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彼方なる歌に耳を澄ませよ の商品レビュー

4.3

22件のお客様レビュー

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2022/12/12

「クロウン・キャラム・ルーア」――赤毛のキャラムの子供たち 物語は、18世紀末最初にケープ・ブレトン島に立ったキャラム・ルーアと、その20世紀の子孫である「私」アレクサンダー・マクドナルドの家族の出来事を明らかにしていく。 かつて、フランスとイギリスはアメリカ大陸の覇権をめぐ...

「クロウン・キャラム・ルーア」――赤毛のキャラムの子供たち 物語は、18世紀末最初にケープ・ブレトン島に立ったキャラム・ルーアと、その20世紀の子孫である「私」アレクサンダー・マクドナルドの家族の出来事を明らかにしていく。 かつて、フランスとイギリスはアメリカ大陸の覇権をめぐって争っていた。18世紀末、猛勇果敢なハイランダー(スコットランドのハイランド地区の人たち)は、戦争のために多くがカナダに移ることになった。 生きるために、キャラム・ルーアは12人の子供と妻、親戚を連れて大西洋を渡り、ケープ・ブレトン島にたどり着く。 子供たちはたくましく生き抜き、その子孫はカナダ東部に広がったり再びスコットランドに戻ったりして各地で生きるも、血のつながりが何よりも大切とされ、同族とわかるとゲール語で歌い合い酒を飲みかわす。 「赤毛で双子が多く、古いスコットランドの言葉である「ゲール語」の歌をこよなく愛する人たち」。 出だしは、アルコール依存症の貧しい兄を、高額な歯科医療を仕事として持つ「私」が訪ねる場面から始まる。 …なぜ、「私」はこの兄のもとに通うのか? ここからこの壮大な叙事詩が幕を開ける…。 浸りきってしまった。 ページを閉じた後も、しばらく、暗い海と灯台が見えていた……。

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2022/11/15

アリステア・マクラウド・・100年前の作家、佳作、とてつもない短編の名手と謳われる。再読をしない私に取り、数少ない、「読み返したくなる作家の一人。 唯一の長編である当作、13年余の日月を掛けて丹念に綴った感のある誇り高きハイランダの紐帯と情緒、決して安泰ではない血と汗と涙が滲む...

アリステア・マクラウド・・100年前の作家、佳作、とてつもない短編の名手と謳われる。再読をしない私に取り、数少ない、「読み返したくなる作家の一人。 唯一の長編である当作、13年余の日月を掛けて丹念に綴った感のある誇り高きハイランダの紐帯と情緒、決して安泰ではない血と汗と涙が滲むときの流れである。 両親と末の弟を思いがけぬ事故で失った歯科医の次男。 文は回想と現時点を交互にあやなすように綴られて行く。 挿入されるカナダ ノヴァスコンシア州ヶプ・ブレトン島や周辺の何れも身内が思い出として絡んだ土地の情景。 登場するのはクロウン・キャラム・ルーア(初めに移住を決意した赤毛のキャラムの子孫の意)の人々。 ケルト語を話し、ケルト民族の歌をこよなく愛し、民族と深くまつわった食べ物や料理を愛すことで一族の紐帯はとてつもなく強く、今の時間へと連なってきている・・とは言え「最後に締める誰でも愛されると いい人間になるというのは大きく否と感じる~それはノスタルジックに溢れた安っぽい感傷だと・ マクドナルド一族はクラウンにのみ認められた由緒ある家柄・・それだけ紐帯の強さは感じるとともに排他的な気持ちを持つの現代だからだろうか。移民独特の空気感である。 岬、波しぶき、犬や馬と一体の日々の暮らし、亡くなった両親が移った集団写真を引き伸ばそうかと考えて・・ぼやけてしまうことから諦めるシーン・・回顧のメリットとデメリットが織りなす複雑な6世代の感慨を受けた読後だった。

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2017/12/08

この物語に関して私が書けることはそれほど多くない。 ただ、かけがえない、いとおしい物語が私の中に一つ増えたということだろうか。 最終盤の章を読みながら、私自身の祖父や祖母のことを思い出していた。感情の波が体中に押し寄せ、物語を読み終えた後しばらく放心状態だった。 読み終えてみると...

この物語に関して私が書けることはそれほど多くない。 ただ、かけがえない、いとおしい物語が私の中に一つ増えたということだろうか。 最終盤の章を読みながら、私自身の祖父や祖母のことを思い出していた。感情の波が体中に押し寄せ、物語を読み終えた後しばらく放心状態だった。 読み終えてみると全ての章が、エピソードが、人物たちが心に焼き付いているかのようだ。 著者のマクラウドも、訳者の中野恵津子さんも鬼籍に入ってしまったが、物語は私たち一人ひとりの心の中で生き続ける。それが物語だ。 「誰でも、愛されるとよりよい人間になる」

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2017/04/14

アリステア・マクラウドは寡作な作家。 珠玉の作品ばかりで読む愉しみを味わえたが、この作品が最後。 短編を書くマクラウドの唯一の長編作品。 いつものようにゲール語、アイルランド、いつも通りのマクラウドの世界。 マクラウドが描く世界は不思議だ。 わたしはこういう暮らしをしたことが...

アリステア・マクラウドは寡作な作家。 珠玉の作品ばかりで読む愉しみを味わえたが、この作品が最後。 短編を書くマクラウドの唯一の長編作品。 いつものようにゲール語、アイルランド、いつも通りのマクラウドの世界。 マクラウドが描く世界は不思議だ。 わたしはこういう暮らしをしたことがないし見たこともないのに、何故かいつも懐かしい。 国が違っていても、誰にでも心に残る原風景といったものがあると思う。 マクラウドはそんな景色を描いている。 スコットランドからカナダ東端の島に、家族と移り住んだ赤毛の男。 そこで営まれる哀しくも穏やかな暮らし。 予備知識なしに読んでも物語に漂うものは感じられると思うが、先に訳者あとがきに目を通して、スコットランドの戦いの歴史を頭に置いておくと、更に物語に入りやすくなるかもしれない。 物語中、父と母と幼い兄が氷の下に落ちたとき、懸命に主人のために生きた犬の部分など、命ある限り人間のために生きないではいられない犬の健気さも心に残る。 何でもない日常、豊かではないが静かで穏やかな暮らしの中に起こるささやかな出来事。 物語全体としては明るいものではなく暗さを感じるのに、気が滅入ることはない。それは作品に登場する人々が自信と責任を持って強く行きていることが感じられるからだろうか。 色褪せた、それでいて透き通ったマクラウドの世界を心から堪能出来る一冊。 もうこれでマクラウドの遺した作品は全て読んだ。 もっともっと、マクラウドの描く誇りある人々の暮らしに触れたかった。 それでも、読み返せばいつでもマクラウドの世界に入ることが出来る。

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2014/09/24

スコットランドからカナダへ移住した一家の6世代におよぶ物語。 厳しい自然の中、彼らは一族のつながりを大切に物語をつないでいく。時に優しく、時に勇猛に。 血は水より濃いのだから。 遥かスコットランド、ハイランドから、 ケープブレトンから、 聞こえてくるのは彼らの歌だ。

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2014/01/24

スコットランドからカナダへ入植した赤毛の男。6代目の子孫にあたる兄弟たちの交流を軸に、現代から赤毛の男までの記憶を、丹念に紐解いていく。抑制のきいた文章がいい。 日本訳の翻訳タイトルは、どうか。原題 "No Great Mischief" は "たい...

スコットランドからカナダへ入植した赤毛の男。6代目の子孫にあたる兄弟たちの交流を軸に、現代から赤毛の男までの記憶を、丹念に紐解いていく。抑制のきいた文章がいい。 日本訳の翻訳タイトルは、どうか。原題 "No Great Mischief" は "たいした損害ではない"。フランスとの支配権闘争時の将軍が、スコットランド兵を称して「彼らを失ってもたいした損害ではない」と言った、そのことばが出典。感傷主義を冷ます引き締まった原題が、邦訳では感傷ベタベタになっている。どうなんだ?

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2013/07/15

18世紀末にスコットランドから現在のノヴァ・スコシア州、カナダ東端の小さな島、ケープ・ブレトン島へ入植したキャラム・ルーアの末裔の物語。彼らは自らを「クロウン・キャラム・ルーア」(赤毛のキャラムの子供たち)と称し、幾世代を経ようとも変わらない血の継がりで、赤毛などその外見的な特徴...

18世紀末にスコットランドから現在のノヴァ・スコシア州、カナダ東端の小さな島、ケープ・ブレトン島へ入植したキャラム・ルーアの末裔の物語。彼らは自らを「クロウン・キャラム・ルーア」(赤毛のキャラムの子供たち)と称し、幾世代を経ようとも変わらない血の継がりで、赤毛などその外見的な特徴から同族を見つけては助け合う。 物語はキャラム・ルーアの曾孫にあたる人物を祖父に持つ一人称ナレータの主人公と、その祖父母、兄弟を中心に(両親は事故で亡くなっている)、現在と少年時代を行きつ戻りつしつつ、極寒地方での暮らしや鉱山での生活、ハイランダー(スコットランド ハイランド地方の人々)の歴史などを凛冽な文章で綴る。 故郷を離れ、物質文明に揉まれるうちに、民族としての根を失っていく人が多い現代においても、なおクロウン・キャラム・ルーア達はハイランダーの言語や歌、歴史を大切にし、お互いに助け合いながら誇り高く生きる。今や歯科医師となり、完全に「現代」に適応したかに見える主人公もその例外ではなく、ケープ・ブレントン島こそが家族の地だということを明確に示すラストシーンには思わず胸が熱くなった。今晩はグレンモーレンジでも飲むか。 著者のアリステア・マクラウドは主人公と同じくケープ・ブレトン島の出身。初の長編となる本書が処世作となり、カナダでは大ベストセラーになった。以前に発表していた短編も評価が高いようで、同じ新潮社クレストブックスから邦訳も出ている。某読書会で知り合った人からのオススメで読んでみたのだが、これは「当たり」だった。

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2013/03/10

スコットランドからカナダへ移り住んだ一族の物語。 歴史を背負って、社会状況や経済発展などに流されながらも、世代が交代し、血は受け継がれていく。 決して、美しい景色ばかりとはかぎらない日々の暮らしの中で、誇りと思いやりを持って生き抜く人々が愛しい。 こういう本を読めることに幸せ...

スコットランドからカナダへ移り住んだ一族の物語。 歴史を背負って、社会状況や経済発展などに流されながらも、世代が交代し、血は受け継がれていく。 決して、美しい景色ばかりとはかぎらない日々の暮らしの中で、誇りと思いやりを持って生き抜く人々が愛しい。 こういう本を読めることに幸せを感じた。

Posted byブクログ

2013/03/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ベネディクト・アンダーソンは国家を「想像の共同体」と呼んだ。ルーマニアの哲学者シオランも言っている。「私たちは、ある国に住むのではない。ある国語に住むのだ。祖国とは国語だ。」同じ言葉を話す人々の間には想像ではない共同体が営まれる。国を追われても、同じ言葉を話す者は一つに結ばれているものらしい。 置かれている状況も異なれば、暮らしぶりさえちがうのに、アリステア・マクラウドの小説に、かくまでにひきつけられるのはなぜだろう。情報網の発達の陰で、見も知らぬ人々との関係が結ばれるのとひきかえに、かつては確かにあったが、今では薄くなってしまった人と人との切っても切れない絆への、郷愁にも似た思いが募るからだろうか。 時代が変わり、人と人とのつきあい方が変われば、好むと好まざるに関わらず共同体意識も変化する。血を分けた家族の間でさえ、殺したり殺されたりするのが昨今の日本。新聞を開くたびに暗澹とした思いに胸塞ぐ事件を目にしない日がない。家族はともかく氏族となれば、儀礼的なつきあいにとどめておくのが今風というものだろう。 それにひきかえ、このスコットランド系カナダ人の間に残る紐帯の強さは何か。上官の命令に逆らってまで同族の傷兵を救助する先祖の戦士にはじまり、同じ炭鉱に働く一人が命を落とすと、上司が引き止めるにもかかわらず氏族みんなが帰郷するという現代の立坑掘りにまで連綿と続く。 かつて、ともに戦った将軍に、「彼らが倒れても、たいした損失ではない(原題“No Great Mischief”)」と言わしめた少数部族が生き残るためには、互いに助け合わねばならなかった。戦いに敗れたために故国を捨てるという苦渋の選択を強いられたスコットランド系カナダ移民。マイノリティではあるが、自分たちの氏族(クラン)に誇りを持つ人々たちの物語である。 タータン チェックという柄がある。シャツや膝掛けを彩るあの格子柄は正しくはクラン・タータンと呼ばれ、その氏族にだけ許された由緒ある図柄なのだ。マクドナルドの一族は王子から「わが希望は常に汝にあり、クラン・ドナルド」と言われたほどの名家だが、裏切りに合い衰退する。一族の末裔は、カナダに行けば土地が持てるという話にすがり、現在のノヴァスコシア州ケープ・ブレトン島に渡る。 代々そこで暮らす人々は、最初に移住を決意した赤毛のキャラムの子孫という意味でクロウン・キャラム・ルーアの子供たちと呼ばれる。後から来た者の常として、移民には厳しい労働が待っていた。一族は互いに強い絆で結ばれ、いざという時には助け合うことで苦しい生活を乗り切って今にいたる。一族の紐帯は現代にあってもそのまま生きているのだ。 主人公 は、多くの親族が漁民や坑夫として働くなか、オンタリオ州南西部で歯科医として働く変り種である。幼い頃、両親と末の兄を事故で失い、祖父母のもとで育てられたことが、兄たちとの命運を分けることになる。長兄のキャラムは、一族を率い、ウラニウム採掘の立抗掘りのリーダーを努めていたが、他のグループとの諍いで刑務所暮らしを余儀なくされた。今は出所しているが酒びたりで余命が危ぶまれる。 物語は、主人公が九月の黄金色の風景の中を兄のいるトロントに向けて車を走らせるところから始まる。兄を見舞うのは土曜ごとの習慣となっている。車を走らせる彼の目に映るのは他国から出稼ぎにきている季節労働者の姿。それは兄たちの姿に重なり、彼は一族の歴史を回想するのであった。 現在の情景と回想シーンが交互にカットバック風に入れ替わるのがこの作品の特徴。誇り高いハイランダー戦士の末裔であるという意識。両親の死に至る顛末とその後の子どもたちの生活。「情が深くて、がんばりすぎる」と言われる犬や馬との結びつき。繰り返し描かれるキャラムと主人公のいきさつや二人の父方の祖父母と母方の祖父の対照的なキャラクター描写。長編ならではの息の長いリズムで差し挟まれるいくつもの挿話が、次第にクライマックスに向かっていき、やがて訪れる悲劇。 強者が一人勝ちする現代社会にあって、哀愁を帯びたゲール語の歌を共有する血族で団結し、自分たちの文化を守り、誠実に誇らかに生きる男たちの姿。そして世界各地に散らばった自分たちの生地でない場所で、汗にまみれ、泥に汚れながらも生きていく故郷喪失者たちの現実を、嘆くのではない、訴えるのでもない、しかし、それが生きるよすがともいえる静かな怒りが伝わってくる、13年という歳月をかけて書きつがれたアリステア・マクラウド唯一の長編小説である。心して読まれたい。

Posted byブクログ

2012/06/19

スコットランドからカナダに移住してきた「赤毛のキャラム」。その子孫たちの話。人も犬も情が濃く、家族を大事にする。 過酷なことはいろいろあり、翻弄されるが、それでも「血」のつながりの尊さを思い出させてくれる作品。

Posted byブクログ