美しい星 の商品レビュー
宇宙人としての意識に目覚めた父。 最初はその言い分を笑って聞いていた家族も じきに「霊感」に打たれて父に従う。 彼ら四人家族は 各々別の惑星から地球に飛来した霊魂を宿し、 今では肉体も精神も「それ」に支配されている―― という設定から、 ・フォリアドゥならぬ四人狂気? fo...
宇宙人としての意識に目覚めた父。 最初はその言い分を笑って聞いていた家族も じきに「霊感」に打たれて父に従う。 彼ら四人家族は 各々別の惑星から地球に飛来した霊魂を宿し、 今では肉体も精神も「それ」に支配されている―― という設定から、 ・フォリアドゥならぬ四人狂気? folie à quatre(四人狂い)、 folie en famille(家族狂い)と呼ばれる感応精神病。 一人の妄想がもう一人に感染し、 複数人で同じ妄想を共有することが特徴。 ――かと思ったが、そうではなかった。 至って真面目に 人類を核戦争による滅亡から救うべく奮闘する父親と、 俗物なりに夫を信じて寄り添う妻、 それぞれ悩みを抱えながら 父を支えようとする息子と娘の姿が描かれる。 終盤の、父 vs 一家を敵視する仙台の三人組による 人類の存亡を巡る激論の場の雰囲気は、 埴谷雄高『死霊』を彷彿させる迫力だけれども、 四人家族の言動は終始、特に父と娘が真剣な分だけ、 どうしても滑稽に映ってしまう。 とはいえ、第七章、 作者自身の歌舞伎の演目「鰯売恋曳網」に 言及する箇所の 自虐的セルフ突っ込みは素敵(笑)。 ところで、第一章(p.15) 下記の「宇宙人」を「吸血鬼」に置き換えても 話が通じるな……と、 萩尾望都『ポーの一族』を思い浮かべて ニヤニヤしてしまった。 ----- 宇宙人としての矜りを持つことは結構だが、 少しでも傲慢になれば、 それだけ裸になることであり、 世間から見破られる危険も多い。 自分たちの優越性は絶対に隠さねばならぬ。 世間は少しでも抜きん出た人間からは、 その原因を嗅ぎ出そうと夢中になるからだ。 -----
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仙台からの来客の演説の部分が非常に面白かった。昔の本とは思えない。どんな結末になるのかとドキドキしながら読んだ。 「人間の人間に関する関心は,いつもこのような形をとります。同じ存在の条件を荷いながら,決して人類共有の苦痛とか,人類共有の胃袋とかいうものは存在しないという自信。…...
仙台からの来客の演説の部分が非常に面白かった。昔の本とは思えない。どんな結末になるのかとドキドキしながら読んだ。 「人間の人間に関する関心は,いつもこのような形をとります。同じ存在の条件を荷いながら,決して人類共有の苦痛とか,人類共有の胃袋とかいうものは存在しないという自信。…女が出産の苦痛を忘れることの早さと自分が一等難産だっと信じていることを,あなたもよく御承知でしょう。すべては老い,病み,そうして死ぬのに,人類共有の老いも病気も死も,決して存在しないという個体の自信。 政治的スローガンとか,思想とか,そういう痛くもかゆくもないものには,人間は喜んで普遍性と共有性を認めます。…」
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文庫本の巻末に付された解説のとおり、主人公の大杉重一郎と羽黒助教授一派との議論の応酬は、カラマーゾフの兄弟の大審問官の問いを想起させる、この作品の山場の一つなのは間違いない。 だが私はこの激論のなかに、三島が昭和45年11月25日自衛隊市ヶ谷駐屯地で自衛隊員を前にバルコニーで行...
文庫本の巻末に付された解説のとおり、主人公の大杉重一郎と羽黒助教授一派との議論の応酬は、カラマーゾフの兄弟の大審問官の問いを想起させる、この作品の山場の一つなのは間違いない。 だが私はこの激論のなかに、三島が昭和45年11月25日自衛隊市ヶ谷駐屯地で自衛隊員を前にバルコニーで行った演説や檄文の要素が多分に含まれていると感じ、戦慄した。 自衛隊員に決起を促し、ひいては日本の再生を説いた三島の行動は、大杉が世界を救おうとしたのと同様に日本と日本人を救おうという発想によったのではないか。 そして、その想いが聞き入れられないと判ったときの焦燥や諦念ののち、大杉が、蝋燭が燃え尽きる直前のような自分の生命の最後の時点で、改めて円盤が発する光を生命を賭して自分の目で確認しようとしたのと同様に、三島も、自衛隊員からの怒声を背に、総監室で自分の腹に刃を突き立てることで「瞼の裏に赫奕として昇る日輪」を自分の目で認めたのだろうか? 家柄と天賦の才に恵まれ神童と目された一方で、三島は同年代の多くが兵役に行き自分もその番が回ってきたものの、体格で劣るため不合格となり兵隊を経験せず、そのため戦争によって世界が破滅し、自分を含めてすべてものが消滅することを夢見ていたと、別の何かで読んだ。 つまり、三島自身が自分は一般の人間とは違う“何か”であるという視点で自分を見るような状況だったと言っても過言ではないだろうし(それが宇宙人であるかないかはさておき)、そこからさらに進み、自分にとって世界や人類が「救うに足るもの」かということについて継続的な思考が形成されたと考えても、あながち飛躍し過ぎではないと私は考える。 『世界や人類が「自動的に」消滅しないのであれば、誰かがその存在意義を吟味して、「継続」か「終了」かの審判を決定づけてあげるべきではないのか? さもないと、世界や人類は間違ってばかりいて中途半端に破滅と存続を繰り返し、無為に生きながらえることになってしまう・・・』 大杉重一郎の行動は、まさにそういう視点からのものであったし、三島についても、大杉の「宇宙人」というのを三島の場合「憂国烈士」と置き換えることで、大杉の描写も三島の人生と同様にがぜん現実味を帯びてくるはずで、この作品を寓話と読み飛ばすことができなくなるはずだ。 小説世界と現実世界とを混同させるのはもちろん危険だが、もし、この作品が発表された当時、三島の真意どおりに精読できた者がいたとすれば、三島の人生の結末を予想できたのではないか、とすら考えてしまう。 しかし実際には三島の真意を理解できた者は一人もいなかった。だから三島はああせざるをえなかった。 逆説的だが、そういうことに違いない。 (2014/4/21)
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ある田舎の平凡な家族。彼らそれぞれがある時に円盤を目撃したことにより覚醒する。すなわち、自分らは実は宇宙人でそれぞれ違う惑星からやってきたのだと。そして、核兵器におびえる冷戦時代を背景に、人類に正体を隠しつつ彼らの人類救済事業がスタートする・・・。 三島由紀夫にしては風変わりな...
ある田舎の平凡な家族。彼らそれぞれがある時に円盤を目撃したことにより覚醒する。すなわち、自分らは実は宇宙人でそれぞれ違う惑星からやってきたのだと。そして、核兵器におびえる冷戦時代を背景に、人類に正体を隠しつつ彼らの人類救済事業がスタートする・・・。 三島由紀夫にしては風変わりなシチュエーションの小説だが、SF小説を装いながら自分にはブラックコメディーの小説のように思え、エスプリの効いたユーモアには大いに楽しませてもらった。(笑)シチュエーションは奇想天外だが、きめが細やかで端正な文章表現から生み出される真面目な精神展開や情景描写にて、ここでもほとんど隙が無い完璧な美意識が展開されており、それがまた可笑しみをも誘っている。 それぞれ別の惑星人だという家族それぞれの思惑の違いが物語の幅を大いに広げ、滑稽さも煽っているのだが、とりわけ、政治にうつつを抜かす長男と、宇宙人的(!)恋愛に浸る美少女の妹の様相は、一見風変わりではあっても、政治へ常に介在しようとする想いや、美少女の一途な破滅的な儚い精神と肉体といった三島節が炸裂していて、このあたりは三島ワールドテンコ盛りの楽しい世界でもあった。そして、彼らに横たわる精神の暗闇を乗り越えて、本性的には異なるはずの彼らの人間的な「家族の絆」の姿は、悲劇的な状況であったにもかかわらず、やはり喜劇のスパイスが充満していて、何とも微笑ましい限りであり、「家族」に対する挑発的な皮肉にも感じられた。 中盤に登場してくる敵対勢力の異星人は人類を核兵器にて美しく滅亡せんと画策していて、これがまたぶっ飛んだ連中なので何とも可笑しい限りであったが、彼らとの終盤での人類救済か滅亡かの議論は、三島の人類論、人間論、近未来終末論が対比効果により縦横に展開される白眉なクライマックスであり、この小説の構成の力強さを示すとともに、三島の社会や政治やひいては人類全体への挑戦であり、こうした奇抜なシチュエーションの文学的成功であったともいえる。 しかし、三島が一方で夢想した終末にはついに到らず、現在も漫然と進行している人間の歴史。本作に通底していた通り、三島も最後は個々の「絆」の確かさを理想として期待していたに違いない。 異色作であるというが、三島ワールドのエッセンスと三島の思考が十二分に詰め込まれた出色な文学作品であったと思う。
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アメリカとソ連の冷戦時代。 核兵器の開発・実験に憂える飯能に住む金持ち一家。 空飛ぶ円盤を見てから、父は火星人、母は木星人、兄は水星人、妹は金星人であることに目覚め、人類救済のために活動開始。 仙台に住む白鳥座61番惑星から来た宇宙人3人組と言論対決。 その後、父親が末期癌になって、円盤に迎えに来てもらうってお話でした。 宇宙人ってことで、かえって俯瞰的に地球全体を見て、人類の現状と未来を俯瞰できるってことみたいだった。 アメリカが広島・長崎に原爆を落としたり、ソ連が核実験をやったりで、誰かがボタンを押すだけで簡単に地球が破壊される危険性に警鐘を鳴らしているようなお話だったけど…。 本気で自分を金星人だと思っている娘さん。 金沢にいる同郷人のお兄ちゃんと一緒に浜辺で円盤を見て帰京したら、手も握っていないのに赤ちゃんができちゃった…とか、ちょっとシニカルは感じもありました。 けっこうらじ的には面白かったよ。 またいつか、じっくり読み返してみたいお話かも…。
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大杉家という宇宙人の家族が中心となり展開されていく話。 とはいえ、彼らは人間の姿を纏っており、言動も生活様式も人間と変わらない。そのため、宇宙人が人間と共存しているという状況に違和感を覚えることなく読めてしまう。 登場するキャラクターを宇宙人にすることで、人間がどのような物であるのかという持論を客観的に述べられている。 序盤は主に大杉家の家族それぞれの話と、別の宇宙人グループの話の2つの流れで構成されており、それらが重なり合うところからはどんどん読み進めてしまった。その中でも物語の終盤、人間への思いの上で対立する2者が議論を展開していく場面は圧巻だった。
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難しくて、文章もたらたらしとって読みにくかったです。 多分私の読解力がないのと、ただ単に頭悪いのもあると思うけども。 すっごい読みづらいけど、最終的にどうなるんか知りたくて頑張って何ヶ月もかけてなんとか読み終えましたが、最終的に話が難しすぎてあまり理解できないままでした。 金沢の...
難しくて、文章もたらたらしとって読みにくかったです。 多分私の読解力がないのと、ただ単に頭悪いのもあると思うけども。 すっごい読みづらいけど、最終的にどうなるんか知りたくて頑張って何ヶ月もかけてなんとか読み終えましたが、最終的に話が難しすぎてあまり理解できないままでした。 金沢の情景や、昔の金沢への旅路が描かれているのはとても良かったです。
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三島由紀夫がSF?と思いながら読み始めました。すると、突然、火星人や金星人が登場することになります。単にこの家族がちょっと変な人の集まりというだけではないのか、と思ったりしながら読んでいくことになるのですが、どうしても地球外の存在を持ち出さずにはいられなかったのでしょう。水爆実験...
三島由紀夫がSF?と思いながら読み始めました。すると、突然、火星人や金星人が登場することになります。単にこの家族がちょっと変な人の集まりというだけではないのか、と思ったりしながら読んでいくことになるのですが、どうしても地球外の存在を持ち出さずにはいられなかったのでしょう。水爆実験などが推し進められたその当時の切羽詰った感じがこの小説からも読み取れます。解説にも書かれていましたが、私自身も本書を読んでいて、「カラマーゾフの兄弟」に通じるものを感じました。宇宙人同士の会話の部分は結局よく分からないまま、字面を追っただけだったのですが。それでも、何か重要なことがかかれているという感じだけはしました。結局この家族は最後に円盤に乗って、地球から脱出することになるのでしょうか。いま、宵の明星が木星と寄り添うように美しく輝いています。
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三島由紀夫ではかなり好きな1冊。突然自分たちが宇宙人だと気づいた一家の物語、という突飛な設定と、物語の荒削りな流れがとても楽しい。社会人になって初めて再読したけど、それまではコンプレックスの塊だったのに、ある日新しい属性を得て突如自らを選民とした宇宙人たちが、「救済派」(太陽系出身)と「安楽死派」(白鳥座出身)に分かれて「劣った地球人たち」をどうすべきかを議論するまで流れの可笑しさと悲しさは、歳をとったいま、よりよく分かる。火星出身の父の高校の同窓会での演説シーン、白鳥座一味が俳句の大家にハイキングをすっぽかされるシーンが特に印象的。とても美しい悲喜劇です。
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時間に縛られる人間の虚しさと、一方時間を鼻で笑う人間の強さを宇宙人の視点で観察する思考SF。ハイライトは主人公重一郎が人間の美点を五つ上げるシーン。 「彼らは嘘をつきっぱなしについた。 彼らは元凶につけて花を飾った。 彼らは小鳥をよく飼った。 彼らは約束の時間にしばしば遅れた。 そして彼らはよく笑った。」 宇宙人の重一郎はこの五つの短文を人類の墓標に刻めといいます。先述した人類の時間への抵抗について、同じ趣旨の話は他のSF作家もするかもしれませんが、こんな詩的で繊細なアプローチは三島由紀夫にしかできないのでは。SFの舞台を借りて作家の感性を見せつけられる小説。
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