「甘え」の構造 増補普及版 の商品レビュー
「甘え」という観点から日本人の考え方を考察した本。 初版が昭和46年と古いのだけれど、今にも通ずるものがあって面白い。
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1971年に出版されて以来「日本人論」「日本文化論」の代表的な著作のひとつとなった本である。 甘えは、本来人間に共通な心理でありながら、「甘え」という語は日本語に特有で、欧米語にはそれにあたる語がない。ということは、この心理が日本人や日本の社会にとってはとくに重要な意味を持ち、...
1971年に出版されて以来「日本人論」「日本文化論」の代表的な著作のひとつとなった本である。 甘えは、本来人間に共通な心理でありながら、「甘え」という語は日本語に特有で、欧米語にはそれにあたる語がない。ということは、この心理が日本人や日本の社会にとってはとくに重要な意味を持ち、それだけ注目されるということだろう。 著者は、日本で理想的な人間関係とみなされるのは親子関係であり、それ以外の人間関係はすべてこの物指しではかる傾向があるのではないかという。ある人間関係の性質が親子関係のようにこまやかになればなるほど関係は深まり、そうならなければ関係は薄いとされる。著者はとくに明言しているわけではないが、この理想とみなされる親子関係は、もっとも理想的な形では母子関係が想定されているのではないだろうか。 親子関係だけは無条件に他人ではなく、それ以外の関係は親子関係から遠ざかるにしたがって他人の程度を増す。この事実は「甘える」という言葉の用法とも合致していると土井は指摘する。つまり親子の間に甘えが存在するのは当然である。しかも甘えは、母子関係の中にこそ、その原形がある。これは、幼児と母親の関係を思い出せば誰もが納得するはずだ。とすれば日本人はやはり、無意識のうちにも母子関係のような利害が入り込まない一体性を人間関係の理想と見ているのである。 だからこそ、「甘え」という言葉が日本語の中で頻繁に使われる。それだけではなく甘えの心理を表現する言葉が他にも多数存在していて、それらを分析すると日本人の心理構造がはっきりと浮かび上がってくるというのである。その分析が説得力があったため、以後「甘え」の語は、日本人の心理を語るうえで欠かせないキーワードとなった。 たとえば「すねる」「ひがむ」「ひねくれる」「うらむ」はいずれも甘えられない心理に関係するという。すねるのは素直に甘えられないからであり、しかし実際はすねることで甘えているともいえる。「ふてくされる」「やけくそになる」は、いずれもすねが高じ、なお甘えられない結果である。ひがむのは、甘えたいのに自分だけが甘えられないと曲解することである。ひねくれるのは、甘えないでかえって相手に背を向けることだが、どこかに甘えの感情があるからそうなるのだ。 ある欧米の研究者は、日本語の「甘え」にあたる心理を「受身的対象愛」という用語で表現し、研究していたが、それに相当する日常語が日本語のなかにあることを聞いて驚いたという。さらに甘えが挫折した結果として起こる特殊な敵意を表す「うらむ」という語もあることを知って、いたく感激したという。 著者は、この他「たのむ」「とりいる」「こだわる」「気がね」「わだかまり」「てれる」など日本人に馴染みの感情を甘えの心理との関係で分析していくが、ここでは省略する。ここでは最後にひとつだけ「遠慮」という言葉と甘えとの関係を取り上げよう。 「遠慮」という日本語は、現代では人間関係の尺度を測る意味合いで使われるようである。たとえば親子の間には遠慮がないが、それは親子が他人ではなく、その関係が甘えにどっぷりと浸かっているからである。この場合、親も子供もたがいに遠慮がない。親子関係以外の関係では、親しみが強いほど遠慮は少なく、親しみが薄くなるほど遠慮は増す。親友同士は遠慮がないが、遠慮を感じる友人もいる。要するに日本人は、できれば遠慮のない関係がいいと感じ、遠慮し合う関係をあまり好ましいとは思っていない。これも、日本人がもともと親子関係、とくに母子関係に典型的な一体感をもっとも望ましいものとして理想化しているからだろう。
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とにかく難しい!なんとなく分かるような、分からないような。ってことは分かってないということ。 ただ、自分の気持ちをコントロールしたいと思うので、いつかまた再読する。
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普段何気なく使っている「甘え」という言葉。この言葉が一体何を意味するのか、その含蓄の深さにただただ感銘した。あらゆる人に読んで欲しい名著。
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ゼミの課題文。 合宿で、議論した「甘え」という言葉。 社会学としての位置づけを学べたのは面白かったかな。 ただ、本書で言うような、米国の 甘えという言葉が存在しない=甘えという概念が存在しない は納得がいかなかった。 また、著者の個人的経験から「甘え」を一般化していた点が数多く見受けられた点から、評価は★ひとつ。
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日常生活の至るところに点在する「甘え」の本質が述べられています。ものすごく参考になりました。バレー指導にも大いに役に立ちます。
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書評は読んですぐに書くべきですね。付箋を貼りまくっているものの細かい部分は失念気味だったので思い切って自分の雑感多めで書きます。 ① 論旨 本書は「甘え」という言葉が他の言語に訳が存在しないことに注目し、言語的アプローチを中心としてこの「甘え」を日本人独自の心性として探究するものである。 そもそも甘えとは『他者の好意を引き留めようとし、好かれようとし分離の痛みを避ける感情』である。このような感情は本来幼児期に母親に対して感じられるのみであるはずであるのに、日本の社会の和を重んじる文化や自我という概念の歴史上の未発達さにより、この感情が公にはばかられることなく存在し日本の中の種々のシステムに内在している。筆者は結果として甘えの心性は超克すべきであると考えている。甘えの一番大きな病理とは「甘え」が満たされるかどうかというのは他者の好意に完全に依存するために、甘えが満たされなかった時被害者意識と結びつきやすいという点である。筆者はこの点を戦争責の問題など引用して説明している。現代・近代が日本の前近代の状況と異なり「自由と独立と己れに満ちた」時代であるとすれば甘えによる連帯感は蜃気楼に過ぎず、幻滅に悩みたくないならば自己についての真実と孤独に耐える覚悟が必要だそうだ。 ① 「こころ」と甘え 同性間の「甘え」は海外では同性愛的感情として扱われるという主張は面白い。欧米では結婚後家族の付き合い・絆は同僚などの同性間の付き合いに優先されることを根拠として挙げている。確かに日本では家族の付き合いに同性間の友情が優先される場合も少なくないが、これは「甘え」という感情・概念の社会的公認に準拠するものであるそうだ。その例として夏目漱石「こころ」を挙げている。「私」の甘えを「先生」がなかなか受け入れないのは「先生」がKに対して「甘え」を抱いていた過去により甘えの危険性を理解しているためだそうだ。 ② 「甘え」は日本だけか ただ本当に日本だけなのか。この部分を読んでいてイヴ・K・セジウィックが提唱している「ホモソーシャル」という言葉を思い出した。セジウィックは18~19世紀の英文学の研究者で、彼女がこのころの文学に見出している特徴的な男性間の連帯に於いても「甘え」と似たような構造がみられる気がする。ホモソーシャルの概念とは「異性愛とは男性が権力を得て家父長制・家族を維持するために女性を交換することで男性同士と絆を結んでいるということ」である。つまりルネジラールの欲望の三角形的な構図の中で男性間の絆が重視されるということだ。セジウィックはこの概念が18~19世紀の英文学の範囲を超えて当てはまるものなのかということに関しては触れなかったが、少なくとも「甘え」的同性間の連帯は日本だけに存在するのではないといえるのではないか。イギリスということに関して言えばなんとなく「モーリス」という映画を思い出した。
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自分を戒めるためも含めて、気になった部分のメモ。 「気がすまない」 仕事をしていないと気がすまない性格の者は、仕事を休むことができない。また遊ぶこともできない。遊ぶとしても、義理とかお付き合いが多く、一種の仕事。また、時にどんちゃん騒ぎなど滅茶苦茶な遊び方をすることがあるが、一時なりとも気がすまない気持ちから解放されようとするため。
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まぁやっぱりなんだかんだ名著。土居先生の試みというのは、フロイトの精神分析を「甘え」でもう一回解釈しなおそうという試みと言えると思う。事実それは多くの部分で成功していると思う。日本語で臨床を行っていくに当たって、とても病理をとりだすのに手っ取り早い概念。
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全体をさらっと。 「甘え」について、日本特有の語彙であるかのように語っているが、、 どうなの?それって、概念をその国の言語でどう切り取るか、の問題であって、「甘え」とは日本特有のうんぬん、って話じゃない気がする。 現に、アメリカにいたころ、アンドレにさんざん「甘えられた」気がする...
全体をさらっと。 「甘え」について、日本特有の語彙であるかのように語っているが、、 どうなの?それって、概念をその国の言語でどう切り取るか、の問題であって、「甘え」とは日本特有のうんぬん、って話じゃない気がする。 現に、アメリカにいたころ、アンドレにさんざん「甘えられた」気がする。 この「甘えられた」は、彼が、私が自分に対して好意を持っていることが分かっていたから、だと思う。ふさわしく振る舞うこと? うむー、、
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