ミオよわたしのミオ の商品レビュー
別世界「はるかな国」…
別世界「はるかな国」へ迷い込んだ孤児の少年ボッセの物語。初めて読んだ時、それまで出会ってきたリンドグレーンの作品とはかなり作風が違っていて驚きました。胸に響く上質な作品です。
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僕を呼ぶお父さんの声さえ信じていれば何も怖くない。 孤児だったボッセは引き取られた家でも愛されず、辛い思いをしていた。ある夜、別の世界に引き込まれたボッセは、その「はるかな国」の王子ミオであった。そこには優しいお父さん、親友ユムユム、美しい白い馬ミラミスがいた。美しいバラ園や遠乗り、何より愛する父王との日々を楽しんでいたボッセだが、自分が残酷な騎士カトーと戦う運命であることを知る。 「ミオよ、わたしのミオ」と呼びかける父の声がピンチに陥り弱気になったミオを奮い立たせる。親友ユムユムとの絆も美しいが、何より素晴らしいのはボッセが父王の愛情を疑わないこと。父は自分が嫌いだからこんな戦いに向かわせるのかと疑う瞬間は一度もない。反対に、父も離れるのは悲しかっただろうけれど、信じて送り出してくれたと考えられるボッセ。恐ろしい試練に対して、自分がやり遂げることを父王が信じているから、悲しくても辛くても立ち向かう。かけられた愛情は勇気や自信になる。それをこの物語は力強く語りかけてくる。
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素晴らしかった。 リンドグレーンの文も、大塚勇三さんの日本語も、ぐいぐいと読ませてくれる。 主人公は、現実世界には二度と戻れない寂しさを持っているまま、はるかな国で幸せに暮らしていくのがら、なんとも言えない。 登場する名前が、ミオ、ユムユム、ミラミス、など響きが愛らしい。
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リンドグレーンの美しいファンタジー。 幸せな国の隣にある死の国。それを支配する恐ろしい圧制者。昔から語り伝えられてきた救いの騎士と魔法の剣……と、よくあるアイテムが集まってはいるのだけど、それでもこんなにハラハラと引き込まれるのは、ミオが、家でも学校でもいじめられていたふつうの子...
リンドグレーンの美しいファンタジー。 幸せな国の隣にある死の国。それを支配する恐ろしい圧制者。昔から語り伝えられてきた救いの騎士と魔法の剣……と、よくあるアイテムが集まってはいるのだけど、それでもこんなにハラハラと引き込まれるのは、ミオが、家でも学校でもいじめられていたふつうの子で、はるかな国にやってきて王子になっても(そういう意味で、貴種流離譚でもある)、小さくてこわがりで、ぶるぶる震えている弱さをずっとかかえているからなんだと思う。 それにしても風景の描写や、馬のミラミスがミオに鼻先を寄せてずっと頭をもたせかけている様のいとおしいこと。美しい場面がそこここにちりばめられた物語でした。
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美しい叙事詩。言葉が重なり、リズムが作られ、まるでお話がそこに織られていくよう。オペラ。波が打ち寄せ引くように繰り返され、語られていく。 そして最後は、また元の現実の世界を回想して、円が閉じられる。 現実の世界との繋がりを幾分かは保ったまま話が進んでいくことを、どう捉えたらいいの...
美しい叙事詩。言葉が重なり、リズムが作られ、まるでお話がそこに織られていくよう。オペラ。波が打ち寄せ引くように繰り返され、語られていく。 そして最後は、また元の現実の世界を回想して、円が閉じられる。 現実の世界との繋がりを幾分かは保ったまま話が進んでいくことを、どう捉えたらいいのだろう。 彼の夢想、現実逃避の世界と捉えることも、また、死と結びつけることも出来るのだろうが、まだこれという解釈に落ち着かない。
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最後の方で、なげき鳥が飛んでいました。 もう、子供達は元に戻ったのにです。 私はなげき鳥は、騎士カトーのためにいたんだと思いました。騎士カトーは、自分を一番にくんでいるようだとありました。そんな騎士カトーを、可哀想に思った鳥が、騎士カトーのために歌を歌っていたんではないでしょうか?
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子供時代にこの本と「はるかな国の兄弟」を読んだ順番は、今回とは逆でこちらの作品が先で「はるかな国~」が後でした。 こちらの「ミオよ わたしのミオ」はあからさまに死については語っておらず子供心に安心して読むことができたように記憶しているのですが、今回の読書では「はるかな国」という言葉そのものに「あの世」のイメージが強烈に染みついているということも手伝って、どうしてもそういうニュアンスから離れることができないまま読み進みました。 そのせいもあったのか、子供時代には「美しさ」として捉えていた一つ一つの描写が切なさや儚さを伴い、読んでいて胸が痛みました。 子供時代にもこの物語を辛い日々を送っていたみなしごボッセの現実逃避の物語として読んでいたようなところがあったのですが、今回はボッセがどれだけ愛情に飢えていたのか、現実世界の唯一の友達ベンカをどれだけ羨ましく思っていたのか、それらの孤独に苛まれた心が夢見ざるをえなかったのが残酷な騎士カトーとの戦いに赴く冒険の物語だったのだということが子供時代よりもはるかに切実に胸に迫ってきました。 どこかもや~っとした淡い光を思わせるものに包まれている美しい「はるかな国」の描写にはこれがある種の夢であることが暗示されています。 そして、あまりに優しい父王の姿やこの世界で得ることができた親友ユムユムや父王からプレゼントされた美しい白馬ミラミスにボッセが現実世界のウップランド通りに残してきてボッセが好きだった人々(馬も含む)の面影があります。 なぜ王様は大好きだったベンカのお父さんによく似ているけどもっと美しく、もっと優しいのか? なぜ美しい白馬ミラミスは大好きだったビール工場の老馬と同じ目つきをしているのか? なぜユムユムはベンカに似ているのか? なぜ「はるかな国」にある家はどの家もおとぎ話に出てくるような家なのか? 壮絶なカトーとの対決に打ち勝ち、カトーに囚われて鳥に姿を変えられていた子供達が皆無事に戻ったのに、なぜ囚われた子供達のために啼いていたなげき鳥が啼きやまないのか? それらの全てがボッセの孤独の深さを物語り、同時にボッセの絶望が生み出した幻影であることを感じさせます。 そして本書の題名にもなっている「ミオよ わたしのミオ」という父王の言葉。 ここにボッセが心の底から求めているものの本質が全て含まれていることに否応なく気がつかされるのです。 何らかの苦難に陥り絶望しそうになるたびにミオには父王の「ミオよ わたしのミオ」と呼びかける声が聞こえます。 これは少年の心が生み出し、その寂しい心の空洞の中でこだまのように響く切ない呼び声です。 原語では "Mio, Min Mio"。 全ての音に "M" が含まれリズム感もあるこの言葉に込められているのは自分を無条件で信頼し、必要としてくれている親の心であることがひしひしと伝わってきます。 子供にとって常に親が味方でいてくれて自分の身を案じてくれていると信じられる安心感に勝るものはないのだと思わずにはいられません。 懐かしいおとぎ話のようなストーリー展開(特にユムユムが冒険の途中で窮地に陥るたびに似たようなフレーズを繰り返し、その結果何らかの次の展開が自動的に繰り広げられるなど)と、まるで詩のように美しい情景描写が相俟ってさらっと読み流しても「いい物語を読んだなぁ」という感慨を得られる作品になっているように思うのですが、大人が読むともっとずっしりと心に響いてくる作品であるように感じました。 ひょっとするとこの物語、子供のみならず子供と一緒に子を持つ親に読んでもらいたいと念じながら書かれた物語なのかもしれません。
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大好きな「ながくつしたのピッピ」を書いたリンドグレーンの作品。 孤児のボッセが「はるかな国」へ行って、騎士カトーと戦い、捕らわれていた子供や、動物や、光を取り戻すお話… と、言うのが小学生の頃に読んだ私の記憶。 ひょんなきっかけで再び手に取ったから気付けたボッセの悲しみ、淋しさ...
大好きな「ながくつしたのピッピ」を書いたリンドグレーンの作品。 孤児のボッセが「はるかな国」へ行って、騎士カトーと戦い、捕らわれていた子供や、動物や、光を取り戻すお話… と、言うのが小学生の頃に読んだ私の記憶。 ひょんなきっかけで再び手に取ったから気付けたボッセの悲しみ、淋しさ、愛を求める心… ボッセが求めていたのは、大きな幸せでは無い。キラキラ輝くものではなく、穏やかな普通にあると思われる日だまりのような幸せ。それが何よりも尊いものだと児童文学に含ませるリンドグレーンは、やはり素晴らしい作家だと痛感させられる一冊。
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冒険ファンタジーの基本的な要素が詰まった、美しくて切ない物語だと思う。 あらすじはこんな感じ。 孤児のブッセが黄金のりんごに導かれて「はるかな国」へ旅立つ→国王である父と会い、本当の名は王子ミオだと知り、親友を得て幸せな日々をすごす→何かに導かれて邪悪な騎士を倒しにゆく。が、それは千年の、さらに千年の昔から決まっていたことだという→恐ろしい思いをして「外の国」にある騎士カトーの城にたどり着き、さらに何度も死にそうな目にあいながら、やっとのことでカトーを倒す→その後王子ミオは「はるかな国」でずっと幸せにくらしましたとさ。時々孤児だったころの暮らしを思い出しながら。 恵まれない境遇の子どもが実は……という展開、選ばれた者として大きな敵をやっつけに行かなくてはならない、という展開。そしてお姫様はいないけれど代わりに無二の親友を得る展開。石をも切り裂く剣、姿を消せるマント、済んだ音色を出す笛と古い美しいメロディなど、小道具は基本中の基本のものが最低限だけ揃っている。 読者をドキドキハラハラさせる語り口は絶品。最後は絶対に大団円だとわかっているのに、ミオといっしょに恐怖や絶望を味わってしまう。ミオは絶望しそうになるたび、父が「ミオよ、わたしのミオ」と呼ぶ声を心の耳で聞く。そして恐怖を乗り越えてゆく。子どもにとって、親がいつも自分の身を気遣っていると信じきれることがどれほど力になるか。もしかするとこれは親たちのために書かれた物語かもしれない。 とても楽しくて安心感に包まれた物語ではあるけど、最後まで読みきったとき、ふと「ミオは本当はどこにいるのだろう」と思った。ある日、忽然と「現実」世界から消えて「はるかな国」へ行ってしまったミオ。日本ならさしずめ神かくしというところか。あるいは夢想の世界へ入ったきり戻ってこなくなったのか、それとも死後の世界へ行ってしまったのか。何もかも満ち足りて幸せだけども、折に触れて現実世界のあれこれを思い出すミオを見ていると、ふと暗い妄想が湧いてくるのだった。
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え〜と……そういうことだよねぇ??って思いながらアマゾンレビューを見たら、やっぱりそう読むのが大人の読み方か……と思って切なくなった。そういう読み方をしたら怖いお話です。 物語というより詩……。そう、叙事詩みたいでとても美しいけれど。
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