壁 の商品レビュー
人間の内と外を安倍公房的な哲学で描かれていました。 名前を失った男はその身だけを持ち彼の「存在」自体は名刺に奪われてしまう。 「存在」がない故に社会的存在理由もなく「社会からの除外」という一般的認識から=犯罪者(弾かれる側)として裁判に掛けられます。 壁に阻まれるのではなく壁に沿...
人間の内と外を安倍公房的な哲学で描かれていました。 名前を失った男はその身だけを持ち彼の「存在」自体は名刺に奪われてしまう。 「存在」がない故に社会的存在理由もなく「社会からの除外」という一般的認識から=犯罪者(弾かれる側)として裁判に掛けられます。 壁に阻まれるのではなく壁に沿って何処までも行ける自由に成る程と思いましたが、隔たる壁に自ら自由を創造し突き進むというのは中々斬新だなと驚きました。 消える身体や奪われる影など、肉体と精神の分離表現が特徴的ですが、「物体」と「精神」が同一個体として存在する固定的な考えではなく、 心さえ夢を描ければ何処にでにも行けて何にでもなれるのではないかと思いました。 難解な上に狂気じみた作品集に思えますが、 「壁」という閉鎖的な印象よりは、壁がある限り無限に自由を創造できるのではないかという前向きな印象を受けました。 年老いた頃にもう一度読みたいです。
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ある日、名前を失ってしまったことで、社会の外に放り出されることになった主人公。その世界は奇妙さを増していき、ある意味で支離滅裂な夢のようなイビツなものとなっていく表題作の『壁』と、他、二章からなる作品です。非現実的なタイプの小説です。現実性からかなり高くジャンプしています。そこに...
ある日、名前を失ってしまったことで、社会の外に放り出されることになった主人公。その世界は奇妙さを増していき、ある意味で支離滅裂な夢のようなイビツなものとなっていく表題作の『壁』と、他、二章からなる作品です。非現実的なタイプの小説です。現実性からかなり高くジャンプしています。そこには、現実性の強い重力から逃れながらも、現実性から逃れたがゆえの、孤独による、よるべなさのようなものがあります。しかし、その世界観といい、文体といい、何故かとても心地よくもあるのです。その幻想世界にある、現実社会を照らすするどい寓意。それはメインに表だって飾られたものではなく、うっすらと感じる程度に内包されているというか、抽出的に読解してみることで感じられるものだったりします。
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好きなのは「S・カルマ氏の犯罪」。かなりカオスな世界観です。 この本の題名は『壁』ですが、この世界に壁という壁がなかったなら、わたしもあなたもあったものじゃないし、すべては溶け合い、それこそまさにカオスなんだろうなと思います。 でも人はそれぞれ名前を持ち、身分証明書やI...
好きなのは「S・カルマ氏の犯罪」。かなりカオスな世界観です。 この本の題名は『壁』ですが、この世界に壁という壁がなかったなら、わたしもあなたもあったものじゃないし、すべては溶け合い、それこそまさにカオスなんだろうなと思います。 でも人はそれぞれ名前を持ち、身分証明書やIDカードによって自己を識別してもらい社会生活を営む。もしかしたら社会で生活しているのは、『私』ではなく、『私の名前』のほうなのかもしれない。 なら、『私』の行き場はどうなってしまうのだろう。 実存主義の思想を感じます。 阿部公房は、人間が、あって当たり前だと思っているものを、次々に取り上げていって再び混沌の渦の中へ放り込むことで、そこでもがく姿に人間を描こうとしているんだと思う。 そんな、人それぞれな解釈はおいておくとしても、ただ単純に面白いです。 ある朝名前をなくしていた『私』と『名刺』との権力争い。 シュールです。ナンセンスです。言葉あそびの極致です。 名刺が会社に行って仕事をします。名刺や帽子や万年筆たちが当たり前のようにしゃべるし、しまいには、モノたちが謎の作詞作曲をしだします笑 その歌詞は深いようでいて意味不明でかわいらしく、すごくツボです。 主人公は、果てしなく成長する壁になります。安易な解釈かもしれませんが、名前を失い、存在を口々に否定され失墜した自我が、外へ溶けだしていくことを恐れるあまりに自らが壁になってしまった…そうだとしたら切ない話です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
自分の名前を失い、職場へ行くと自分の代わりに名刺が働いている。病院へ行けば金魚の目玉がいて、からっぽのカルマ氏の胸は雑誌のグラビアのアフリカの荒野を吸収してしまう。そして動物園へ行くと・・・というくだりにどうも既視感既視感。多分、昔、最初をちょっとだけ読んで辞めたのだと思う。せむし→腹むしはちょっと面白かった。 抜粋―『「さようなら。」悲しげなY子の声が追いかけてきました。振り向きましたが、まだ視線がうまくY子を捕えない間に、「早く!」じゃけんにドアの外に突き出され、それが最後の別れになったのでした。』 結局、私にはY子がなんだったのかわからなかったけれど、このシーンはなぜかものすごく悲しかった。カルマ氏を唯一信じてくれたY子だったのに、彼は服や靴に邪魔をされたり、マネキンのY子に惑わされたりしているうちに、ゆっくり話す間もなくY子と別れることになってしまった。でも、大抵の場合そんなものなのかもしれない。 しかし、安部公房とは本当に油断ならない。例えば、友達と世間話をしていたら、「で、会社に行ったら、Aさんからすぐ『昨日泣いた?』とか言われちゃって、それで、『ちょっと飲みすぎました』とか誤魔化してたんだけど、」「うん、うん」「そしたら、金魚の目玉がいてね」「は?」「なんかよくわかんないんだけど、影を食べるとかいう狸が」「ちょっと待って、それ夢の話?」という感じの、かなり現実的な話をしていたはずなのに、いきなり足を掬われる感じの不安感がある。 で、逆に日常生活において、人の夢の話とか、突拍子もない例えや表現を聞くと「安部公房っぽいなー」と思ってニヤニヤしてしまう。
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なるほど(わからん。) さっぱり意味はわからなかったけれど、ところどころ強烈に頭に残っているシーンがある。 例えば裁判のシーンや、物が反逆を起こすシーンなど。チョークの絵の話も印象的。きっと忘れられない。
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凄いラストでした...。 安部公房がディズニー作品が好きと解説で知り、不思議の国のアリスのような展開でワクワクした後に、不穏な空気が。 それは、生きている人間が常に影のように付く"道徳"の話。 思えば始めから人道的な道徳についての内容に思います。 人間が無くな...
凄いラストでした...。 安部公房がディズニー作品が好きと解説で知り、不思議の国のアリスのような展開でワクワクした後に、不穏な空気が。 それは、生きている人間が常に影のように付く"道徳"の話。 思えば始めから人道的な道徳についての内容に思います。 人間が無くなれば、主人公のぼくが無くした影のように殆ど"道徳"が無くなる。 我々生きている者には常に"影"があり"道徳"があり、やがて生きていく上での「壁」となる。 奪う側が正義だ この言葉が、この本の本質のように思えました。
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再読。S・カルマ氏の犯罪のみの感想。喜劇調で描かれた作品だと思います。喜劇調で描かれた作品なので、社会や人間を上手く風刺できていると思います。主人公の目線で、現実・真実と、妄想・狂気の境界の世界を風刺・隠喩等を用いて描いていると思います。名刺・Y子(女性)・動物・世界の果て・壁、...
再読。S・カルマ氏の犯罪のみの感想。喜劇調で描かれた作品だと思います。喜劇調で描かれた作品なので、社会や人間を上手く風刺できていると思います。主人公の目線で、現実・真実と、妄想・狂気の境界の世界を風刺・隠喩等を用いて描いていると思います。名刺・Y子(女性)・動物・世界の果て・壁、等を隠喩を用いて、象徴として描いていると思います。その象徴をどの様に読み解くかは読者次第でしょう。 気になった所は、物語の後半に「僕」から「彼」に人称を変更した事です。おそらく何か作品に影響していると思いますが、上手く分かりませんでした。自分の部屋=世界の果ての考え方は、例えば詩や哲学では、旅の出発点が旅の終点である(T・S エリオット・四つの四重奏)、最後に精神が赤子になる(ニーチェ・精神の三段変化の思想)、これらの考え方と類似性が在ると感じました。余談ですが、出口は最初に居た部屋、という筋の映画がありました。 この作者が描く作品の主人公は、最後に「周辺」に押しやられますが、これは作者が意識して、意図的に主人公達を「周辺」に向かわせているのだと思います。文学に人・モノの光が当たらない影の部分を描く作用が在るのも原因かもしれません。現実の人生では、作者が最後に主人公達を押しやった「周辺」が、人間の成熟の始まりの場所だと思います。
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哲学的と思いきや、軽妙な文体、コミカルなストーリーでセリフにはユーモアがあふれており物語は即物的に進行し楽しみながら読むことができる、と思いきや気が付けば人間存在に対する一種の風刺に目が覚め夢の中で本を読んでいたのではないかと思わされるような感覚に包まされる。ほとんどの小説は物語...
哲学的と思いきや、軽妙な文体、コミカルなストーリーでセリフにはユーモアがあふれており物語は即物的に進行し楽しみながら読むことができる、と思いきや気が付けば人間存在に対する一種の風刺に目が覚め夢の中で本を読んでいたのではないかと思わされるような感覚に包まされる。ほとんどの小説は物語(あるいは文章)がテーマ負けしているのであるが、安部公房は矛盾した現代における人間存在という絶望的なテーマに真っ向から挑んだ稀有な作家。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『第一部 S・カルマ氏の犯罪』 朝起きると、名前を失っていた。想い出せないのみならず、自分の名前を記載した一切のものから名前が消えている。それだけでない。胸の中がからっぽになって、レントゲン写真に写っていたのは1枚の風景写真。風景写真や駱駝の窃盗の罪に問われるが、名前がないため裁くことすらできない。 「死んだ有機物から生きている無機物へ!」をスローガンに、彼の身の回りの物が革命を起こしたり、“せむし”が“はらむし”を経て、「ロール・パン氏」になったり…ああ書いててわけわからんくなってきた。カオスに次ぐカオス。うまく消化できない。 『第二部 バベルの塔の狸』 次は影を盗まれた男の物語。影を盗る“とらぬ狸”にさんざん振り回され、バベルの塔への入塔を勧められ、ロボトミー手術をされそうになる。なんとか免れるも、有害な目玉を目玉銀行に預けさせられそうになり…。 ダンテ、ブルトン、ヒッソリーニ、ニィチェ、エホバ、聞いたことのある名のついた“とらぬ狸”がうごうごしてた。 『第三部 赤い繭』 帰る家を求めるうち、糸が全身を包む『赤い繭』。 人間が液状化する『洪水』(こういう世界すき!)。 書いた物が現実に現れるチョークの話、『魔法のチョーク』。 人肉ソーセージを確信犯的に作る狂気を描いた『事業』。 第25回芥川龍之介賞受賞作。 おもしろいんだけど、カオスすぎる…。シュールレアリズムを日本語で体現するとはこうゆうことなのかな。しかし、不思議と心に残るシーンが多い。名前があるから社会的な生き物たりうるのか、社会的な生き物であるために名前があるのかな、なんて哲学的。これ1冊で『壁』という題。どういうことなんやろ。
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どうこう言えるほどの理解ができていない。 「S.カルマ氏の犯罪」は「不思議の国のアリス」みたいだし、「魔法のチョーク」は「マッチ売りの少女」みたいな話だった。 「洪水」が特にわちゃわちゃしていて面白かった。 「事業」の一昔前のホラー感も良い。
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