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山椒魚 の商品レビュー

3.5

104件のお客様レビュー

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  2. 4つ

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  3. 3つ

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  4. 2つ

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2015/05/08

まず特徴的なのは、淡々とした文章。そして、細やかに綴られる風景描写。 実体験を綴ったエッセイだと思ったのだが、後書きから推測するに、実体験に多くを基づいた限りなくノンフィクションであるかと思われる。 とにかく、実体験と思うくらい、描写が繊細なのだ。まことしやかに思われるが、奥さ...

まず特徴的なのは、淡々とした文章。そして、細やかに綴られる風景描写。 実体験を綴ったエッセイだと思ったのだが、後書きから推測するに、実体験に多くを基づいた限りなくノンフィクションであるかと思われる。 とにかく、実体験と思うくらい、描写が繊細なのだ。まことしやかに思われるが、奥さんの名前が実名の秋元節代さんと違って雪子さんだったりするので一応、フィクションかと。。。 wikiで見ると、山椒魚は改定されてしまったらしい。私が読んだのは、たまたま図書館で借りた古い本で、改定前のものだったが、改定前の方が優れていると思う。 山椒魚はたった10ページなのに、よくまとめられていて、内容は深い。 改定前の部分を含むことによって、同じ境遇の弱者が自己憐憫に似た情を感じる切なさやら何やらが伝わってくると思う。それに、不幸な境遇から、蛙を出してもいいと思える山椒魚の心理の推移なども興味深い。 池波正太郎のエッセイでもそうだが、一昔前の小説家らしく、少し不良。年端のいかない娼婦とのやりとりなども、オブラートに包まれているが、関係が示唆されたりと。この人の文学には、ヒッピー的要素がかなりある。引用の無職の下りは、経験者なら、よく分かる心理が鮮やかに描かれている。 岬の風景で、家庭教師をした娘さんと恋仲になってしまう。それを太陽に見張られている気がする主人公。こういう気持ちって分かるけど、そんな事考えてるの?と、盲執的だと言われそうでなかなか人には言えない事な気がする。無意識に。それをこうして文学にしてくれると、自分だけじゃない安心感を与えてくれる。 掛け持ちは、面白い。 二つの宿で季節ごとに働く番頭さんが、それぞれの場所で全く違う扱いを受けている。上等な扱いをしてくれる宿では、粋な着物を着こなしたり、人間の虚栄をユーモラスに綴る。そこへ、もう1つの宿からの客が偶然やってきて、とまどう番頭さん。 夜ふけと梅の花もなかなか。 酔っ払いに絡まれて、妙な約束をしてしまうが、それが気になってしょうがない主人公。相手が暴力的な人間であったため、数年の間、怯えつつ暮らす。これまた、人間の心の弱さを飄々と描く。 井伏鱒二の他の作品も読んでみたくなった。

Posted byブクログ

2014/09/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

小説の世界は広大無辺だ。俗に<ダム小説>というジャンルがある。当該作品のほとんどが、現在は絶版状態になっていて、簡単に入手できないものになっている。石川達三、小山いと子、久保敦子などがそうだ。 <ダム小説>を書いたひとりに、井伏鱒二がいる。「朽助のいる谷間」という作品だ。他の小説と同じように、簡単に入手できないのではないか、と半ばあきらめながら調べてみた。びっくりした! 新潮文庫『山椒魚』の中にしっかり収録されているではないか。 読めるのか……ああ…。感動と安堵の入りまじった息をもらしながら、噛みしめるように「朽助のいる谷間」を繰り返し読んだ。なんだよ、おい。ダム湖に沈む家を舞台にした、うぶな恋愛小説ではないか……。

Posted byブクログ

2014/08/17

「誰も言ってはならぬ。」 岩屋の棲家に暮して2年。気がつけば身体は岩屋の入口より大きくなり、外へ出ることはかなわなくなっていた山椒魚の悲哀を描く「山椒魚」。「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」「女...

「誰も言ってはならぬ。」 岩屋の棲家に暮して2年。気がつけば身体は岩屋の入口より大きくなり、外へ出ることはかなわなくなっていた山椒魚の悲哀を描く「山椒魚」。「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」「大空の鷲」12編の短編を収録。 本には興味が無いという同僚ですら「からだが大きくなっちゃって出られなくなる話でしょ?」という井伏鱒二の「山椒魚」。 この話、よほどインパクトがあるのか、あるいは教科書にのってでもいたのだったか。とりもなおさず日本一有名な山椒魚くんである。 岩屋から出られなくなっていることに2年も気づかないないうっかり者である上、出られないとわかっていながら、岩屋の入口に何度もヅツキを食らわせて、その度に全身コルク栓と化して、小蝦の失笑を買ったりしている。 死ぬまでそこからでられないという、これが例えば人間の話ならば、笑ってなどはいられないだろうが、悲劇の主人公を山椒魚にすることでこの話はある種のユーモアを伴ったペーソスを以って読者に迫ってくる。 何しろ発表された当初のこの作品のタイトルは「幽閉」だったというのだから。タイトルを「山椒魚」とし、言い方を変えれば、これが山椒魚の身の上におきたことになっていることで救われるというか。山椒魚くん、ごめんよ。 岩屋の中に閉じ込められて一生を終わるつらさは山椒魚にしかわからない。だからこの話にはなんびとも共感したなどと言ってはならない。 言うことを許されるものがあるとするならば、それは理不尽にも山椒魚によって同じ岩屋に閉じ込められ、格闘の末に同じように一生ここから出られぬと観念し、山椒魚に対して「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」という境地に至った蛙のみである。

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2014/05/05

表題作ほか読みやすい佳作12編。 「朽助のいる谷間」のエロティシズム、「へんろう宿」の咀嚼不能感、「掛持ち」の焦燥、「女人来訪」の機微と同情、「大空の鷲」の太宰治。備忘まで。

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2014/04/30

教科書で読み、山椒魚という話が大好きになりました。ですので他の井伏作品も見たいと思いこの短編集を購入しました。どの作品も風景描写が事細かにしてあり、美しい風景が目に浮かびました。 また全編を通して老人に対する観察、親愛の目があるように思えて素朴な優しさや温かさを感じました。作品自...

教科書で読み、山椒魚という話が大好きになりました。ですので他の井伏作品も見たいと思いこの短編集を購入しました。どの作品も風景描写が事細かにしてあり、美しい風景が目に浮かびました。 また全編を通して老人に対する観察、親愛の目があるように思えて素朴な優しさや温かさを感じました。作品自体も素敵でしたが、河盛好蔵さん、亀井勝一郎さんのあとがきもとても面白く読みました。作中で感じた自分の印象が、井伏さんの来歴や人物像から形作られたものだとわかりやすく説明されていて、なるほどと頭がすっきりしました。あとがきを読み、もう一度読み返したいと思いました。 ついでに山椒魚以外で好きな作品は、朽助のいる谷間と屋根の上のサワンです。

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2014/03/10

初期の作品ということもあるのか、出来にムラがあるような気が。 それでも『山椒魚』『夜ふけと梅の花』だけでもこの文庫を手に取る価値は十二分にある。 『山椒魚』ってもしかして教科書で部分的に読んで以来の事実上の初読?いやそんなことは無いかな、、、 山椒魚は言わずもがな、蛙が絶妙、締め...

初期の作品ということもあるのか、出来にムラがあるような気が。 それでも『山椒魚』『夜ふけと梅の花』だけでもこの文庫を手に取る価値は十二分にある。 『山椒魚』ってもしかして教科書で部分的に読んで以来の事実上の初読?いやそんなことは無いかな、、、 山椒魚は言わずもがな、蛙が絶妙、締め方含めて秀逸。教科書ってことで端から馬鹿にしてはいかんですよ。

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2014/03/06

改訂される前の版を読みました。 なぜ、和解の場面を削除したのだろうか。 自分はあったほうが良いように思えた。

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2014/02/01

 辻原登の「東京大学で世界文学を学ぶ」第四講義に登場するのは井伏鱒二とフリオ・コルタサルの同名短編小説「山椒魚」である。この講義の中で辻原氏はこの二つを読み比べてほしいと言っているので、読んでみることにした。(この本は井伏鱒二の短編集であり、「山椒魚」のほか11編の短編を収録して...

 辻原登の「東京大学で世界文学を学ぶ」第四講義に登場するのは井伏鱒二とフリオ・コルタサルの同名短編小説「山椒魚」である。この講義の中で辻原氏はこの二つを読み比べてほしいと言っているので、読んでみることにした。(この本は井伏鱒二の短編集であり、「山椒魚」のほか11編の短編を収録している。)  まず井伏の「山椒魚」は岩屋の中で成長した山椒魚が出入り口の穴より大きくなり過ぎて外に出られなくなる。その腹いせに岩屋に迷い込んだ蛙を閉じ込め、自分と同じように外に出られなくする。そうすることによって溜飲を下げているようだ。しかしいつまでも現状は変わらないのだった。  コルタサルの「山椒魚」では水族館にいる山椒魚を観察する話である。主人公である「ぼく」は水槽の中の山椒魚を細かく観察しているが、いつの間にか山椒魚が「ぼく」を観察しているという不思議な文章である。  どちらも現実の世界に似たようなシチュエーションがありそうだ。現実の社会を皮肉っているようにも思える。

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2013/10/27

思い出深い作品集 田舎に移ってきた男が、部屋の窓から遠くに見える女の子を見ているという描写があったようななかったような 笠と笠がすれ違う描写があったようななかったような 作品の内容は、ふわっとしか覚えていない もう処分してしまった本、また読みたいけど、読む日は訪れるだろうか

Posted byブクログ

2013/07/08

読み切ったのは短編『山椒魚』のみ。素晴らしい作品だ。 山椒魚の悩みや葛藤は、人間に繰り返し悩むそれと同じで、リアリティを感じさせる。例えば最近の若者の、『引きこもり』の悩みなどは、この小説と同じだ。 私個人としては、昔の小説の言葉の使い回しが、読みづらくて仕方ないのだが、内容...

読み切ったのは短編『山椒魚』のみ。素晴らしい作品だ。 山椒魚の悩みや葛藤は、人間に繰り返し悩むそれと同じで、リアリティを感じさせる。例えば最近の若者の、『引きこもり』の悩みなどは、この小説と同じだ。 私個人としては、昔の小説の言葉の使い回しが、読みづらくて仕方ないのだが、内容だけを見たら、この小説は素晴らしい。

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