バスジャック の商品レビュー
“さて、かく言う私は、今バスジャックのさなかにいる。九時三十分発の南部行き高速バスは、半分ほどの座席が埋まり、休日の朝ということもあって、下は三歳くらいのお嬢ちゃんから、上は推定七十八歳のおじいちゃんまで、バラエティにとんだ乗客構成だった。 車内前方のデジタル表示の時計が「10:...
“さて、かく言う私は、今バスジャックのさなかにいる。九時三十分発の南部行き高速バスは、半分ほどの座席が埋まり、休日の朝ということもあって、下は三歳くらいのお嬢ちゃんから、上は推定七十八歳のおじいちゃんまで、バラエティにとんだ乗客構成だった。 車内前方のデジタル表示の時計が「10:30」になった時、四人の男女が一斉に立ち上がり、動きだした。乗客たちは、すぐさまバスジャックであると理解した。おおっという期待まじりのどよめきが、さざなみのごとく広がっていった。 バスジャックは通常四人一チームで行われる。「シテ」が先頭で運転手と前ドアを監視し、「ツレ」は最後部の座席で銃を持って車内全体を見渡す。「地謡」は特に場所を定めないが、火薬の入ったバッグを肩から提げ、手にはデススイッチ、つまり指の力が無くなると自動的にスイッチが入る起爆装置を持ち、警察の突入や、乗客の反抗の抑止となる。 最後の「後見」は、文字通り後見人だ。サイト通知のための占拠時間や移動距離の把握は言うに及ばず、「バスジャック」としての要件を備えているか、手順を踏んで行われたかをチェックする役割をも担っている。いわば「後見」は中立的立場でバスジャックに立ち会うのだ。 前方に立った「シテ」役は、大学生か浪人生といった風貌の若い男で、精一杯の虚勢を張った表情で乗客を見下ろすと、緊張で裏返った声で、どこから持ってきたものやら、近頃流行らない古様なる口上を垂れ述べ始めた。” 一風変わった世界観をもつ短編集。 爽やかな狂気を感じたり。 先の読めない展開に思わず唾を呑む。 “「それは、大人の事情というものさ」 それだけ言って澄ました顔をする康之。いつもどおりのパターンだった。ふくれっ面の麻美に、康之はまいったなというように頭をかいていたが、やがて申し訳なさそうに「おかわり」と茶碗を差し出す。麻美の怒りが爆発した。 「もう!いっつもそうなんだから」 差し出された茶碗を無視して、麻美は背中を向け、自分の部屋に向かう。その背中に康之が声をかける。 「子どもみたいだぞぉ、麻美ぃ」 「子どもだもんっ!」 腹立ちまぎれにドアを思いきり閉めて、麻美は自分の部屋にこもる。のんきな父にも、身勝手な母にも腹が立った。そして何より、自分がどうあがいても「子ども」であるということに、やり場のない怒りを感じた。 麻美は、両親の巧みな「キョウイク」によって、子どもは大人と同等のものを求めてはいけないのだと常々言いきかされてきた。「なぜ?なぜ?」とすべてに納得するまで疑問を投げかけるのは、子どもの特権だけれど、大人はそれに対して決して誠実に答えはしないよ、だからそのことで傷ついたり悔しがったりするんじゃないよ、と。 そんな「キョウイク」の甲斐あってか、麻美には、両親の人生と自分の人生は「別物」なのだ、という意識があった。それぞれに自由に生きればよいと。とは言うものの、今回の件については、どうしても母の身勝手だけが感じられたし、麻美に与えられる情報はあまりにも限られていた。”
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短編集。表題の「バスジャック」は今イチでした。 「動物園」が一番おもしろかったですね。映画化できそうな気がしますが。主演のイメージは水野美紀さんかな。
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不思議な世界が広がる短編集。 表題作「バスジャック」よりも 最初の「二階扉をつけてください」がインパクト大。 最後の最後でひっくり返される。 ファンタジーの世界と人間ドラマが味わえる1冊。
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「鼓笛隊の襲来」が大変面白かったので、 2 冊目に手を出してみた三崎亜記氏の短編集。 非現実という現実で展開する物語設定は良いのだが、 なんか中途半端で落ちがないというか・・・。 ちょっと期待はずれであった。 最後の「送りの夏」は叙情的な良い作品であったが。
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妻が出産で実家に帰っている間に近所のおばさんから言われて 訳もわからないまま二回扉をつけようとすると 電話帳のどの業者にかけても同じ人間が派遣されてくる 「二回扉をつけてください」 交通事故で両親をなくした僕は丘の上から自分の家を眺めると 昔の一家団欒の様子が見えることに気づく ...
妻が出産で実家に帰っている間に近所のおばさんから言われて 訳もわからないまま二回扉をつけようとすると 電話帳のどの業者にかけても同じ人間が派遣されてくる 「二回扉をつけてください」 交通事故で両親をなくした僕は丘の上から自分の家を眺めると 昔の一家団欒の様子が見えることに気づく 「しあわせな光」 彼女との記憶のズレが日に日にひどくなっていく、 しかし出会いの記憶さえあっていれば一緒に生きていける 「二人の記憶」 先頭担当のシテ、後部担当のツレ、火薬担当の地謡、 チェック役の後見の4人によるバスジャックがルール化され 乗客やテレビ視聴者はそれを楽しむのがブームとなっている 「バスジャック」 雨の夜に突然訪れたのは 僕の部屋を図書館だと思っている女性だった 「雨降る夜に」 珍しい動物を見せたいが予算がない、 そんな動物園の弱みにつけこんだ商売をする私たちは 動物のいる空間を演出し、「観せる」ことを仕事にする 「動物園」 突然家を出た母を追った麻美が辿りついたのは 冷たくて動かない人と日々を過ごす人々の暮らす 「つつみが浜ヴィレッヂ」だった 「送りの夏」 カバー写真:高橋和海 ブックデザイン:鈴木成一デザイン室 「動物園」だけ既読。不思議な設定の世界がつまった短編集です。 表題作は役割分担やペナルティが決められたバスジャックがブームとなり まるでスポーツ感覚で皆が行っているという設定。 『コロヨシ!!』しかりルールのないところにルールを定めて 形式化することが好きな人なのかなあ。 「送りの夏」は4組のエピソードをもっと膨らませて 長編にして読みたいです。 お母さんが直樹さんを送れるところまで。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
世にも奇妙な物語集といった感じの短編集。特に「二階扉をつけてください」が不気味で、怖くて、ぞわぞわした。表題作「バスジャック」は、バスジャックが犯罪としての危険性はそのままにアトラクションと化したような物語で、登場人物たちの楽しみ熱中した感じに反して、読んでいるこちらとしては寒気がするような物語だった。
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不思議系話短編集。 おもしろかったです。なんだかさっぱりな満足感。 http://feelingbooks.blog56.fc2.com/blog-entry-150.html
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「世にも奇妙な物語」でありそうな,不条理な世界が,不条理な世界が自然な感じで描かれていて,ぞわぞわっとなるのがいい。 この人のお話は短編が好きだなあ,と改めて思った。
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前知識なく挑んだので、短編集だということをもちろん知らず、かなり気合いを入れて挑んだのだが…。ちょっと拍子抜け(苦笑)。 しかし、前作「となり町戦争」に比べると、読みやすくなっているし、少し不思議な感じがする作風は変わっていなかった。 二階扉をつけてください 全7作品の中で...
前知識なく挑んだので、短編集だということをもちろん知らず、かなり気合いを入れて挑んだのだが…。ちょっと拍子抜け(苦笑)。 しかし、前作「となり町戦争」に比べると、読みやすくなっているし、少し不思議な感じがする作風は変わっていなかった。 二階扉をつけてください 全7作品の中で、一番衝撃的な話なんじゃないかと思う。感覚的には「世にも奇妙な物語」。ラストのワンシーンはゾッとした。三崎節が怖いくらいに炸裂した作品なんじゃないかと思う。いや、怖いくらいってか、怖いっすよマジで(笑)。これ以降の作品はわりと和やかなので、トップバッターにコレを持ってくるなんて…と思った。三崎氏がニヤリとしている気配を感じた。 しあわせな光 すごく短い。三崎氏の作品レベルで考えると、全く真新しさは無い。先が見えるし。しかし、読み終わった後にほんのり心が温まる。前の話から次の話へのクッションになっていて、構成的には必要な作品だと思われる。 二人の記憶 コレも「二階扉~」の次にゾッとした。作品自体は別に怖いシーンがある訳じゃなくて、むしろ哀しい感じなのだが。しかしね、記憶がすれ違うどころか、噛み合わないというのは恐ろしい。恋人同士なのに、相手が言ってる「記憶」が自分には全然身に覚えが無いなんて…。自分だったら凍りついて、心が離れていきそうな気もする。それでも、話の中の二人はお互いを信頼しようとしていく。ちょっと綺麗過ぎる話なのかもしれないが、私はこういうのは大事だと思うし、一番必要な感覚というか、あってほしいモノだと思う。最後の彼の一言が良い。ちょっとホロッときた。この中で一番好きな作品だ。 バスジャック 全作品中、一番訳の分からない話。表題作なのに(苦笑)。でも多分、コレが一番三崎節入魂の作品なんだと思う。まぁ、表題作だしね、当たり前だけど(笑)。何気なく出てくるキャラがラストに実はグルだったというのが面白い。実際にこんな世の中であってはほしくないけど、描かれてる人間性はよくある感じで、リアルさを感じた。バスジャックのおかげでバス会社が儲かるなんて…あってほしくない…。そういう意味では、この作品を理解できなくてホッとしている自分がいる。 雨降る夜に この話も凄く短い。コレも「しあわせ~」と同じ「クッション」だと思われる。実際にこういうのあったらいいなぁ、面白いなぁと思う。面と向かって相手の本にまつわる感想とか思い出を聞いて、それで自分も読んでみるっていうのは、斬新だ。ネットでチャットするのより、やっぱり相手の顔を見て話聞いたら、表情もあるし、余計にその本に愛着が沸いたり、興味が向くと思う。いいなぁ、ぜひ誰か企画してほしい(笑)。 動物園 三崎作品というのは、リアルな世界の中にリアルじゃ有り得ないモノを紛れ込ませて、あたかも当然なように振る舞わせるのが作風であり、特技だと思う。まさにこの話はそんな作品。檻にいる動物と絡めて人間の束縛感とか孤独感を描いていて、比喩ではなく融合していて、上手いなぁ(エラソウだ)と思った。起伏とか話の持っていき方は見えているんだけど、そこが面白くて好きだ。 送りの夏 ラストに相応しい作品。「人形」な人々と一緒に暮らすことで、「死」が何なのかを感じていく小学生の女の子の話。最初は「人形」に少しゾッとして、変に勘ぐって読んでましたが、女の子がわりと素直な感性を持っていたので、心にスッと沁みてきた。小学生という素直さと多感さが入り混じった年頃が主観に置かれているので、この作品全体に温かい空気が流れている。リアルでは有り得ない光景だけど、きちんと「死」に向き合っている人々に妙なリアルさを感じた。私もまだ「死」を意識できる年齢ではないので、主人公と共にぼんやりとカクゴについて考えさせられた。この作品がラストということもあって、さらに話の厚みが感じられ、良かったと思う。 しかし、全体的には物足りなさを感じた。「となり町~」で三崎氏の勢いを感じただけに、残念だ。短編集にするならば、もう少し癖のある粒揃いなモノがほしかった。
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この人の作品は設定である程度の内容が決まってくるのだけれど、 そこから展開や結果を読ませないところがすごいと思う。 表題作品は痛快です。
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