個人的な体験 の商品レビュー
理念や概念について語るのではなく、個人的なことを語ることでかえってそれが普遍性をもつことがあるのではあるまいか、的なところ(正確ではない)に私はすごく心打たれた。situation的な意味で「状況!」なんて叫んで人の人生が普遍化されがちな(あるいは無化されるともいえるような)中で...
理念や概念について語るのではなく、個人的なことを語ることでかえってそれが普遍性をもつことがあるのではあるまいか、的なところ(正確ではない)に私はすごく心打たれた。situation的な意味で「状況!」なんて叫んで人の人生が普遍化されがちな(あるいは無化されるともいえるような)中で強度の「個人的」出来事に遭遇した彼の言葉は、別に障害者の息子を持っていなくても、個人的人間としての「人」を励ます強さをもつ。(受け入れ乗り越える的な結末はいささかサルトル的気持ち悪さで書かれているとはいえ)
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大物著者が何十人も存在する30年代の中でも、安部公房と並び、文才と想像力と洞察力が極めて突出している大江健三郎の名作。なるほど物語の締めは流れからすると何だかぎこちないが、生きる・生かすことに固執した著者の心が出ている素敵な作品だと私は評価したい。
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私が生まれる前から存在していた作品なのに、とても新鮮でクール。あの穏やかな顔から想像できない作風でした。それにしても、男って自分勝手でちょっと腹立たしかった。
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最近、自分自身が大江さんの作品の主人公とカブってきている。ような気がしてならなくなってきている。葛藤と逃避と、それでも結局は受け入れていくしかない現実にどう折り合いをつけていくか。それが問題なんだ、と僕は捉えてみた。けれど、それがあっているかはわからない。ええ。(10/11/25...
最近、自分自身が大江さんの作品の主人公とカブってきている。ような気がしてならなくなってきている。葛藤と逃避と、それでも結局は受け入れていくしかない現実にどう折り合いをつけていくか。それが問題なんだ、と僕は捉えてみた。けれど、それがあっているかはわからない。ええ。(10/11/25)
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表現力に圧倒された。重すぎる現実からの逃避をやめて覚悟を決める場面の描写(「答えはゼロだ」)が一番心に残った。全然小説とは無関係だけど、若い頃相当やんちゃした人ほど、大人になってすごく礼儀正しくて家族思いのいい人になってるのを思い出した。きっとこういう心の転機があったんだろうなと...
表現力に圧倒された。重すぎる現実からの逃避をやめて覚悟を決める場面の描写(「答えはゼロだ」)が一番心に残った。全然小説とは無関係だけど、若い頃相当やんちゃした人ほど、大人になってすごく礼儀正しくて家族思いのいい人になってるのを思い出した。きっとこういう心の転機があったんだろうなと思った。
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主人公の鳥は、頭部に特徴を持ち生まれてきた息子から、逃げ続ける。 彼は遊戯に逃げ、酒に逃げ、女に逃げる。 読み進めるうちに、少しずつ自分を重ね、ラストに期待を抱く自分を見つける。まるでこの本が、自分の背中を押してでもくれるように。 思えば、今の世の中は不安だらけだ。放射能汚染、...
主人公の鳥は、頭部に特徴を持ち生まれてきた息子から、逃げ続ける。 彼は遊戯に逃げ、酒に逃げ、女に逃げる。 読み進めるうちに、少しずつ自分を重ね、ラストに期待を抱く自分を見つける。まるでこの本が、自分の背中を押してでもくれるように。 思えば、今の世の中は不安だらけだ。放射能汚染、世界恐慌、年金介護問題、それに、諸々の人間関係だってそうだ。 数え上げればきりがなく、どれも避けて通りたい。しかしながらわたしはまだそのいずれにも、ちゃんと当事者として関わったことがない。知識なんて、テレビやネットのゴシップ的記事や良くて書籍だ。だからこそ、不安が募るのかもしれない。 守りたい自分は空っぽだと気付いたとき、人は今を受け入れられるのだろう。こんなありふれた言葉、今ならどんな自己啓発本にでも書いてあると思う。でもそれを、こんなふうに斜め下の視点から映し出した本はなかなか無いとも思う。 空っぽだと気付いたから、特別なことをする必要はないのかもしれない。案外逃げる自分を乗り越えていたら、前に進んでいるものなのかもしれないなぁ。
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(1994.12.14読了)(1994.11.05購入) (「BOOK」データベースより)amazon わが子が頭部に異常をそなえて生れてきたと知らされて、アフリカへの冒険旅行を夢みていた鳥は、深甚な恐怖感に囚われた。嬰児の死を願って火見子と性の逸楽に耽ける背徳と絶望の日々…。狂...
(1994.12.14読了)(1994.11.05購入) (「BOOK」データベースより)amazon わが子が頭部に異常をそなえて生れてきたと知らされて、アフリカへの冒険旅行を夢みていた鳥は、深甚な恐怖感に囚われた。嬰児の死を願って火見子と性の逸楽に耽ける背徳と絶望の日々…。狂気の淵に瀕した現代人に、再生の希望はあるのか?暗澹たる地獄廻りの果てに自らの運命を引き受けるに至った青年の魂の遍歴を描破して、大江文学の新展開を告知した記念碑的な書下ろし長編。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
大江健三郎にしては、一定の結末まで書かれた作品。こんれを読んだあと、生まれてきた娘に『イチゴ状血管腫』が発症し、ますますこの作品に感情移入した。これを読んでいたから、我が子に異常が出ても、狼狽することなくそれに向き合えた。
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頭部に重大な障害を持って生まれてきた我が子の死を願い、病院からの訃報の電話を待ちつつ女友達の家で鬱々と過ごす青年「鳥」の紆余曲折、心の宙づり状態と暴かれていく欺瞞を描いた青春小説。 おそるべき表現力。 個人的で微細なニュアンスの表現を重ねていくことでむしろ普遍性を獲得していくよ...
頭部に重大な障害を持って生まれてきた我が子の死を願い、病院からの訃報の電話を待ちつつ女友達の家で鬱々と過ごす青年「鳥」の紆余曲折、心の宙づり状態と暴かれていく欺瞞を描いた青春小説。 おそるべき表現力。 個人的で微細なニュアンスの表現を重ねていくことでむしろ普遍性を獲得していくような文体は「小説」という形態の一つの理想形のように思える。 物語云々という以前に、作者独特の視点や、ユーモア、言葉の選び方の技巧が抜きんでており、もはや何を書こうが面白い気配さえある 当時批判があったと言われる物語終盤の展開は自分としてもやや物足りない感覚があったが、それについて言及した巻末のあとがきが良かったので帳消し。
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やはりこれまでの流れを全く逆転させてしまう最後に疑問を持った。しかし、作者自身の解説を読み一応の納得はできた。退廃的な雰囲気がずっと続くので苦手な人も多いかもしれない。
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