうということもない。たいして面白くもなんともない。
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持ち物がとても少ない人が出てくる小説だと何かで見て読んでみたのですが、わけありで住居を転々としている人でした。 それはさておき頭の良さそうな人がたくさん出てくるお話です。
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再読。 チェレンコフ光 雪の中を登っていく感覚。 世界と自分は並び立つ二本の木。 「冷(ひ)いやりとした感じ」
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標題作のみについてのレビュー。 芥川賞受賞作に対して面白いの面白くないのと論評するのも烏滸がましいが、純文学としては読みやすく、また、そこに詩的表現がちりばめられた、佳作という印象。 オチについて語る気は無いが、彼らの日常めいたものを描くのに、この文体と進め方はピッタリなのだろ...
標題作のみについてのレビュー。 芥川賞受賞作に対して面白いの面白くないのと論評するのも烏滸がましいが、純文学としては読みやすく、また、そこに詩的表現がちりばめられた、佳作という印象。 オチについて語る気は無いが、彼らの日常めいたものを描くのに、この文体と進め方はピッタリなのだろうなと思いつつ読んだ。 もう一つ、実は最近の作品である「星に降る雪」を読んでの謎が、この作品を読むことで氷解したことにも触れておきたい。著者は、かなりな苦労人なのだということが、よく理解できたのも、この作品ならではかと思う。
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