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山妣(下) の商品レビュー

3.8

21件のお客様レビュー

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2024/06/22
  • ネタバレ

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(上巻の感想からの続き) 翻ってこの物語に出てくる男供はどうかというと、これが対照的にどの男も弱さを抱えている。 したたかに振舞いつつ、芝居小屋復興を目指し、大きな夢を語るが実質が伴わない扇水。 世の中を斜に構えて見つめながらも、扇水の呪縛から離れる事が出来ず、また一人で生きていく術がないと惑う涼之助。 領主の息子という地位よりも村人同様の暮らしを望みながら、貧乏暮らしを選択できず、しかも妻の機嫌をいつも伺っている鍵蔵。 そして病持ちの鉱夫としてふがいない人生を送りながらもいさと山主の金を盗んで逃亡しながらも山の暮らしに耐え切れず、金を持ち去って逃げる文助。 渡り又鬼として山中を徘徊している最中に凍死寸前のいさを拾い、山神への畏れを抱きながらもいさと離れられない重太郎。 男は弱さを抱え、しかもそれを克服する事の出来ない弱い存在だとして物語は語られていく。 そしてこれら登場人物の過去と現在が語られる中、物語は獅子山という熊狩りを軸に引き寄せられるように各々、山へと向かい、そこでそれぞれの愛憎がものすごい結末へと収斂していく。 ところで本書の紹介文や帯には人の業が織成す運命悲劇というような文句がさかんに謳われている。確かに人の業の深さゆえに起こる運命劇・怪異譚は坂東氏の十八番であるが、私は本書に関してはさほど人の業が主幹として扱われているとは思えなかった。 私にはむしろこれは山という大自然が愚かな人間どもに下す鉄槌の物語だという印象が強い。 いさという女を作ったのは山の厳しさである。そして山の厳しさと共存できる者、それに負ける者の物語だと強く感じた。その証拠としてふたなりである涼之助が救われる「山ではお前なんかは珍しい事ではない」といういさの言葉を挙げたい。 自然の摂理に逆らう者、山の神に敬意を抱く者、山が下した裁きの物語。 私はそう強く感じた。 直木賞受賞作の名に恥じない傑作であるのは間違いない。これで直木賞を取れなかったらどんな物語が受賞できるのかとまで思った次第だ。

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2023/04/27

ホラーではない坂東さん作品。 上巻と違い読んだ後のスッキリ感がありました。 住んだ事もない雪国の情景をイメージし易いのは、さすが坂東さん!という感じでした。 後半に畳み掛けるように色んな事件が起きてハラハラドキドキでした。 最後、妙や大八郎のその後や涼之助の今後も気にはなるところ...

ホラーではない坂東さん作品。 上巻と違い読んだ後のスッキリ感がありました。 住んだ事もない雪国の情景をイメージし易いのは、さすが坂東さん!という感じでした。 後半に畳み掛けるように色んな事件が起きてハラハラドキドキでした。 最後、妙や大八郎のその後や涼之助の今後も気にはなるところですが。。叶わぬ事が寂しいです。

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2021/01/12

直木賞受賞作ですが、この頃の坂東眞砂子は素晴らしい。時は明治。山里に現れた美貌の役者涼之助と村の暮らしに飽きた地主の家の嫁。2人の許されぬ密通と涼之助の肉体の秘密。誰が悪いのでもない。あるのは人間の業と因果。そして壮絶なラストへ。娯楽小説とは違う哀しみを孕んだ傑作伝奇小説。一気に...

直木賞受賞作ですが、この頃の坂東眞砂子は素晴らしい。時は明治。山里に現れた美貌の役者涼之助と村の暮らしに飽きた地主の家の嫁。2人の許されぬ密通と涼之助の肉体の秘密。誰が悪いのでもない。あるのは人間の業と因果。そして壮絶なラストへ。娯楽小説とは違う哀しみを孕んだ傑作伝奇小説。一気に読ませます

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2020/12/05
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ボリュームたっぷりなのに全然重圧な気がしない、それくらい内容が深くグッとさせる話だった、が、ラストの熊との格闘はどうなんだろう?救われなさ過ぎてせっかくいろんなことに未来が開けていたはずなのにすべてを閉ざさせらこの結末。 山妣という生き様が鮮烈な印象を受けたがその周りの登場人物はあまりにスカスカ過ぎた。熊が魔物になっちゃった当たりは萎えてしまった。むしろ熊が暴走しなかったらこの物語は締められなかったかもしれないが.... いろいろと後味が悪いながらも読む事に引き込ませてくれた話だった。

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2023/08/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 坂東眞砂子 著「山妣〈上〉」503ページ、「山妣〈下〉」342ページ、2000.1発行(文庫)、一息に読了しました。山妣(やまんば ではなく やまはは)の生き方に感動、深い余韻に襲われています。昔遊女の君香、金を盗み、鉱山主をやむなく殺して山の岩穴で過ごし始めてから25年は山妣のいさ。村人には「やまんば」であり、娘ふゆ(てる)と異父弟涼之助(ふたなり:男でも女でもない)には「やまはは」。いさの心にぐいぐい引き込まれてしまいました。久しぶりに読書らしい読書をした気がします!  坂東眞砂子「山妣(やまはは)下巻」、342頁、2000.1文庫。狼吠山の岩穴に25年住む山妣のいさ。娘ふゆ(てる)と息子涼之助への素朴な愛が感動の世界へ誘います。

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2022/07/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

再読。 登場人物ほとんど皆因果応報、しでかしたことの報いを受けているのである意味すっきり読み終わる。 器も世界も狭い男たちに比べて、転がって強かに生きる女たちがエネルギッシュ。 涼之助とふゆのあるがままを見守って二人が戻ろうと戻るまいとなおも帰るべき場所でい続けるいさの姿は母の原点なのかな。優しさや慈しみだけじゃない、もっと何か包み込むように広くて大きくて、ただそこにあるもの。 雪解けの先の新しい未来へ踏み出した妙と大八郎は、欲や妬みで自滅する道とは違う道を歩んでほしい。

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2024/06/30

山の中に逃げ込んだ涼之助は、扇水から受けとったお守りの弾丸から、里の人びとから山姥と恐れられるいさが自分の母親であることを知ります。さらに、鍵蔵の妻・てるが、いさの長女のふゆであり、鍵蔵の世話になっている渡りマタギの喜助がいさを捨てた文助であることることが明らかになります。 思...

山の中に逃げ込んだ涼之助は、扇水から受けとったお守りの弾丸から、里の人びとから山姥と恐れられるいさが自分の母親であることを知ります。さらに、鍵蔵の妻・てるが、いさの長女のふゆであり、鍵蔵の世話になっている渡りマタギの喜助がいさを捨てた文助であることることが明らかになります。 思いがけない運命のもとに置かれていたことを知った涼之助は茫然としますが、そこへてるを奪うばわれた嫉妬に狂う鍵蔵の手がせまります。鍵蔵は次々と殺人をかさねて転落していき、いさは山のなかへもどります。涼之助は、そんな自分自身の運命を見据え、ひとり里を下っていきます。 後半の展開は少し詰め込みすぎのような印象もありますが、おもしろく読めました。土俗的な舞台と物語構造に吸い込まれていくような、不思議な読書体験でした。

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2014/03/21

特に最初のほうの東北弁がひどく、なんて読みにくいんだ、ということで、何度も本を置くはめになった一冊。 ようやく我慢して読み進めたら、意外に面白かった。 山妣が山妣になるまで、なってからの山での暮らしぶりの描写が特に。

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2014/02/20

里での物語は雪に閉ざされた山で終息する。その舞台で明らかにされる「妣」の姿が悲痛。いやあ、力のある作品でした。

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2014/01/19

読み終わると悲しい話。ぽつぽつ語る山妣のいさ、最初は強い人間だと思ったけど少しづつ弱さが見え痛い。人の気持ちは変わる、信じた人に裏切られても山の中なら誰も居ない。彼女の気持ち孤独や愛は、まだ若い妙には分からないだろう。後半の回収バタバタ感はあったけど、読み応えがありました。

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