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華岡青洲の妻 の商品レビュー

4.2

104件のお客様レビュー

  1. 5つ

    37

  2. 4つ

    44

  3. 3つ

    12

  4. 2つ

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2024/12/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 「夫の母親は、妻には敵であった」。  敬愛していた於継(おつぎ)に請われて華岡家に嫁いだ加恵(かえ)。実の親子のように仲良く暮らしていた日々は、3年間の京都遊学を終えた夫 雲平(うんぺい)--後の青洲--の帰郷によって突如終焉する。表面的には普段どおりでも、何事においても嫁を蔑ろにするようになった於継を加恵は憎悪し始め、対抗する……。  自分こそが“家”(=当主)に最も頼みとされる女でありたいという、嫁と姑の静かで激しい争い。雲平が麻酔薬を開発すれば、その実験台として2人して名乗り出、張り合う。母/妻の鑑として周囲には美談めいて伝わるが、その内実はエゴイスティックで醜い。  結果的に加恵のほうが実験により貢献するが失明する。「お母はんに勝った」と得意気な加恵に、病に倒れた義妹 小陸(こりく)は2人の間柄は見ていて恐ろしかった、女二人で争わずに済むから自分は嫁に行かなくて幸福だったと告げる。慌てて於継を褒めちぎって取り繕う加恵に小陸はさらに言う、「そう思うてなさるのは、嫂さんが勝ったからやわ」と。  家制度の呪縛され、翻弄される女性の悲しさ。当主となる男児を産んだと自分する姑 於継と、血縁という壁に阻まれる嫁 加恵。妻や母になっても味わう女性の苦難を、当の息子で夫の雲平は鈍感なのか黙認しているのか何の反応も示さず、研究者や医者としての欲望を優先する。舞台設定は江戸時代だが、女性が透明化され、女性同士の争いですら男性に利用される理不尽さは現代にも通ずるものがある。嫁姑間の凄まじい葛藤を浮き彫りにする作者の腕に感嘆するばかり。映画版(増村保造、1967)ではこれほど伝わらなかった。  本書に関して強いて欠点を挙げるとすれば、註解が多すぎること。年少の読者を想定しているのか、昭和62(1987)年5月の改版からの構成なのか分からぬが、あまりに頻出で読み進めるのに難があった。

Posted byブクログ

2024/10/22

「世界史を変えた薬」の本から、この本にたどり着いた。日本にこんな凄い人がいたとは驚きだが、本は青州をめぐる母と妻の争いがメイン。人体実験は、恐ろしい。作家の有吉佐和子さんは53歳で急性心不全で亡くなられた。同年齢で同じ死因で亡くなられた我が友を思い、読了した。

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2024/09/29

世界で初めて全身麻酔下での手術を成功さてた華岡青洲の妻加恵と青洲の母御継の物語。青洲じゃなくてこの二人にスポットライトを当てているのが面白い。封建社会であった江戸時代において嫁姑問題は今よりも激しかったのか。嫁いだ加恵は華岡家に馴染んだかのように思っていたが青洲が留学から帰ってき...

世界で初めて全身麻酔下での手術を成功さてた華岡青洲の妻加恵と青洲の母御継の物語。青洲じゃなくてこの二人にスポットライトを当てているのが面白い。封建社会であった江戸時代において嫁姑問題は今よりも激しかったのか。嫁いだ加恵は華岡家に馴染んだかのように思っていたが青洲が留学から帰ってきてから御継の態度が変わりあくまでも加恵は他所の人という態度を取られる。そこから二人は見えないところでバチバチの関係になるも青洲の妹の小陸以外それに気づかない。青洲が麻酔薬の通仙散を開発し研究するに至り二人は自身を実験台として差し出す。ここでもどちらが先に実験するか、どちらがより貢献できたかで張り合っていて女って怖いなと思う一方でそれに気づかない青洲と周りの鈍感さに驚く。1回目の実験で視力を失っているにも関わらず夫への気遣い及び姑への勝ち誇る気持ちで加恵はそれを隠していたのはすごいなと思った。 実際のところ二人の関係はわからないがそういう歴史の見方もあるんだなと。

Posted byブクログ

2024/07/19

嫁姑関係にイライラ。ストーリーは面白いと思うが、最後まで誰にも共感できずに終わった。医療技術の進歩の裏には必ず犠牲となった先人がいる、という点には確かにはっとさせられた。

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2024/04/10

とても日本らしい嫁姑関係が主題の作品。 話の舞台は江戸時代後期、でもこの小説が書かれたのは1960年代くらいだから、2世代・3世代くらい前まではどの家庭でも似たような感じだったんだろうか(今もか)。 日本が近代化して150年くらい経つけど、家庭レベルではまだまだ日本は封建的だって...

とても日本らしい嫁姑関係が主題の作品。 話の舞台は江戸時代後期、でもこの小説が書かれたのは1960年代くらいだから、2世代・3世代くらい前まではどの家庭でも似たような感じだったんだろうか(今もか)。 日本が近代化して150年くらい経つけど、家庭レベルではまだまだ日本は封建的だってことだ。

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2024/03/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 通仙散を完成させる過程において、加恵は光を奪われ、於継も命を失った。彼女たちの犠牲は青洲の成功を導いた美談として語られ、華岡の家を栄えさせることになる。この物語から、封建社会において、女が一人の人間としていかに「在ったか」ということに想いを馳せずにはいられなかった。  於継は息子の青洲をこの上なく愛しており、嫁である加恵のことを疎ましく思っている。しかし、その憎い嫁を連れてきたのは於継だ。これは加恵を連れてくることが青洲(雲平)にとって、青洲を中心とする華岡家にとって最良の選択だと考えていたからである。青洲が帰郷するまで、二人は仲睦まじい嫁姑の関係を築けていた。青洲を介することによって、於継は加恵を許せず、加恵もまた於継を許せなくなってしまった。  外で広く活躍することは許されず「家」という内の空間がすべての女たちにとって、「家」そのものである青洲の愛を得ることこそが、自分の存在を確かにするためのただ一つの方法だったのであろう。母である於継の目の前で青洲が加恵に口移しで解毒剤を飲ませる場面の艶めかしさが思い出される。  小陸や於勝だって家の中で働かされ続け遂には病に斃れたという点で「家」の犠牲になった女というのには違いないのであろうが、本作品でいう本当の犠牲とは、自分の存在や生きる意義というものを家長たる男の愛に委ね、そのために家の中で憎み合い意地を張り自らの身を捧げるということの、滑稽さやみじめさ、おそろしさに現れているのではないだろうか。

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2024/01/06

今更ながらの同書ですが読む気になったきっかけは、ここ数年ずっと冬場に霜焼けが酷くて皮膚科に行ってもさして好転せずにこの冬たまたま出会った漢方軟膏が存外に効き目あり♪ しかもこれは遥か昔の江戸時代にかの華岡青洲が創案した軟膏であると! この著書の名前は聞いたことがあるし大昔にず...

今更ながらの同書ですが読む気になったきっかけは、ここ数年ずっと冬場に霜焼けが酷くて皮膚科に行ってもさして好転せずにこの冬たまたま出会った漢方軟膏が存外に効き目あり♪ しかもこれは遥か昔の江戸時代にかの華岡青洲が創案した軟膏であると! この著書の名前は聞いたことがあるし大昔にずいぶん愛読され且つ映画もドラマも大ヒットした記憶があるんだけど、こんなきっかけで初めて読む気になったのであります笑 いやあ青洲の妻と姑との長くて物凄い葛藤の物語だったのですね! 医家の嫁に相応しいと早くから見込まれ請われて嫁いだ加恵と、非の打ち所がないと近辺で評判の姑 於継の二人だったけれど、世間で言うところの嫁姑の関係どころではない静かだが激しい憎悪があらゆる部面で影に日に展開する様が凄いこと!そして間に立つ青洲のいずれにも付かず離れずの絶妙な態度と立ち位置、依って見習うべし⁈ 江戸時代に世界で初めて全身麻酔のもと乳癌手術を施し成功した青洲もさることながら、競って自身を捧げて彼に協力し支えたとされる二人の女性の意地と意思の張り合いがなんとも凄まじい。 同時に華岡青洲という人物の断片も知ることが出来て、遅きに失したとは言え遅ればせながらも読めてほんとに良かった‼︎

Posted byブクログ

2023/11/02

恐らく中学時代…先輩が書いた読書感想文で本書を知った。 1804年(文化元年)世界初の全身麻酔による乳ガン手術に成功した華岡青洲。その成功の裏には自ら実験台になることを願い出て失明した妻 加恵の内助の功があった。感想文にあったそんなあらすじを読んで、すぐさま「自己犠牲がテーマか…...

恐らく中学時代…先輩が書いた読書感想文で本書を知った。 1804年(文化元年)世界初の全身麻酔による乳ガン手術に成功した華岡青洲。その成功の裏には自ら実験台になることを願い出て失明した妻 加恵の内助の功があった。感想文にあったそんなあらすじを読んで、すぐさま「自己犠牲がテーマか…」と気が進まなくなった。 理由は単純で、エゴ極まりない10代の頃は誰かのために尽くしたり何かを差し出したりすることに対して、激しい嫌悪感を抱いていたから。何がそのような行動を取らせるのか、まだ理解できていなかったのもある。 そうして自分のエゴを優先していくあまり、本書の存在は記憶に埋もれていったのだった。 そして1年ほど前、知人から本書をレコメンドされてようやく今辿り着いた。 加恵の行動は自己犠牲を表していることに変わりはないが、それ以上のテーマが中で逆巻いていたことに気づいてゆく。 いわゆる「嫁姑問題」。しかも「彼女ら」の場合はページを追うごとに特殊な域に達していき、しまいには「加恵の置かれていた立場を考えると、あの自己犠牲も当然の成り行きだったのかな」とまで思わせる結果となった。 これは感想文を書いた先輩にだって想像してもしきれるものではなかったはず…。 物語の主人公 加恵は元々紀州地侍 妹背家の出だった。 士の娘が何故医家の華岡家に嫁ぐことになったのか。それは必然的なもので、加恵を請いに華岡家当主の妻 於継(おつぎ)が妹背家を訪れた時から全ては動き出していた。 夫(華岡雲平、のちの青洲)が遊学中の際も寂しくならずに済んだのは、小姑たちと協力して家を切り盛りしていたこと、そして何より於継の存在が大きかった。憧れだった於継に迎え入れられたことが加恵の心の支えになっていたのだ。 それがある出来事を境に二人の関係性は暗転してしまう…。この時の加恵の心情を代弁するなら「可愛さ余って憎さ百倍」が妥当だろう。 ありがたいことに今の自分は嫁姑問題で悩むことは一切ないが、加恵が家の一員になろうと試行錯誤する様子は中学時代とは比べ物にならない程よくわかる。 青洲に自分や自分の子供を認識してもらおうと必死になるところだってそう。そのためには於継との腹の探り合いやある種の化かし合いにエネルギーをつぎ込まねばならないが、彼女はいくらでも厭わなかった。 人々の間で加恵と於継は青洲を支える良き妻と母として語り草になっている。冒頭の読書感想文の他に読んだ歴史漫画にも、加恵の献身は美談として描かれていた。でもそれが全てだろうか? 映画『タイタニック』の「女の心は海のように秘密がいっぱいなの」というセリフを思い出す。美談で輝く水面下で本当は何があったのか、それは二人にしか分からないこと。 でもラストのくだりを読んでみると、実は青洲には全てお見通しだったんじゃないか。分かった上で、地球のように海ごと包み込んでいたんじゃないか。そう思えて仕方がないのだ。

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2023/09/20

いくら創作と言っても、実存した家庭の内部をこんな風に書いてしまっていいのか?と、余計な心配をしてしまいました。それくらい、嫁姑の完璧な確執がドラマチックです。 文体は古風だが、読みやすい。 難しい単語に注釈が付いている本を久しぶりに読みました。スマホが出現してから辞書を開くことが...

いくら創作と言っても、実存した家庭の内部をこんな風に書いてしまっていいのか?と、余計な心配をしてしまいました。それくらい、嫁姑の完璧な確執がドラマチックです。 文体は古風だが、読みやすい。 難しい単語に注釈が付いている本を久しぶりに読みました。スマホが出現してから辞書を開くことがなくなってしまったから、この注釈を読むのも面白かったです。

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2023/04/03

鬼気迫る本。構成に隙はなく、時代考証も的確。江戸時代のことを昭和の時代に描いたものなのに、人間の本質に鋭く切りこむ著書の筆致により、全く古さを感じさせない。嫁姑という難しいテーマを、それぞれの登場人物達の全く異なる立脚点を取り込みながら描いていく。著者は、三十代の若さで、なぜ、そ...

鬼気迫る本。構成に隙はなく、時代考証も的確。江戸時代のことを昭和の時代に描いたものなのに、人間の本質に鋭く切りこむ著書の筆致により、全く古さを感じさせない。嫁姑という難しいテーマを、それぞれの登場人物達の全く異なる立脚点を取り込みながら描いていく。著者は、三十代の若さで、なぜ、そんなことができたのだろうか。男性の当方には、想像もつかない。21世紀になっても、この作品を原作として、舞台上演がなされていたことも分かる気がする。

Posted byブクログ