天人五衰 の商品レビュー
もう少しゆけば、時間は上昇をやめて、休むひまもなく、とめどもない下降へ移ることがわかつてゐる。下降の道で、多くの人は、ゆつくり収穫にかかれることをたのしみにしてゐる。しかし収穫なんぞが何になる。向う側では、水も道もまつしぐらに落ちてゆくのだ。 p.149
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輪廻転生する人物を追いかけるストーリーの最終巻。 ただ、今までのお話しが全否定されるような・・・。 自分を猫だと思い込んだネズミが、自己肯定のために死ぬ挿話と、登場人物の自死(結局失敗するけれど)がリンクする。 著者の自死まで絡めて考えると面白いのかも? ストーリー中の人物が著...
輪廻転生する人物を追いかけるストーリーの最終巻。 ただ、今までのお話しが全否定されるような・・・。 自分を猫だと思い込んだネズミが、自己肯定のために死ぬ挿話と、登場人物の自死(結局失敗するけれど)がリンクする。 著者の自死まで絡めて考えると面白いのかも? ストーリー中の人物が著者に転生しちゃったんだろう。
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輪廻転生の最終章「生」は、確かに豊饒の海であった。先の3部にあったようなスピリチュアル感は存在しない。むしろ暴力的で人間的。輪廻転生といういわば一本の川から突如大海へ流れ出たようなリアル感。というと情緒的に聞こえるが、三島の最後の仕掛けはそんな緩くない。クライマックスの聡子の一言...
輪廻転生の最終章「生」は、確かに豊饒の海であった。先の3部にあったようなスピリチュアル感は存在しない。むしろ暴力的で人間的。輪廻転生といういわば一本の川から突如大海へ流れ出たようなリアル感。というと情緒的に聞こえるが、三島の最後の仕掛けはそんな緩くない。クライマックスの聡子の一言で、「天人五衰」ならぬ「五人五衰」へと一気に落とし込まれる。そして「暁の寺」で感じた予感は確信へと変わった。透の無様な人生こそ、戦後日本の復興像に対する三島の失望感そのものであったと。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
豊饒の海シリーズの最終巻。 三巻を除いて、全体に通じる父と子の相克。 時計仕掛けのオレンジみたいな主人公・透。夭折を見届けたいと思って、逆にしっぺ返しをくらう老残の本多。そして、反逆児を追い詰める慶子。ジン・ジャンとの因縁を考えるに、彼女が透を追いこむシーンは息を呑む。 よく考えたら、三巻以外は、すべて青年が主人公で女に絶望して裏切られて死ぬ。三島は女嫌いだったのか。 透と本多が同じ心的構造をもっているとされているが、透はやはり清顕と同じ魂ではないかと思う。秀才であるが、優雅さがないだけで。 子がおらず、身寄りがないが財産だけはある本多の末期は、現代日本における高齢者問題を先取りしているかのよう。失明し、精神病の妻と暮らす透も、やがてその子によって同じ運命を辿りそうな気配。
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20150217読了。 なんなんだ、これは。最後まで読みきったときに最初に思ったこと。放り出された気分。 1巻から徐々に積み上げられていったその話が、最後の最後で崩れ去ってしまったその瞬間、すべてが夢だったのか、願望だったのか。 人が人を思う気持ちは異性に対しても同性に対してもお...
20150217読了。 なんなんだ、これは。最後まで読みきったときに最初に思ったこと。放り出された気分。 1巻から徐々に積み上げられていったその話が、最後の最後で崩れ去ってしまったその瞬間、すべてが夢だったのか、願望だったのか。 人が人を思う気持ちは異性に対しても同性に対してもおなじ。そうあってほしいという気持ちが妄想を生んでしまう。辛い。切ない。
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『彼らもそうすればよかったのだ。自分の宿命をまっしぐらに完成しようなどとはせず、世間の人と足並みを合せ、飛翔の能力を人目から隠すだけの知恵に恵まれていればよかったのだ。 飛ぶ人間を世間はゆるすことができない。翼は危険な器官だった。飛翔する前に自滅へ誘う。 あの莫迦どもとうまく...
『彼らもそうすればよかったのだ。自分の宿命をまっしぐらに完成しようなどとはせず、世間の人と足並みを合せ、飛翔の能力を人目から隠すだけの知恵に恵まれていればよかったのだ。 飛ぶ人間を世間はゆるすことができない。翼は危険な器官だった。飛翔する前に自滅へ誘う。 あの莫迦どもとうまく折合っておきさえすれば、翼なんかには見て見ぬふりをして貰えるのだ。』 豊饒の海やっと読み終わった。長かったなぁ〜。恋、使命感、エロス、自尊心をテーマにした4つの死。壮大な輪廻転生と幻と夢の物語だったなぁ。途中、何度も挫けそうになったけど、読んで良かった。
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話しの中心になる出来事はわずかしかない。あらすじならすぐに語れる。その骨格を覆う溢れんばかりの言葉。それで埋もれてしまうことのない、いやそれどころかさらに際立つ数少ない出来事。どうしてまた、そんなことが起こってしまうのか。いったい全体透とは何者なのか。どうしてそこまで悪に徹するこ...
話しの中心になる出来事はわずかしかない。あらすじならすぐに語れる。その骨格を覆う溢れんばかりの言葉。それで埋もれてしまうことのない、いやそれどころかさらに際立つ数少ない出来事。どうしてまた、そんなことが起こってしまうのか。いったい全体透とは何者なのか。どうしてそこまで悪に徹することができるのか。そして最後に月修寺へと向かう道。奈良街道は我が家からすぐのところにある。木津川を右手に下っていく。40年ほど前と景色は如何ほど変わっているのだろうか。看板はコカ・コーラではなくイオンにでもなっただろうか。60年ぶりに訪れたお寺で、どうしても会わなければならなかった人物、聡子。とうとう、最後の最後に登場した聡子。その口から出る言葉はいったい何を意味しているのか。長い時間をかけて四巻通して読んだ。純愛物の一巻、政治的そして暴力的な二巻、性癖があらわになった三巻。そして、この四巻では何が起こったというのか。不完全燃焼。ところで、絹江はどんな容姿をしているのだろう。映画化されたときの配役が気になる。
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時代は昭和40年代。“アメリカ的な物”で溢れかえる現代日本。 主人公・透が本当に月光姫の生まれ変わりなのか、確証のないまま物語は進んでゆく。そういえば『暁の寺』では、『春の雪』『奔馬』であったような転生の予言もなかった。 透のヒネクレぶりは松枝清顕のそれとはどこか違う。烈しい...
時代は昭和40年代。“アメリカ的な物”で溢れかえる現代日本。 主人公・透が本当に月光姫の生まれ変わりなのか、確証のないまま物語は進んでゆく。そういえば『暁の寺』では、『春の雪』『奔馬』であったような転生の予言もなかった。 透のヒネクレぶりは松枝清顕のそれとはどこか違う。烈しい恋慕も大義ももたず、ただただ自分だけが特別と信じ、神になりたがる。そんな透をバッサリ全否定する久松慶子がカッコイイ。透はどこか三島の少年時代のようで、三島は透を否定することによって、若かりし頃の自分を“殺した”ようにも解釈できる。 タイトルの「天人五衰」とは、天人が死ぬ前に見せる5つの兆しのことだそうだ。驕れる者も久からず。 この作品では、天人=透だと思うんだけど、だとしたら五衰の相を呈した透はじきに死ぬ? ということは、やっぱり清顕の生まれ変わり? 謎は深まるばかり。 衝撃のラストは「清顕は60年前に聡子の魂と心中しており、二人の恋は既に永遠のものとして成就していた」のだと解釈したい。 出家とは世俗の自分を“消す”ことを意味するだろうから、きっとそうだ。そう信じることにする。 全巻通してのキーワードは“阿頼揶識”。第一巻『春の雪』の終わり近くになってその説明がなされているけど、俺のように読んでもよくわからなかった人はWikipediaの「唯識」の項を読むことをオススメする。『はじめての唯識』という本も良さそうだ。
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消化不良の読後感がある。 作者ははなから4巻で終わらせるつもりだったようだか語りきっていない。 この巻を脱稿下後、市ヶ谷に向かっている。
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三島由紀夫4部作の最終章。 手にとった瞬間、 いよいよ来てしまったのだという高揚感を抱きながら読み進めた。 本作の主人公(という言い方が正しいのかは分からない)である本多が幾年もの年月を重ねて追い求めてきた”松枝清顕”の魂を、透に感じたのは偶然なのだろうか。 最後の門跡の一言で...
三島由紀夫4部作の最終章。 手にとった瞬間、 いよいよ来てしまったのだという高揚感を抱きながら読み進めた。 本作の主人公(という言い方が正しいのかは分からない)である本多が幾年もの年月を重ねて追い求めてきた”松枝清顕”の魂を、透に感じたのは偶然なのだろうか。 最後の門跡の一言で無惨にも敗れてしまうこの妄想。 勝手な解釈かも知れないが、 ひょっとすると門跡自身も転生しているのかもしれない。 読了後間もないため頭のなかが非常に乱雑な状態であるので、また時間をおいて落ち着いた時にでも振り返ってみれば、 4作品を通じてまた違った感じを覚えるのかもしれない。 今の自分にはそんな浮ついたことしか書くことが出来ない。
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