個人的な体験 の商品レビュー
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鳥が世界中でただ1人、彼の身に降りかかる異常児を巡る運命と信じる悲惨に、人間が元来備えるニヒルで利己的な心情を当人の堕落と衰退にのせて壮大に描いた作品。 自身にとって、前身だろうが後退だろうが、自分を取り囲む欺瞞の罠を掻い潜り、解放しながら受け止めて対処することが生きるということ。 鳥が見舞われていた異常児の問題は、周りの他人たちが共有している時間や運命からは完全に孤立した「個人的な体験」であった。 だからこそ、自身が受け止めて対処することが重要。 「個人的な体験」に情人である火見子が自ら参入し、共通の体験として解決に精進するのは、感慨深かった。 また、突発的に「脆い」という概念の素晴らしさにも気づいた。 今にも崩壊しそうだが、自らの姿形を保つために重力に抗う性質がこの言葉には含まれている。 脆いとは、力に抗う反骨心。脆いとは、攻撃され続けても、それでも尚、立ち続ける反逆精神。
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最初の5ページくらいがなかなか進まなくて、読もうと思ってるうちに図書館の返却期限きちゃった ストーリーは気になるからまたじっくり読みたい〜
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若々しいオーケンの漲るパワーが籠った一作。 結末の纏め方は賛否あり、作者本人も葛藤があったとコメントしているが、それを差し引いても当時の文学作品の中ではインパクトと熱量で抜けている作品だと感じる。
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短編集『空の怪物アグイー』と間髪入れずに読む。 しかしまあ、大江作品の女性の理屈っぽさよ(笑 相変わらずまわりくどくねちっこい観念的な文体が心地よい。 彼のような文体、たぶん外国語ではちゃんと訳せない気がする。ということは海外の日本語訳の小説もちゃんと訳せていないんだろうな。やは...
短編集『空の怪物アグイー』と間髪入れずに読む。 しかしまあ、大江作品の女性の理屈っぽさよ(笑 相変わらずまわりくどくねちっこい観念的な文体が心地よい。 彼のような文体、たぶん外国語ではちゃんと訳せない気がする。ということは海外の日本語訳の小説もちゃんと訳せていないんだろうな。やはり原文で読まないといかんのだろう。わしにはできないけれろ。 20代ですでにほぼ完成した作家なんだなぁ。 でもたしかに2つのアステリスク(*)後はいらないと、私も思う。
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あまりにも考えられない病院側の反応に困惑したことから始まりました。嫌な現実から逃げようとする主人公。それを受け入れる関係をもった女性。しかし主人公は前向きに変わっていった。 スワヒリ語のくだりと、沢蟹を探す熊みたいなんて感じの表現が好き。
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はじめての大江健三郎作品を読みました。 1964年に発表された作品です。 作者の子どもが、脳瘤のある障害を持って生まれたことをきっかけにして書かれた作品。主人公は同じ立場で描かれますが私小説ではなくあくまで体験に着想を得て書かれた小説です。 最初から半分くらいまで読むに耐えな...
はじめての大江健三郎作品を読みました。 1964年に発表された作品です。 作者の子どもが、脳瘤のある障害を持って生まれたことをきっかけにして書かれた作品。主人公は同じ立場で描かれますが私小説ではなくあくまで体験に着想を得て書かれた小説です。 最初から半分くらいまで読むに耐えない話で、主人公の自意識過剰さと、ろくでもなさ、自分勝手で鬱陶しい性格にほとほと嫌気がさし 『なんでみんなこれを名作だと言うのか? これが人間の本質だというなら 自分も含めて全員滅んだ方がいい』 と思うほどの残念さと倦怠感がありました。 こらえて読もうと半分を超えた頃から、 嫌悪感が共感に変わり、見守り願い気がついたら読み終わっていました。 あの気持ちから、ここまで連れてこられたことにとても驚きました。読んでよかったです。 また、形容する言葉や表現が面白く 突飛な例えが出る度に、これはクセになる。と自分の中に作者の言葉が染み込んでいく感覚がありました。
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自身の体験を基にした小説、なのだろうか。脳ヘルニアの子供の出産を受けて本作品を執筆した大江氏であるが、作中の様は子供に対する愛情や希望ではなく嫌悪である。脳ヘルニアを抱えた子を出産した青年の葛藤や苦悩ではなく逃避である。極めて衝撃的な独白である。それは小説のなかの話であったか私小...
自身の体験を基にした小説、なのだろうか。脳ヘルニアの子供の出産を受けて本作品を執筆した大江氏であるが、作中の様は子供に対する愛情や希望ではなく嫌悪である。脳ヘルニアを抱えた子を出産した青年の葛藤や苦悩ではなく逃避である。極めて衝撃的な独白である。それは小説のなかの話であったか私小説であったのか。三島由紀夫氏には評判が悪かったようだが、ラストのある種の希望溢れたハッピーエンドは大江氏自身の現実逃避であったように思う。 逃避した現実の未来、脳ヘルニアを持して生まれた大江健三郎氏の息子大江光氏は一流の演奏家・作曲家として活躍している。
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まぁなんちゅうてもグイグイ引き込まれました。 ずっと打ちのめされたボクサーみたいな気分で読み進めました。 ページをめくるのが惜しいくらい楽しませてもらいました。 セオリー通りに主人公は変わりながらも、ゲームセンターにたむろする少年たち、変な名前のヒロイン、堕胎医、石ころの少年、...
まぁなんちゅうてもグイグイ引き込まれました。 ずっと打ちのめされたボクサーみたいな気分で読み進めました。 ページをめくるのが惜しいくらい楽しませてもらいました。 セオリー通りに主人公は変わりながらも、ゲームセンターにたむろする少年たち、変な名前のヒロイン、堕胎医、石ころの少年、菊比古、物分かりの良い義父など、無造作に整列させている。 なんかボコボコにされた気分。
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8割読み進めて、ああこの主人公は赤ん坊から逃げているんだなと、彼の苦悩を理解しながら読み進めることが出来た。彼のどことなく周りの荒波から離れて静かな池の中にポツンと浮かんでいる様な他人事の様な心情。それでも遂に、自己欺瞞の罠から這い出て新しい命を受け止めようとする姿。 人間の闇...
8割読み進めて、ああこの主人公は赤ん坊から逃げているんだなと、彼の苦悩を理解しながら読み進めることが出来た。彼のどことなく周りの荒波から離れて静かな池の中にポツンと浮かんでいる様な他人事の様な心情。それでも遂に、自己欺瞞の罠から這い出て新しい命を受け止めようとする姿。 人間の闇を照らし、光を見つけようともがく様が 力強く、そして達観された文章で著されている。 読み始めて暫くは、様々な視点からあらゆる生々しい比喩を用いて描いている所に急速に惹かれていった。しかし、終盤の主人公【気づき】にもっと理性的なものを含ませて欲しかった。現実世界と混乱させてしまっているかもしれないが、物語に埋もれさせず、パンチ力のある自己欺瞞からの解放を描いてほしかった、、という勝手な思いから、 評価は星四つです。
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男(なのか、人なのか)の身勝手さを感じた。 時代背景が違うにも関わらず、今読んでも古くない、人間の本質を描いている。
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