死者の奢り・飼育 の商品レビュー
自分にとって大江作品初体験の作品。 芥川賞受賞作「飼育」や処女作「死者の奢り」を初めとした6つの短篇が収められている。 どの作品にも感じられる主人公の置かれる他者からの差別の念との葛藤。また特に描かれるのは戦中戦後派作家だけあり、米国人に対する恐怖と彼等に蔑まれることから生まれる...
自分にとって大江作品初体験の作品。 芥川賞受賞作「飼育」や処女作「死者の奢り」を初めとした6つの短篇が収められている。 どの作品にも感じられる主人公の置かれる他者からの差別の念との葛藤。また特に描かれるのは戦中戦後派作家だけあり、米国人に対する恐怖と彼等に蔑まれることから生まれる日本人としての恥とへつらいに如何にして折り合っていくかと言う内省。 外国人を他者として描かれる作品として、文学的表現、ストーリーテリング、哲学観にも最も優れたのは芥川賞受賞作である「飼育」に違いないが、自分が好んだのは「人間の羊」と言う短篇。 バスの中で荒げる外国人兵に脅され、四つん這いで下肢を晒される主人公を含む日本人乗客者たち。散々外国人兵に蔑まれ屈辱から消えてしまいたい主人公の念。それにもかかわらず傍観者となった他の日本人乗客の一人の教員の男に正義感を振りかざされ、この事態を世に訴えるべきだと振り回される。だが主人公はかかされたその恥から一刻も早く逃れてしまいたい。 世の虐めの現場で僕はよくある事態だと感ずる。傍観者が第三者だけでしかなく救いの手をその場では差し伸べないのに、正義感面をして自己満足で虐められた人間を振り回す。虐められた側にとってこれ程の屈辱は無い。 大江がこの信義を「人間の羊」の中で、人の世の正義の傲慢さとして描き出してくれた事に僕は感謝するし、その洞察に敬意を払う。今更だが見逃せない作家として彼の書を今後も手に取っていきたいと思う。
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個人的には芥川賞受賞作品の「飼育」と「人間の羊」が特に印象に残った。 大江健三郎さんの作品はこれが初めてだが、独特な比喩表現が時には難解ではあったがどの作品も惹き込まれるような雰囲気があった。 他の作家作品にはないような設定がまた面白かった。
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他人の足が1番好きでした。 最初はあんまり意味わかんね〜なって思いながら読んでたのが、どの作品もいつの間にか夢中になっていきました。なんかどれも良い気持ちで終わらないのが良いっすね。めちゃおもろかったす。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
他人の足が面白い。同志だと思っていた仲間が贋物だとわかった瞬間や気持ち悪くて卑しく終わっていく最後がたまらなかった。 人間の羊も良かった。最初は正義感の為に動いていた教員が次第に壊れていく様はとても怖かった。
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はじめての大江健三郎、 比喩、隠喩がかたく無骨な感じ。 やっぱり男の人の書く文章がすき。 人間の物質的な皮膚や匂いや汗、皺、表情、感情の表し方が鮮明で刺さり込んでくるような文章。 複雑な感情が入り混じった情景。 硬い渋い表現で、でもものすごく立体感がある。 強烈な、インパクトの...
はじめての大江健三郎、 比喩、隠喩がかたく無骨な感じ。 やっぱり男の人の書く文章がすき。 人間の物質的な皮膚や匂いや汗、皺、表情、感情の表し方が鮮明で刺さり込んでくるような文章。 複雑な感情が入り混じった情景。 硬い渋い表現で、でもものすごく立体感がある。 強烈な、インパクトのある物語が多かった。 戦争時代を感じさせる情景、雑多で不潔で荒々しい様。 これを20代前半で書いていたなんて、すごい。 ・健康さが、僕の躰の中で幾たびも快楽的な身震いを起こした。 ・狂気のような期待、熱い酔いのような感情が皮膚の裏をぱちぱち弾けながら駆け回った。 ・小さなあくびがいくつも僕らの細い喉へあふれ、その度に僕らは透明で意味のない涙を流すのだった。
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あまりに暗く重たいテーマばかりで一つ一つが衝撃的だった。戦中戦後の村社会、敗戦国民である日本人が背負う心の闇、社会の闇など改めて考えさせられた。この様な闇や社会問題を抱えながら高度成長を遂げ現在に至る事を痛感し、そして忘れてはならないのだと思う。 『死者の奢り』で死体処理の仕事を...
あまりに暗く重たいテーマばかりで一つ一つが衝撃的だった。戦中戦後の村社会、敗戦国民である日本人が背負う心の闇、社会の闇など改めて考えさせられた。この様な闇や社会問題を抱えながら高度成長を遂げ現在に至る事を痛感し、そして忘れてはならないのだと思う。 『死者の奢り』で死体処理の仕事を蔑む発言をする大学教授、『他人の足』で脊椎カリエスの少年達の閉鎖された空間における日常は印象的且つ衝撃的。『人間の羊』における正義感が間違った方向に一人歩きする様は、現在のコロナ禍における「自粛警察」という言葉を思い起こさせた。
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薄暗くてじめじめとした雰囲気が作品全体から感じられる。一つ一つの作品に粘着質でずっしりとした重みがあって、考えさせられる。おすすめです。
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なんだかんだ大江作品を読了しきれなかったまま来たようで 短編集に改めて向き合ってみると、なるほど確かにといった感覚と同時に 個人的な嗜好として長編で読むにはくたびれそうだとも思わされた。
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特に死者の奢りが素晴らしかった。どこか突き放した様な、でも肉薄してくる表現、文章。短編でなかったら、星5だったと思う。
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2020.1.31 大江健三郎の主題とする「分断と閉塞感」が一挙に伝わる内容だった。 詳細な分析はこれからしていくので以下はメモ。 ・三人称視点の構造 ・触覚的な分断表現 ・軽蔑に似た排他表現
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