ひかりごけ の商品レビュー
こんなに凄い作家のことを今まで知らなかったことは、本当にもったいない。 物語、表現、描写、言葉、そのどれもが想いと考えに貫かれていて、情景と心象が自然と心の中に描き出される。 久しぶりに「作品を読み尽くしたい!」と思える作家にであった。 こういう出会いがあるから、読書はやめられな...
こんなに凄い作家のことを今まで知らなかったことは、本当にもったいない。 物語、表現、描写、言葉、そのどれもが想いと考えに貫かれていて、情景と心象が自然と心の中に描き出される。 久しぶりに「作品を読み尽くしたい!」と思える作家にであった。 こういう出会いがあるから、読書はやめられない、たまらない。
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どの作品も人間の業を感じた。生きることはいずれにしても業をはらんでいるものかと思わされた。障子をあるもので破るシーンは印象的であった。
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食べなければ死ぬ、だが、食べ得るものは人肉しかない、という状況で部下の肉を食べて生き残った船長。彼は、食べる前、食べた後、裁判のときと一貫して「我慢している」。何を我慢しているか?弱音を吐くことを。食べた言い訳をすることを。食べれば生き残れる確率が上がるという状況で食べないという...
食べなければ死ぬ、だが、食べ得るものは人肉しかない、という状況で部下の肉を食べて生き残った船長。彼は、食べる前、食べた後、裁判のときと一貫して「我慢している」。何を我慢しているか?弱音を吐くことを。食べた言い訳をすることを。食べれば生き残れる確率が上がるという状況で食べないという選択肢を採用すること、あるいは、止むに止まれぬ事情で食べたのであって、私は本当は食べたくなかったのだ、と心情倫理をもらすこと、ひっくるめて言い換えると、私は人間的だ、と主張することは簡単だ。そんな簡単な選択肢があるにもかかわらず、彼はなぜ我慢したのだろうか?それは、仮に食べずに精神的に救われたとしても生き残ることはできないし、仮に裁判を受け入れたとしても、食べられた人間=死者は決して許してなどくれないからだ。必要があれば、人間性、道徳、救済を括弧に入れること、そして、自分がしたことの結果に耐え、我慢し「生きる」こと。武田泰淳に教えられることは多い。
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生きるための泥臭い強さを感じる四篇 『ひかりごけ』は実際に劇として楽しみたい脚本に昇華されているように思う。光の輪、とは。 収録作品:『流人島にて』『異形の者』『海肌の匂い』『ひかりごけ』
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言いたいことは分かるんだけど、興味本位で「楽しんでいただけたら」っていうノリで実際あったことをネタにするってのがどうも・・・。 内容よりもそっちが気になりました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
船長「光の輪のついた者には、見えないんですよ。あれをやった者には、見えないんですよ。」 弁護人「しかし、俺にも見えないんだがな。」 船長「あなたに見えない? いいえ、そんなはずはありません。」 弁護人「検事にも裁判長にも、見えないんだぜ。」 船長「そんな馬鹿なこと。もしそうなら、恐ろしいこってすよ。」 罪を犯した人間の背後には「光の輪」が見えるという。 そして、その当事者には他人の光の輪をみることができない。 可視化される罪を犯した人間だけが罪人なのか―― 『ひかりごけ』では、 極限状況において人肉を喰らった船長のみが咎人でないことが示される。 実話をもとに筆をとった武田泰淳は、 並々ならぬ決意でこの話を書いたにちがいない。 船長を裁く、 または傍観する人間もまた罪を背負っているのだ。 夥しい数の人間のあいだに存在する境界線とは、 如何ともしがたく曖昧なものである。 たとえ見えなくとも、 じっと目を凝らしたい。 自身の背後にある光の輪をみるために。
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武田泰淳は初めて読んだ。食人や復讐などをテーマにした4短編。どれも人間心理の深部に迫りつつ宇宙的な世界観を渾然一体と描き出していて、素晴らしい。何より武田泰淳の文章は深くて透明で美しい日本語だと思う。僕が文章美しいなと思った日本人作家は三島由紀夫とこの武田泰淳くらい。日本文学そん...
武田泰淳は初めて読んだ。食人や復讐などをテーマにした4短編。どれも人間心理の深部に迫りつつ宇宙的な世界観を渾然一体と描き出していて、素晴らしい。何より武田泰淳の文章は深くて透明で美しい日本語だと思う。僕が文章美しいなと思った日本人作家は三島由紀夫とこの武田泰淳くらい。日本文学そんなに読んでないってのが大きいけど。
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4つの短編。「ひかりごけ」が良かった。飢餓との究極の境地にあって人肉を食べ生き残った船長が裁判にあって、ただ我慢している心境は、裁く人より救いに近づいている。13.2.16
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ひかりごけ他三編。 ひかりごけのあらすじを知ってからあまり明るいイメージは持ってなかったけど、イメージ通りでした。 「異形の者」が一番好きだった。
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離島、寺院、「共産村」と呼ばれる部落、北の最果て。 私たちの知っている日常から分断された、あるいは見放された世界。 オモテとウラ。 ソトとウチ。 覗き見をしているような興奮と後ろめたさを感じる作品集でした。
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