新リア王(下) の商品レビュー
上巻に引き続き、彰之の庵で榮との対話が続く。金庫番で、姪の喜代子の夫でもある保田英世が自殺し、没落した榮が、庵に応援した知事候補の重森とか関係者を呼んでいろいろ話し、最後は死んだのかな。初江の餓死は警察からの知らせとして触れられただけ。福澤彰之シリーズの続編となる「太陽を曳く馬」...
上巻に引き続き、彰之の庵で榮との対話が続く。金庫番で、姪の喜代子の夫でもある保田英世が自殺し、没落した榮が、庵に応援した知事候補の重森とか関係者を呼んでいろいろ話し、最後は死んだのかな。初江の餓死は警察からの知らせとして触れられただけ。福澤彰之シリーズの続編となる「太陽を曳く馬」を読んだのは結構前だが、秋道は何をしでかしたんだっけ、とか結構忘れてしまっている。順番に読んだほうが良かったかなとかしみじみ思う。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
-2006.08.28記 高橋源一郎は、朝日新聞の書評で「終結部にたどり着いた時、突然感動がやって来る」と書くが、たしかに父.栄の狂えるリアのごとき集約の一点に、すべては流れ込むがごとき構成ではあるが、その劇的な仮構は、栄が語る戦後政治の膨大で生臭いエピソードの数々も、心の闇を抱え座禅弁道に励む凡夫の彷徨える心を言葉に紡いでいく彰之も、互いの長大なモノローグが観念の空中戦としか読めないかぎり、寒々として虚しい。 作者は「晴子情歌」「新リア王」につづく第三部となるべき世界を、すでに本書に胚胎させ、読者に予感させている。 これまた彰之のなさぬ子.秋道は「新リア王」の昭和62年時点ですでに18歳だが、父母という家族の愛に誕生のはじめからはぐれてしまった孤独な反抗者は、おのれの生そのものを呪いつつ世間に牙を剥きつづけるだろう。 その子.秋道と、昭和の60年余を、ひいては日本の近.現代の暗部をひたすら見つめ、おのれの生を生たらしめんと希求する父.彰之との相剋が、どんな世界を切り裂いて見せてくれるのか。 あまり期待を膨らませずに待ってみよう。
Posted by
「晴子情歌」から10年、禅僧となった外腹の子・彰之の寓居である崩れかけた草庵を、父である代議士・福澤栄が訪れた。 仏門に帰依するも永平寺での修行に行き詰まり生き直そうと送行(そうあん)、故郷でやり直そうとするものの再び永平寺に舞い戻った彰之。 策略からの秘書の自死、議員である息子...
「晴子情歌」から10年、禅僧となった外腹の子・彰之の寓居である崩れかけた草庵を、父である代議士・福澤栄が訪れた。 仏門に帰依するも永平寺での修行に行き詰まり生き直そうと送行(そうあん)、故郷でやり直そうとするものの再び永平寺に舞い戻った彰之。 策略からの秘書の自死、議員である息子・優の裏切りなど代議士として築き上げたものを政争の果てにすべて失った栄。 父と子それぞれの10年の物語。 長い年月を経て初めて対座する父と子が、自らの内面を曝け出す長い長い語りは禅問答のような緊張感と理解不能な難しさに難航。 彰之の語りでは、夏安居、堂行、法戦式などの禅宗独特の用語に戸惑いながらも、一つ一つ調べ読み進めるうち、次第に心は山深い禅寺に飛び、脳内に響き渡るぎゃ~ていぎゃ~ていのうねり。 方や栄の語りでは、原子力事業、産業振興、漁業補償、金庫番、派閥の覇権争いなどなど、政治の嫌らしい部分がこれでもかと突きつけられる。 旧態依然とした父のやり方を非難する息子・優の言葉を借りて、「口利きと談合と公共工事の水増しと補助金の不正受給で回っている郷土の姿」を嘆き、「この国では政治理念は初めから虚しくされ、形式だけの国会手続きと形式だけの政策論議すら虚しくされ、権力欲と札束に引っぱたかれて派閥を出入りする頭数だけの国会議員は、それでもバッジをつけて喜んでおる豚」と断じるあたり、高村先生の強い思いがビシビシと伝わってくる。 物語の時代から30余年、作品が出版されてからも15年が経過する今も、全く変わらない政治の姿に暗澹たる気持ちになりながら這々の体で読み進み、終盤に差し掛かかるとスピード感が一気に増し、グイグイと読ませてくれました。 おまけの合田雄一郎登場に狂喜乱舞し、2週間かかって読み切ったこの長大な作品は、栄と優、栄と彰之それぞれの父と子の「希求」と「反発」と「超越」の物語でした。
Posted by
普門庵で息子・彰之と向き合う福澤栄。取り巻きが駆けつける中、話題は秘書の自死そして重森知事に対して出馬を表明する優へと進み、栄の政治家生命の落日を伝えます。 青森県だけがフィクションの世界に置かれた小説ですが、そこには確実に真実があります。
Posted by
こんなに飛ばし読みした本は初めてだ……(苦笑 仕事で資料を読むみたい。 でも途中でやめようという気にはならなかったのは、次作『太陽を曳く馬』も読もうという魂胆があるから。初江がらみの箇所を中心に読んだので、予習はバッチリだ(ホントか、おい?) 213ページに電話で合田登場。『太...
こんなに飛ばし読みした本は初めてだ……(苦笑 仕事で資料を読むみたい。 でも途中でやめようという気にはならなかったのは、次作『太陽を曳く馬』も読もうという魂胆があるから。初江がらみの箇所を中心に読んだので、予習はバッチリだ(ホントか、おい?) 213ページに電話で合田登場。『太陽を曳く馬』、『照柿』みたいだったらいいなぁ。
Posted by
ようやく読了。長かったー。東北は青森の政治家一族の長である父と出家した曹洞宗の住職である息子・彰之との魂の対話。重厚でボリュームがあるため読むのに一苦労。以下に詳しい感想があります。http://takeshi3017.chu.jp/file6/naiyou6707.html
Posted by
ひと月かけて読んだ。 婚外子の息子と父の話。僧侶と政治家。40歳と70歳。 上巻は父が雪の中、さびれた寺にたどり着く。息子と過ごす初めての日々の中で、息子の半生を知る。 これがきついと言えばきつかった。仏教の概念がよくわからないから。 そして高村薫に出てくる男たちは何らかの宗教...
ひと月かけて読んだ。 婚外子の息子と父の話。僧侶と政治家。40歳と70歳。 上巻は父が雪の中、さびれた寺にたどり着く。息子と過ごす初めての日々の中で、息子の半生を知る。 これがきついと言えばきつかった。仏教の概念がよくわからないから。 そして高村薫に出てくる男たちは何らかの宗教が身近にあるけども、結局宗教なんて救ってくれない、受け入れられるのは怠惰な自分だみたいなやつばかりで、無宗教よりたちが悪いのではと思う。 下巻はミステリー色が強くなる。なぜ秘書は死んだのか。とくにラストのあたり。今まで息子としていた思い出話がつながる様は圧巻。 一人一人のセリフや行動はそういう意味だったのねと驚かされる。 思ったこと。 ・こうしてみると、僧侶と政治家なんて、聖と俗の境地と思っていたのだけど、異次元という意味では似ている印象を受けた。栄がもっと俗なこと(汚職とか)をしていれば、秘書は死ななかったかもしれない。 ・栄も優も彰之もみんなそれなりに好感のもてる人物だなあと思う瞬間もあるのだけど、え、お子様なのと軽蔑したくなる瞬間もある。好きになれないけど、好き嫌いとかそういう次元ではないのでしょう。 ・好きではないと言えば、初江と彰之はぐずぐずしすぎてて、本当にこいつら馬鹿なのと殴り倒したくなる。子供の人生はおろか、自分たちの人生にも責任をもてないのか。 ・栄と優やその他で政治論をするシーンをはじめ、同じ政治家で息子の優を栄が冷ややかに見ている。自分の言葉で自分の信念を語る時代は終わったのだと感じる栄。しかしそう感じたのは今から30年前。今の政治家たちはいったいどういう姿なのだろう。 ・そしてあのころ(と言っても私は生まれていないのだけど)、日本は常に成長すると信じられていたのだ。消費により経済は回り、それが動力となると。今は全然成長する兆しが見えないし、不安ばかり。 ・青森の閉塞感は晴子情歌と相変わらず。それどころか原発の誘致とかしたり。新幹線の誘致も積極的だけど、結局開通したのはそれから30年も経ってから。地方都市、地方自治はどうすればいいのだろうね。 そしてラストの3ページほどが意味わからな過ぎて。 なんでその子が死んでしまうん。 栄の独白による孤立よりも、彰之とその息子が気になってしかたない。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
およそ平成の御世にこのような小説を新聞連載小説として書こうと企む作家は高村薫をおいて思いつかないし、また書ける作家も今や彼女をおいていないだろう。連載をめぐっては日経とのゴタゴタがあったと聞く。某老作家の不倫セックス小説を嬉々として載せる新聞社であれば当然の顛末だろうと思う。 この小説は、例えば事あるごとに「もっとわかりやすい政治をして欲しいですよね。」等とのたまう街角の声を電波や活字に乗せる「マスメディア」から最も遠い場所にたっている。ドブ板のリアリズムから原子力施設の誘致まで政治の持つ「悪」や「業」のような負のエネルギーと向き合い、それでも大衆の怨念の具現化とでもいうべき「未来」を見据えようとした戦後保守の本流ともいうべき政治家の落日を描ききっている。 しかし、著者自身インタビューに答えて語っていたように、この作品の時代を最後に政治を語る言語体系が変わってしまった。それは、例えばもう少し時間が経てば「坂の上の雲」の時代をある種憧れの眼差しで見つめたように、昭和を見る時代がやってくるということかもしれないが、当事者がまだ生きている今だからこそ、この小説は読まれるべき小説である。
Posted by
王たる政治家として、ひたすらに走ってきた男の終焉。華々しくたくさんの人間の欲望や羨望を集めながらも、子供を作り、一族の繁栄の土台になりながらも、男の心に残ったのは「さびしい」という感情のみ。 荒野を歩く裸の王の背中を見た。
Posted by
政治や宗教のことは分からないけど、続きは気になって仕方ないので戯曲を意識したような文章に苦戦しながら、何とか返却期限内に読了。 おかげで他に借りた本全く読んでないよ。 読み手によってはシェークスピアのリア王より後味が悪いんじゃなかろうか。 榮は結局、誠実な夫や父であろうとしなかっ...
政治や宗教のことは分からないけど、続きは気になって仕方ないので戯曲を意識したような文章に苦戦しながら、何とか返却期限内に読了。 おかげで他に借りた本全く読んでないよ。 読み手によってはシェークスピアのリア王より後味が悪いんじゃなかろうか。 榮は結局、誠実な夫や父であろうとしなかったツケを払わされたんだろうな。 最後の数ページは優の気持にも榮の憤怒にも揺すぶられた。 ラストは老人の愚痴のようだけど、なぜか面白く感じてそこばかり読み返した。 生涯で唯一惚れた女の面影は寄り添ってくれず、最後に頼った彰之さえ切り離して。 高村先生、今回はかなり厳しいですね。 高村作品には父親と呼べない父親がたくさん出て来るけど、こうなると父親らしさってなんだろうってなるよな。 彰之は必死で父親になろうとしていたけど、報われないし。 このケースは極端だろうけど、親が尽くすほどに子供は報いてはくれない生き物ってことか。 そしていつかは榮のように子供や時代に置いていかれるという…。 砂漠か宇宙にでも漂っている気分になった。
Posted by