物語の役割 の商品レビュー
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講演の内容を本に書きおろしたとのことで、内容として、博士の愛した数式が何度も登場していたのはそこらへんにも事情があるのかな。 (小川さんは『博士の愛した数式』の作者です。念のため) 多分一番有名だし、聴衆もそこの所の話が面白く聞けるだろうという配慮かなぁ。しかしいかんせん、1冊の本にまとめられてしまうと、いささかくどい。でも仕方ないよね!こればっかはね!! 多分、本が好きな人ならそれなりに面白く共感できるのでは。その上で、物語を書こう、作家になろうと思っている人にはエールにもなるかもしれない。少なくともよくある作家エッセイのように、「作家というのはなろうと思うものではない」的な内容は皆無でした。むしろ推奨。書いてみませんか的な。子供向けの教育本ならともかく、ある程度の年齢層の所でこういう主張をするのは珍しいんじゃないかなぁ。 と、思ったけれど、よく見たら講演先は創作系の大学とかでした。そりゃね。応援するよね。 雰囲気としては全体的にあったかかったです。ほわほわ。 ああ、この人は本が好きなんだなあと、素直に思える感じですね。なので、読んでて終始穏やかな気持ちでした。ただ、あくまでも講演を文章化したものなので、大きな感動とか、どんでん返しのストーリィ性とかはない。当たり前か!本が好きな人なら一度は考えたことがあるような内容でしたし、目新しさはあまりないかなぁ。 ただ、こういう言葉では表現するのか、とは思います。 あ、あと、例えに出してくる話題が秀逸。思わず片っ端から調べて読みたくなりました。 とりあえず、息抜きに読むには最適な部類だと思います。薄いし。字も大きめだし。厳しい論旨じゃないし。ゆっくり読んでも2時間はかからないんじゃないかな。 で、こっからは凄く個人的に。 最後の章の共感具合が半端無かった!!共感というか、話題が!!話題が!! 『ファーブル昆虫記』が幼少期の愛読書だったとか、『トムは真夜中の庭で』とか。あと、本じゃないですが、『フランシーヌの場合』とかね!!名曲だよね!!!とりあえず、トムはもう一度読む必要をビシバシ感じました。やばい、思い出しただけで感動してきた。 あとはあれですね。 一番上に書きだしましたけど、言葉は常に遅れてやってくるっていうの。 あれは凄く共感というか、「ですよね!」っていう。 それは常々感じていたんですが、現実が小説より奇なら、文字はいつまでたっても現実にはおっつけないんです。小説は過去と向き合うものだ、という言葉は確かにその意味で酷く正しい。 私は、一人称小説の絶対的な矛盾はそこにあると思うんですが、どうなんでしょうね。だって、生きているうえで、「彼は箸を机に置いた」とか、「私はムートンのコートをくたびれたソファに投げた」とか、いちいち思わないよね。 それは実感として感じてるし、判ってることではあるけれど、言葉にするより前に、言葉にしなくても理解してそのまま放置しませんか。そりゃ、そうしなきゃ一人称小説なんて成り立ちませんけど、言葉が常に遅れてくるっていうのは、つまりそういうことなんじゃないかなと思います。 結局、文学の無力さも価値もそこに集約するのかな。それは言い過ぎかもしれませんが。
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第1部のみ読んでそのまま積読になっていた。ようやく第2部、第3部と読み終えた。物語を創作する作家(小川洋子さん自身)の講演を自らまとめたもの。どうやって物語が生まれるかなど興味深く読めた。講演集なだけあってわかりやすく読みやすい。いろいろな小説が取り上げられていてそちらへの興味も...
第1部のみ読んでそのまま積読になっていた。ようやく第2部、第3部と読み終えた。物語を創作する作家(小川洋子さん自身)の講演を自らまとめたもの。どうやって物語が生まれるかなど興味深く読めた。講演集なだけあってわかりやすく読みやすい。いろいろな小説が取り上げられていてそちらへの興味も持つ。 例えば「トムは真夜中の庭で」 など。 池田晶子の「14歳からの哲学」を読んだ直後だからか、自分の存在を意識する機会になった。 第1部を再読して感想を追加しなきゃ。
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小川洋子さんが講演会などで語ったことを一冊にまとめたものです。小川さんの作品「博士の愛した数式」はベストセラーになり映画にもなりました。このお話は80分しか記憶がもたない博士が主人公で心温まる内容だったのは記憶に新しいところです。 この本にはこの小説が世に出るきっかけとなったエ...
小川洋子さんが講演会などで語ったことを一冊にまとめたものです。小川さんの作品「博士の愛した数式」はベストセラーになり映画にもなりました。このお話は80分しか記憶がもたない博士が主人公で心温まる内容だったのは記憶に新しいところです。 この本にはこの小説が世に出るきっかけとなったエピソードなどを紹介しながら、彼女が小説家として物語を生み出す様子が述べられています。 それによると、・・ストーリーは最初に存在するのではなく、すでにあるものをキャッチする。逃さず追いかけて受け止める。…現実から発見し、それを言葉にすることが役目だという。スコップで鉱石を掘り起こすようにという表現になっています。 物語は誰の胸にもあり、ひとりひとりがそれぞれの違う物語を抱いている筈です。 ”事実は小説より奇なり”ですから、この事実を人に語るときに物語が始まるのです。ひとつの出来事は様々な意味を持つことになります。 小川さんも少女時代に、自分だけの物語を作りそれを精神的な支えにしていたそうです。 この想像力の持つ意味は大きいと思います。赤毛のアンなどはその典型的な人物像でしょう。 これを読んで小説を書くということは、頭の中だけで生み出される作業ではなく、こつこつと続けて歩きながら拾い集めてゆく作業なのだという認識が出来たのは幸いでした。でも、拾った原石を読めるように磨くのもまた大変です。
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小説家が物語の構想を立てていく経過を知ることができて興味深い。 小説家にはわたしとは違う世界が見えているよう。それは仕事のためのスキルというより、やはり生来の個性に由来していると思う。(著者は「ストーリーはすでにあって作家はそれを逃さないようにキャッチするのが役目」と言っている...
小説家が物語の構想を立てていく経過を知ることができて興味深い。 小説家にはわたしとは違う世界が見えているよう。それは仕事のためのスキルというより、やはり生来の個性に由来していると思う。(著者は「ストーリーはすでにあって作家はそれを逃さないようにキャッチするのが役目」と言っているように、それを「才能」とはあまり思ってなさそう) 小説を含めて本をたくさんを読みたくなった。
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著者の幼少期からの体験を通じた物語の創作方法と、ホロコースト文学を通じた物語の必要性について、著者の講演をまとめた本。 目次の付け方も絶妙で、中身も分かり易い。 私はこれまで、作家が「言葉」を並べて「物語」を書くのだと思っていたけど、小川洋子さんは現実の観察で見つけた「物語...
著者の幼少期からの体験を通じた物語の創作方法と、ホロコースト文学を通じた物語の必要性について、著者の講演をまとめた本。 目次の付け方も絶妙で、中身も分かり易い。 私はこれまで、作家が「言葉」を並べて「物語」を書くのだと思っていたけど、小川洋子さんは現実の観察で見つけた「物語」を「言葉」に編集しているだけで、自分自身に埋没しない姿勢で小説を書いている。
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講演録をまとめたもの、なおかつプリマー新書ということもあってとにかく読みやすい。 でも、言っていることは「腑に落ちる」。 なんというか、巧い。 「非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形に合うようにその現実をいろいろ変形させ...
講演録をまとめたもの、なおかつプリマー新書ということもあってとにかく読みやすい。 でも、言っていることは「腑に落ちる」。 なんというか、巧い。 「非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形に合うようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。もうそこで一つの物語を作っているわけです」 いい指摘だ。 ところで物語が変形させる「現実」とは何だろうか? 文脈から考えると恐らく本人にとっての「現実」なのだろうと推察される。そのときに他者はどこに位置づけられるのだろうか。もしかしたら他者の世界を変えるのは物語以外の方法になるのでは? などという疑問を持った。三島由紀夫風に言うならば「行動」が回答になると思われるのだが、そのときに物語や小説はどのようなアクターになるのだろうか。興味は尽きない。
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小川洋子さんが、物語について語った講演を集めた本。 『博士の愛した数式』がいかにして生まれたか、物語がいかに力をもっているかをやさしく述べる。 ホロコーストにこんなに関心があったんだぁと初めて知った。
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[ 内容 ] 私たちは日々受け入れられない現実を、自分の心の形に合うように転換している。 誰もが作り出し、必要としている物語を、言葉で表現していくことの喜びを伝える。 [ 目次 ] 第1部 物語の役割(藤原正彦先生との出会い 『博士の愛した数式』が生まれるまで 誰もが物語を作り出している ほか) 第2部 物語が生まれる現場(私が学生だったころ 言葉は常に遅れてやってくる テーマは最初から存在していない ほか) 第3部 物語と私(最初の読書の感触 物語が自分を救ってくれた 『ファーブル昆虫記』-世界を形作る大きな流れを知る ほか) [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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「同じ本で育った人たちは共通の思いを分かち合う」 たぶん、村上春樹で台湾や中国、小川洋子でフランスやロシア、ポール・オースターでアメリカ、カナファーニーでパレスチナ、カフカでチェコ、レーヴィでイタリア…っていう感じに、本当に世界中の文学を愛する人々とわたしは心で語り合える。本を...
「同じ本で育った人たちは共通の思いを分かち合う」 たぶん、村上春樹で台湾や中国、小川洋子でフランスやロシア、ポール・オースターでアメリカ、カナファーニーでパレスチナ、カフカでチェコ、レーヴィでイタリア…っていう感じに、本当に世界中の文学を愛する人々とわたしは心で語り合える。本を読まない人も、物語に助けられながら生きてる。ディッカー先生のエピソードをきっと覚えていよう。本っていいな、という事実を本を読んでは何度も確認し続けています。
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小川洋子の小説がとても好きで、小川洋子が持つ「物語」についての考えが知りたくて、読みました。 創作の背景にある小川洋子の考えを初めて知ることができ、ますます小川洋子の「物語」にはまりそうです。 かなり具体的に自信の創作過程も明かしています。どんなふうに独特な物語世界を構築してい...
小川洋子の小説がとても好きで、小川洋子が持つ「物語」についての考えが知りたくて、読みました。 創作の背景にある小川洋子の考えを初めて知ることができ、ますます小川洋子の「物語」にはまりそうです。 かなり具体的に自信の創作過程も明かしています。どんなふうに独特な物語世界を構築しているのかいつも不思議に思っていたので、参考になるとともに、感心してしまいました。 「言葉は常に遅れてやってくる」 「テーマは最初から存在しない」 「死んだ人と会話するような気持ち」 「ストーリーは作家が考えるものではない」 「小説は過去を表現するもの」 「あらゆるものの観察者になる」 子供時代の物語との出会いも、面白いです。 「同じ本で育った人たちは共通の思いを分かち合う」 本で共通の思いを分かち合うという言葉に、とてつもない力と希望を感じました。本の持つ力、物語が広げる世界への希望、です。
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