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笙野頼子三冠小説集 の商品レビュー

3.6

28件のお客様レビュー

  1. 5つ

    4

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2024/05/26

これはまただいぶ近寄りがたい作風,日常感覚と土着信仰などを曖昧に結びつけるところに特徴がある。すれ違いコントみたいな会話も多く,それ自体におかしみを感じられるか否か。

Posted byブクログ

2021/05/26

 初めて読む笙野頼子さんの3つの小説。1981年に群像新人文学賞を受賞した後、書いても書いてもほとんど作品を認めて貰えず、沈滞した10年を過ごし、やっと本書収録の「なにもしていない」(1991)が突然野間文芸新人賞を受賞。さらに「二百回忌」(1993)で翌年の三島由紀夫賞、「タイ...

 初めて読む笙野頼子さんの3つの小説。1981年に群像新人文学賞を受賞した後、書いても書いてもほとんど作品を認めて貰えず、沈滞した10年を過ごし、やっと本書収録の「なにもしていない」(1991)が突然野間文芸新人賞を受賞。さらに「二百回忌」(1993)で翌年の三島由紀夫賞、「タイムスリップ・コンビナート」(1994)で芥川賞を受賞と、いきなりの華やかな?受賞ラッシュを経験する。一般的な大衆小説ではないので一部の純文学界とその愛好者には認められて、今日に至るようだ。本書にはメルクマールな受賞作3つが収められている。  私がこの作家の名をはっきり認知したのは、私が制作した楽曲動画「前衛スギルキミ」に付けられた、見知らぬ人のコメントだった。 https://youtu.be/KwnrrHdndco 「しょうのよりこのnovelをおんがくにしてクルシェネックで濾過したみたいで平成耽美主義みたいでももう新時代なのにねぇ?」  現代音楽についてどうやらクルシェネクしか知らないらしい無知で粗雑なコメントに過ぎないが、「しょうのよりこ」という作家の作品が何か自分の音楽に通じるものがあるのか? しかし無教養なコメント主の程度の低い類推でしかない可能性が高いような。  今回やっとこの作家の小説を読んでみて、けれども巻頭の芥川賞受賞作「タイムスリップ・コンビナート」は私にはつまらない駄作にしか思えず、がっかりした。「マグロとの恋愛」というシュールなモティーフで少々いびつな生活空間を描出しているのだが、そこに深いものを感じなかったのだ。  読んでいてつげ義春さんのマンガを想起した。が、比較すると、表現の迫力や感覚のリアリティにおいて、つげ義春さんの方がはるかに優れており、芥川賞はつげさんにこそ出すべきだった、と独りごちた。  続く「二百回忌」もシュールなネタだが、面白いとは思わなかったので、かなり失望しながら読み進めた。が、最後の「なにもしていない」は私にはもっともぐっと来て、感銘を受けた。  本作は野間文芸新人賞受賞前の、暗澹たる「まったく売れない作家(と呼ぶには原稿依頼も雑誌掲載もほとんどない)生活の10年」における作者自身の体験を恐らく書いていると思われる。バイトもせずにアパートに引きこもる日々は、たぶん親からの仕送りを頼ってでないと成立しないだろう。ワープロで小説を書きつつも、ほとんど売れることのない原稿の生産という虚しい営みを自ら「なにもしていない」生活と痛感しており、精神はうらぶれて鬱屈としている。この虚しい感じと、茫漠とした日常の感覚とが、平日働いてはいるものの、自分の時間において楽曲創作励みながらその生産がほとんど評価されることのない私自身の精神生活に素晴らしくシンクロしていたのだ。むしろ、私も金さえあるなら仕事もやめて、こんな「無能の人」の生活に墜ちて行きたいようにさえ思った。  この作品はつげ義春さんの一連のマンガに通じるものが多分にあるし、それと同じレベルまで到達していると感じた。  特に、何故か手の皮膚が極度に乾燥しひび割れ、腫れて、ゾンビのような異様さに変形してしまう湿疹を体験する場面は、多分に誇張されているのだろうが、心理的にリアルでファンタジックであり、文学として素晴らしいものであった。後で調べてみると、笙野頼子さん自身が難病を持っていて、その体験が反映されているのだろうと思われる。  この「なにもしていない」を読むと、この作家の精神はなるほど、私にちょっと親近性があるのかもしれないなあ、と思うのだった。  逆に自由に空想を広げた芥川賞受賞作は私にはつまらなかった。作者自身の体験に基づいた私小説的なこの人の作品を、また読んでみたいと思った。

Posted byブクログ

2021/02/08

『毎日』の記事がきっかけで、「タイムスリップ・コンビナート」が目当てで購入。 https://mainichi.jp/articles/20210131/ddm/014/070/016000c 要は、西武新宿線の都立家政駅から鶴見線の海芝浦駅まで移動する話。私も海芝浦には行っ...

『毎日』の記事がきっかけで、「タイムスリップ・コンビナート」が目当てで購入。 https://mainichi.jp/articles/20210131/ddm/014/070/016000c 要は、西武新宿線の都立家政駅から鶴見線の海芝浦駅まで移動する話。私も海芝浦には行ったことがあるのだけれど、私には全く見えなかったものが作者にはたくさん見えているのだなぁ、と月並みな感想が浮かんだ。鶴見駅周辺が四日市に似ているという指摘は、風景論としても面白い。

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2020/01/19

カニデシ、カニデシタ、カニデナイ、カニカモネ‥ 「二百回忌」が良かった。 可愛いな、面白いな。 大学時代を思い出した。 こんな風に純文学を楽しめる時間が、涼やかだった。 「タイムスリップ・コンビナート」がどうしても読めなくて、しばらく遠ざかっていたけれど、今回は「二百回忌」が良...

カニデシ、カニデシタ、カニデナイ、カニカモネ‥ 「二百回忌」が良かった。 可愛いな、面白いな。 大学時代を思い出した。 こんな風に純文学を楽しめる時間が、涼やかだった。 「タイムスリップ・コンビナート」がどうしても読めなくて、しばらく遠ざかっていたけれど、今回は「二百回忌」が良かったな。

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2019/10/15

キンドルで読む。 偶然ながら、今まで住んでいた土地(鶴見、そして三重県)に繋がることを読み始めてから気づく。 ちょっとこれは、私は余り揺さぶられる部分がないのだが... 最近、名古屋では百回忌をするという話を伺って、本当にそんなに遡って法事をすることがあるのを知った。 真っ赤...

キンドルで読む。 偶然ながら、今まで住んでいた土地(鶴見、そして三重県)に繋がることを読み始めてから気づく。 ちょっとこれは、私は余り揺さぶられる部分がないのだが... 最近、名古屋では百回忌をするという話を伺って、本当にそんなに遡って法事をすることがあるのを知った。 真っ赤な着物、というのは実は私自身の夢に時々出てくるモチーフ。

Posted byブクログ

2019/08/16
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

野間文藝新人賞受賞作「なにもしてない」、三島由紀夫賞受賞作「二百回忌」、芥川賞受賞作「タイムスリップ・コンビナート」のどれもが私小説として超一級品だ。夢と現実が絶妙に絡み合っている世界観と諧謔が読んでいて気分がいい。特に、「タイムスリップ・コンビナート」は面白かった。マグロについて作者は後書きで「近代が覆い隠してしまった宗教的感情のひとつのあらわれ」と述べている。「自らの感情を対象化し、神をつくりだす」物語だったらしい。 再評価されるべき作家だと思うのだが……

Posted byブクログ

2019/01/20

芥川賞、三島賞、野間文芸新人賞、三冠を一冊で読める、たしかにお得な本だった。本人の解説付きなのも良い。 「タイムスリップコンビナート」 意識の流れで書かれた、現実の中に時折混じる変なもの。マグロへの恋、謎の電話、大量に現れたおっさん、片面が海の駅。初めて笙野頼子を読むものだから...

芥川賞、三島賞、野間文芸新人賞、三冠を一冊で読める、たしかにお得な本だった。本人の解説付きなのも良い。 「タイムスリップコンビナート」 意識の流れで書かれた、現実の中に時折混じる変なもの。マグロへの恋、謎の電話、大量に現れたおっさん、片面が海の駅。初めて笙野頼子を読むものだから、ただただ変な話だなーゼンエイテキなゲイジュツだなーと思いながら読んでいた。解説で若干腑に落ちた。 「二百回忌」一番面白かった話。トンチンカンな話で200年に一度の奇祭、時空が歪み蘇った者も一族が一堂に会し、でも会話をするでも親交を深めるでもなく、でも一族であることが分かる、その騒々しさと乱雑さといい加減さ。 「なにもしていない」 これは、誇張はあるものの、私小説だろうと思う。長くて、卑下卑屈となにくそ魂と自己肯定感が波のようにうねり、世の中や周りや自分自身の心境の描写が客観的でズバズバ的確(でも結局引きこもってなにもしていない)なものだから、読んでて少し辛くなってくる。 ちょこちょこ母親との不仲の話(頼っているくせに強がり、自意識過剰自分しか見えず自分の主観で家族を動かそうとする)が出てきて、架空の毒親、心がズキズキした。 p165「バカナコトヲイウナ。綱わたりの最中、ああおちたらこわいなーここは百メートルあるよー、などと本当の事を叫びながら渡れとでも言うのか…」

Posted byブクログ

2019/01/12

文芸誌を部分的でも読む「砂金の一粒」相手の商売か いや商売でなく芸術か 商品であるなら売れなければならない正義ゆえに芸術は存在する意義を持つ

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2018/11/03

この人の作品は…なんというか、自己主張が強くて読んでいて疲れますねぇ…まあ、何かしら目の張るところがあるので読み続けているわけですが。 ヽ(・ω・)/ズコー 特に「何もしてない」なんて自身の病気の症状を延々と語り出すものだから、何か闘病ブログでも読んでいるんじゃないかと錯覚...

この人の作品は…なんというか、自己主張が強くて読んでいて疲れますねぇ…まあ、何かしら目の張るところがあるので読み続けているわけですが。 ヽ(・ω・)/ズコー 特に「何もしてない」なんて自身の病気の症状を延々と語り出すものだから、何か闘病ブログでも読んでいるんじゃないかと錯覚してしまいました…。 ヽ(・ω・)/ズコー 好きなのは他の二編ですねぇ、タイムスリップコンビナート? もマグロとの恋愛に疲れて……みたいな書き出しが面白いと思いましたし、二百回忌は変なことが延々と起きているのに主人公はどこか飄々と、と言いますか、淡々と、と言いますかあまり動じていない風なのが面白いと思いました。 ヽ(・ω・)/ズコー あとがきもまた独特でして…とにかく不遇な時代が長く続いたという著者。それが「三冠」も達成して、いやはや、作家として順調じゃないですか! おめでとうございます! というわけで、さようなら…。 ヽ(・ω・)/ズコー

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2018/02/16

こういう作品の纏め方って、あざといとも思う反面、潔いですね。いわゆる私小説になるんだろうけど、収められた三篇がそれぞれに違う雰囲気を醸してて、でも笙野頼子印がしっかり押されていて、読んでて気持ちよかったです。”二百回忌”に至っては、もはや完全にファンタジーだし、他の二編についても...

こういう作品の纏め方って、あざといとも思う反面、潔いですね。いわゆる私小説になるんだろうけど、収められた三篇がそれぞれに違う雰囲気を醸してて、でも笙野頼子印がしっかり押されていて、読んでて気持ちよかったです。”二百回忌”に至っては、もはや完全にファンタジーだし、他の二編についても、電車移動とか皮膚科診察とかを軸にしながらもあちこちに妄想飛びまくりで、混沌世界観が満載。ただ単に意味が分からんだけと思えないのも、構成や文章の妙があってこそと理解。さすがの力作三部でした。

Posted byブクログ