授乳 の商品レビュー
『そうしている間にもどんどんと、靴の下にある蟻の死は決定的になり、やがて風化していく。私はだんだんと、足の下で死んでいるのが蟻なのか母の乳房なのかわからなくなっていく』―『授乳』 ここに「クレイジー沙耶香」と呼ばれる人物の片鱗はほとんど垣間見られない。だが「コンビニ人間」の主人...
『そうしている間にもどんどんと、靴の下にある蟻の死は決定的になり、やがて風化していく。私はだんだんと、足の下で死んでいるのが蟻なのか母の乳房なのかわからなくなっていく』―『授乳』 ここに「クレイジー沙耶香」と呼ばれる人物の片鱗はほとんど垣間見られない。だが「コンビニ人間」の主人公と同じように人知れず現代社会の中で孤独に戦い続ける登場人物たちが存在する。最近の作品と比べ文体もやや硬質だが、文字通りこの出世作には村田沙耶香の原点があるような気がする。 隔週発行だった「ぴあ」で一館ずつ放映作品を確認しギンレイホールなどに通っていた頃、ATGは最終盤の時期で、室井滋が自主映画の女王などと呼ばれていた時代だった。村田沙耶香の出世作にはその時代の自主映画の雰囲気が色濃く漂う。その頃のATGの映画には、個の違和感と時代の不透明さが重なり合って、成長期における一過性の通過儀礼である筈の反抗期のもやもやが社会的な運動の意図に化け、前の時代から続く学生運動などの余韻に反発しつつも共鳴していた作品が多かったように記憶する。その当時の名画座のにおいが「授乳」からは漂ってくる。 この時期はまた、金属バット殺人事件によって突きつけられた核家族という枠組みの持つ脆弱性が取り上げられた時期とも重なるようにも思う。凄惨な殺人事件の原因が、横溝正史や松本清張らが基盤に置く濃密過ぎる村社会における陰湿さから、新興住宅街の風景を経て互いに疎遠になりがちな家族関係における密室性へと決定的に変化しつつあった時期。そのことは森田芳光監督、松田優作主演の「家族ゲーム」における横並びの食卓の風景という形で明示的に映像化されたのだが、その当時この異様な構図を鮮烈に受け止めた時の捉えどころのない不安感を「授乳」も「コイビト」も「御伽の部屋」も呼び起こす。 もちろん、1979年生まれの作家にその当時の記憶がある訳ではないが、この作家には、どこかしら一人既に忘れ去られた戦(いくさ)を戦い続けているのではないかと勘ぐってしまいたくなるところがある。
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村田さんのデビュー作を、ようやく読むことが出来ました。 これまで読んだ他の作品と比較して興味深かったのは、何か他人事として気楽に読めない、ピリピリした感じが3つの短篇全てに漂っていたことです。シニカルな、クスッと笑える要素があまり感じられなかったというか。 でも、逆に捉えると...
村田さんのデビュー作を、ようやく読むことが出来ました。 これまで読んだ他の作品と比較して興味深かったのは、何か他人事として気楽に読めない、ピリピリした感じが3つの短篇全てに漂っていたことです。シニカルな、クスッと笑える要素があまり感じられなかったというか。 でも、逆に捉えると、ふざけているような生き方をしているように傍からは見えても、おそらく物語の主人公は、すごく真面目に人生を考えている。私はそう思いました。「授乳」の「直子」が蟻を踏み潰している場面もそうだし、「御伽の部屋」の「ゆき」にしても、別の居心地の良い世界にいたが、自分でどうにかなると気付いた瞬間の行動からの、見違えるような変貌ぶりには、爽快さすら感じた。 そして、もう一つの作品「コイビト」の、「美佐子」は凄かった。主人公の「真紀」を完全に飲み込んでしまった存在感。小学生にして、いったいどんな人生を送ってきたのか、すごく気になった。 おそらく私が何と書こうが、好みが分かれるのは、確かだろうと思います。が、それでも、こういう真実もあると思うのですよ。アイデンティティは、人の数だけあると思うし、自分のこれまでの人生経験から、この作品も分かるつもりでいます。 最後に、特に印象に残った場面が、「御伽の部屋」の「正男」が、傘で植物の名前をひたすら公園の地面に書いていく姿で、自分の本当に行きたい世界へ行こうとして、もがいているけれど、どうにもならないだろうと、おそらく本人も気付いてしまった、そんな空しさ、切なさを感じました。見た目じゃないんですよ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
・「授乳」を読む。率直にいって合わなかった。 ・「私」が少女から女性へ成長する過程での、潔癖さ、母親への侮蔑と嫉妬のようなものを感じた。 ・私が先生へ授乳することは、両親の愛情を失った先生への母性であったが、母がそれを見つけた時に、性的行為へと変わった。 ・上記のように読んだが、難解過ぎて読み解けなかった。他の人の感想も読みたい。 ・授乳は合わなかったが、コンビニ人間が面白すぎたため、他の作品も読んでみようと思う きっかけ:コンビニ人間が面白かったため 読了日:2020/09/22
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好きな作家のデビュー作らしいので読む。3作品の短編集だが、エキセントリックな性癖持ちの少女がいずれも主人公なのだけど、生々しさ以外に特筆すべきキャラのパーソナリティも、表現も描写もなく、好みに合わなかった。一人称が「あたし」の小説は大抵好きになれないと改めて思った。
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村田さんの小説は刺さるものはフレーズまで覚えるほど刺さるけど、この作品はまったく刺さらず…世界観が難解すぎる
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感性の受容体そのものの村田さん。対人でありとあらゆることを感じてしまう人なのではないかと。いや対人だけでなく、景色、色、かたち、様々なものが意味をもって横殴りの雨のように身に打ちつけるのに耐えているのでは? ヒリヒリした文に親への嫌悪と慕情が押し込められてる。
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お母さんのおにぎりの作り方が怖くて「うっそー!」叫んでしまった。こんな描写ができる村田さんすごい。でと表題作以外は気が乗らなくて読めなかった。コンビニ人間ほど面白くはなかった。こんなところに目をつけるなんて!という驚きの設定が村田さんの良さなのに、セックスとか思春期の女の子の潔癖...
お母さんのおにぎりの作り方が怖くて「うっそー!」叫んでしまった。こんな描写ができる村田さんすごい。でと表題作以外は気が乗らなくて読めなかった。コンビニ人間ほど面白くはなかった。こんなところに目をつけるなんて!という驚きの設定が村田さんの良さなのに、セックスとか思春期の女の子の潔癖さだとか、モチーフが凡庸だった。
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家庭教師を痛め付けるような中学生女子、双方ぬいぐるみが恋人な女性と小学生女子の交流、友人の兄である正男お姉ちゃんとの交流。力まない文体で紡がれるグロテスクな異様さ。三話目は現在の男女に入り込めず。小さい頃から意思のある発言は殆どなくて、いつでもなんとなく流れに任せて喋っているだけ...
家庭教師を痛め付けるような中学生女子、双方ぬいぐるみが恋人な女性と小学生女子の交流、友人の兄である正男お姉ちゃんとの交流。力まない文体で紡がれるグロテスクな異様さ。三話目は現在の男女に入り込めず。小さい頃から意思のある発言は殆どなくて、いつでもなんとなく流れに任せて喋っているだけ、って、わかるなあ。
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タイトルからイメージする話とだいぶ違った。 3編収められているが、どれもちょっと歪んだ人々の話で読んでいてぞわぞわした。 新聞のコラムでこの作者のコラムを読み変わった人だと思ったけれど、感性が独特なんだろう。
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