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慟哭 の商品レビュー

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881件のお客様レビュー

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2010/04/19

平成3年1月8日火曜日。昨年12月10日から消息を経っていた斉藤奈緒美ちゃんの遺体が発見された。捜査一課の佐伯一課長はその連絡を丘本から聞くと淡々とした口調で指示を与える。地道な聞き込みを開始するも芳しい情報は得られずただ日々だけが過ぎてゆく。功を焦るなど微塵も考えていない佐伯だ...

平成3年1月8日火曜日。昨年12月10日から消息を経っていた斉藤奈緒美ちゃんの遺体が発見された。捜査一課の佐伯一課長はその連絡を丘本から聞くと淡々とした口調で指示を与える。地道な聞き込みを開始するも芳しい情報は得られずただ日々だけが過ぎてゆく。功を焦るなど微塵も考えていない佐伯だが、キャリアと元法務大臣の隠し子という彼の背景は混迷する事件と相まって捜査陣の人々との不協和音を増してゆく。 奈緒美ちゃんのめぼしい犯人像すらつかめないまま新たな幼児誘拐事件が起こった。 この小説はサクサク読める。その要因の一つに短い章区切り毎に追うシーンが違うからでしょう。佐伯サイド、丘本サイド、彼サイドとコロコロと入れ替わって進んでゆくので飽きない。 で、個人的にこの佐伯は好み。最後まで彼がスタンスを崩さないのがいいね。願わくばもう少しとある部分を書き込んで欲しいとは思ったが、一歩間違えば“仰天の結末”と呼ばれてるものが薄れるので仕方ないのでしょう。淡々とした彼の言動の中にちらっと垣間見えるその部分がギリのラインかな。 まっことに申し訳ないが、私は50〜60頁あたりである程度のオチは判ってしまいました。仰天の結末というのを……従って、読み終えた時のそういう部分での感動は無く、あーやっぱりね。という感じだったのだが、この作家は上手いと凄く思った。 良心的で作家サイドの手の内をギリギリまで出してるという感じがする事と、ミスリードを狙っての筋ではあるが、小説特有の文章自体の引っ掛けは無く、全て素直に読んで行けるという点が上手いと思った理由。 もう少し諸々の感想が書きたいので、以下は隠しておきます。完全なネタバレに突っ込むので。 流石にこの作品はオチが判ると面白みが半減以下になるからねぇ(笑) ネタバレ↓ 【主軸で書き進められる事件(以下:佐伯サイド)の時間軸は現在ではなく、1年も前の話で過去。そして彼サイド(以下:犯人サイド)が現在。だが、まるで2つの事象は同時期に起こったように読ませるという手腕は上手いというしかない。 次第に犯人サイドと佐伯サイドの季節が同じになって行き、事件と時間軸が同一線上になってゆくような軽い眩暈感も起こる(ここの眩暈感が個人的にとても好き)。そして一気に結末へ――という構成は見事。 ミスリードは本当に良心的。犯人サイドと佐伯サイドの始まりの季節が全く違うし、佐伯が入り婿でしかも私生児というのも読み手に提示している。そして子供に対する佐伯の思いも希薄ながらもちゃんと書いてある。この希薄さが動機面になるとちょっとぬるく感じたりもするが、書き込むと一発でちょんバレなのでこれは仕方ないと思われる。 死んだ娘を生き返らせる為に依代が必要だと信じる。という一部分だけが壊れてて、他はとても正常なところが妙に生々しく、その背景には新興宗教が絡んでるので、リアリティもある。 始まりの季節の異なりで佐伯=犯人と私は判断し、結果的にこのイコールは正しかったのだが、この部分を流していたのなら、この結末は文句無く「やられた」の一言でしょう(笑) 何事にも一途で、逆風に平然として立つ佐伯の人物像は魅力的です。 そして何一つ報われない佐伯がとても切ないです。従ってこのタイトルは、はまり過ぎ。

Posted byブクログ