海と毒薬 の商品レビュー
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私がこの本を手にしたのを見て、父親が「海とは何なのか、毒薬とは何なのか、を考えて読んでみたら」と言ってくれた。 この話には海がたくさん描かれていて、特に海の音が恐ろしさを孕んでるようだった。 海に毒薬が一滴落とされたとしても、海の中で毒薬は紛れてしまう。大部屋で体が弱り死んでいく患者たちと生体解剖によって死んだ白人の捕虜、社会的地位の獲得に奔走する医師たちと良心の呵責を感じれない戸田、戦争で人を殺したことがある一般市民と生体解剖に関わった勝呂医師……。うまく言えないけど、「海と毒薬」はそういう対比を表してるのかなぁ、と考えてる……。
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人体実験は科学の進歩に大きく寄与している必要悪である、しかし正当化して良い理由にはならない。関わったものが皆何かしらの罪を背負い生き続けていくことに意味がある。
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中学生のころ読書感想文で読んだ 薄くて時間がかからなそう、と安易な理由で読んだけど内容があまりに凄くて今でも気持ち悪い あれからん十年また再読してみようと思う
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過去に九州大学で起こった捕虜による生体実験が行われた事件をもとに描かれた小説。 九州で戦時中アメリカ兵が数人つかまり、その処遇を国にもとめたところ捕虜収容所がいっぱいなため、そちらで処分?してくれと言われる。 そのため、その捕虜たちは近々九州で処刑される予定だったが、 大学病院が「生体実験を行うため数名ほしい」と手を挙げた。 捕虜たちは「健康診断をしてもらえる」と喜んで病院にはいるが、彼らは生きながらにそれぞれの実験により死亡することとなった。 勝呂はその実験に参加することとなった。断れなかった。 その実験に至る葛藤、 ある看護師がそこにいくまでの人生、 ある若い医師もその大学病院にいくまでのいろいろがあり。 その日はやってきた。 だが勝呂は怖くなって手術室の端っこでふるえているしかなかった。 若い医師は終わってから、自分に罪悪感のないことに戸惑う。 実験を見学した日本軍の隊員たち(そこそこ偉い人たち)を含めて、病院の偉い人たちはその実験のすぐあと、 ある医師の送別会で宴会を開く。 そこに、さっき亡くなった捕虜の肝が運ばれていく・・・ っていうものすっごい胸糞悪い小説でした。 古くて保存状態のわるいモノクロフィルムの映画をみているよう。 それがなおさら不気味でした。 冒頭、戦争が終わって、勝呂はある都会から外れた町で町医者をっしている様子がうかがえます。 気胸で針を打ってもらいに行くが、こんな田舎の暗い医者がうまくできるのかと不安ながらも、妹の結婚式に行かねばならないのでかかってみると、 この医者がとんでもなくうまく針を打つので、びっりする・・ ってところからはじまるんですが、 この都会から離れた町、のんびりして平和で人々は穏やかなように見えて 実はあっちの店の主人も、こっちの店の主人も、出兵して幾人もの人を殺していたりするんですよね。 でも戦争ではそれはよしとされ、罪にもならず、平和にすごせる。 勝呂は医者として、生きてる人の命を自ら断つことができなかった。 が、彼はずっとそれを引きずって生きている。 その感じもおも~~~~く感じられて、 読み終わってから、もう一回、冒頭の町の様子を読み返しました
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終始鳥肌が出るほど衝撃的な内容でした。 時代背景もあるかもしれませんが、人間ってどうなんだろ? 日本人って周りに流されて酷いことしてしまう人種多いと考えてしまいました。 勝呂だけが普通っぽく、、続編が気になります。
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衝撃的な内容だった。人間にがっかりする話だった。 今までの経験に重ね合わせて、たしかにって納得する部分があった。 続編があるらしいから、そちらに救いがあることを期待する。
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これは凄かった。正統派の倫理観を「人間の尊厳とは何か」を突き詰められたような小説だ。 私は意外とサイコパスな戸田という人間の方が人としての黒さが無いように感じる部分もあるなと思った。 勝呂があの手術の後から、最初の主人公に出会うまでのところも読んでみたかった。
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第二次世界大戦下、大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を描く作品。 タイトルに『海と毒薬』とあるように、海が登場人物の心理と絡めて描かれていている。特に生体解剖参加の打診を受けた勝呂が自分の意思で決めるのではなく、流れに流されていく様と暗い海が迫ってくる様子が重要な表現になっ...
第二次世界大戦下、大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を描く作品。 タイトルに『海と毒薬』とあるように、海が登場人物の心理と絡めて描かれていている。特に生体解剖参加の打診を受けた勝呂が自分の意思で決めるのではなく、流れに流されていく様と暗い海が迫ってくる様子が重要な表現になっている。 解剖に参加した看護師上田と助手の戸田の内面がそれまでに至る経緯と共に、かなりの字数で描かれており、共感はできないが理解できるという感じ。上田の嫉妬というか、自分の失ったものを違う形で埋めたいというかもリアルな内面だと感じる。戸田の罪悪感がない自分が不思議で怖いという感情は、特にこの小説の肝になっている。自分が流され、何もできないことに罪悪感を感じる勝呂と戸田が対比的に描かれているのも明らか。 勝呂は冒頭に後日談の形で姿が出てくることで、余計に印象に残りやすいが、罪悪感に苛まれつつも、結局医者を続けているあたり勝呂の方が戸田よりも面の皮が厚いのではと思う…。戸田の後日談がないので、どうなったかはわからないけれども。 上田、勝呂、戸田の内面がかなり細かく描かれている分、橋本部長の内面が一切出てこないので、橋本部長が最後どういうつもりで手術室前に立っていたのかを読み取りたい。
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「どうせ死刑にきまっていた連中だもの。医学の進歩にも役だつわけだよ」 太平洋戦争末期の1945年5月、九州帝国大学(現・九州大学病院)医学部の医師らが、米軍爆撃機B29の乗員で捕虜となった米兵8人を人体実験に利用した事件が基となっている作品。 作中では罪悪感に苛まれる者、未来...
「どうせ死刑にきまっていた連中だもの。医学の進歩にも役だつわけだよ」 太平洋戦争末期の1945年5月、九州帝国大学(現・九州大学病院)医学部の医師らが、米軍爆撃機B29の乗員で捕虜となった米兵8人を人体実験に利用した事件が基となっている作品。 作中では罪悪感に苛まれる者、未来の医学のためだと信じる者、現実から目を背ける者、様々な人物の思考が入り乱れて実験が進んでいく。この実験によって大勢の命を救ったとも言えるし、そのために一人の命を軽視したとも考えることができる。個人的には例え相手が米軍だったとしても、人間である以上命の重さは平等だという気持ちが強かったし、その場にいる以上誰もが悪人であることには変わりないと思った。 それに実験の内容が内容なだけに擁護はしづらい。血管の中に食塩水や空気を注入したり、肺の片方だけを切り取って何秒生き延びられるのかを計測したり等々。いくら医学のための実験だとしても結構惨いことをしているし、半ば実験を楽しんでいたのだろうとも感じる。手術の描写も映像が鮮明に浮かぶから、尚更ページをめくる手が重かった。 ただ、戦時中という極限状態の中で、日々多くの命が失われ、死が間近にある環境で過ごしていると判断が鈍ってしまうのも理解はできる。そこに至るまでの描写も丁寧で巧かったし、決して登場人物たちを完全な悪人にしなかったのも良かった。宗教的な要素も強くて、無宗教が多い日本ならではの話でもあるなと感じた。安易な言い方になってしまうけれど、「善とは、悪とは」について考えさせられたし、倫理観にずしんと響いてきた。 要所要所で挟まれる立原道造の『雲の祭日』から引用された一節「羊の雲の過ぎるとき 蒸気の雲が飛ぶ毎に 空よ おまえの散らすのは 白い しいろい 綿の列」という詩がとても良い味を出していた。本編のどんよりとした暗さに相反して、その詩の美しさが際立っていた。戦時中という極限状態の中で、この詩を思い返せばそりゃ涙も溢れてくるはずである。自分の中でもとても好きな詩になった。 あとこれは余談なのだが、九州大学病院のすぐ近くには海があり、著者の遠藤周作はそこの屋上で手すりにもたれて雨にけぶる町と海を見つめて『海と毒薬』という題名を思い付いたという。この美しいエピソードが、さらに本書の魅力を引き立てていた。
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表現が具体的すぎて特に手術シーン、情景はありありと浮かんだのですが残酷過ぎると感じました。 その中でも現実をしっかり見せてくれる書き方が好きです。
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