麦ふみクーツェ の商品レビュー
混沌と秩序、呪いと祝福、グローバルとローカル。 相反するものと出会い、葛藤することで世界は動いていく。
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一気に読み切ってしまいました。同じリズムで流れていても、音楽は先へ先へと進んでゆきます。変わらないことを抱えながら(あるいは信じながら)、自分に出来ることを黙々と続けることが大切なんだなぁ、と改めて気づきました。 僕たちはみんな「クーツェ」なんですね。
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この世で出会う、たくさんの出来事。 自分という人生を初めて生きる僕たちは、翻弄され、右往左往し、コテンパにされることも度々だ。 自分て何者なんだろうとか、生きるってどういうことなんだろうとか、そんな、答えのなさそうな問いかけにについて思い悩んだりして、途方にくれて、くたびれるこ...
この世で出会う、たくさんの出来事。 自分という人生を初めて生きる僕たちは、翻弄され、右往左往し、コテンパにされることも度々だ。 自分て何者なんだろうとか、生きるってどういうことなんだろうとか、そんな、答えのなさそうな問いかけにについて思い悩んだりして、途方にくれて、くたびれることも数知れない。 でも、そんなこんなも引っ括めて、生きるっていうことなんだって思う。 色んなことに直面して、少しづつ自分がいったい何者なのかってわかってくる。 自分が生きるっていうことが何なのかが見えてくる。 自分の周りに起こることをちゃんと受け止めること。 正しいとか間違ってるとかじゃなくて、ありのままを受け止めるってこと。 それが大事そうだって、やっと最近分かるようになってきた。 麦ふみとは、霜が降りるような寒い冬の日に、霜で盛り上がった土ごと若苗の麦をふみつぶすこと。そうすることで麦が力強くよく育つそうです。そうしないと、麦が弱くなって実りもすくなくなってしまうそうです。いい苗も悪い苗もなく同じようにふみつぶす。つぶれてしまってダメになった麦も畑の肥料になって役立つそうです。 それが麦ふみ。農家の大切な仕事です。 とても素敵な物語です。
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とてもやさしい、希望に満ちたお話だと思いました。読み終わった今、自分の「へんてこさ」に誇りを持って生きていこう、と自然に前を向けそうです。 昔、知り合いが、この本は「自分にとって一番大事な本だ」と言っていたのがずっと心に残っています。読んでみて、その理由が少しわかるような気がしました。
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音楽に取りつかれた祖父と素数に取りつかれた父と、ねこの鳴きまねが上手い「ぼく」が3人で慎ましく暮らすというあらすじから、ほのぼのした童話を連想した。でもそうではなかった。悲劇が次々に降りかかり、それでも希望をつかもうとする話だった。この世に起きる悲劇も喜劇も些細な出来事も、実はど...
音楽に取りつかれた祖父と素数に取りつかれた父と、ねこの鳴きまねが上手い「ぼく」が3人で慎ましく暮らすというあらすじから、ほのぼのした童話を連想した。でもそうではなかった。悲劇が次々に降りかかり、それでも希望をつかもうとする話だった。この世に起きる悲劇も喜劇も些細な出来事も、実はどこかでつながっている。へんてこな存在は目立つから、真っ先に火の粉が降りかかる。だから一人でも生きて行けるように、技を磨かなければならない。抽象的で哲学的な、生きることに少し疲れた人を優しく受け入れてくれるような本だった。
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いしいしんじさん読むの4つ目。「トリツカレ男」「プラネタリウムのふたご」「ぶらんこ乗り」。 どれも世界観と文章がとても好きなんだけど、これ読んで確信した。ストーリーが自由に進んでいくようで、実はものすごーーーく緻密に構成されてるんだよ。印象的な途中のエピソードや何気ない小道具が後からバチバチバチって嵌っていって物語の中で意味を持ってくる。それが凄いの。鳥肌。 いやオムレツのエピソードに不意打ちされて涙がぶわってなりましたよ…あんなのむりだろ…うう… クライマックスで、すべてがつながってひとつの音楽を奏でる、暗闇の中での観客たちがそれぞれの音を鳴らす、ホッチキスやはさみやおもちゃの合奏。生きている人たちのたてる雑多な音が音楽になる。 このシーンを読んだ後ふと本から顔あげると、窓の外から聞こえてくる電車の音とか、家族の足音とか、空を行くヘリコプターの音とか、そういう世界の音がなにもかも愛おしくなるような気がした。 そしてねこのおかあさんの話のあとの一文。これがこのどこまでもやさしい物語におけるもうひとつの核心でもある気がする。 「たったひとつの『ひどい音』、一瞬の音とそのこだまが、あらゆる吹奏楽の音色、それまで過ごした生活すべての彩りを、真っ暗に塗り替えてしまうってことが、この世ではまちがいなく起こり得るのだ」 そうなんだよな、残酷な悲しい出来事は起こり得る。どこにでもやみねずみは潜んでいる。 だけどそれに飲み込まれないために音楽を奏でる。合奏をする。シャドウボクシングをする。 いしいしんじさん、いままで読んだのも全部好きだったんだけどこれはホントとくに衝撃というかもう…やられた…ってひっくり返りました。ため息。
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一度読み始めた本は最後まで読む主義のため頑張って読んだけど、自分には理解できない類の本だった。 ただひとつ「音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。なにかにつながっていること、それをたしかめたい、信じたいがために、音楽家はこれまで、そしてこれからも、楽器を鳴らしつ...
一度読み始めた本は最後まで読む主義のため頑張って読んだけど、自分には理解できない類の本だった。 ただひとつ「音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。なにかにつながっていること、それをたしかめたい、信じたいがために、音楽家はこれまで、そしてこれからも、楽器を鳴らしつづけるのかもしれない。」という文章は共感できた。また、栗田有起さんの解説「読書とは、文字による合奏に参加することだ。」という言葉には大きな衝撃と共感を感じた。
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子供用の物語のようで、大人に分かる本。星四つに近い。 現実に見たような聞いたような錯覚を覚える。ものの見方を変えるだけで、世界がこんなに彩られるのかと思う。いや、これは誰もが経験する子供目線を、大人が描いたからかもしれない。空想好きな作家が書いたファンタジーにしては、人間性や現実...
子供用の物語のようで、大人に分かる本。星四つに近い。 現実に見たような聞いたような錯覚を覚える。ものの見方を変えるだけで、世界がこんなに彩られるのかと思う。いや、これは誰もが経験する子供目線を、大人が描いたからかもしれない。空想好きな作家が書いたファンタジーにしては、人間性や現実をよく捉えて描かれ、両側面を持つ。それが不思議と感じる原因なのかもしれない。
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この著者の童話の世界観と言葉のリズムが好きである。 いいこと?わるいこと? とクーツェはうたった みんなおなじさ、麦ふみだもの。 録音された音楽も、ごくたまに生演奏をうわまわる。ただし音楽家であるためには耳なりがするほど生演奏にふれること。どんなひどい演奏であっても、生の楽器...
この著者の童話の世界観と言葉のリズムが好きである。 いいこと?わるいこと? とクーツェはうたった みんなおなじさ、麦ふみだもの。 録音された音楽も、ごくたまに生演奏をうわまわる。ただし音楽家であるためには耳なりがするほど生演奏にふれること。どんなひどい演奏であっても、生の楽器演奏には、音楽家のための栄養がわずかながらそなわっているからだ。 独立した特殊な事件など、この世には何も起きていないような気がしてくる。クーツェの言ったように、大きい小さいは距離の問題。 それらの嘘によって、街のみんなには楽園の風景が見えた。おおきな代償を支払いはしたけれど、みんなの手に、なにひとつ残らなかったわけでもない。ぼくはやっぱり、今もそうおもいたい。 へんてこはあつまらなくっちゃ生きていけないってそう思ってな。へんてこはひとりじゃめだつ。めだつから、ぼんやりふつうにいると、ひとよりひどいめにあう。 この世のところどころにしがみつくへんてこなひとたち。彼らはそれぞれの技をみがく。自分のへんてこさに誇りをもとうと。まじめに、まるでばかにみえても。 熟練のティンパニ奏者のように、ぼくは待つことを学ばなけりゃならない。それはなかなかに難しい。ばかといわれてもへんてこ呼ばわりされてもけっしてばちを捨てず、ステージのいちばんうしろでじっと立っていること。そのときをききのがさぬよう、ちゃんと耳をかたむけて。 音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。
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優しいものがたり。最初は、なにがなにやら分からなくて、なんだか居心地が悪かったけど、それは、ねこ(主人公)が居場所を見つけられていなかったからなんだろう。 いろんな悲しい出来事もあるし、ささやかな幸せもあって、なんとなく、どちらかと言えば世界は生きづらいなあなんて思いながら、ぼんやり生きてる。 でも、彼や彼の町にとって最大の悲劇をきっかけに、ねこの人生は変わる。解説者の言葉を借りれば、音楽そのものになる。 いろいろ背負ってたねこが、だんだん重荷を重荷と思わなくなるところが好き。周りにいる人たちの、あまりにおおらかな優しさと気持ちの大きさが好き。いっぱい傷ついていて、でも負けずに生きていける彼らが好き。 実際に、あんな町があったとして、私は彼らの町では暮らせないだろう。 でも、ほんの少しでいいから旅に行って、一緒に合奏したり、麦をふんでみたいと強くおもう。 とん たたん とん、と足を鳴らして。
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