温室デイズ の商品レビュー
切れやすい子供たち──現実の学校生活はやはり厳しいのか…… 瀬尾さんのこれまで読んだ作品に出てくる子供たちは、皆が明るい子ばかりだった。 悩みや葛藤で反抗する時もあるけれど、本質的にはみんないい子たち。 だが、この作品はこれまでのものとはやや毛色が違う。 荒んだ現在の学校教育の...
切れやすい子供たち──現実の学校生活はやはり厳しいのか…… 瀬尾さんのこれまで読んだ作品に出てくる子供たちは、皆が明るい子ばかりだった。 悩みや葛藤で反抗する時もあるけれど、本質的にはみんないい子たち。 だが、この作品はこれまでのものとはやや毛色が違う。 荒んだ現在の学校教育の実体を露わにしているようだ。 「トイレでたばこの吸殻が発見される」「授業中に教室を出て行く生徒が目立つ」「廊下には『死ね』の落書き」など、他の作品ではオブラートで包んでいたような状況が前面に出てくる。 小学生の段階ですでに『学級崩壊』や『いじめ』は始まっている。 茶髪の小学生。赤い頭の小学生。 今の公立小学校の実体を知らない私などは全く唖然とさせられる。 先生の責任というよりは、そんなことを子供に許す親の神経が理解不能だ。 かといって、先生に責任がないと言うつもりもない。 それを友達感覚で見過ごし甘えさせる先生たち。これも理解できない。 私は『体罰肯定論者』ではないが、先生の力が弱くなりすぎ、少しでも生徒に注意をすると、親から怒りの電話がかかってくる。教育委員会から注意を受ける。 そんな弱腰の先生には、事なかれ主義が蔓延してしまう。 一時期よりは数が減ったが、未だに『いじめによる自殺する生徒』はあとを絶たない。 その時、いつも最初の学校側の釈明で繰り返されるのが『兆候は見えなかった』という言葉。 “見えなかった”のではない、“見て見ぬ振りをした”、或いは“見ようとしなかった”のだ。 だからいつだって、その前言は警察の調査が進み数日絶つと、いとも簡単に翻る。 いったい、このままで良いのか? ようやく文部省も『ゆとり教育』が間違っていたことを認め始めた。 私たちは、この国の未来を今後背負っていく子供たちに責任を持たなければならない。 教育の崩壊は、確実に何年後かの国家の崩壊を意味するからだ。 さて、この「温室デイズ」である。 いつものように、ほのぼのとした素直で心癒される物語なのだろう、と思い図書館から借りた。 ところが先に書いたように、全くそれまでの作品とは異なるものだった。 今までの彼女の作品が『フィクション』とすれば、これは『ノンフィクション』ではないのかと思えるほどに。 荒れた中学で悩むみちると優美子。 二人ともいじめに苦しみながら、それぞれの考えで何とか立ち向かおうとする。 教師は殆ど頼りにならない。 現実は、やはりこうなのだろう。 もはや金八先生の時代のように、教師と生徒の関係は単純ではない。 でも、主人公の「みちる」は最後まで諦めない。 “中学校生活は、嫌なことばかりだった。ひどい毎日だった。──だけど、その中で生まれたものもきっとある。──また中学校と同じような日々が待っていたらと不安になる。でも、またやってみたい。私はまた学校生活を送ってみたい。” 苦しみ、もがきながら、でもこれほど前向きに考えようとする「みちる」を二度と同じような目に遭わせてはならない。 そして、その責任は、学校や社会や先生や親や、私たち自身が負うべきものなのだ。 ──最後に 学校生活は本当に『温室』なのだろうか? 詳しい統計を知っているわけではないので予断は避けるが、『いじめ』で自殺をしたり、登校拒否になったり、その後の人生を苦しみながら生きていく子供たちと、職場でのパワハラなどに耐えかねて『うつ病』になるサラリーマンとどちらが多いのだろう。 純粋で傷つきやすい部分が多いだけ、社会に出た人たちよりも、学校の中にいる子供たちのほうが苦しみは大きいのではないだろうか。 そして、その糸が切れた時に死を決意する。 「生きていれば、いつかは楽しいこともある」と苦しんでいる少年少女たちに教えてあげたい。 次の世代を健やかに育て、未来に希望の持てる社会にしていくために、私たちの世代は責任を持たなければならない。 それはけして簡単な道程ではないけれど。 自分の子供のことしか考えない『モンスターペアレント』を私は認めない。 学校を『温室』化させて、見過ごす先生たちも。 さらにはこの数十年間、危機感を抱くことなく、臭い物にフタをして、現実に真正面から向き合わなかった文部科学省のお偉方も……。 私は、昨年瀬尾さんが教師を辞めたことが、いつまでも頭の隅に引っ掛かっている。 単に執筆活動が忙しくなり、教師と作家の両立が難しくなったということなら良いのだが。 その理由が、現実の教師の限界を感じたからでないことを祈りたいものだ。
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時間をかけることなく、さらっと読めてしまえた。 いじめをテーマにした作品。 みちると吉川の関係がすき。 人物としては斎藤くんが最高にかっこいい。 優子ちゃんや瞬のように、自分でも気づかないうちにずるずると落ちていってしまう気持ちはわかる。
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2度目の読了。 瀬尾さんの作品は概して「癒し」に満ちあふれているが、この作品だけは、「現実と戦う力」を授けてくれる。 いじめや学級崩壊をテーマにした小説。そして、リアルかつハード。よくぞここまで描けると思う。 そして、僕は自分が抱える困難な現実と向き合う姿勢をこの本から...
2度目の読了。 瀬尾さんの作品は概して「癒し」に満ちあふれているが、この作品だけは、「現実と戦う力」を授けてくれる。 いじめや学級崩壊をテーマにした小説。そして、リアルかつハード。よくぞここまで描けると思う。 そして、僕は自分が抱える困難な現実と向き合う姿勢をこの本から頂く。感謝。
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いじめがテーマと言っていいのだろうか。 いじめに立ち向かう少女と逃避をしてみる少女の両方の視点から描かれる。 やはり中学生を日常に見てきた作者だから、リアルな感じもする。教師の実態とかも。 いじめってきっと無くならない。 何か敵を作ることでバランスをとるんだろうな。 この対処...
いじめがテーマと言っていいのだろうか。 いじめに立ち向かう少女と逃避をしてみる少女の両方の視点から描かれる。 やはり中学生を日常に見てきた作者だから、リアルな感じもする。教師の実態とかも。 いじめってきっと無くならない。 何か敵を作ることでバランスをとるんだろうな。 この対処方法が正しいという書き方をしてないのがいいなと思った。
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■珍しく?暗い系だったねぇ。小学校6年から中学3年の青春って感じかなぁ。いい青春でなくて授業崩壊してるけど、すごくまとまりなさが中学生っぽい。そんななかでも登場人物が普通っぽく素敵だったりもする。登場人物の普通さが瀬尾まいこって感じ。
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こういう状況になった事がないから、うまく感情移入できなかったな‥。 暗くて重い話のはずなのに、さらっと読めたかな。 重くはないのにこれが現実なのかなって思わせるリアルさがありました。 救いようがないような、希望であるような。
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みちると優子は中学3年生。2人が通う宮前中学校は崩壊が進んでいた。校舎の窓は残らず割られ、不良たちの教師への暴力も日常茶飯事だ。そんな中学からもあと半年で卒業という頃、ある出来事がきっかけで、優子は女子からいじめを受け始める。優子を守ろうとみちるは行動に出るが、今度はみちるがいじ...
みちると優子は中学3年生。2人が通う宮前中学校は崩壊が進んでいた。校舎の窓は残らず割られ、不良たちの教師への暴力も日常茶飯事だ。そんな中学からもあと半年で卒業という頃、ある出来事がきっかけで、優子は女子からいじめを受け始める。優子を守ろうとみちるは行動に出るが、今度はみちるがいじめの対象に。2人はそれぞれのやり方で学校を元に戻そうとするが…。2人の少女が起こした、小さな優しい奇跡の物語。 私の通っていた中学校も、当時、かなり荒れていたので、自分の中学時代を思い出しながら一気に読んだ。尾崎豊の『卒業』、まさに、そんな感じだったなぁ。 いじめを題材にした小説ということだったので、暗くドロドロした話なのかと思ったけど、主人公の真っ直ぐでひたむきな姿に救われた。 一人が何かを大きく変えることは出来なくても、努力すれば、必ず何かの変化をもたらす。そんなことを再確認させてくれる小説。
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いじめを題材にしても黒くなく、血腥くもならないのが持ち味。でもそれがある意味リアリティなのかもと思うような、そうでもないような……? 読みやすいことは読みやすいけれど、なんだか、裏地のキュプラみたいにさらりつるりと指の間からすり抜けていくような印象かも。
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本にはアタリハズレがあると思ってますけど、瀬尾さんの作品にハズレなんてありませんね。どこか共感できるところがありました。
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トレーシングペーパーに描かれた絵が 幾枚も幾枚も重ねられてできた絵のような印象。 精緻だけど、近づきすぎない。 距離のとり方が絶妙だと思う。 すごいなぁ。
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