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彼方なる歌に耳を澄ませよ の商品レビュー

4.3

24件のお客様レビュー

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2025/05/07

雨の休日に、ずいぶん久しぶりに読んだ。 スコットランドから大西洋を渡ってきた一族の歴史へ、島の岬に打ち寄せる波の音とゲール語の歌声へと、ゆっくりと心が戻ってゆく。 1745年にスチュアート朝復興を支持して蜂起したスコットランドハイランダーたちは決定的な敗北を喫し、厳しい弾圧の末...

雨の休日に、ずいぶん久しぶりに読んだ。 スコットランドから大西洋を渡ってきた一族の歴史へ、島の岬に打ち寄せる波の音とゲール語の歌声へと、ゆっくりと心が戻ってゆく。 1745年にスチュアート朝復興を支持して蜂起したスコットランドハイランダーたちは決定的な敗北を喫し、厳しい弾圧の末に伝統文化を奪われる。 時が下ってのハイランド・クリアランスによってさらに生きる土地を失ったハイランダーたちは、英国植民地である北米大陸へと渡ってゆく。 カナダ東部ケープ・ブレトン島と、スコットランドモイダートを大西洋を挟んで繋ぐのは、マクドナルドクラン(氏族)の血筋だけではない。 二百年余の時を経ても繰り返し反芻し続けてきた戦いの記憶と、公用語として禁止された時代を生き延びて伝えられてきたゲール語が、人々を繋ぎ合わせるのだ。  “彼女は全部ゲール語で言ったんだけど、私もみんなにゲール語でしゃべりはじめていたの。 私のなかの深いところに流れていた地下水が、突然吹き出してきたみたいな。 それから、みんな、いっせいにしゃべり出して、私のほうに身を乗り出してきたの。まるで、しゃべりながら、遠くてよく聞こえないんだけどよく知ってるラジオ番組の電波を捉えようとするみたいにね。” ミレニアムを控えた世紀末に、矯正専門の歯科医として成功を収めてる“私”の胸に去来するのは、自らがスコットランドゲール語文化の最後の世代だという痛切な自覚と、そして一族と伝統に対するやましさにも似た負い目だろう。 “私”と、双子の妹の二人が学問を納め、成功者の仲間入りをしてゆくと共に一族の暮らしから離れたことと、彼らの子供たちの世代にとってゲール語文化が過去のものへとなってゆくことは、ある意味では避けようもない21世紀に向けた時代の趨勢だ。 だが、 中年となった彼らの胸には、子供時代の記憶や忘れえぬ人々や、家族でたびたび歌った歌が鮮明に甦ってくる。  “みんなが同じ過去を生きてるわけじゃないけど、過去のほうが追いついてくる” という長兄キャラムの言葉の通りに。 記憶は、誇りと共に喪失の悲しみを誘う。 言語が滅びてゆくとき、ゲール語の歌は途絶え、一族の血のつながりもまた少しづつ薄れてゆくだろう。 本書では何度も、大西洋を望む岬の突端に立つキャラム・ルーアの墓の情景が語られる。 岬の崖は荒波に削られ続けて、いつの日か墓石代わりの岩も海に落ちて消えてゆくだろう。 だがしかし、風雪に晒されてもまだ岩は、一族のカナダにおける出発の地にて、クロウン・キャラム・ルーア(赤毛のキャラムの子供たち)の過去と行く末を見つめながら、しっかりと立ち続けてているのだ。 それはノスタルジーを超えた、アリステア・マクラウドの信念の象徴のように思えてくる。 ーたとえ失われたとしても、残るものがきっとあるー、そう伝えていると思うのだ。 その想いが故に、この物語は文化も世代も違う僕にも響いてくるのだ。 ーー 邦題の、『彼方なる歌に耳を澄ませよ』という響きが好きだ。 原題の『No Great Mischief(大したことのない損失)』に込められた悼み以上に、本書の魅力を伝えてくれる。 2014年にアリステア・マクラウドも亡くなった。 2020年にはスコットランドゲール語は、消滅危機言語へとリストアップされた。 それでも、本を開き耳を澄ませば、僕が一生聞くことも話すこともない歌声を胸に想い浮かべることができる。 そう思って、またいつか読む日まで本を閉じる。

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2024/11/28

過去と現代を行ったりきたり。 語り継がれてきた一族の歴史。 「誰でも、愛されるとよりよい人間になる」

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2022/12/12

「クロウン・キャラム・ルーア」――赤毛のキャラムの子供たち 物語は、18世紀末最初にケープ・ブレトン島に立ったキャラム・ルーアと、その20世紀の子孫である「私」アレクサンダー・マクドナルドの家族の出来事を明らかにしていく。 かつて、フランスとイギリスはアメリカ大陸の覇権をめぐ...

「クロウン・キャラム・ルーア」――赤毛のキャラムの子供たち 物語は、18世紀末最初にケープ・ブレトン島に立ったキャラム・ルーアと、その20世紀の子孫である「私」アレクサンダー・マクドナルドの家族の出来事を明らかにしていく。 かつて、フランスとイギリスはアメリカ大陸の覇権をめぐって争っていた。18世紀末、猛勇果敢なハイランダー(スコットランドのハイランド地区の人たち)は、戦争のために多くがカナダに移ることになった。 生きるために、キャラム・ルーアは12人の子供と妻、親戚を連れて大西洋を渡り、ケープ・ブレトン島にたどり着く。 子供たちはたくましく生き抜き、その子孫はカナダ東部に広がったり再びスコットランドに戻ったりして各地で生きるも、血のつながりが何よりも大切とされ、同族とわかるとゲール語で歌い合い酒を飲みかわす。 「赤毛で双子が多く、古いスコットランドの言葉である「ゲール語」の歌をこよなく愛する人たち」。 出だしは、アルコール依存症の貧しい兄を、高額な歯科医療を仕事として持つ「私」が訪ねる場面から始まる。 …なぜ、「私」はこの兄のもとに通うのか? ここからこの壮大な叙事詩が幕を開ける…。 浸りきってしまった。 ページを閉じた後も、しばらく、暗い海と灯台が見えていた……。

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2017/12/08

この物語に関して私が書けることはそれほど多くない。 ただ、かけがえない、いとおしい物語が私の中に一つ増えたということだろうか。 最終盤の章を読みながら、私自身の祖父や祖母のことを思い出していた。感情の波が体中に押し寄せ、物語を読み終えた後しばらく放心状態だった。 読み終えてみると...

この物語に関して私が書けることはそれほど多くない。 ただ、かけがえない、いとおしい物語が私の中に一つ増えたということだろうか。 最終盤の章を読みながら、私自身の祖父や祖母のことを思い出していた。感情の波が体中に押し寄せ、物語を読み終えた後しばらく放心状態だった。 読み終えてみると全ての章が、エピソードが、人物たちが心に焼き付いているかのようだ。 著者のマクラウドも、訳者の中野恵津子さんも鬼籍に入ってしまったが、物語は私たち一人ひとりの心の中で生き続ける。それが物語だ。 「誰でも、愛されるとよりよい人間になる」

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2017/04/14

アリステア・マクラウドは寡作な作家。 珠玉の作品ばかりで読む愉しみを味わえたが、この作品が最後。 短編を書くマクラウドの唯一の長編作品。 いつものようにゲール語、アイルランド、いつも通りのマクラウドの世界。 マクラウドが描く世界は不思議だ。 わたしはこういう暮らしをしたことが...

アリステア・マクラウドは寡作な作家。 珠玉の作品ばかりで読む愉しみを味わえたが、この作品が最後。 短編を書くマクラウドの唯一の長編作品。 いつものようにゲール語、アイルランド、いつも通りのマクラウドの世界。 マクラウドが描く世界は不思議だ。 わたしはこういう暮らしをしたことがないし見たこともないのに、何故かいつも懐かしい。 国が違っていても、誰にでも心に残る原風景といったものがあると思う。 マクラウドはそんな景色を描いている。 スコットランドからカナダ東端の島に、家族と移り住んだ赤毛の男。 そこで営まれる哀しくも穏やかな暮らし。 予備知識なしに読んでも物語に漂うものは感じられると思うが、先に訳者あとがきに目を通して、スコットランドの戦いの歴史を頭に置いておくと、更に物語に入りやすくなるかもしれない。 物語中、父と母と幼い兄が氷の下に落ちたとき、懸命に主人のために生きた犬の部分など、命ある限り人間のために生きないではいられない犬の健気さも心に残る。 何でもない日常、豊かではないが静かで穏やかな暮らしの中に起こるささやかな出来事。 物語全体としては明るいものではなく暗さを感じるのに、気が滅入ることはない。それは作品に登場する人々が自信と責任を持って強く行きていることが感じられるからだろうか。 色褪せた、それでいて透き通ったマクラウドの世界を心から堪能出来る一冊。 もうこれでマクラウドの遺した作品は全て読んだ。 もっともっと、マクラウドの描く誇りある人々の暮らしに触れたかった。 それでも、読み返せばいつでもマクラウドの世界に入ることが出来る。

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2025/12/17

スコットランドからカナダに移民してきた一族の話。白人バージョンの「ルーツ」ですね。 全く背景も文化も違う話なのに何故か懐かしいというか共感できるというか。 ほんとにいい作品を読んだ感があるな。 折見て再読したいと思わせられる作品でした。 面白かった。

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2014/09/24

スコットランドからカナダへ移住した一家の6世代におよぶ物語。 厳しい自然の中、彼らは一族のつながりを大切に物語をつないでいく。時に優しく、時に勇猛に。 血は水より濃いのだから。 遥かスコットランド、ハイランドから、 ケープブレトンから、 聞こえてくるのは彼らの歌だ。

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2014/01/24

スコットランドからカナダへ入植した赤毛の男。6代目の子孫にあたる兄弟たちの交流を軸に、現代から赤毛の男までの記憶を、丹念に紐解いていく。抑制のきいた文章がいい。 日本訳の翻訳タイトルは、どうか。原題 "No Great Mischief" は "たい...

スコットランドからカナダへ入植した赤毛の男。6代目の子孫にあたる兄弟たちの交流を軸に、現代から赤毛の男までの記憶を、丹念に紐解いていく。抑制のきいた文章がいい。 日本訳の翻訳タイトルは、どうか。原題 "No Great Mischief" は "たいした損害ではない"。フランスとの支配権闘争時の将軍が、スコットランド兵を称して「彼らを失ってもたいした損害ではない」と言った、そのことばが出典。感傷主義を冷ます引き締まった原題が、邦訳では感傷ベタベタになっている。どうなんだ?

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2013/07/15

18世紀末にスコットランドから現在のノヴァ・スコシア州、カナダ東端の小さな島、ケープ・ブレトン島へ入植したキャラム・ルーアの末裔の物語。彼らは自らを「クロウン・キャラム・ルーア」(赤毛のキャラムの子供たち)と称し、幾世代を経ようとも変わらない血の継がりで、赤毛などその外見的な特徴...

18世紀末にスコットランドから現在のノヴァ・スコシア州、カナダ東端の小さな島、ケープ・ブレトン島へ入植したキャラム・ルーアの末裔の物語。彼らは自らを「クロウン・キャラム・ルーア」(赤毛のキャラムの子供たち)と称し、幾世代を経ようとも変わらない血の継がりで、赤毛などその外見的な特徴から同族を見つけては助け合う。 物語はキャラム・ルーアの曾孫にあたる人物を祖父に持つ一人称ナレータの主人公と、その祖父母、兄弟を中心に(両親は事故で亡くなっている)、現在と少年時代を行きつ戻りつしつつ、極寒地方での暮らしや鉱山での生活、ハイランダー(スコットランド ハイランド地方の人々)の歴史などを凛冽な文章で綴る。 故郷を離れ、物質文明に揉まれるうちに、民族としての根を失っていく人が多い現代においても、なおクロウン・キャラム・ルーア達はハイランダーの言語や歌、歴史を大切にし、お互いに助け合いながら誇り高く生きる。今や歯科医師となり、完全に「現代」に適応したかに見える主人公もその例外ではなく、ケープ・ブレントン島こそが家族の地だということを明確に示すラストシーンには思わず胸が熱くなった。今晩はグレンモーレンジでも飲むか。 著者のアリステア・マクラウドは主人公と同じくケープ・ブレトン島の出身。初の長編となる本書が処世作となり、カナダでは大ベストセラーになった。以前に発表していた短編も評価が高いようで、同じ新潮社クレストブックスから邦訳も出ている。某読書会で知り合った人からのオススメで読んでみたのだが、これは「当たり」だった。

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2013/03/10

スコットランドからカナダへ移り住んだ一族の物語。 歴史を背負って、社会状況や経済発展などに流されながらも、世代が交代し、血は受け継がれていく。 決して、美しい景色ばかりとはかぎらない日々の暮らしの中で、誇りと思いやりを持って生き抜く人々が愛しい。 こういう本を読めることに幸せ...

スコットランドからカナダへ移り住んだ一族の物語。 歴史を背負って、社会状況や経済発展などに流されながらも、世代が交代し、血は受け継がれていく。 決して、美しい景色ばかりとはかぎらない日々の暮らしの中で、誇りと思いやりを持って生き抜く人々が愛しい。 こういう本を読めることに幸せを感じた。

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