個人的な体験 の商品レビュー
とにかく重厚、濃密な文章で書かれている。 文体の範囲内において、物語の主人公は行動や思考をすることになる。液晶の解像度のようなもので、多彩な語彙や表現によって形作られた文体があってこそ、人間の複雑な心理を映し出すことができる、とまでは必ずしも言い切れないのかもしれないが、この作品...
とにかく重厚、濃密な文章で書かれている。 文体の範囲内において、物語の主人公は行動や思考をすることになる。液晶の解像度のようなもので、多彩な語彙や表現によって形作られた文体があってこそ、人間の複雑な心理を映し出すことができる、とまでは必ずしも言い切れないのかもしれないが、この作品の世界観はやはりこの文体によってこそ支えられているのではないか、と感じた。
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はじめての大江健三郎作品。著者が長男誕生を題材にした小説であるとあとがきで知る。主人公の鳥(バード)は、当初、難産の末、長男が生まれた際には頭に大きく醜い瘤があり、うまく生き延びても植物以下だと担当の医師から脳内ヘルニアという診断を受ける。それを妻に知らせることが出来ず、大学時代...
はじめての大江健三郎作品。著者が長男誕生を題材にした小説であるとあとがきで知る。主人公の鳥(バード)は、当初、難産の末、長男が生まれた際には頭に大きく醜い瘤があり、うまく生き延びても植物以下だと担当の医師から脳内ヘルニアという診断を受ける。それを妻に知らせることが出来ず、大学時代からの女友達である日見子との性とウィスキーに倒錯していく。終盤、知人の医師に赤ん坊の処理を委ね、兼ねてより興味のあったアフリカへ逃亡を画策するも…。 結末が急に意外な方向に振れ、少々戸惑う。
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読み終わって一言、文中の言葉を借りるなら 「怪談だ!正常じゃない(183項)」だなぁ。急に打ち切りが決まった連載漫画よろしくラストシーンは怒涛の展開を見せるわけだが、当時としては(今もか)珍しい作者のあとがきと合わせて読むと、人だもの感じるものはある。まぁ赤ん坊を抹殺して火見子と...
読み終わって一言、文中の言葉を借りるなら 「怪談だ!正常じゃない(183項)」だなぁ。急に打ち切りが決まった連載漫画よろしくラストシーンは怒涛の展開を見せるわけだが、当時としては(今もか)珍しい作者のあとがきと合わせて読むと、人だもの感じるものはある。まぁ赤ん坊を抹殺して火見子とアフリカに渡る夢のような選択肢を手に入れた時も、どうにも晴れないもやもやを鳥は抱えていたわけだし。 何にせよ、文中の「不幸の鬼」は実は火見子だったというオチで、最後のゲイカウンターの場面なんかは、火見子は昔の鳥本人に化けていたんじゃないかと思えた。別の人と行くと言う選択肢にああもあっさり火見子が辿り着くのは、作者の都合でもなんでもなく、取り付いていた鬼が退散したから or アフリカに連れて行く男の子は多次元的な宇宙に生きるもう何人かの鳥のうちのひとりだと火見子は思い直したからだとか、読み終わった後に考えると面白い。 死者の奢りやら飼育やら戦いの今日やら読んだ後の2作目だったので、そのギャップに驚く一方で鳥のコミカルにもすぎるあまりの屑人間っぷりを多彩なレトリックで表現する大江健三郎の文才っぷりには感動した。 中でも冒頭の、少年たちに絡まれるシーンにある「弱い連中を見るといじめないではいられない粗暴な子供の欲望に身震いしてかれらは、パンチ力500の哀れな羊を襲撃すべく追いかけてきたのだ」 涙流して笑った。一生忘れないと思う。笑
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
最低な行為をしている時は必ず人間は、どこかで常に自分の最低さを、わかりすぎるくらいに「わかっている」。 読みながら最低だなと思いながらも「当然」の行為だなと自分自身、思ってしまうところが、バードと共に最低な行為を犯してしまっている。 ラストのバードの改心(?)があまりにも突然だと言う批評を読んだが、単にあまりにも自然なだけだと思う。人間の改心のきっかけなんてそんなものだ。 私としては火見子に対してだけ、かわいそうだな、と感じたが、火見子は所詮そういう扱いを受けて当然の女なのだと思う。悲しいけれど。そういう人っているし、そういう状況ってあるのだ。
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話の本質が掴めるまで時間がかかった。読み終わった後に初めて物語の全体像が見えてくる。後味が強烈な作品。
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バードという主人公は頭部に障害を持って生まれてきた子どもの親となったにも関わらず、現実から逃げて女友達の火見子との情事とアフリカ旅行を計画していた。しかし、突然逃げるのを止めて現実を受け入れて子どもの親になることになる。
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大江健三郎の本をたくさん読んでいるわけではないけど、彼の本の主人公は、どうにも好きになれない。卑屈で、自意識過剰で、性的欲望に流されすぎる。そのくせ、英雄的行為に憧れたり、肉体的な強度を求めたりする。気持ちが悪い。男性読者にとっては感情移入しやすいのだろうか。こういう私小説の主人...
大江健三郎の本をたくさん読んでいるわけではないけど、彼の本の主人公は、どうにも好きになれない。卑屈で、自意識過剰で、性的欲望に流されすぎる。そのくせ、英雄的行為に憧れたり、肉体的な強度を求めたりする。気持ちが悪い。男性読者にとっては感情移入しやすいのだろうか。こういう私小説の主人公のような男性とは、あまり親しくなりたくはない。
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大江健三郎の、説明的にならない圧倒的な情景描写の洪水に飲み込まれる。 驚異的な比喩の嵐に圧倒される、精神的ジャーニーのロードムービー小説。 頭部に特徴のある赤ん坊を授かった、27歳青年。 その嬰児がアフリカ行きの夢を奪う怪物ではないのかと錯覚に囚らわれ、安寧な死を願う。 衰弱死...
大江健三郎の、説明的にならない圧倒的な情景描写の洪水に飲み込まれる。 驚異的な比喩の嵐に圧倒される、精神的ジャーニーのロードムービー小説。 頭部に特徴のある赤ん坊を授かった、27歳青年。 その嬰児がアフリカ行きの夢を奪う怪物ではないのかと錯覚に囚らわれ、安寧な死を願う。 衰弱死の報告を待つ間中、かつての女友達と性行に耽る最低のクズ野郎。 自分の人生に無価値を見出すのを止め、欺瞞と立ち向かい試練に正面から向き合えるか? そんな男の、または子に対する父の、心の動きに身をつまされる一冊。 著者もあとがきで書いているが、二つのアステリクス以降は確かに必要ないかも知れない。 そこ以前で終わっても、作品としては成立する。 むしろ私が作者なら、そこで止めるだろう。 敢えて、それ以降に拘った大江健三郎の意図を体感して頂きたい。 余談だが、アーケードに「鉄の処女 二十世紀タイプ」があれば私もプレイしてみたい。
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27歳の「バード」というあだ名の青年は名前のとおりちょっとふわふわした男の子。子供が頭部に異常を持って生まれてきて、アフリカ旅行の夢が潰えたと自暴自棄な生活を送り、悩みを深めていくが、最後にはわが子とともに生きる選択をする。ちょっとふわふわした頼りないけれど憎めない男性が父親とし...
27歳の「バード」というあだ名の青年は名前のとおりちょっとふわふわした男の子。子供が頭部に異常を持って生まれてきて、アフリカ旅行の夢が潰えたと自暴自棄な生活を送り、悩みを深めていくが、最後にはわが子とともに生きる選択をする。ちょっとふわふわした頼りないけれど憎めない男性が父親として目覚める時を描いた作品であると解釈した。バードだけじゃなくて、登場人物誰もが、諦めとか覚悟とか妥協を持ちながら生きている姿がなんとも人間臭くてよかった。
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自分にもし子供が産まれて、もし障害を抱えていたら…。男版のマタニティーブルーと言えるだろうか、女に逃げ酒に溺れ現実逃避…。けれど主人公が父として自覚を持ち子供に向き合おうとしていく過程が巧く書かれている。
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