他人の顔 の商品レビュー
事故によって顔に深刻なケロイドを負った男性が、まったくの他人になるため仮面をつくり、仮面の人物として自分の妻と逢引きをする話。 クライマックスまで細々とした描写が続きますが、最後には大どんでん返しが待ち受けています。 それも、これまでの記述の意味を逆転させるだけでなく、一点...
事故によって顔に深刻なケロイドを負った男性が、まったくの他人になるため仮面をつくり、仮面の人物として自分の妻と逢引きをする話。 クライマックスまで細々とした描写が続きますが、最後には大どんでん返しが待ち受けています。 それも、これまでの記述の意味を逆転させるだけでなく、一点に縛り上げていた鎖を引きちぎり自由な考察の空へと羽ばたかせる効果があります。 大変面白い作品でした。
Posted by
高校の卒論で扱った小説 心の襞をめくって覗かれるような感じがします ぬるっとした風が一瞬吹いたような
Posted by
主人公は学者というだけあって物事を論理的に、筋道だてて理解しようとする。時間軸もととのっており、そのせいで主人公の仮面に自分の存在の保証を求める態度から仮面の自由へと魅せられていく変化は理解しやすい。その中で特に印象に残ったのは主人公が妻を強姦しに行く妄想をするシーンだった。そこ...
主人公は学者というだけあって物事を論理的に、筋道だてて理解しようとする。時間軸もととのっており、そのせいで主人公の仮面に自分の存在の保証を求める態度から仮面の自由へと魅せられていく変化は理解しやすい。その中で特に印象に残ったのは主人公が妻を強姦しに行く妄想をするシーンだった。そこだけは一見実際に起こったことなのか、主人公の創造なのかわかりづらく読みながら悪い夢のような印象を受けた。仮面によって主人公の屈折した欲求が現れたとみるのは安易すぎるだろうか。ここでは最後に妻によって触れられるように行動しなかったことに意味があるのではないだろうか。なぜ行動できないのか。思想と行動の一致を考えるのなら、彼がそれを行わなかったのは彼が望まなかったというだけのことで、頭に浮かんだだけで本来的に望みはしなかったのだ。仮面という自由を手に入れても彼は本当にそのような行為を望むことはできなかった。それがどういう意味か。主人公は他人の眼に映る自分の顔を描いて、仮面にのめりこんでいく。でもそれはただ映っているだけで、決して他人を描けていない。他人の心理描写が少なすぎる。常に関心は他人の目を介した自分にしか向かっていない。そこを妻にも「鏡でも覗いていろ」と指摘されるのだ。仮面に臨んでいた他人の回復と、他人の破壊ともとれる強姦は一致しない。だから主人公はそれを行動に移せなかったのではないかと思う。 そしてたぶん、この後も彼は行動に移すことはできないように感じる。
Posted by
初期の作品なので荒削りだが、一貫した著者テーマをすでに感じさせる作品。リアルな陰惨さと、男女の愛憎を表現し、顔について、深く、またぼかして表現している。雨の日に読むと、楽しめたり、喰われたりしてしまう、鮮烈な作風。
Posted by
久々の小説。面白かった!延々と続く「顔」についての考察がとても興味深かった。 完璧な匿名とは、完璧な集団に、自分の名前をいけにえとして捧げてしまうことである。それは、自己防衛のための、知能的なからくりというよりは、むしろ死に直面した個体がしめす本能的な傾向なのではあるまいか。ち...
久々の小説。面白かった!延々と続く「顔」についての考察がとても興味深かった。 完璧な匿名とは、完璧な集団に、自分の名前をいけにえとして捧げてしまうことである。それは、自己防衛のための、知能的なからくりというよりは、むしろ死に直面した個体がしめす本能的な傾向なのではあるまいか。ちょうど、敵の侵略に際して、民族、国家、同業組合、階級、人種、宗教等々の集団が、まずまっ先に忠誠という名の祭壇を築こうとするように。個人は、死に対して、つねに被害者だが、完璧な集団にとっては、死は単なる属性にしかすぎないのだ。完璧な集団とは、本来的に、加害者的な性格をおびるものなのである。完璧な集団の例としては軍隊を、完璧な匿名の例としては兵隊を、それぞれあげれば、まず理解には事欠くまい。
Posted by
顔の分析や仮面の加工工程は、理系っぽくておもしろい。 仮面の独り歩きや妻の行動に対する主人公の葛藤は、文系っぽくておもしろい。 一読で2つの味が楽しめる一冊。 ついでに、話の展開が登場人物たちの手記に頼っているところは箱男っぽいけど、こういう形式も好き。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
人の精神構造と人間性を非常にうまく表現した作品。作者の想像力にも感服する。ストーリーに惹きこまれた。仮面を被ることで人間の暴力性が露呈。顔についての社会の通用性を描き、最後でストーリがひっくり返る構成も気に入った。
Posted by
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男……失われた妻の愛を取り戻すために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき……。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、"顔&q...
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男……失われた妻の愛を取り戻すために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき……。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、"顔"というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、曖昧さを描く長編。 戦後派。 非現実的な世界を描く中に現実の不条理を浮かび上がらせる超現実主義的な手法をとり、社会の中での人間の実存を追求した。シュールレアリズム。 代表作 赤い繭、壁ーS•カルマ氏の犯罪、砂の女、他人の顔、箱男、方舟さくら丸
Posted by
多分、再読する事で評価が変わるのでは無いでしょうか。難解すぎます。事故により顔を失った主人公が、妻を振り向かせるために、苦労して造った本物そっくりな『仮面』を被る。そこからの物語の描写が殊にこの小説のテーマである『顔の必然性』を事細かく書かれています。顔が無いのであれば、国籍など...
多分、再読する事で評価が変わるのでは無いでしょうか。難解すぎます。事故により顔を失った主人公が、妻を振り向かせるために、苦労して造った本物そっくりな『仮面』を被る。そこからの物語の描写が殊にこの小説のテーマである『顔の必然性』を事細かく書かれています。顔が無いのであれば、国籍なども判らなくなるのでは無いのだろうか。では一体顔とは何なのだろうか。その様な人間としてのあいまいさを問うている作品なはずです。とにもかくにも難解すぎます。
Posted by
切ない夫婦の物語。 外見偏重主義を疑い、 人をを信じる強さを持たなければいけないと教えてくれた1冊。
Posted by