晩年 の商品レビュー
太宰治の作品を読むのは「人間失格」に次いで2度目。 15篇の短編に登場する男たちそれぞれに著者自身が投影されていて、全部を読み切ってはじめて彼の人物像が浮かび上がってくる。 彼の人並外れて過剰な自意識とナルシシズムに垣間見える普遍的な人間臭さに読者は魅了されるのかもしれない。
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(Mixiより, 2010年) 太宰治、処女作。15編からなる短編集です。馴染める作品とそうでないものとの差が激しかったという印象。原因として情景描写に捉えづらいものが多く、(特に自然風景)退屈してしまうことが多かった。また「猿ヶ島」「地球図」などはまず設定を飲み込むのに一苦労で...
(Mixiより, 2010年) 太宰治、処女作。15編からなる短編集です。馴染める作品とそうでないものとの差が激しかったという印象。原因として情景描写に捉えづらいものが多く、(特に自然風景)退屈してしまうことが多かった。また「猿ヶ島」「地球図」などはまず設定を飲み込むのに一苦労で、ページをめくるのがなかなか辛かった。この辺りは個人差があると思います。その中でも「道化の華」は、人生の中で何回か読んでいくことになるだろうなと思えるほど心に残る作品でした。読み手は物語の主人公に感情移入しているのに、いつのまにか書き手の心境にさせられる。自分を投影した主人公を操ることさえもはばかられる、 なんとも弱々しい作者の心境に親近感を抱きます。名作と名高い他の作品には完成度で劣るかと思いますが、読めばきっと誰しも心に引っかかるフレーズが見つかるはずです。
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今年は太宰治の生誕110周年であります。何だかつひこないだ、100周年だつたやうに感じますが、改めて時の流れは早い。時蠅矢を好む。 で、今回は『晩年』の登場であります。第一作品集なのに、ジジ臭いタイトルをつけたものです。どうやらこの作品集を上梓した後に、自殺しやうと目論んでゐたフ...
今年は太宰治の生誕110周年であります。何だかつひこないだ、100周年だつたやうに感じますが、改めて時の流れは早い。時蠅矢を好む。 で、今回は『晩年』の登場であります。第一作品集なのに、ジジ臭いタイトルをつけたものです。どうやらこの作品集を上梓した後に、自殺しやうと目論んでゐたフシがありますので、遺書のつもりで書いたのでせう。 十五篇の短篇からなる一冊。『晩年』とはその総タイトルで、「晩年」といふ名の小説があるわけではございません。 トップバッタア「葉」は、よく分かりません。いきなりですが。小説といふより、アフォリズム集に近いかも。 続く「思い出」は自伝的小説ですな。紀行文『津軽』で再会を果たす「たけ」も登場します。 「魚服記」に登場する少女スワ。わたくし好みであります。津軽の民話を基にした作品らしい。スワが鮒になり、滝壺に吸い込まれてしまふのは哀れであります。 「列車」はほんの掌編ですが、読後感は悪くない。否、好いのです。確かに列車での別れは手持ち無沙汰になりますな。 「地球図」はキリシタンもの。何も悪くないシロオテが獄中で牢死させられるのは義憤を感じるのであります。 「猿ヶ島」の新参者の猿が、人間を見世物と思つてゐたら、実は自分たちが人間の見世物であつたと悟つた時の衝撃。『人間失格』で、大庭葉蔵が周囲から狂人として扱はれてゐたと知つた時のショックを思ひ出しました。 「雀こ」は津軽方言で書かれてゐて、難しいのです。あまり理解出来ませんでした。奥野健男氏の解説で少し分かりましたが、情けないのであります。 そしていよいよ「道化の華」。「思い出」と並ぶ、本短篇集の根幹をなす作品であります。後に「虚構の彷徨」の一部となりますが、『人間失格』の原形とも申せませう。主人公の名も『人間失格』と同様、大庭葉蔵であります。 「猿面冠者」は、作家が小説を書く過程そのものを小説化してゐます。小説自体のパスティーシュでせうか。しかし最後の葉書、たつた一枚にあれだけの文章が書きこめるのでせうか。 「逆行」は「蝶蝶」「盗賊」「決闘」「くろんぼ」掌編四篇から成ります。「蝶蝶」の「25歳の老人」は、『人間失格』のラストシーンを思はせます。大庭葉蔵のその後か? 「彼は昔の彼ならず」の青扇は、間違ひなく作者自身がモデルですな。あのだらしなさ、言ひ訳の下手糞さといつたら...... 「ロマネスク」は「仙術太郎」「喧嘩次郎兵衛」「嘘の三郎」の三篇から成立してをります。三人ともハピイエンドにはならないのですが、何となく笑つてしまふ作品群です。いやあ面白い。 「玩具」もまた、作者自身の独白体なのですが、作者を装ふ小説と申せませうか。我乍ら稚拙な表現でお恥づかしい。 「陰火」も「逆行」と同じく、四篇の掌編から成ります。即ち「誕生」「紙の鶴」「水車」「尼」で、「尼」は幻想的で不思議な作品。「紙の鶴」は丘みどりさんを連想しますね。どうでもいいけど。 そして最後の「めくら草紙」。この一篇は、『晩年』初版には含まれてゐなかつたさうです。最後のフレイズが格好いいといふか面白い。精神の不安定な時期に書かれたらしいですが、十分(好い意味で)商業的な作品として通用すると存じます。 第一作品集といふことで、もつと習作時代の名残のある、未熟な作品だと思ひなさるか。否、否。既に完成された作品群だと勘考いたします。読んだ人なら、太宰治の底知れぬ才能を感じ取ることができるでせう。 http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-804.html
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妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。“撰ばれてあることの 慌惚と不安 と二つわれにありというヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』以下、自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた処女作『思い出』、心中...
妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。“撰ばれてあることの 慌惚と不安 と二つわれにありというヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』以下、自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた処女作『思い出』、心中事件前後の内面を前衛的手法で告白した『道化の華』など15編より成る。"
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太宰が当時遺書として書きためた作品集。 「道化の華」の主人公である葉蔵は「人間失格」にも登場しますが、まるで違うような作品でした。 「人間失格」に於いては自己否定や自己破壊の極限に達したような深みがありますが、「道化の華」を始め本書の作品中には当時の太宰の不安定さや息詰まるような...
太宰が当時遺書として書きためた作品集。 「道化の華」の主人公である葉蔵は「人間失格」にも登場しますが、まるで違うような作品でした。 「人間失格」に於いては自己否定や自己破壊の極限に達したような深みがありますが、「道化の華」を始め本書の作品中には当時の太宰の不安定さや息詰まるようなもがき苦しむ様を感じました。 「人生万事嘘は誠」という言葉がありますが、この頃の太宰は持ち前の道化精神に対するこれでいいのか?という不安や、それでも正直なことへの渇望、しかし嘘をやめられないという苦しみと懸命に戦っていて 自殺前提の遺書とされながらも、生きることへの憧れがよく現れていると感じました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
3 15の短編からなる第一創作集。ビブリアを見て。その他の近代文学と同様、あまり大きな感動はなくそれなり。非人間的な政治運動への幻滅、運動から脱退する後ろめたさ、自分はプロレタリアではなく大地主の子であり滅びる人間滅亡の民であるというコンプレックス。それらが太宰を絶望に追い込み自殺を決意。「道化の華」人間失格でも同じ登場人物大庭葉蔵。小説を書く理由、栄誉、金どちらもほしい。作者の自意識が物語を中断して直接小説に登場し客観描写的リアリズム手法を批判し否定し注釈する技法を用いた前衛的な現代小説らしい。
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内容的には物足りない。「太宰若いな。力が入りすぎだよ」という感じ。新しい小説技法を意識しすぎていて、太宰の持ち味が活かされていないように感じる。小説における新しい試みというものが、物語を陰気にしたり作家に意味不明な芸術家を気取らせたりした時代なのかなとも思う。候補作であった『逆行...
内容的には物足りない。「太宰若いな。力が入りすぎだよ」という感じ。新しい小説技法を意識しすぎていて、太宰の持ち味が活かされていないように感じる。小説における新しい試みというものが、物語を陰気にしたり作家に意味不明な芸術家を気取らせたりした時代なのかなとも思う。候補作であった『逆行』にしても、『道化の華』でも芥川賞のレベルではない。ほとんどの作品に感心しなかったが『猿面冠者』だけは良かった。これなら芥川賞を狙えたかもしれない。
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坂口安吾の「堕落論」を久々に読んで、その中に「魚服記」がおもしろいとあったので、読んでみた。 太宰治は事あるごとに読んだつもりだけれど、そういえば「晩年」は読んだことがなかった。 ああでも、数ページで放り出したくなった。 太宰治研究者には涎ものだろうが、読み物としてはちっと...
坂口安吾の「堕落論」を久々に読んで、その中に「魚服記」がおもしろいとあったので、読んでみた。 太宰治は事あるごとに読んだつもりだけれど、そういえば「晩年」は読んだことがなかった。 ああでも、数ページで放り出したくなった。 太宰治研究者には涎ものだろうが、読み物としてはちっともおもしろくない。太宰が自己の殻を破ろうと果敢に挑んでいる。それはいいけど、通勤電車なんだよこちとらは。 MCがことさら自分の出自について長々と語りだして肝心の演劇がなかなか始まらない。始まったと思ったらまたMCが出しゃばってくる。ええい、わたしは演劇が楽しみでいたのに、といった気分になる。
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ずっと「晩年」という作品があるのだと思っていたが、そうではなくこの作品集のタイトルだということを読み終わってから知ったという。 そして晩年に書かれたわけでもなく❨本人は遺書のつもりで書いたので意図としては晩年だが❩、作品集としては最初のものだというから、そのネーミングセンスからも...
ずっと「晩年」という作品があるのだと思っていたが、そうではなくこの作品集のタイトルだということを読み終わってから知ったという。 そして晩年に書かれたわけでもなく❨本人は遺書のつもりで書いたので意図としては晩年だが❩、作品集としては最初のものだというから、そのネーミングセンスからも著者のシニカルというかそういう視点の鋭さが伺える。 作品は様々な視点や手法を用いてかかれており、小説に語り手として著者を登場させたり自分の体験をもとにした話だったりかといえば物語だったりと同一作者か?と思うほど斬新。遺書のつもりの作品集、ということで恐らく著者もこれが最後と全ての手法やらを詰め込んだのだろう。 そのような手法を取り入れることで、ともすると一般人には不可解な生活をして不可解な思いを抱えている主人公、というだけに終わりがちな話を痛烈に浮かび上がらせているように感じる(一言で言えば、ツッコミ役を設けているということか)。 個人的には道化の華がよい。お互いの距離を計りながら自尊心を傷つけあうことを避けるよう接し方に気を使い合う友人3人の様子は、私にも心当たりがありすぎてギクリとさせられる。作中ではそんな関係に対して事実として淡々と語られているだけだが、著者に批判されているというか憐みの目で見られているような気がするのは気のせいではないかもしれない。
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難しく、陰鬱な文体ながらもセンスを感じる。自殺未遂前の小説であるが故か。 思い出、道化の春あたりがわりと良いです。 個人的には他の太宰作品に比べて楽しさがないと言うか、好みではない。
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