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刺青・秘密 の商品レビュー

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226件のお客様レビュー

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2023/10/05

大正7年(※)、新進作家の谷崎潤一郎は麻生市兵衛町に新築されたばかりの永井荷風亭を訪ねた。小さな庭に設えた巴里のカフェに模した丸卓で相向き乍ら、祝いに持参した葡萄酒を注ぎ合った。昨年「中央公論」に発表した『異端者の悲しみ』に現れた妹と父母との遣り取りはどこまで真実なんだい、などと...

大正7年(※)、新進作家の谷崎潤一郎は麻生市兵衛町に新築されたばかりの永井荷風亭を訪ねた。小さな庭に設えた巴里のカフェに模した丸卓で相向き乍ら、祝いに持参した葡萄酒を注ぎ合った。昨年「中央公論」に発表した『異端者の悲しみ』に現れた妹と父母との遣り取りはどこまで真実なんだい、などと荷風は問い、全部真実です、などと潤一郎は答えた。 「勿論、世之介のように、遊び人の心情に即して描いた小説がなかったわけじゃない。でも君は今にも死にそうな肺病病みの妹を心で罵り、友人の借金を踏み倒し、家にも帰らない穀潰しの貧乏長屋の学生を嬉々として描いた。また新しい文学を描いたね」 「そう先生に褒めて頂けると、耻を忍んで書いた甲斐がありました。思えば8年前に先生の三田文学の批評を頂いたからこそ、今の自分があるようなものです。全く感謝しております」 「いや、『刺青』にしても、『少年』にしても、『秘密』にしても、みんなこの世界的な大都会でこそ生まれるべき、デカダンスな小説を、生ませるべくして産んだ君の成果だよ」 「いえ。そう評価してくださる方は未だ少数で‥‥」 「その上君は、昨今益々消滅しかけている江戸の町の風景のみならず、風俗や、穢(きたな)い所含めての人情を、小説として書き留めてくれている。僕も僕なりにやろうとしているけれども、1人じゃ限界がある。却って感謝しているよ」 「そんな‥‥」 「まぁでも、君のMasochist趣味には付いていけないんだけどね」 アハハハと潤一郎は笑った。其の声には荷風先生とは違う、自分なりの世界を築きつつあるという自負も含んだものだと荷風には聞こえた。 「でも、先生、本当に感謝しているんです。万が一、この偏奇館が地震などで潰れた時には、必ず私が何をものにもかえてお世話させて頂きます」 うふふと、荷風は曖昧に応えた。 このあと27年後に、地震ではなく空襲によってこの館が灰塵に帰し、荷風は遥か岡山真庭の地で、潤一郎の歓待を受けることなど、想像もしていない2人ではあった。 ※今気が付きましたが、永井荷風偏奇館入居は大正9年でした。まぁ、もともといい加減なレビューなので、許してください。(23.10.05記入)

Posted byブクログ

2023/07/30

谷崎潤一郎文学忌 1886.7.24.〜1995.7.30 谷崎忌 潤一郎忌 「刺青」しせい 1910.10 デビュー作のようです。 人々が「愚か」という貴い徳をもっていて 世の中が今のように激しくきしみ合わない時分でした。 この一文から始まる刺青は、小説の時代背景を希薄にし...

谷崎潤一郎文学忌 1886.7.24.〜1995.7.30 谷崎忌 潤一郎忌 「刺青」しせい 1910.10 デビュー作のようです。 人々が「愚か」という貴い徳をもっていて 世の中が今のように激しくきしみ合わない時分でした。 この一文から始まる刺青は、小説の時代背景を希薄にして、美しい事が全てという世界観を容認させてしまいます。そして、美しい事、強さがある事は、これから野作品に継承されていきます。 元浮世絵職人の彫師。自分の望む美女に魂を込めて、掘りたい画題がある。彼は、偶然見知った、足の美しい女に「肥料」と題したその絵を掘り上げる。多くの男達の死骸を見つめる桜の木の下に佇む女の絵。女は、彫物によって、より美しく自信を持った。自分の彫った絵と女の美しさに、彼自信も肥料となる。 「少年」 1911.6 裕福な家の同級生の少年。彼は、学校と家でその表情を変える。普段大人しい少年は、家では姉や使用人の子らに遊びの延長として、支配し時には暴力的になる。子供心にその支配に心地よさを感じる。ある日、姉は巧みにその支配を逆転させる。子供達の遊びの中のギリギリの暴力と支配。恐怖と快楽の危うい境界。というような、快楽の目覚め的な情景を詩的に書いてくる。 「幇間」 太鼓持ちのこと 1911.9 生まれ持って、幇間の気質の男。本職は、借金で駄目になり、とうとう柳橋の太鼓持ちに弟子入りする。芸はできるし、お座敷は盛り上がる。芸者に騙されたふりをしたり、妻を寝取られたり、何をされようと怒りの感情を持ち合わせない。人に笑われることに喜びを感じる。結局、そんな男を周囲も可愛がる。 ラストの一行「プロフェッショナルな笑い方をしました。」とあり、本物の幇間としての賛美なのか、プロに徹した生き方への賞賛なのか、わからない。 「秘密」 1911.11 都会の喧騒から逃れ、現実から離れた生活を求めて寺に住み始めた男。酒、読書、女装、に浸る。 自分の女装の美しさに外出をするようになる。 ある夜、昔付き合いのあった女と再会。その女を手に入れる為、男に戻る。女にも秘密が有り、それを隠して男を誘い込んでいた。男は、その秘密を知った時から、女に興味を失う。 「異端者の悲しみ」 1917 東京下町貧民街で暮らす大学生。家、家族全てに不満を持つ。自分には、才能があるのに金がない。金にだらしなく、親戚、友人から借り返すことをしない。何をするでもなく僻み、面倒事から逃げる。とにかくこの男に嫌悪感を持つ。 が、これは谷崎の自伝的小説らしい。デビュー前、自分の環境に苦悶して、精神状態も危ういようですね。 妹が死んで2ヶ月の後、小説を書いた。として終わります。 「母を恋うる日記」 1919 谷崎の美しかった母親を幻想的な夢の中で追い続けるファンタジー。 「二人の稚児」 1918.4 比叡山の上人の元、二人の稚児が修行していた。二人とも、もの心つく前に入山している。二人は女を知らない。15歳となった一人が、俗世間の真実を自分の目で見ようと下山する。そして、山に帰らず、俗世間の素晴らしさを手紙に書いて、残した稚児に届けさせる。しかし、誘惑に負けず信仰を深める決心をする。 煩悩と信仰の間で揺れる。残された稚児も15歳になった時、再び煩悩に苦しむ。再びの苦悶からみすごりという修行に入り、満願の日、前世から繋がりのある女性の事を知る。そして、来世での再会を祈る。 この小説は、すごく面白いと思う。 「女ごのように可愛い」と先人達にほめられるが、女人は悪魔と教えられている稚児達は、混乱する。「菩薩のように美しい」と言い換えられても、女人禁制なのになぜ女人の菩薩なのか考える。 煩悩に苦しむのは、心も身体も大人になりつつある15歳。下山した稚児も、山に残った稚児もそれぞれに自分の気持ちに忠実だったりする。そして、それぞれの道に生きていく。唯識論などを知っていれば、もっとわかるんだろうなあと思いました。

Posted byブクログ

2023/07/15

刺青と秘密しか読んでない。が、美しい。眼窩に映るただひたすらに美しい刹那。色の魔術師って呼んでもいい?嫌いなのに好きな谷崎

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2023/07/04

「刺青」〜「秘密」のあまりのマゾヒズムに怖気づいてしまった。怖いと言うより、見ていられない、居た堪れないというのが近いかもしれない。怖いもの見たさの容量を超え、初期の谷崎は好きになれないかもと思った。 しかし「異端者の悲しみ」「二人の稚児」「母を恋うる記」では見事に裏切られた。こ...

「刺青」〜「秘密」のあまりのマゾヒズムに怖気づいてしまった。怖いと言うより、見ていられない、居た堪れないというのが近いかもしれない。怖いもの見たさの容量を超え、初期の谷崎は好きになれないかもと思った。 しかし「異端者の悲しみ」「二人の稚児」「母を恋うる記」では見事に裏切られた。この美しくさっぱりとした文章がやはり好きだ。

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2023/05/25

 初谷崎に挑戦。難解な単語や言い回しが多くて読みづらい。物語を楽しもうとせず、特殊な性癖を持った変人カタログとして楽しんだ。  特に好きな作品は「少年」と「秘密」。少年はいじめられっ子とガキ大将の立場が、学校と家で逆転するのが面白い。のびたに虐められるジャイアン、そこにしずかち...

 初谷崎に挑戦。難解な単語や言い回しが多くて読みづらい。物語を楽しもうとせず、特殊な性癖を持った変人カタログとして楽しんだ。  特に好きな作品は「少年」と「秘密」。少年はいじめられっ子とガキ大将の立場が、学校と家で逆転するのが面白い。のびたに虐められるジャイアン、そこにしずかちゃんも混じって...みたいなが絵に浮かぶ。  秘密は女装中に隣に昔遊んだ女が隣来る展開にハラハラしたし、最後に男性を見下ろす女性の顔がゾッとして印象に残る。女性の家を探しに行かなければ良い関係を築けたのかなぁ。全てを知りすぎないほうがうまくいく関係ってあるよね。

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2023/05/23

少女漫画読んでいたのですが飽き足らず、谷崎潤一郎に戻ってきました(?) ゾクゾクして大満足です。独特な世界観最高〜 でもちょっと痛い

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2023/05/06

正直『春琴抄』を読んだときは、確かに谷崎は変態ではあるけれど、そんな騒ぐほどのものだろうか、と思っていた。本篇所収の『少年』を読むまでは。 全く谷崎の頭の中は発酵している。本人が『異端者の悲しみ』の末尾で「彼の頭の中に発酵している悪夢」と書いているぐらいだから、そうなのである。...

正直『春琴抄』を読んだときは、確かに谷崎は変態ではあるけれど、そんな騒ぐほどのものだろうか、と思っていた。本篇所収の『少年』を読むまでは。 全く谷崎の頭の中は発酵している。本人が『異端者の悲しみ』の末尾で「彼の頭の中に発酵している悪夢」と書いているぐらいだから、そうなのである。 『春琴抄』で連れ立って厠に行くシーンがあったので、谷崎には多少スカトロ趣味のようなものがあるんだろうとは思っていた(『異端者の〜』でも終わり近くになって唐突に危篤の妹・お富にそれ系のシーンを演じさせている)。しかし『秘密』の話中で展開される汚さに比べたら…耽美派なんて言われてるけど鼻くそやら痰やらを食べさせることのどこが耽美なんだ。私は想像力豊かなのでこういうシーンはホントに堪えられない、吐き気を我慢しながら読んだ。汚ければなんでもいいってものではないんだぞ谷崎、せめて秘所周辺から出るものに留めておけ。そういう意味で、本篇の表題は『刺青・少年』にするべきだったんじゃないかと思う。 ところで、私はずっと谷崎のマゾ気質がイマイチ理解できずにいた。世にそういう男性が多いのは知っている。でも力も学もある男性である彼らがなぜ足蹴にされたいのかがどうしても納得いっていなかった。本篇を読んでいて、女が時に男にめちゃくちゃにされたいというのと同じ根っこから出てるような欲求を谷崎も抱えていたのかしら、だったらちょっと解るかなぁと初めて思えた。『春琴抄』を読んだときの私は20歳そこそこ、社会に植え付けられた性的役割の規範にどっぷり浸かっていて、そんな発想ができなかった。そんな自分の歩みとも向き合えるのがこの人の作品を読む醍醐味なのかもしれない。

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2023/03/22

何とも言えない妖艶な物語、風情ある文章が素敵。 物語が進むにつれ、心情の変化が言葉巧みに書かれているので、自分の思いを上手く文章にできない私としては、さすが上手いな、見事だと敬服。 作家はこうでなきゃ! 全部良かったが、敢えていうなら『秘密』『刺青』だな。

Posted byブクログ

2023/02/14

圧倒的文才は変態すら芸術に変える 内容はかなり変態的だが、不朽の名作して残っているのは、美しい文章のおかげだと思った。 美しい文章を書くにはやはり知性や自分の感覚を磨く必要がある。 勉強の大切さを痛感した。

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2023/01/30

最近の文学だけではなく、幅広く文学を…と思い手に取った本作。 大江健三郎さんに引き続き、次は谷崎潤一郎さんの作品。 いやーーー、本作面白かったーーー( ̄▽ ̄) 谷崎潤一郎作品、「耽美派」、「性的」、「フェティシズム」なんて様々にご立派な言葉で表現されてきていますが… いや、...

最近の文学だけではなく、幅広く文学を…と思い手に取った本作。 大江健三郎さんに引き続き、次は谷崎潤一郎さんの作品。 いやーーー、本作面白かったーーー( ̄▽ ̄) 谷崎潤一郎作品、「耽美派」、「性的」、「フェティシズム」なんて様々にご立派な言葉で表現されてきていますが… いや、なんというか格式高いロリコンドMエロ小説(こんなこと言うと怒られるのかもしれませんが…)ですね、まどろっこしい言い方してんじゃないよと(笑) 端的に言うと「美女にめちゃくちゃにされたい願望」っていう… いやー、でもコレがとっても面白い(´∀`) 文章がとても綺麗なので、ただのエロってだけでは無く、完成度の高い文学として成立しているのかなと。 あと「エロ」って時を超えて不変なものなんだなと(笑) 古い作品って、時代背景が違ったりするとイマイチ感覚的に理解できないことも多いんですけど、動物の本能的な部分に近い感情は変わらないものなんだなと、そんなことを考えたりもしました。 個人的には「秘密」が好きでした。 女装して、麻酔薬持って犯罪の匂いを楽しんで、目隠しして車に乗せられて女に会いに行って、さるぐつわ外して巻きタバコ…(´∀`) フェチの要素もありながら、物語としても純粋に面白い。 「秘密」が楽しさの原点というのも、とても分かる気がしました。 本作でまた今までに知らなかった小説のジャンルを知れて、さらに世界が広がった感じ。 コレがあるから小説は辞められない…( ̄▽ ̄) 次は長編の「痴人の愛」あたりも読んでみようかなと。 <印象に残った言葉> ・如何なる意味をも鮮やかに表し得る黒い大きい瞳は、場内の二つの宝石のように、遠い階下の隅からも認められる。顔面の凡べての道具が単に物を見たり、嗅いだり、聞いたり、語ったりする機関としては、あまりに余情に富み過ぎて、人間の顔と云うよりも、男の心を誘惑する甘味ある餌食であった。(秘密) <内容(「BOOK」データベースより)> 究極の美女に土下座し、踏みにじられたい。
谷崎が描くエロティシズムの極み。

肌をさされてもだえる人の姿にいいしれぬ愉悦を感じる刺青師清吉が、年来の宿願であった光輝ある美女の背に蜘蛛を彫りおえた時、今度は……。
性的倒錯の世界を描き、美しいものに征服される喜び、美即ち強きものである作者独自の美の世界が顕わされた処女作「刺青」。作者唯一の告白書にして懺悔録である自伝小説「異端者の悲しみ」ほかに「少年」「秘密」など、初期の短編全七編を収める。
用語、時代背景などについての詳細な注解を付す。

目次
刺青
少年
幇間
秘密
異端者の悲しみ
二人の稚児
母を恋うる記
注解細江光
解説河盛好蔵

Posted byブクログ