砂の女 の商品レビュー
村に着いたときからこの世ではないどこか別世界に行った感覚。自分が主人公になってしまったらと想像すると恐ろしい。読んだ後に悪夢を見た気がする。主人公の心情変化が見どころだと思う。
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想像力がたっぷり効いた小説は、読み終わって元気をもらうとか、悲しく切ない気持ちになるとか、そういう感情の軸を選べない、複数の感情が混沌とした心持ちになるものである。安部公房の小説を読んだのはこれが初めてであったが、村上春樹や江戸川乱歩の幻想ものに対して、全体的に角張ったような印象...
想像力がたっぷり効いた小説は、読み終わって元気をもらうとか、悲しく切ない気持ちになるとか、そういう感情の軸を選べない、複数の感情が混沌とした心持ちになるものである。安部公房の小説を読んだのはこれが初めてであったが、村上春樹や江戸川乱歩の幻想ものに対して、全体的に角張ったような印象を受けた。それでも安部公房が描く幻想の世界がもたらす混沌は、村上春樹や江戸川乱歩が描くそれに決して劣らない。 安部公房の幻想世界に「角」を感じたのは、おそらく、村上春樹や江戸川乱歩の作品では場あるいは登場人物が生きている世界そのものが既に幻想化されているの対し、安部公房の作品では場なり登場人物が存在している世界そのものは現実性を失わないギリギリのところに設定しつつ、登場人物の思考の世界あるいは思考を通して見た場や世界の描写を幻想化させているからだと思う。登場人物が生きる世界、そして生きている中で与えられる様々な場は、どんなに幻想的に描こうとしても超えられない一線がある。つまり、小説の中に描かれている場なり世界は、例え現実にはあり得ないとしても、読者がその中で登場人物が生きていることを想像できるものでなければならない。そこには我々読者の経験との繋がりがあり、現実世界との繋がりがあるのである。これに対して思考はまったくの自由である。自由気ままにあっちに思索を巡らしてみたり、こっちに思索を巡らしてみたりすることができる。読者が皆理解できるよう論理を組み立てる必要もない。意味を成す必要すらない。この自由奔放であるが故の不連続性、不規則性が「角」となって現れていたのであろう。 安部公房の描く思考の中の幻想世界の描写は知的ゲームのようである。分かるものもある。分かるようで分からないものもある。まったく分からないものもある。寧ろ分からないものの方が多いと思う。しかしこれらが渾然一体となって作り出す幻想世界に浸りたくて、難解な描写を何度も読んでしまうのだ。この作品にはそんな魅力があると思う。
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私の頭には難しかった。 比喩は「分からないけど、まったく分からんでもない」みたいなものが多い。 もうちょっと賢くなった頃にまたチャレンジします。
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自由には固有の価値があると信じて疑わなかった男が、充足した不自由に絡め取られるに至る話。 ハイライトは終盤。 砂の沼地から助け出され穴に戻された男は、一応はその目的を見失わずに再起を図り、穴の中での生活を確立しはじめる。しかしその時点で、彼の目的への拘りと確信、砂穴生活の否定は、女に反駁されて狼狽えてしまうほど脆くなっていた。 畢竟、「生活の単純な反復のなかに融けこ」んで砂に順応していったのであり、「手段の目的化による鎮痛作用ってやつ」に満足させられてしまったのだった。 日常の反復に甘んじ、すっかり従順な作業者たるのは女や男だけでなく、集落の連中、彼の同僚たち、そして我々小市民みな同じことだ。 中流農家の長男が家出をしたことについて男と女が問答をしていた一節で、結局は故郷の外だろうが穴の外だろうが、穴の中と同じく反復に生きていることが示唆される。日々作業に追われて日銭を稼ぎ、物質的な充足を達成する生活は真の自由といえるのか。違うとして、果たして本当に自由は充足した不自由に勝るのか。 観念的にみえてとても実際的な問いを発してくれる作品。
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⚫︎受け取ったメッセージ 本当の自由とは。 ⚫︎あらすじ(本概要より転載) 欠けて困るものなど、何一つありはしない。 砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界二十数カ国語に翻訳紹介された名作。 砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、...
⚫︎受け取ったメッセージ 本当の自由とは。 ⚫︎あらすじ(本概要より転載) 欠けて困るものなど、何一つありはしない。 砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界二十数カ国語に翻訳紹介された名作。 砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。 ⚫︎感想 時代や場所を越える普遍のテーマ「自由とは何か」 ルールや世間の閉塞感や束縛からの自由を、人は安易に求めがちであるが、解放され、手に入れたそれは、本当に自由なのか。自由意志というものは、あるのか。アイデンティティとは何か。 「砂」=「自由」の象徴 砂はどこにでもある。男にとって砂は自由の象徴のようなものであり憧れだった。 しかし砂と砂の女は容赦なく男を追い詰め、インテリだった彼をどんどん原始化する。 「希望」=罠 仁木はカラスを捉える罠に「希望」と名づける。 自由と希望はセットで語られがちだ。だが、どちらも恐怖を想起させる。自由を安易に考えてはいけない。希望は絶望に変わり得る。果たしてそれらを受け止められる自分なのか。 「自由」とは 縛られて得られる安心だが窮屈な人生を選ぶ自由、 縛りから解放されて不安定な人生を選ぶ自由、 戦後、自分の命を国に捧げよと強制られることは無くなった。窮屈に見える自由、不安定に見える自由、、、基本的に生きる上でどの状態に身を置くか、「自由」なのである。
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昔の名作は 何を伝えたいのか読み解けないし それゆえに、読書を楽しむことができずに避けてきたけど、 今は以前よりはちょっと楽しむことができる。 「反復」や「規律」、言ってしまえば みんなが通るべきとされる「普通」のレール それに疲れるのは現代でもある引きこもりなどに通じる。 そ...
昔の名作は 何を伝えたいのか読み解けないし それゆえに、読書を楽しむことができずに避けてきたけど、 今は以前よりはちょっと楽しむことができる。 「反復」や「規律」、言ってしまえば みんなが通るべきとされる「普通」のレール それに疲れるのは現代でもある引きこもりなどに通じる。 そして、そういう生きづらいレールから外れても 大きな視点から見れば 「規律」からは逃れられないし だからこそ、大きな決められた流れの中にいても 生きていける喜びを見つけること それが人生じゃないかなー。 昔の作品は 文字を読むだけじゃ埋められない余白が多いおかげで 逆に心地よく読むことができるかも。
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少し描写が私には難しいなと思いました^^; 内容もリアリティーからかけ離れた幻想的な世界に入り込んでいて、「砂」についての本で所々読みづらさを感じてしまいました、、。 ドナルドキーンさんの解説がこの物語の要約、ポイントになっていて納得できました( ◠‿◠ )
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砂に閉じ込められた男の心情の変化が綴られているけど、表現が独特で僕にはあまりピンと来なかった。 こんな砂の壁はどこにでも存在するしこの男みたいになるのも容易に想像出来るところが恐ろしい。
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10/22 22:57 比喩が非常に多く、読み進めるのに多少の労力が必要だった。 適応能力と洗脳に近いものを感じた。 置かれた場所から逃げることすら出来なければ、そこで最大限に生きやすい暮らし方を見つけるもの。 現代においても生きづらさや窮屈さ、理解のできない事はたくさんあ...
10/22 22:57 比喩が非常に多く、読み進めるのに多少の労力が必要だった。 適応能力と洗脳に近いものを感じた。 置かれた場所から逃げることすら出来なければ、そこで最大限に生きやすい暮らし方を見つけるもの。 現代においても生きづらさや窮屈さ、理解のできない事はたくさんあるが、その中で自分がいかに生きやすく過ごすかを大切にしていきたい。 今もこの世界のどこかでこのような部落や閉鎖的な所があるのかと思うと、ゾッとするが、 女のように、そこで生きる人にとってはそこが幸せな場所なのである。
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砂の生活への充足感も徐々に高まり、溜水装置という武器をも手に入れた男には、もはや罰などない。罰がなければ、逃げる楽しみもないのである。 創造力に長け、それでいて正確な比喩によって、じめじめとした砂が皮膚にまとわりつく感覚は忘がたい。
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