真鶴 の商品レビュー
昔、大切な人が突然いなくなったことがある。 さよならもなく。 今もどこにいるかわからない。 あの日を境に、俺の精神構造は明らかに変わってしまった。 それぐらい強い衝撃をおぼえた。 たぶん、死んでしまうことよりも。 不思議な文体が、ゆっくりと、ときにはつ...
昔、大切な人が突然いなくなったことがある。 さよならもなく。 今もどこにいるかわからない。 あの日を境に、俺の精神構造は明らかに変わってしまった。 それぐらい強い衝撃をおぼえた。 たぶん、死んでしまうことよりも。 不思議な文体が、ゆっくりと、ときにはつよく、しみ込んできた。 こんなこともあるのかなという共感ではなく、どちらかというと共鳴。 ちなみに真鶴は、たまたま大学時代の研究で まちあるきをしたことがある。 何ともいえない色のまちだなあと、 ぼーっとしながら一時間ほど 色鉛筆で淡い色あいのスケッチをかいた。 行ったことのない方は、是非一度。 真鶴港からすり鉢状に広がる家々の姿や、 眺めを独占しないようにたたずんでいるまちなみ、 心地よい「ゆらぎ」を感じさせる路地、 丁寧に積まれた石垣が美しいまちだ。 そんなまちなみの先に、海に突き出た緑の半島がある。 魚を育て、水をため、港をふちどっている、 生き物のようなグリーンのかたまりが、 この物語の色合いになんとなく似合っている気もする。
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今の、日本の小説の最高峰の作品ではないだろうか。と思う。他の人が行けない一つの境地に辿り着いた。そんな感がある。全体の2/3は完璧に神懸っていた。そして、最後の1/3のそのさらに半分は凡庸で(しかし、この凡庸さが物語りを支えている、という感はあるが)、最後の最後はまた神懸り。とい...
今の、日本の小説の最高峰の作品ではないだろうか。と思う。他の人が行けない一つの境地に辿り着いた。そんな感がある。全体の2/3は完璧に神懸っていた。そして、最後の1/3のそのさらに半分は凡庸で(しかし、この凡庸さが物語りを支えている、という感はあるが)、最後の最後はまた神懸り。という。こんな作品を書いてしまったら、この後、何を書くというのだろうか。という作品に巡りあうことは非常に稀だが、これはそんな作品だと思う。切なくて、淋しくて、揺るぎない。川上弘美の文章のテンポ、仮名の使い方、読んでいるうちに作者の手中に、テリトリーに入ってしまっているような気がする。でも、全てをコントロールして辿り着いたというような作品でも決してない。いつの間にか辿り着いたというか。辿り着いたら秘境だった。というような、そんな感触。(07/7/27)
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「ゆたう」と言うイメージがしっくりときた。たるむ、ゆるむという言葉の意味そのままのではなく、全体としての雰囲気が「ゆたう」なのだ。 浅く、ゆるく、でも深く、一瞬息もできないほどの苦しさが胸を締め付ける。根底を深い悲しみが淡く漂っている。独特の世界観。 この丁寧な装丁も素晴しい。
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2007.07. いなくなった礼、そこにいるはずの青慈、変わってしまう百、変わらない母。そして、何度も何度も真鶴を訪れる京。ついてくる、何か・誰か。すべてをゆるく包み込みながら、独特の不安定さで進む物語。あちらとこちらの境が、どんどん薄まっていくのが奇妙なような当たり前なような、...
2007.07. いなくなった礼、そこにいるはずの青慈、変わってしまう百、変わらない母。そして、何度も何度も真鶴を訪れる京。ついてくる、何か・誰か。すべてをゆるく包み込みながら、独特の不安定さで進む物語。あちらとこちらの境が、どんどん薄まっていくのが奇妙なような当たり前なような、変な感覚に陥ってしまう。私も、吸い込まれる。引きずられる。悲しいのか、なんなのかわからない掴めない感情があふれる。読み終えた後、ずいぶんぼんやりしてしまった。
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失踪した夫、礼を思う京と、娘の百、京の母、京の不倫相手の青茲、が主な登場人物。 真鶴で女が憑いてくる。京の感覚がおかしくなる。現実か妄想か?京の礼に関する記憶は本当にあったことか? 現実の話しと礼の記憶が交互に語られる。 大人になり、京から離れて行く百。不安定な青茲との...
失踪した夫、礼を思う京と、娘の百、京の母、京の不倫相手の青茲、が主な登場人物。 真鶴で女が憑いてくる。京の感覚がおかしくなる。現実か妄想か?京の礼に関する記憶は本当にあったことか? 現実の話しと礼の記憶が交互に語られる。 大人になり、京から離れて行く百。不安定な青茲との関係。様々な人間関係の不安定さを、「濃い・薄い」「近い・遠い」などと、川上弘美さん独特な手法で表現している。 それぞれの人間関係が、それぞれに切なさを感じさせます。
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この主人公ほど物事を深く(暗く)考えないので、「そこまで鬱々としなくても…」と共感できない部分が多々あるのですが、全体的な静けさとかはやっぱり川上弘美っぽくて好き。特に娘の百の幼い頃を思い出すくだりは、自分の娘の今の様子と重なって愛しくなります。
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最初遠くあったものが 次第に近くなる そのうちに中へ入ってきて 泣く 泣く ほほえむ そしてまた、元在った場所に戻っていく なにかが変わっている なにか と は なに か
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「いつからわたしは、にじまなくなったのだろう。」 独特な文体や現実と幻想的な場面が入り交じり錯綜するところは著者ならではなのだが、どうも今までの川上弘美とちょっと違うみたい。今までになく、主人公の情念がね〜っとり感じられる。しかしこれが私の好みでなく、幻想?シーンは読んでいて度...
「いつからわたしは、にじまなくなったのだろう。」 独特な文体や現実と幻想的な場面が入り交じり錯綜するところは著者ならではなのだが、どうも今までの川上弘美とちょっと違うみたい。今までになく、主人公の情念がね〜っとり感じられる。しかしこれが私の好みでなく、幻想?シーンは読んでいて度々眠くなった。
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小さな箱の中をのぞいているような 三面鏡の前に立っているような つまり、対峙しているのは己、という印象 しくしくとした痛みが、影のようにいつも纏わりついている 誇張も収縮も装飾もされていない本当の痛み ―それは身を裂くような痛みが時間によって緩和と忘却という過...
小さな箱の中をのぞいているような 三面鏡の前に立っているような つまり、対峙しているのは己、という印象 しくしくとした痛みが、影のようにいつも纏わりついている 誇張も収縮も装飾もされていない本当の痛み ―それは身を裂くような痛みが時間によって緩和と忘却という過程を経て、 生活の中に埋もれていくも、しかし消滅することはなく、 沈殿した澱のように内側にこびりついてしまった類のもの― が、主人公・京のみる夢か現が定かでないものなかに 確かに根を下ろしている、そのことが、そのまま、頁の上に在る 誰かと別れたり、去っていかれるのは哀しい いなくならないで、と 胸のうちでアタシも、そう、ねがう。
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そこはかとない恐ろしさと、静かで美しい描写が気に入りました。そしてなんと言ってもこの本の装丁の美しさが好きです。 関連記事:『Oanim』Words I likeへ→http://oanim.net/words.html
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